Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

文字の大きさ
上 下
9 / 192
第一章 ハジメマシテ、【犯罪者】

Episode 8

しおりを挟む

--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 3F
■【リッパーA】ハロウ

暗い階段を落ちた先。
突如落下の勢いが落ち、なにやら浮遊感に包まれ地面らしき所へとゆっくりと着地した。
周りを見渡そうにも、本当に何も見えない暗闇の中の為、情報が全く得られなかった。
そうしていると、突如何かが聞こえてきた。

『ジジ……ジジジ…………』

スピーカーの音らしきものが聞こえ、その瞬間に身体の制御が利かなくなった。
……これは、ムービー?
ゲームにはよくある、ストーリーなどに重要なモノが出現した場合に流れたりする、ゲーム内では出来ない挙動ばかりをするあのムービーだ。
T〇Sさんのイライラポイントでもある。
ただ、こういうダンジョン内でのムービーには嫌な予感しかしない。

『……レディースアーンドジェントルマーン!!よウコそおいでくだサイましタ!』

そんなアナウンスが聞こえると共に、パッと周囲が明るくなった。
私達4人はどうやら現在、舞台の上にいるようだった。
しかしながら、その舞台はほぼほぼ朽ちており、まともに舞台として機能しているものではない。
更に、観客の方を見てみればそこには大量のアクターゾンビが行儀よく座っているのを見ることが出来た。

『今日!皆サマに見ていタだくのはかの有名な……なナ……ガガガ……』

アナウンスの声が突如バグったかのように機械音へと変化し、ブツン!と大きな音を立て消える。
一瞬の静寂の後、ガタガタッ!と音がしたかと思えば、観客のアクターゾンビの中の1体……妙に背が高く、服装も中世の貴族のようなものを身に付けているゾンビが立ち上がり両手を広げた。

注意深く見てみれば、他のゾンビとは違い生きた人間の目をしていた。
但しそれは目だけであり、所々腐敗している事から、やはりゾンビであることが分かる。

『今日!皆サマに見ていタだくのは、彼ラ四名の舞台役者の物語ィ!!そしてその敵役ハ皆サマ自身でありまス!第一幕ゥ!!』

-【劇場作家 シェイクスピア】-

そのゾンビが高らかに声を上げたかと思えば、名前らしき表示が頭上に表示され、HPバーが3本出現した。
私達の身体も動かせるようになり、舞台になだれ込むように襲いかかってきたアクターゾンビ達との戦闘が始まった。

名前、HPバーの多さから見てあのゾンビ……シェイクスピアがこのダンジョンのボスなのだろう。
ムービーが始まった時点で覚悟はしていたが、順当というべきか。
ボス戦の始まりだった。

「ぁー……よし、声が出る!これボスって奴だよね?!」
「恐らく!【薬を扱う者の信条】、【アタックドーピング】、【ディフェンスドーピング】!」
『キモいキモいキモい!Σ(゜д゜lll)』
「アクターゾンビとはいえ、流石にこの量は何かギミックがありそうねぇ……【シャープエッジ】」

私が使うスキルは【シャープエッジ】のみだ。
手を抜いているわけではなく、数十を越えるアクターゾンビに群がられている状態で一撃特化の【霧の外套】は単純に相性が悪い。

近付いてきたアクターゾンビの腕や首筋をナイフで切り、メアリーとマギが囲まれないように立ち回る。
こちらが耐えれば耐えるほど、一撃が重いメアリーによって相手の数が減っていくからだ。

「マギくん!回復!」
「【リジェネタブレット】!これ飲んでください!徐々に回復するんで!」
「了解!」

CNVLはそれを分かってか否か、ダメージを食らいながらも1体1体光に変えていく。
そんな風に戦いながら、何かこの大量のアクターゾンビをなんとか出来そうなギミックらしきものが見当たらないかを探す。
……範囲攻撃さえあれば楽なのに!


数分後。
ある程度倒したというのに、減った気がしないアクターゾンビを倒しながら、回復薬を貰うためマギの近くへと道を文字通り切り開いた。
ちなみにボスであるシェイクスピアはといえば、特にこちらに攻撃してくるわけでもなく高笑いをしているだけだ。

「マギ、何か見つけた?」
「特に……強いていえば、攻撃を受けていないはずのボスのHPが減っていることぐらいですかね……」
「ボスの……?もしかして……ちょっと試すからボス見てて!【霧の外套】」

一撃の威力を上げた状態で近くのアクターゾンビ、その首筋へとクリティカル狙いで突き出す。
動きが鈍いためか、それとも単純にソルジャーと違って避ける防御するというパターンがないのか。
スキルの乗った私の一撃はそのまま吸い込まれるように首筋へと刺さり、HPバーを削り切る。

すると、だ。

「ハロウさん!減りました!そのかわりにボスの近くに1体ゾンビが新しく湧いてます!」
「了解!2人とも聞いた?!兎に角敵を倒せば良いわ!!」
「『了解!』」

HPの分散か、それとも別の何かかは分からないが、いつ終わるか分からなかった作業のゴールが見えた。
それだけでも私にとってはかなりモチベーションの変化になった。
他にも笑いながら周囲のアクターゾンビたちを切り刻んているCNVLもいれば、いつの間にかフラスコから乳棒のようなものに持ち替えたマギが器用に攻撃を加えているのが見えた。
メアリーはそこまで見た目自体には変化はないが、その分チャットの連投でテンションの高さが伺えた。器用なモノだ。

だが、やはりそれでもジリ貧な事には変わりない。
ゾンビを倒し続けるのは確かに正攻法だろう。しかしながら、私達のパーティがこのまま戦い続けていても恐らくはこちらが削りきられるだろう。
それほどまでに苦しい戦いを強いられている。

ならば、と考え近くのゾンビを倒しながらメアリーへと問いかける。

「ねぇ、メアリー?」
『???』
「貴女そこからシェイクスピアって狙えない?」
『あー……射線は通ってるから試してみる('ω')』
「一応護衛はするから。CNVL達は……あのままやらせてた方が色々便利でしょうしいいか」

私のつぶやきを聞きながら、メアリーは鉄の矢をクロスボウに装填し、狙いをつける。
頭を横に振りながらこちらに近づいてきたりしているアクターゾンビもいるため、しっかり狙うならば一瞬の間に通さねばならないのだ。

彼女が集中している間もゾンビはこちらへと寄ってくる。
それを彼女の邪魔にならない範囲で捌きつつ、私も私で何とかシェイクスピアに近づけるチャンスを伺っている。
HPバーが存在しているということ。そしてギミックによって減ってはいるものの、もしかしたら直接攻撃によっても減らすことは可能なのかもしれない。
そう考え、近くにいるゾンビを倒しつつも、そのタイミングを待って待って待ち続ける。

近づき、切り、近づき、切るを繰り返し。
ただ、集中しているメアリーを置いていくわけにはいかないために、そこまで離れることはできない。
CNVLも同じことを考えたのか、こちらを見て合わせているのか、同じ方向に少しずつ少しずつ進んで行くのが見えた。
そして、その瞬間が来る。

私の右耳の横を、銀色の何かが凄い速さで駆け抜けていく。
その方向はシェイクスピアが高笑いしている方向で。
目を向ければ、その眉間に銀に光る矢が突き刺さっているのが見えた。

『やったぜ(、´・ω・)▄︻┻┳═一』
『ガッアァァアアアアァアア!!!』

HPはといえば、しっかりと減っているようで。
シェイクスピアは叫び声をあげながら眉間に刺さった矢を抜こうと手を伸ばしている。
そして。この瞬間。
シェイクスピアに命令されこちらへと押し寄せていたであろう、アクターゾンビたちの動きが止まった。
……今ッ!

私と、満面の笑みを浮かべているCNVLが走り出す。
さながら人混みの中を走っていくように、ゾンビとゾンビの間を走り抜け、所々で肩をぶつけながらも迫っていく。

「あは。君もマズそうだ……けどッ!食べるよッ!!」

いち早くシェイクスピアの元へと辿り着いたのはCNVLだった。
何やら大声で言いながら、彼女は手に握る出刃包丁でシェイクスピアの足を一回二回、三回と連続して切りつけていく。
シェイクスピアも馬鹿ではないようで、片手で眉間に刺さった鉄の矢を引き抜きながら、もう片方の腕を使い近くにいるCNVLを排除しようと振り払う。

その瞬間。
私がその場に辿り着き。
そのままの勢いで矢を抜こうとしている方の腕へと切りつける。
勢い余ってシェイクスピアの横を通り過ぎてしまうが、周囲にいるアクターゾンビを使い方向転換し戻ってくる。

「【霧の外套】ッ!」

身体に纏うは霧。
何処かで見た事のあるような、そんな姿で私は目の前の敵に立ち向かう。
見れば、シェイクスピアのHPバーは1本目が底をつき、2本目へと突入していた。


変化は突然だった。
周囲のアクターゾンビたちが突然白い煙となって消え、シェイクスピア自身も同じように煙になっていく。
そしてそれらが全て一点に集まったかと思えば、何かを形どっていく。

「ゲームのボスってすごいなぁ。こんな風になるのかい?」
「……これは特例だと思うわ。全くないとは言わないけど」

私達の目の前に現れたのは、巨大な人型のゾンビ。
所々欠損しているもの、その姿はファンタジーに出てくるようなオーガによく似ていて。
ただ顔だけが先ほどと変わらない、シェイクスピアの顔だった。

『モッ物語は第二幕ヘ……第ィ!二幕ゥ!!困難を乗り越えた先二!待っていタのはヨり強大ナ敵ィ!!舞台役者へ襲い掛かルぅウウウ!!』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

CombatWorldOnline~落ちこぼれ空手青年のアオハルがここに~

ゆる弥
SF
ある空手少年は周りに期待されながらもなかなか試合に勝てない日々が続いていた。 そんな時に親友から進められフルダイブ型のVRMMOゲームに誘われる。 そのゲームを通して知り合ったお爺さんから指導を受けるようになり、現実での成績も向上していく成り上がりストーリー! これはある空手少年の成長していく青春の一ページ。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...