Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第一章 ハジメマシテ、【犯罪者】

Episode 16

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--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Normal 2F
■【リッパーA】ハロウ

近づいてきた肉の塊を、手に持つナイフで一回二回と切っていく。
いつものような手ごたえは感じず、腕を動かすごとにぐちゅりぐちゅりという感覚が伝わり、知らず知らずのうちに不快感が表情に出てしまう。

『掲示板じゃ他に誰も遭遇してないみたい!('Д')というかまだそもそも3Fまで着いてないって!』
「……遅くない?流石にテレポーターくらいは……ってそうか、私達が考えてるように他のプレイヤーも考えるわよね……」

どうやら、他のパーティは私達が考えていた特殊なアイテムが存在する可能性を捨てきれず、そのままくまなく階層ごとに調べていたそうだ。
そのため、時間がかかっているため未だ3Fまで降りたパーティは私達以外は居らず。
【ゾンビスポーナー】と出会っているパーティも私達以外居ないようだ。

と、ここで肉塊からまた1体のアクターゾンビが生まれ、私達へと向かってくる……がすぐにCNVLによって頭をかち割られ光となって消えていく。
アクターゾンビ程度ならばもう既にある程度の攻略法も分かっているし、そもそも生み出されたばかりだからか、非常に弱っているためにほぼほぼ1撃で倒すことが可能だった。

「あは、どうする?あれの肉食べてみたけど、ゾンビ達の肉片より回復しないんだよね」
「貴女だけよそんな感想……でもそうね。一気に敵の数を増やしてもいいかしら」
「私は構わないぜ?というかマギくんもメアリーちゃんも大丈夫じゃない?メアリーちゃんは範囲攻撃あるっぽいし、マギくんも自分の身くらいはきちんと守れるさ」

ゆったりとした動きでこちらへ攻撃してくる【ゾンビスポーナー】を躱しながらCNVLと会議を行う。
といっても、ほぼほぼやることは決まっているのだが。

私はCNVLの言葉を聞き終えると、【HL・ナイフ】を仕舞い新たに【HL・スニッパー】を取り出した。
元はといえば、ゾンビ系が増えるのが嫌で使っていなかっただけでこちらのほうが破壊力はある。

「じゃあ、潰していきましょうか」

そのまま自分から近づき。
じょきんと……いや、ぐちゃりと一回まずは腕を挟み潰す。
床に腕が落ちるのを目の端で確認しつつ、そのまま二回目。
三回目と挟んでは潰す。

その度に落ちていく肉はもぞもぞと動き、ゾンビとなっていくものの。
近くにいるCNVLによってすぐさま光へと変えられ一種の照明効果と化している。
こちらの予想以上の速さで倒していくため、一応は心配していた後衛……メアリー達は周囲の警戒を行っている程度には楽な戦いとなっていた。
……まぁハードモードでもない限りはこんなものよね。普通に初チャレンジでもこんな感じではあったし。

難易度がノーマルだからかもしれないが、今の所かなり楽な戦いをさせてもらっている。
これがダンジョン攻略前であれば少しは苦戦しただろうが、それでも今は新しい武器もあれば私自身のレベルも上がっているのだ。

「はい、これでラスト」

頭と思われる部分の肉を、挟み。
出来る限り力を込めながら潰してみれば。

--ALL System Message 『第二区画のモンスター生成系施設が破壊されました。(1/4)一定時間中モンスターの出現数が減少します』
--System Message 『モンスター出現数減少に伴い、1体辺りのポイント獲得数が上昇します。このメッセージはデンスに所属しているプレイヤーのみに送られています』

「お疲れ様ー。このメッセージってもしかして」
「お疲れ。もしかしなくてもあと3体は似たようなのがいるってことね。しかも姿が同じとは限らないでしょうね……」
『じゃあやっぱりそのまま探索してもらってたほうがいい?('ω')……なんか私達のパーティというかハロウがこの区画のリーダーみたいになってるよ、掲示板(;´Д`)』
「そうですね。さっきから見てますが、私達はプレイヤーネームなのにハロウさんだけ『リーダー』って呼ばれてますから」
「えぇぇ……」

確かに指示は出していたが、それは他のプレイヤー達が集まってきていたからである。
それこそ、私達しかいなかったらいつも通りに作戦会議してそのまま適当にダンジョンか何かに向かっていたことだろう。

「リーダーとか面倒だから正直やりたくはないのだけど」
「色々問題があった時に押し付けられそうだしねぇ……ドンマイ、応援してるぜリーダー」
『頑張ってねリーダー!(‘∀‘)』
「1人で考えこまず、僕達に相談してくださいねリーダー」
「あなた達ねぇ……」

……まぁいつまでもまとめ役が居ないのも問題といえば問題か。
サービスが始まってからそこまで時間が経っていないため仕方ないものの、それぞれの区画の中の中心人物というのはそんなに出てきていない。
私達の所属するデンスでいえば、私達のパーティが今居る【劇場作家の洋館】をクリアしたためか、私達のパーティをそれこそ所属の中心として扱われているようだ。

他の区画での中心的な人物がいるのか分からない。
だが、居るとして。自分の所属している区画以外に有名なプレイヤーが居た場合何を考えるか。
答えは簡単だ。
その有名プレイヤーを排除する。その一手だけで、その区画の士気や統率力なんかが激減するのだから。

「まだ出る気はないけれど……ダンジョンの外に出たら警戒くらいはしながらセーフティエリアにでも行きましょうか」
「それはいいけど、戦わないのかい?」
「まだまだ時間は沢山あるから。一気に飛ばし過ぎても後半ダレるだけよ」

そんなことを言いながら、私達はボス部屋へと繋がる階段の前へと辿り着いた。
準備を整え、そのまま階段を飛び降りる。


二回目の対面だ。

--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Normal 3F
--System Message 『ムービーをスキップしますか? Y/N』

Yesを選択し、少し待つ。
すると、パーティ全員がYesを選んだのかムービーが終わった状態……つまりは舞台の上。
そこにアクターゾンビ達がなだれ込むようにして向かってくる所から始まった。
少し離れた客席にはシェイクスピアの姿が見える。
戦闘開始だ。


といっても、今更色々と語ることもなく。
初めから私とCNVLがシェイクスピアへと近づき、攻撃を加える。
装備の質が上がっているからか、それとも難易度の問題か。すぐに1本目のゲージは削れ、2本目に突入し姿が変わる。
メアリーは確かこのモードの事を『発狂モード』と言っていただろうか。

迫ってくる腕を、足を躱しながら。
私はハサミから持ち替えたナイフで切りつけ、隙あらば背後に回り込もうと移動し。
CNVLは何故か正面から私の避けたものを受け流していく。
恐らくは何かしらのスキルを使って自身を強化しているのだろうが……それでも実際目の当たりにすると信じられない行動をしているなと感じてしまう。

そうして、少し時間が経ち。

-【劇場作家 シェイクスピア】を討伐しました-
-MVPが選出されました:プレイヤー名 CNVL-
-撃破報酬、およびMVP報酬が配布されます-

戦闘が終了した。
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