Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第一章 ハジメマシテ、【犯罪者】

Episode 9

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--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 3F
■【リッパーA】ハロウ

シェイクスピアが大きく腕を振り上げる。
そしてそれに合わせ、白い霧がその腕の先……開いている手の平に集まり、1つ
になっていく。
それは巨大な本の形をしていた。
分厚い本、それも巨人のような大きさのシェイクスピアと比べても尚大きい本
だ。

直接当たったらアウト、当たらなくてもその余波で大ダメージを食らうことは想像に難くない。
それを見たシェイクスピアの近くにいた2人……私とCNVLは急いでその場から
離脱する為に走り出した。

「あは!まさに巨大なモンスターって感じじゃあないか!」
「そうね!でも流石にアレ食らうのはヤバいヤバい!」

最低でも余波で済む場所まで。
最高は余波が届かない場所へ移動だ。
しかし、そんな時間は残されていない。
振り上げられた腕を降ろすのに、多くの時間を使う必要はないからだ。

瞬間、破壊が訪れた。

私は前に飛び込むようにして距離を取ろうとする。
見えてはいないが、恐らくCNVLも同じような行動を取っただろう。
何とか距離は取れたのか、目を瞑っても表示されている自分のHPバーは削りきられることは無かった。
その代わり、余波によって空中に居た私の身体は吹き飛ばされる。

「ぐッ……助かったァ……」
「マギくーん!回復ー!!」
「僕のリソースMPだって無限じゃないんですけどね……」

そのまま舞台の壁へとぶつかり、多少のダメージを食らう。
大体残りは3割程度だろうか。元々少し減っていたのもあるが、それでも4割は
余波だけで削られている。
声からして、CNVLの方も似たようなものだろう。

少し、諦めてもいいかな……という気持ちも芽生えてきている。
明らかにこちらの装備が足りていない。
私とCNVL、どちらかが事故って死んだ瞬間に、現状ですら薄い勝ち目が消えてしまうだろう。
そう思いながら、HPの回復の次いでに意見を求めるためにマギの元へと向かった。

「回復薬くださいな。……アレどう思う?」
「単純に強いと思いますよ。求められているのはそういう答えではないとは思いますけど。……実際よくある縛りを課してくる系のモブじゃないですか?今回なら攻撃を食らっちゃいけない、みたいな。でも……」
「でも?」
「うちの先輩があれだけ楽しそうに笑ってるので。僕は諦める気はまだないですよ」
「……そう。それは申し訳ないわね。出来る限り削ってみることにするわ。何か気付いたらさっきみたいにお願いね」
「了解です」

マギの目を見て、少しだけ身構えてしまった。
彼の目はまだ諦めていなかった。先ほどから笑ってシェイクスピアへと切りかかりに行っているCNVLもそうだろう。
クロスボウを使い、CNVLへ過剰なヘイトが向かないように頑張っているメアリーもまだ諦めていないだろう。

私は私の頬をばちんと叩く。
そして、シェイクスピアへと向き直った。

強大な敵。
確かにそうだろう。恐らく私達のパーティは、まだここに来れるレベルの水準に届いていないだろう。
普通なら諦めても仕方ないくらいには格上の相手。相手の武器が掠っただけでも死ぬかもしれない綱渡り。

だが、まだその綱渡りの半分にすら達していない。
彼女らは今もなお、諦めずに戦っているのだ。
せめて2本目のHPゲージを削り切るくらいの頑張りを見せなければ、今この場にいる他の仲間に示しがつかないだろう。

……1人で勝手に諦めてるなんて、私らしくもない。

「さぁ、やりましょうか。……【霧の外套】」

霧を纏い、改めて舞台から観客席までを走る。
そして先ほどと同じように、勢いそのままでCNVLを狙うシェイクスピアの腕をナイフで切りつける。

血が舞った。
今回は壁となるものアクターゾンビが居ないため、そのまま駆け抜けてしまうが、適当な所で振り向き今度は足を中心に切りつけに行く。
徐々に【切裂衝動】の効果も刃に乗っていき、私の与えるダメージ量が増えていく。

「あは、もう少し休んでても良かったんだぜ?」
「ふふ、1人だけ休憩してるのもずるいから。そういうCNVLこそ休んでいいのよ。肉片でも食べてきたら?」
「魅力的な提案だけど、遠慮しておくよ。私はまだまだ元気だからね」



軽口を叩き合いながら。
私達は攻撃する。
足を切り、捕まえようとくる指を切り、膝を切り、切り、切り、切り切り切り切り。
着実に、確実にダメージを与えながらシェイクスピアを攻略していく。

とは言っても、状況は未だ悪い。
私がやる気になったところで変わらないものがあるのだ。
それが、

「最初のアレ!来ます!」

マギが叫ぶ。
最初のアレ・・・・・、つまりは大きく振り上げてからの巨大な本の振り下ろしだ。
単純ながら、今までしてきた行動の中で1番の破壊力があるそれを避ける時間はあまりない。

だが、私達はそのまま前に出る。
横を見ればCNVLと目が合い薄く笑い合う。
彼女は恐らく持ち前の勘やセンスといったもので、私はこれまでやってきたゲームの経験から。
振り下ろされる寸前にシェイクスピアの横を通り抜け、背中側へとたどり着く。

そして再び破壊が訪れる。
しかし、私達は何も喰らわない。
余波さえも特になく、1ミリだってHPゲージは減っていない。
シェイクスピアの攻略法が確立した瞬間だった。
ここから先は、どうやったって負けることはないだろう。



何分経っただろうか。時間経過が緩やかに感じる。

切り、離れ、切って、離れる。
これを繰り返し、マギの声に合わせて背中に回る。
振り下ろしている最中は無防備となる背中を更に切りつけ、その膨大なHPを削り。

「これで、ラストッ!」
『オォッオオオォオオオオ!!!』

私の肩を使い、高く跳躍したCNVLの出刃包丁が、シェイクスピアの首に届く。
突然土台にされた私はといえばそのまま床に倒れ込んでいて、肝心のラストを見ることはできなかったのだが。

-【劇場作家 シェイクスピア】を討伐しました-
-MVPが選出されました:プレイヤー名 CNVL-
-撃破報酬、およびMVP報酬が配布されます-
--System Message 『称号【娯楽を解放した者】を獲得しました』
--ALL System Message 『【劇場作家の洋館】が攻略されました。これにより、第2区画 デンスを除く区画に娯楽関係の施設が建造されるようになりました』
--ALL System Message 『【劇場作家の洋館】のハードモードが解放されました』

シェイクスピアは朽ちて塵となり……そして光となって消えていった。
彼が消えた場所には新たに光の柱が立ち昇り、近づいてみれば『地上へ戻りますか?』というメッセージが出現した。
恐らくはボス部屋から帰還するための簡易ポータルなのだろう。

「はは!やればできるもんだねぇ!」
「お疲れ様、最後に声をきちんと掛けてくれればもっと良かったわ」
「それは許してくれ、私も気が付いたら体が動いてたんだ……っと。そっちの2人もお疲れ様。支援助かったぜ」

CNVLが私の背後の方へ声を掛けているのをみて、振り返る。
すれば舞台から観客席にいる私達の方へと歩いてきている2人が見えた。

「お疲れ様です。初見ボス撃破とか僕やったことないですよ」
『カッコよかったよ2人とも!\(( °ω° ))/』

メアリーがこちらへと走ってきて、抱き着いてくる。
……小動物みたいね。癒される。
彼女の頭をローブの上から撫でつつ、マギへと顔を向ける。

「色々助かったわ、ありがとう」
「いえ、僕は出来ることをやったまでですし、言ったまでですよ。頑張ったのは貴女ですし」
「……貴方、よく舌が回るとか言われない?」
「割と。その所為でよくプレゼンテーションとかやってますよ」

そんなことを話しながら、長めの休憩を取ることにした。
簡易ポータルは消える気配はなかったし、そもこの場には私達以外は訪れることはない。
色々と確かめたい事もあったため、全員がその意見に賛成した。

何せ多くのログが流れたのだ。
何を獲得して何が起こったのかをキチンと把握まではいかずとも、ある程度把握しておくことは大事だろう。
まずは称号から。

ーーーーーーーーーー
称号【娯楽を解放した者】
効果:NPCからの好感度上昇(小)
説明:【劇場作家の洋館】のノーマルモードを攻略した者に与えられる称号
   しかし、この結果が必ずしも良い方向に向かうとは限らない
ーーーーーーーーーー

何か不穏な一文が書かれているが、そこまで気にしなくてもいいだろう。
NPCからの好感度上昇という効果に関しても、現状関わったNPCがチュートリアルで出会った燕尾服の女性くらいしか居ないため、確かめようがない。
面倒事の種になりそうな気もするため、称号として設定するのもやめておこう。

続いて撃破報酬。私はMVPには選ばれていなかったため、それのみだが現状を考えるとこれだけでも破格の報酬になるだろう。
インベントリを開いてみれば、【劇場作家 撃破報酬】と非常に分かりやすいアイテムがあったため、取り出してみる。すると、だ。

「ん……箱?」

私の手の中に収まる程度の大きさの箱が出現した。
アイテム詳細を見てみれば、

ーーーーーーーーーー
【劇場作家 撃破報酬】 特殊
説明:【劇場作家】の撃破報酬が入れられている箱
   ※使用することによって撃破報酬を手に入れることが可能です
   ※他プレイヤーに渡すことはできません
ーーーーーーーーーー

とのこと。
恐らくは某サンドボックスゲームのトレジャーバッグのようなものなのだろう。
とりあえず開いてみないことには何が入っているかが分からないため、箱を操作し開いてみる。

--System Message 『劇場作家の炯眼』を入手しました。

ーーーーーーーーーー
劇場作家の炯眼 装飾品
装備可能レベル:5~
効果:装備時常時【目利き】付与
   魔法耐性(小)付与
説明:限りなく人の目に近い義眼。
   かつてこれを着けていた者は、多くの物を見てきたのだろう。
   『――All's Well That Ends Well』
ーーーーーーーーーー

見た目は普通の目。というか眼球だ。
碧眼というやつだろうか、エメラルドのような綺麗な色をしている。

「んん……?」
「?どうかした?」
「あー、えっと。撃破報酬でちょっとよく分からないものが出てきてね」

CNVLに気にしないで良いと言いつつ、劇場作家の炯眼を着けてみることにした。
装備に必要なレベルは足りているし、効果の【目利き】という状態は分からないが名前的にデバフではないだろう。
未だ魔法には出会えていないものの、それの耐性が付くのはありがたい。

そのまま装備してみれば、確かに視界は変わらないものの、右目が何か変わったような気がする。
試しに自身の武器であるナイフを右目を細めるようにして見てみれば、【目利き】の効果なのか名称である【使用済みナイフ】がうっすらと表示された。
つまりは詳細は見れないものの、名前程度ならば見ただけでわかる程度のバフということだろうか。

『ハ、ハロウさん!目が赤いですよ!Σ(・ω・ノ)ノ!』
「えっ、赤い?赤いの?」

碧眼ではなかったのか?と思いながら話を聞いてみれば、瞳孔の部分が真っ赤になっているようで。
なまじ左目が普通だからか、かなり目立つようだ。
……まぁ、装備品だし。とやかく言われるようなら外せばいいかしらね。
そんなことを考えながら、十分休んだパーティメンバーと共に簡易ポータルを使って地上へと帰還した。


ーーーーーーーーーー
PLName:ハロウ Level:6
【犯罪者】:【リッパ―A】
所属区画:第二区画 デンス

・所持スキル
【切裂衝動】、【シャープエッジ】、【霧の外套】

・装備品
【使用済みナイフ】、平凡な囚人服【上】、平凡な囚人服【下】、【人革の手帳】、【人革の腕輪】、【革造りの網】

・称号
【第二区画所属】、【娯楽を解放した者】
ーーーーーーーーーー
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