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第一章 ハジメマシテ、【犯罪者】
Episode 15
しおりを挟む--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス
■【リッパーA】ハロウ
「よし、ここら一体はある程度片付いたわね」
「あは、レベルも上がったし良いイベントだねぇ。……っと、急がないと他の区画の連中が来ちゃうかもなんだっけ?」
「まぁ今すぐにとはならないだろうけど。他のプレイヤーも行っちゃったし、私達も後を追いかけましょうか」
私達がある程度ヘイトを稼いでいたからなのかどうなのか。
この場に居たプレイヤーは喫茶店の前へと集まってくるゾンビやゴーレムたちを私達へと任せ、先にダンジョンに向かっていった。
勿論それぞれ断りを淹れながら向かっていったし、私達も私達でヘイトを稼いだままダンジョン前へと向かうような一種のトレイン行為はしたくなかったため問題ない。
……正直、経験値も素材も美味しかったしね。
「どう?スキルは覚えたかしら?」
「うーん、まぁまぁかな。ちょっと次辺りに試しで使っていくことにするよ」
「了解、個人系?」
「個人系」
パーティメンバー全員でダンジョンへ向かって移動を開始し、少し経った後。
進行上にいるゾンビやらゴーレムやらを倒しつつ、適当に会話する。
といっても、話題はやはりランクアップしたCNVLの【犯罪者】だろう。
「でもそうだねぇ……」
「何か問題でもあった?」
「いや、私が何個かスキルを覚えたのは良いんだけど、その中の1つが厄介でね」
【人体蒐集家】。
【人革】がドロップする【ゲイン】のスキル【人革採集】の上位互換的スキルらしい。
効果としては、部位破壊……腕や足を切ってから倒した場合、そのまま腕や足がドロップするパッシヴスキルとのこと。
気になったので、アイテムとして腕を出してもらった。
「うわ、これはまたそのまんま……」
『ヒェッ……(;´Д`)』
「先輩、そういうのは流石にモザイク入れたほうが良いと思いますよ。その、なんというか倫理?とかそういう奴的に」
「おいおい、出してってリクエストしてきたのは君達だぜ?」
そう言いながら苦笑いしつつ、再びインベントリ内へと仕舞ってくれた。
「で?それがどう厄介なのよ」
「いや、単純にコレ解体しないと【人革】や【人骨】として使えないんだよね。しかも解体するのにもスキルが必要っぽくてねぇ……」
「……あー、成程。考えないで部位破壊しちゃうとどんどんアイテムとして貯まっていっちゃうのね」
「それは面倒ですね」
実際、必要になるスキル自体はすぐに手に入るのだろう。
今のCNVLのレベルがどれくらいかは知らないが、それこそそれっぽいアイテムさえ作れば疑似的にそのスキルは得られそうなものだ。
といっても、今そのアイテムを作っている時間があるかと言われれば無いのだが。
暫くして。
ダンジョン前に辿り着いた私達を迎えたのは、スキニット率いる5人のプレイヤーのパーティだった。
彼らは私達の姿を見つけると、そのまま近くにいたゾンビ達を蹴散らしながらこちらへと近づいてくる。
「来たか」
「他のプレイヤーたちは?」
「もう中に入ってる。元々この辺に居たプレイヤーたちも中に居るから、結構な数入ってるんじゃあないか?」
どうやら周辺にいたプレイヤーの中では私達のパーティが一番最後だったらしく。
一応新しくダンジョンから出てきているアクターゾンビやフリューブックをある程度倒した後、私達のパーティも中へ潜ることにした。
ダンジョンのボス討伐が目的のため、ノーマルモードの2Fからのスタートだ。
--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Normal 2F
「じゃあダッシュでボスへの階段見つけにいきましょうか」
「道中の敵はどうするんです?」
「この場合は無視かしらねぇ。掲示板見る限りじゃ、1Fとかにはかなりアクターゾンビ達がスポーンしてるみたいだけどこっちはそんなことないし……多分運が良ければ何にも会わないんじゃないかしら?」
『ソッチの方が楽だけど……それってシェイクスピアがこの掃滅戦に関係ないってことになるよね?(;^ω^)』
「そうよ。むしろそっちの方がいいでしょう?区画順位戦のラストの方で、シェイクスピアが出てくる可能性なんて考えたくないもの」
おさらいしておくと。
今現在、地上……第二区画で確認されている敵性モブはアクターゾンビに少数のソルジャーゾンビ、そしてフリューブックにそれの派生のブックゴーレム程度。
ムービーゾンビは勿論の事、コマンダーやナイトゾンビなんかも目撃報告はない。
時間経過か、それとも一定数まで全体でポイントを稼ぐことによって制限が外れていくのか。
どちらにしても、後半になればなるほど敵が強くなるイベントには違いないだろう。
問題は、際限なくスポーンし続けていることか。
「ま、その場合1Fか2Fの方に特殊なアイテムとか施設が設置されてる可能性が出てくるから、隈なく探索しないといけないのが面倒かしら」
『なるほど('ω')』
「……ところでさ、一つ聞いてもいいかい?」
「ん?」
CNVLを除くある程度ゲームの経験が長い3人で話していると、CNVLに囚人服を引かれ振り返る。
「こういう掃滅戦?っていうのには、そういうボスだったりアイテムだったりの原因ってのが大抵あったりするものなのかい?」
「えーっと……あぁ、モンスターが出てくるのにってことかしら」
「そうだね。私はあんまりそういう知識はないからね」
「まぁイベント事だったら基本的には原因となるモノは配置されたりするわね。今回の場合はモンスターを生み出している何かってことになるかしら」
基本的に、イベントというのは現在……つまりはプレイヤーが実体験する前に何かしらの原因が発生しているものだったりする。
それがお誂え向きの能力を持ったモンスターだったり、どこかの研究者が何故か作り出したアイテムだったり。それこそプレイヤー自身がトリガーになったりする例も少なからず存在する。
勿論、そんな原因はなく。
突然運営がモンスターを大量配置、スポーンさせている可能性もあったりするが……まぁこのゲーム始まって一番初めのイベントだ。そんな手を抜いたシナリオは用意していないだろう。
「成程ねぇ。じゃあアレはその原因の1つだったりするのかな」
「は?」
そうやってCNVLが指した方向には、丁度T字路のようになっている廊下があり。
私達から見て右側に曲がる道から何かがこちらへと近づいてきているのが分かった。
ぐちゃ、ぐちゃ……という音と共にソレは現れた。
ぶよぶよとしたピンク色の肉の塊。時折自重に耐えられないのか、そのピンクの肉が廊下にぐちゃっと落ちては、それらが独りでに動き出し。
そうして人のような形を成していく。アクターゾンビとなって2Fから上の階層に繋がる階段のある方向へと進んで行く。
「……うわぁ」
『……(^-^)』
「……原因ではあると思いますけど……予想外過ぎますね」
「あは、食べ甲斐はありそうだね」
そんなことを言ってる私達に気付いたのか、ソレはこちらへ身体の向きを向けた……ように見える。
【ゾンビスポーナー】。そのままな名前のピンクの肉の塊は、そのままのっそりのっそりとこちらへと近づいてきている。
「運営恨むわ。こんなの相手にするプレイヤーの気持ちにもなって頂戴」
『あ、私掲示板に書き込んでおくので任せます(;^ω^)ノ』
「……【薬を扱う者の信条】、【アタックドーピング】、【ディフェンスドーピング】」
「あれ?マギくんこういうの苦手だっけ?割と慣れてそうな気がしていたけど」
「苦手も苦手ですよ。ゾンビみたいなのは大丈夫ですが、アレみたいなのはダメです。……一応フィルター掛かってるはずなんですけど、苦手ってのはやっぱりフィルター掛かってても苦手なんですかね」
先輩後輩で何やら話している2人は置いておいて。
私はとりあえずで【HL・ナイフ】を構える。
【HL・スニッパー】ではないのは、先ほど見たように【ゾンビスポーナー】から離れた肉自体がゾンビになってこちらが数的不利に陥る可能性を考えた上だ。
それに、見た目は完全にぶよぶよとしたピンク色の肉塊でしかなく。
急所を潰したくても、その急所自体何処にあるのかがわからない。
「CNVL!出来る限り肉を切り離さないようにして!」
「そっちもッ!ねッ!!」
そうして、この気味の悪いモンスターとの戦闘が始まった。
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