Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第一章 ハジメマシテ、【犯罪者】

Episode 24

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--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス
■【偽善者A】ハロウ

甲冑の亀裂に、私達の攻撃が殺到する。
周囲の敵のことは忘れ。今はこの目の前の敵だけしかこの場に居ないかのように立ち回る。
ナイフを突き入れ、しかし甲冑の亀裂の見た目以上の硬さに弾かれ。
それを見たCNVLがそれに続くように、肉片を口に頬張りながら剣を振るう。

一撃、二撃、三撃と続く攻撃は防がれることはなく。
だがそれをそのまま許すナイトゾンビではない。
剣を振り上げ、目の前で自身に攻撃し続けるCNVLに向けて振り下ろそうとした。が、それは叶わない。
ガツン!という音が響き、突然振り上げた腕が後ろへ……私の方へと大きく逸れる。
それとともに、カランカランという音が聞こえてくる。
横目で確認すれば、鉄製の矢が何本か転がっていくのが見えた。

『(、-ω・)▄︻┻┳═一』

メアリーの援護射撃。
彼女の射撃能力は、初のシェイクスピア戦から比べるとかなり上達している。
それに加え、恐らくは【加工師】のスキルでも使っているのだろう。
一撃の威力が前と比べ物にならないくらいに上がっていた。

不意にバランスを崩されたナイトゾンビはそのまま体制が崩れ、大きく後ろへと仰け反った。
そんな大きな隙を見逃すような緩い考えは持っていない。
再度剣が、ナイフが、そして細長い試験管が、亀裂へと殺到する。
鉄の打つ音が数回とともに、ジュワァ……という何かが溶ける音が聞こえ、私達が集中的に攻撃していた部分の甲冑が壊れ中の腐った肉体が白昼の下に晒された。
……来たッ!

「【虚言癖】!!」

私が叫んだ瞬間、相手のヘイトがこちらへと向く。
スキルが持続中、対象の相手のヘイトを稼ぎ続け、攻撃を当てるごとにこのスキルの持続時間が増えていくという【虚言癖】。
ここでヘイトを私へと集めた理由は簡単だ。

「あはッ!【祖の身を我に】、【アントロポファジー】!」

うちのメイン火力であるCNVLをフリーに出来る。
スキルを改めて発動しなおした彼女は、何故か何かの腕をかじりながらこちらへ振り返っているナイトゾンビへと迫る。
それと同時に、彼女の体から落ちた赤黒い何かがそのまま小さな人型の何かとなってCNVLと同じようにナイトゾンビへと迫っていった。

足に、腕に。それぞれの四肢にその人型の何かは纏わりつき、そのまま身動きが取れなくなり。
しかしながら頭だけは私へ向けられている。スキルによって強制的に向けられているものではあるのだが。
そのまま、CNVLと一緒に露出している肉体へと攻撃を加える。

切って、切って、切って、切って。
時間の許す限り、CNVLの放った拘束が許す限り切り続け。
そして。その時はやってきた。

-20ポイント獲得-
--System Message 『レベルが上がりました』

そんなメッセージが見えたかと思えば、目の前で切り続けていたナイトゾンビが光へと変わる。
ゲーム内、肉体的な疲れはないものの極度に集中していたためかドッと精神的な疲れが身体中を駆け抜ける。
尻もちをつくように、その場に尻から地面に座り込んだ。

「お、終わったぁ……」
「お疲れハロウ」

見れば、腕を齧りながらCNVLがこちらへと歩いてきていた。
その後ろからは後方支援組の2人がその跡を追ってきている。
周囲を見てみれば、同じように戦っている者も居れば、私達の戦闘を見ていたのかこちらに向けて拍手や口笛を吹いている者もいる。……まぁ、その者らは近くにいたソルジャー達にヘイトを向けられ慌てて戦闘へと移っているのだが。

「お疲れCNVL、それにメアリーとマギも」
「お疲れ様です。いやぁ手強かったですね」
『お疲れ!(_´Д`)ノ~~』

時刻をみれば、いつの間にか16時。意外と長いこと戦っていたようだった。
改めてナイトゾンビが他に居ないか周囲を確かめると、周囲にはソルジャーゾンビくらいしかおらず。
時折コマンダーのような赤い何かが見えることはあれど、正直そこまで辛い相手ではない。
ではナイトゾンビはどうかといえば。

「見つからないわね……」
「レアスポーンってことかな」
「うーん、どうでしょう。条件付きのモブな気もします」
「条件付き……ある条件を満たすことで出てくるタイプね。【劇場作家の洋館】でいうならゴーレムみたいな」

そうですそうです、とマギは頷く。
しかし、あの一瞬で条件を満たせるようなものなんてあっただろうか、と全員で考え……そして答えに至る。

「そういえば、今全員ランクアップしてたわねぇ……」
「上位陣用のモブ、ってことでしょうねぇ。それ以外僕達が満たしてそうな条件もわかりませんし」
『なるほど……ってそれ、このまま区画内歩いてたら……(´・ω・)』
「あは、出てくるだろうねぇ。ナイトゾンビ。まぁでも、次はもうちょっと楽になると思うぜ?一度経験してるからね」

そんなことを話しつつ、【HL・ナイフ】などを装備し直していく。
確かに、このままナイトゾンビが再び出現したところで私達の装備の質も、実戦経験もさっきまでの戦闘とは違う。確実に楽にはなるだろう。

一応話あっている間に出現されても面倒だ、ということでセーフティエリアへと移動した後にイベント終了までの活動方針を話し合う。
といっても、基本的には区画に出て敵を倒すか自身のしたいことをするかのどちらかなのだが。
こうして、時間は過ぎていく。



『イベント終了!これから倒しても意味ないからなー?モブたちも襲わないように設定したからその場で突っ立てても大丈夫だ。あ、ダンジョン内は別な。そっちは戦いながら聞いてくれ』

「お疲れ様」
「お疲れ様ぁ。いやぁ、疲れた疲れた」
「お疲れ様です」
『おつおつ!(゜д゜)』

暫くして。
突然花火のような音が響いたかと思えば、空にGMの駿河さんが再び登場していた。

『まずはこの約2日間、お疲れ様だ。中にはずっと戦闘をしてたやつもいるから、そいつはきちんとリアルに戻ったら寝るんだぞ。精神的な疲れってのは意外とリアルに影響でるからな?……さて、長い口上なんてのは苦手だから簡潔に。只今終了時点での各区画のポイントを集計中だ。終わり次第……って終わった?早くね?あぁ、成程。了解した』

何やら後ろの方を振り返りつつ会話しているようで。
他の社員さんと話しているのだろう。彼は何かを受け取りそれを読んでいるような動作をしている。

『ん、じゃあ発表をしようか。つっても俺が口で説明するんじゃあ味気ねぇだろう』

そうして顔を上げた彼は、何かを操作しながら悪い笑顔を浮かべる。
悪人面というか、言っては悪いがこのゲームに合っている笑みだ。

『ということで、これが今回の区画順位戦の順位だ!』

彼はバッと腕を後ろへと振ると、そこには煙が大量に集まっていき。
文字を出現させていく。

―――――――――――
第一回 区画順位戦【掃滅】
1位 第二区画 デンス 3471pt
2位 第三区画 オリエンス 3452pt
3位 第四区画 ディエス 3205pt
4位 第一区画 ネース 3189pt
―――――――――――

瞬間、私達の周囲にいたプレイヤーたちが歓声を上げた。
僅差ではあるものの、同盟先のオリエンスに勝ち1位となったのだ。

『わぁ1位!1位だよ!(*´ω`*)』
「そうね、良かったわ……というか跳ねながらチャットするの器用ね貴女」

私の横で飛び跳ねているメアリーを見つつ、あまり実感のないその結果に首を傾げそうになる。
……途中、あっちの方が割と稼いでた気がするんだけど。どういう計算してるのかしら。

『一応内訳は知っての通り、敵モブを倒したときに得られるポイントだ。といっても、各区画の一番雑魚は1ポイント、そっから3、5、10って上がっていって、今回のイベントで出現する最強クラスのモブになると20ポイントになる。まあ、倒してるパーティは居たんだがな……よし!発表はこんなもんだ!景品については後日配布する形をとるから、少し時間をくれな。それと同時に中央がデンスを模したものに変わるから、そっちも待っててくれ。では、【犯罪者】諸君。今回は本当にご苦労であった!』

そういって、駿河さんは消えていった。
後には歓声が残る。

「あぁ、ナイトゾンビが最強格だったんだね。成程、そう考えるとあの強さも……」
「まぁ何かしら強化されている可能性はありますね。実際に見れるのは【劇場作家の洋館】の……ハードの2Fでしたっけ?」
「そうよ。下手したら不意打たれてデスペナ食らう可能性もあるけど」

最強格。今回のイベントでってことは恐らくこれよりも上が存在するのだろう。
いつ相手にするのか、少しだけ楽しみだ。
そこまで考え、自分の考えがこのゲームを始めた時とは違うものになっていることに気付く。
……私も少しは前へ進めているってことかしらね。
少しだけ自嘲気味に笑う。

「ん?どうしたんだいハロウ」
「いえ、なんでもないわ。さて。私はそろそろログアウトしようかしら」
「お疲れ様です。ゆっくり休んでくださいね」
『お疲れ様ー!何かあったら連絡するね('ω')』
「あは……お疲れ。楽しかったぜ」
「それは何よりだわ。では、また」

私は手を振りながらログアウトして。
どこか満たされたように、その日は何も手がつかなかった。
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