Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第一章 ハジメマシテ、【犯罪者】

Episode 5

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--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス
■【リッパ―A】ハロウ

次の日。
セーフティエリアでログインし、そのまま外へと出る。
今日は改めて中央区画を含めた散策、それに加えソロでのダンジョン攻略を考えている。

メンバーは集まらなかったわけでも、こっちで出来たフレンドであるCNVLに連絡がつかなかったわけではない。
サービス開始して2日のゲームでぼっちなのは別に珍しくもないだろう。
と、理由はそんなものではなく。
実際は、試したい事やソロでの経験値効率などの調べたい事があったりしたためだ。

「……まぁ、出来るだけ早めに生産系のプレイヤーと繋がり作っておかないと」

実際、道具などの製作に関してだけ・・言うのであれば、人革を使ってアイテム製作のできる【ゲイン】のCNVLに頼めばいいのだが……彼女はどちらかといえば戦闘系のプレイヤーだろう。
私の為に時間を掛けさせるのは流石に申し訳ない。


--浮遊監獄都市 カテナ 中央区画 メディウス

というわけで、露店か何かでもないかと現時点では開けた場所でしかない中央区画へとやってきた。
周りを見てみれば、まだ数は少ないものの、狙い通り露店らしきものを出しているプレイヤーは何人かいた。
看板なども出しており、ダンジョン前ほどではないもののある程度の賑わいを見せていた。

……できれば、生産系をメインにやる【ゲイン】か【シップマン】のプレイヤーを探しましょうか。
【ゲイン】は単純にその持っているスキルを知っているから。
【シップマン】は薬剤を扱う【犯罪者】の為、生産をメインにプレイするプレイヤーが多いかもしれないと考えた上だ。

「……ん?」

そんな風に考えながらいくつかの露店を冷かしていると、ある一つの露店が目に留まる。
というのも、その露店だけ見てる人が1人もいないのだ。
気になってその露店の主に目をやれば、どこで手に入れたのか何かの革で出来たフード付きのローブを着ており、フードのせいで男か女かすらも判別できない。

「少し見ていってもいいかしら?」

そう聞けば、頭を縦に振ったことからコミュニケーションは問題なく行えるようだった。
露店に置かれているものは、まだ2日目だからかダンジョンから出た素材を中心に、この露店の主が製作したのであろう小物が数個あるだけで正直寂しい。
他は看板などを作って宣伝していたりしていたため、そんな認識になってしまう。

一つ、小物を手に取り効果を見てみる。

――――――――――
【人革の指輪】 装飾品
装備可能レベル:1
制作者:メアリー
効果:精神汚染耐性:極小

説明:人革で作れた指輪
   普通の指輪よりも手に馴染むのは何故だろうか。
――――――――――

恐らくは、【劇場作家の洋館】にて手に入るアイテムを使い作られたものだろう。
シンプルな指輪だが、その分デザインが良い。
……うん、いいかもしれない。

「ねぇ、あなた生産系のプレイヤーかしら」
「……えっと……?」
「あぁ……えっとそうね。こういうアイテムを作るのをメインにして遊んでるのかしら?」

女の子の声が小さく聞こえた。
メアリーという名前から予想はしていたが、女性なのだろう。
私が再度質問すれば、首を縦に振って肯定してくれた。

「素材を持ってきたらアイテム作ってくれたりする?」
「……えっと、な、なんで私なんですか?」
「デザインが好きなの。これあなたが作ったんでしょう?出来るならゲームの世界でも自分の好きなデザインのものを使いたいもの」

そう言えば、照れてしまったのか俯いてしまった。
小さく「……ありがとうございます……」とも聞こえたため、泣いているわけではないだろう。

「で、どうかしら?」
「……まだ私レベル低いです、よ?」
「そんなこと言ったら私もよ。というか始まって2日でそこまでレベル高い人もいないんじゃない?」

多少強引だろうが、ここは生産系プレイヤーと繋がりを作るチャンスだ。
それにこの子が今着けているローブの方も少し興味がある。
お近づきになれたら、確実に面白いことになるだろう。

「それに、ここまで他の露店を見てきたけど、あなたほどしっくりきたプレイヤーは他にいなかったの」
「しっくり、ですか?」
「そうそう。そういう感覚は大事にしてるのよ私。……あぁ、心配しないで。お代はきちんと払うし、今は無一文だけど……これから持ってる素材を露店か何かで売ればある程度お金にはなると思うから。……迷惑だったらすぐに退散するわ」

私の言葉を受け、考え始めたのか彼女……恐らくメアリーは俯いてしまう。
そしてそんな状態が数分続いた後に、彼女の小さい声が聞こえてきた。

「あ、あの……」
「ん?」
「お代は、良いです。その分追加で素材をください」
「……ってことは、作ってくれるのね?」

彼女は頷き、少しだけフードを上げ私だけに顔を見えるようにしてくれた。
そこには真っ赤に染まった、金髪碧眼の少女の顔があった。
可愛らしい少女の顔だ。

「あらかわいい。なんで隠してるのかしら」
「は、恥ずかしいから……」
「それは残念ね。……で、私はあなたのことを何て呼べばいいかしら?私はハロウっていうの」

そう聞くと、彼女はフードを元に戻しながら小さく答えてくれる。

「……メアリー」
「そう、メアリー。これからよろしく」

彼女の前に手を出せば、おずおずといった風に手を握ってくれた。
その後フレンド登録をし、これからはメッセージによるやり取りでアイテムの作製依頼をするなどの話を詰めておいた。
狙い通りとは違ったものの、良い縁が繋がった。

『これからよろしく!( ゜Д゜)』

予想外だったのは、メッセージではメアリーが饒舌になったことくらいだろうか。



「さてっと。ソロでどこまで攻略できるかしら」

メアリーと別れた後、私はそのまま【劇場作家の洋館】へと向かった。
ソロで挑む理由はメアリーに出会う前に確認した通り、ソロでの経験値効率なんかをある程度把握するためだ。

それと同時に、ソロでの戦闘技術を磨いておきたいという目的もあった。
何故か?
まだまだ先にはなるとは思うが、いずれ何処かのタイミングでは私も【世襲戦】を挑んだり挑まれたりする筈なのだ。
その時には周りに仲間は居らず、1人で対応しなければならない。

それに、こういった事はまだ始めて間もないからこそできる。
どうしてもパーティでの動きに慣れきってしまっていると、どこかぎこちなくなってしまうためだ。
……だから私はぼっちなんかじゃない!

心の中でそう叫びながら、今日も賑わっているプレイヤー達の前を通り過ぎ、そのまま1人でダンジョンへと入場した。
視界が光に包まれる。


--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 1F

テレポーターは使わず、そのまま1Fを進んでいく。
というか、そもそも今はまだ1人で2Fの敵に勝てる気がしない。
まずは1Fに出てくるモブ達相手にどこまで戦えるのか、そこを確かめないといけない。

「……ァア……」
「お、丁度良いわね。あなた1人?」
「ァァアァア!!」

少し進むと、運良く1体のみのアクターゾンビに遭遇することができた。
近くに死体らしきオブジェクトが落ちてないことから、フリューブック辺りが飛んでこない限りは増援もないだろう。
気さくに声を掛けながら、自身の得物であるナイフを取り出しダメージアップの為に【シャープエッジ】も使っておく。

アクターゾンビの大振りな拳をある程度余裕を持ちつつ避け、そのまま一度脇腹辺りに切りつける。
当然ながら、一撃だけで倒せるわけもなく、同じような動作を繰り返しながら戦闘は進んでいく。

「……んー。パターンがあんまり多くなさそう?」

大振りの拳、こちらを拘束したいのか両手を広げ迫ってくる、噛みつき、ひっかき。
アクターゾンビはこれらの行動をランダムに選んで行ってくる。
その為、ある程度余裕さえあれば一撃も受ける事なく倒せることが出来そうなエネミーじゃないかと思う。
というか、今光になって消えていった。

ドロップは相変わらず腐った肉片。このままでは本当に肉片シリーズが出来てしまうかもしれない。
武器に加工してもらおうにも、肉片を使った武器なんて【リッパー】という【犯罪者】に合うとは思えない。
するとしても防具だろうが……それでも腐った肉片を使った防具は性能は兎も角として精神的に使いたくはない。

「あー……でも1人の方が1体あたりの経験値量は良さそう?」

【リッパー】じゃない……例えば【シップマン】なんかなら使えるアイテムなんだろうな、と思いつつ。取得した経験値を確認してみる。
すると、2人で戦闘していた時よりも僅かに取得した経験値の量が多い事が分かった。
……大量に倒せるなら1人の方がレベリング効率はいいのか。

「よし、5レべまでちょっと頑張ってみましょうか」

独り気合を入れ、再度歩き出す。
アクターゾンビの行動パターンは分かったため、1Fに出てくる他のエネミーであるフリューブック、その集合体であるブックゴーレムの行動パターンさえ把握してしまえば、ある程度HPの続く限りは戦闘が出来るようになるだろう。

恐らく私以外にも似たようなソロプレイをしてるプレイヤーはいるだろうが、私は別にトッププレイヤー……所謂攻略組になるつもりはないから、自分のペースでゆっくりやらせてもらうことにする。


数十分後。

「よっ、と」

宙を舞うフリューブックに対し、タイミングを合わせ跳んで手を伸ばす。
丁度手に収まるように移動してきたフリューブックを掴みナイフを立てる。
そのままぐりぐりとナイフを押し込んでいけば、そのままフリューブックは光へと変わって消えていった。

この数十分である程度フリューブックのしてくる攻撃、行動パターンを覚えた私は、『攻撃するのではなく捕まえる』という作戦をとっていた。
というのも、フリューブックはこちらが武器を構えたり攻撃をしようとすると、回避を積極的に行う行動パターンに変化するのが見てて分かったのだ。
攻撃すらせず、ただただ逃げ続けるようになり、最終的に複数体で集まってゴーレムが形成される……というある種分かってしまえば簡単なギミックを持つエネミーだった。

だから、こちらは攻撃する意思を持たず。
ただただ捕まえることだけを考え跳び、捕まえ。
絶対に逃がさないように押さえつけた後、初めて攻撃をする。

厄介なのは、複数体フリューブックが初めから出てきたパターンだろうか。
1体捕まえれば、その瞬間に行動パターンが変化してしまう。
そして1体フリューブックを倒している間にゴーレムが誕生。普通の戦闘が始まってしまう。

「一応は対処できるようになったし……気付いたら4レべにもなってたし、2階にも行ってみましょうか」

特に何かを覚えることもなかったため気が付かなかったが、レベルが上がっていた。
これがこう上がった!みたいな分かりやすいステータスは表示されないものの、身体が動かしやすくなっただとか、刃がより奥に入るようになっただとか、些細ではあるものの変化はきちんと存在する。
……でも通知とかないのは不便ね。

そう思いアクターゾンビを相手にしながら、片手間にヘルプを改めて読んでみればそれらしいものを見つけることが出来た。
『各種通知について』。
デスキルペナルティなどといった直接プレイに関わる通知はオンになっていて、それ以外はオフにしてあるらしい。

とりあえず、レベルアップとスキル取得の通知、メッセージの通知なんかを追加でオンにしておく。
ついでにメッセージボックスを確認してみれば、CNVLとメアリーからそれぞれメッセージが来ていた。

CNVLからは、『後輩を紹介したいから、余裕があるときにでも会わないかい?』というメッセージ。
メアリーからは、『新しい装飾品を作ったから、時間がある時に来てください(^O^)』という少し真面目なメッセージだ。

……丁度いいし、全員で会いましょうか。
それぞれにその旨を伝え、了承のメッセージを受け取った後、出口へと戻る。
手に入れたアイテム自体はそこまで変わらないが、次からは今回よりも早く進むことが出来るだろう。
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