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第一章 ハジメマシテ、【犯罪者】
Episode 7
しおりを挟む--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 1F
■【リッパーA】ハロウ
結果から言えば、網を使った捕縛方法は半分成功、半分失敗だった。
事実、網を使って捕まえることは可能だった。
飛び跳ねて捕まえるように、フリューブックが移動する先に網を投げれば同じように捕まえられたのだ。
しかしながら、本体をそのまま狙って網を投げた所トリガーに引っかかり行動パターンが変化した。
理由として考えられたのは、網の種別だろう。
『武器:縄』と、システム側にこの網が武器として認識されているからこそ、直接狙ったら攻撃扱いになってしまうのではないか。
では何故、直接狙わなければ大丈夫なのか……と皆で考え始めた所でCNVLからストップが掛かった。
「はいやめやめ!こういうのは検証班?という人らがやればいいものだぜ?私達は別にゴーレムが倒せないわけじゃないし、2Fにいこう」
「まぁ、それもそうね。レベルも上がったし……メアリー、掲示板にちょっとあげといてもらってもいいかしら」
『りょ!( ゜Д゜)』
「大量に破れた項も集まったことですし、本も作れそうですね……」
網やらなんやらで稼いだ破れた項の数は1人頭およそ50ほど。
誰かが大量に卸してない限りは良い値段で売ることも出来るだろう。
【ゲイン】である2人は、途中で湧いたアクターゾンビから【人革】や【人骨】を手に入れているため、かなり懐があったかいだろう。
尚、こっちでドロップした腐った肉片は、全てCNVLが【人革】や鉄の欠片と交換してくれた。……何に使う気かは知らないが、きっと変な事に使うつもりなのだろう。
--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 2F
「うげ」
「……これは大分面倒ですねぇ」
『気持ち悪っ!!(;^ω^)』
「モンスターハウス……ではないわね、これ偶然ここに沸いただけみたい」
階を移動した私達を出迎えてくれたのは、数体のソルジャーゾンビ。
数としては5と一見少なく見えるが、余裕を持って倒せる相手かというと今現状の私達ではそうもいかない。
「【シャープエッジ】、【霧の外套】」
「【薬を扱う者の信条】、【アタックドーピング】」
私とマギはそれぞれスキルを発動し、他の2人も自らの武器を使い攻撃体勢へと移行した。
私の身体には霧が纏わりつき、身体のラインを隠してくれると同時に、外から見るとその霧の何処に私がいるのかが分からなくなる。
私が使った【霧の外套】は、レベル5になった時に覚えた新しいスキルだ。
ーーーーーーーーーー
【霧の外套】
このスキルを発動後、初めての攻撃にダメージボーナスが入る
ダメージボーナスの値は系統レベルによって変動する。
ーーーーーーーーーー
【シャープエッジ】と同じように、系統レベルによってダメージが変動するタイプのスキル。
連続で使う場合は、その分タイミングを見て攻撃を加えないといけないが、慣れてくればかなり便利なスキルになるだろう。
マギが使ってくれたのは【シップマン】のスキル。
【薬を扱う者の信条】は、時間制限付きで自らの作った薬の効果を向上させるスキル。
【アタックドーピング】はその名の通り、攻撃力を上げてくれる薬品を生成するスキルだ。
マギはその薬品を私達に手渡すと、さらに自分用に薬を作り出し強化する。
そんなことをしてる間にも、ゆっくりとした動きではあるものの、ソルジャーゾンビはこちらとの距離を詰め、ゆっくりゆっくり囲むように移動していた。
戦闘開始だ。
「先輩!回復薬なら後で作るんで、とりあえず死なないように!ハロウさんも【切裂衝動】のカウンター貯めながら急所狙ってください!同じように回復薬なら作れます!」
マギが私達前衛に向けて指示をだし、メアリーはその間にクロスボウに矢を装填し、牽制というには強力な一撃を放つ。
彼女が使う矢は【人骨】で作られた、【ゲイン】のスキルが乗るお手製だ。
その骨の矢に加え、貴重品ではあるものの鉄の欠片で作られた鉄の矢もあるため、今一番火力が出るのは実は彼女だったりもする。
そんな強力な後方支援を受けつつ、私は目の前にいるソルジャーゾンビを相手取る。
上から振り下ろされた剣を避けつつ、その剣を持つ腕を切りつける。
これを数回繰り返すうちに剣を持っている腕が切り落とされ、光となって消えていく。
本体は残っているため、よくモンスター討伐系のゲームである『部位破壊』と同じような状態になったのだろう。
そのまま蹴りを入れるものの、盾に防がれる。
だが、この蹴りは防がせるためのもの。そのままの勢いで自分の体重を盾に乗せ、ソルジャーゾンビを弾き飛ばす。
横を見れば、出刃包丁を使い私と同じようなことをスキル無しでやっているCNVLの姿が見えた。
恐らくは【制作者の心意気】によって、出刃包丁自体の性能も上がってはいるのだろうが、彼女の戦闘能力の高さは少し異常だろう。
腹ごしらえなのか、何なのかは分からないが腐った肉片を食べながらの行動だし。
そんな風に攻撃面で無力化されたソルジャーゾンビ達は、メアリーの矢によってHPを削られ光となって消えていく。
盾で防ごうとしても、そもそもゾンビの緩やかな動きでは矢の速度には敵わず散っていった。
残ったソルジャーゾンビも同じように処理をし、2Fに入ったばかりではあるものの、休憩をすることにした。
「完全に事故スポーンでしたね」
「そうね……そういえばマギってよくゲームをやってるの?」
アレがこういったゲームに関してほぼ初心者だったため、後輩であるマギも何となくそんなイメージがあったのだが。
今も普通にスポーンだとか、咄嗟に指示出しするなど割とゲームに慣れているような気がしたのだ。
「えーっと、そうですね。基本はソシャゲですけど、最近はこういうVRMMOや普通のMMOなんかもやってたりしますよ。ボードゲームなんかもやりますし」
「あら、結構手広くやってるのね」
「そうですね。最近は先輩と2人でゲームしてたりしたんですけど、やっぱり身体が動かしたいみたいだったんで」
「なるほど、丁度よくサービス開始するこのゲームに誘ったと……」
話題の彼女は、今【食中毒】になりながら腐った肉片を食べているため、こちらの話題には気が付いていないようだった。
……戦闘でのダメージより、休憩中のダメージの方が多いんじゃないの?
そんなことを思いながら、件の彼女に話を振ってみる。
「ねぇ、CNVL」
「むぐ?……ふぅ。なんだい?」
「なんでそんなに腐った肉片ばかり食べているのよ。いや趣味だっていうなら止めないけど……」
「いやいや趣味なわけないじゃないか。私のことをなんだと思ってるだい?ある意味死活問題みたいなものでさ。私実は人の肉を食べないと死んでしまうんだ」
「……は?」
少しおかしいのではないか?とは思っていたが、やはり頭がおかしかったようだ。
マギの方をみれば、苦笑しながら頭を横に振っていた。
どうやらいつもの事らしい。
「いやいや、これが冗談じゃなくてさぁ。結構辛いんだぜ?何も食べなければ空腹で弱るし、普通の物食べても最終的に吐いちゃうし。ここではコレ食べてれば疑似的に何とかなるから助かってるんだけどね」
「そう……大変なのね」
「そうなんだよ!本当に大変!マギくんが色々作ってくれなかったら今頃野垂れ死んでたかもなぁ……」
メアリーは私が普通に会話を続行する様子をみて、あり得ないものを見るような目を向けてきているが無視をする。
リアルの方で多少アクの強い友人が何人かいるおかげか、ある程度そういうのの対応には慣れているのだ。
「……さて。じゃあ休憩も十分とったし行きましょうか」
「目標は3Fに到達かな?あとはまだ見てないブック系の新種発見もか」
「そうね、できれば面倒な新種じゃないと良いのだけど……」
そう言いながらそれぞれ装備を改めて確認し、3Fへ行くための階段探しを再開した。
……まぁそもそも2F入ってすぐの戦闘だったから、探索してないんだけど。
暫くして。
戦闘を何回かこなしつつ、探索していると階段らしきものを発見することが出来た。
しかし、周りの様子に合わせてなのか……その階段は途中で崩れ落ちていて、どう見ても途中で帰ってくることが出来そうにないものとなっていた。
それに灯りも一切なく、見通せない程度には暗い。
「どうする?」
「……んんー。行ってもいいのだけど、2人は?時間とか疲れとか大丈夫?」
『私は全く問題ない~('ω')むしろ前衛の2人の方がつかれてそう。二重の意味で(;^ω^)』
「僕も大丈夫ですよ。まぁ一度休憩を入れてもいいかもしれません。メアリーさんも言ってるように、前衛の2人の方が疲れてそうなので」
「そうかしら。じゃあお言葉に甘えましょうか。……いいかしら?CNVL」
「あは、いいぜ。自分の事は自分がよく分かってるとは言うものの、周りの人から見た感想ってのも馬鹿にできないからね」
ちなみにブック系の新種は見当たらず、逆にゾンビ系の新種を発見することが出来た。
その名も、ムービーゾンビ。普通の服を着ている以外にはアクターゾンビとの違いは見受けられない……が、奴らは恐らくこのダンジョン内で今までのうち一番面倒な敵モブだった。
こちらを発見しては走り。そして殴る蹴る、噛みつくはお手の物。
そんな攻撃をどれでもいいから食らってしまえば、【感染】という状態異常になってしまう。
この【感染】が厄介で、その効果が切れるまで一定時間ごとに周囲のモノを無差別に攻撃してしまうようになるのだ。
ただし、状態異常自体の継続時間は比較的短いため、致命的なものにはなりにくい。
そんなムービーゾンビが2Fの奥へと進むにつれ、大量に湧くようになったのだ。
それに加え普通のアクターゾンビ、ソルジャーゾンビ、ブック系もスポーンする。
ドロップアイテムは美味しいものの、確かに疲れてないといったら嘘になるくらいには戦闘をこなしてきたのだ。
私もCNVLもその提案に反対することはなかった。
そして休憩後、私達は3Fに続くと思われる階段を飛び降りた。
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