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第一章 ハジメマシテ、【犯罪者】
Episode 2
しおりを挟む--浮遊監獄都市 カテナ 中央部 メディウス
■【リッパー A】ハロウ
私が降り立った場所は、このゲームのメインの舞台である(らしい)浮遊監獄都市カテナ。
ゲーム内で使える検索エンジンを駆使して調べてみれば、細かい設定などが出てくる中でこの都市の構造なんかも見つける事が出来た。
ちなみに、検索ついでにインベントリ内を見てみれば、先のチュートリアルクエストで使ったハサミとナイフがそのまま仕舞われていた。
恐らくはコレがある意味でチュートリアル報酬なのだろう。
都市の方に話を戻そう。
まず、私が今現在居る場所は都市の中央部であるメヴィウス。
ここは、普段特に何もない……中央部だからといって何か重要な場所というわけでもないただの広場となっている、らしい。
正直私の経験からすれば、こういった意味深に開けた場所が何にも使われないはずもないし、今後何かに使われる重要なスペースであるのは明白だ。
次に、この都市は中央部以外に四つの区画があり……そのどれもが独自の文化を築いている。
第一区画ネース、第二区画デンス、第三区画オリエンス、第四区画ディエス。
それぞれがそれぞれの文化を築き、それによって付けた力を他の区画の手助けに回す。
そういった形でこの都市は回っていた。
「なるほどねぇ……四つの都市に、中央部か……」
そう呟いた瞬間。
私の目の前にメッセージが出現した。
--System Message 『チュートリアル【区画に所属しよう】が発生しました』
それと共に、ウィンドウが出現する。
そこには私が今調べていた内容とほぼ似たような区画ごとの情報と、それに所属するメリットなどが記されている。
そして最後には、どの区画に所属するかという選択肢が出現していた。
「……ちょっと考えましょうか」
まず、今出てきたメッセージ。
これは名前の通り、十中八九どのプレイヤーにも発生しているであろうものだろう。
だが、問題はこのほぼほぼ序盤の、ゲームの設定を把握しているかどうか分からない現状で発生するモノなのかという所だ。
本当はもう少し後で発生するチュートリアルなんじゃないだろうか。
それも、何かしらのトリガーがあって発生するタイプの。
自分が何をしたか、それっぽい行動をしていないかを考え、思い当たる。
……口に出しただけだけど、この都市の全体像を大体把握したら発生するタイプのチュートリアルかしら。
実際は自らの足でそれぞれの区画を歩き、見て情報を得てから発生するタイプのもの。
私の場合は、それを検索して把握した。主に公式のサイトからだが、それでも発生するということは、運営にとって想定内の事だろう。
「何も見ないで決めるのは流石にないわね……百聞は一見にしかずとも言うし」
そう独り言を零しながら、私はまず第一区画へと向かった。
--浮遊監獄都市 カテナ 第一区画 ネース
そこは、私が落下しているときに見た異常に技術が発展している場所だった。
見れば、漫画やアニメなんかでしか出てこない宙に浮いた車らしきモノや、明らかに人間ではないロボット達が作業をしている場所もある。
そして肝心な部分として。
この区画の殆どは工場施設……つまりは生産に寄っている作りとなっていた。
他のゲームでいう生産系のギルドのようなものだろう。
ここに所属するならば、最低限そういったことを嗜める【犯罪者】の方が恩恵があるのだろうが……私の【リッパー】は元になった犯罪者であるジャック・ザ・リッパーからして戦闘系の【犯罪者】だろう。
「うーん、やっぱり見ないとわからないことも多いわね」
私と同じ囚人服を着ているプレイヤーらしき人々を、道の端に寄りながら観察する。
ある程度私と同じ目的でネースに来ている者とは他に、何やら現実では見たことのない何かの革を使った道具を持つ者達が多く見受けられる。
プレイヤーメニューからヘルプを呼び出し【犯罪者】の項を確認すれば、それらしきものを見つけることが出来た。
……人の革で道具を作り出す【ゲイン】ねぇ。
十中八九、彼らは【ゲイン】となったプレイヤーだろう。
系統は分からないが、それらしき道具も持っている。
問題はその用途だろうか。戦闘になったらどういう使い方をしてくるのか想像もつかない。
そんなことを考えていたら、不意に突然肩を叩かれた。
「やぁお姉さん。暇してる?良かったら一緒に街の冒険でも行かないかい?」
「貴女は……はい、まぁ暇ですよ。プレイヤーですね?」
「そそ、ネームはCNVL。【犯罪者】は【ゲイン】さ、今後ともよろしく」
「【リッパー】のハロウです。よろしくお願いします」
叩かれた方向を向くと、黒く長い髪をした整った顔の女性プレイヤーが、誰かを思い出すような笑顔で立っていた。
「一緒に行くのは構いませんが、何故私に声を?」
「あは、ちょっと後輩が来るのが遅れててね。折角のフルダイブなのに一人で回るのも勿体ないじゃない?それで道連れを探してたらぼーっと立ってるお姉さんが居たからついね」
「道連れって……」
「はは、よく言うだろう?旅は道連れ、世は情け。思い立ったが吉日に、一期一会の出会いを信じろって」
「言いませんね」
「まぁ私が今それっぽいの繋げただけだしね」
どうせだし、ということでCNVLとフレンドとなり一緒に第一区画以外の場所も回ることにした。
聞けば、彼女は殆どこういったVRMMOをやったことがないらしく。
頼みの綱としていた後輩も急な用事で遅れているとのこと。
……丁度良いし【ゲイン】のスキルなんかも聞いてみるか。
こちらからは対価として【リッパー】のスキルを教えるから問題ないだろう。
「……人革ドロップ関係のパッシブに道具の効果上昇スキル……」
「んー、なんかやっぱり元ネタから変わってるねぇ、【リッパー】も。いや、切り付けた数だけダメージアップってのは切り裂きジャック関係……?」
「恐らくそうじゃないかと。私的には【ゲイン】の元ネタを知らないからあんまりなんですが」
「あぁ、多分だけどエド・ゲインが元ネタじゃないかい?彼は人革で家具なりなんなりを作っていたそうだから」
「なるほど……」
【リッパ―】のスキルである【切裂衝動】は、そのままに相手を切った回数に応じてこちらのダメージが上がっていくパッシブスキルだ。
MMOにありがちな、物理防御が高い相手も延々と切っていればいずれはダメージが通るようになるのではないだろうか。……まぁそれをやるくらいならば他の戦法をとるが。
そして問題の【ゲイン】のスキルである【人革採集】。
人型範疇内の敵性モブや、NPCから生産素材アイテムである【人革】を手に入れられるようになるパッシブスキル。
そして、道具の効果を底上げする【制作者の心意気】という、またもやパッシブスキル。
【人革採集】に関しては、使ってみた結果からすると毎回のドロップに1~2枚確定で【人革】が混ざる程度らしい……何に試したのかは流石に聞けなかったが。
恐らく【制作者の心意気】の方は、取ろうと思えば他の【犯罪者】でも取れるんじゃないだろうか。
「パッシブマシマシタイプなんですかね【ゲイン】」
「あは、多分はそうかな。これがランクアップしたらどうなるか……まぁ厄介というか特殊にはなりそうな予感はするね。わくわくするぜ」
--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス
そうやって雑談しながら歩きつつ、辿り着いたのは隣の第二区画。
中世ヨーロッパのような街並みが広がっており、人々が使っている乗り物も馬車なんかの所謂『中世っていったらこうだよね!』が詰め込まれている区画だ。
他にも、第一区画では多く見られた工場施設の代わりに劇場や本屋など、娯楽に関係するようなものが多く見受けられる。
「こっちには【リッパ―】が多いみたいですね」
「そうだねぇ。……あっ、あの変なオーラ出してるのは【ラミレス】じゃないかい?確か悪魔憑き系の【犯罪者】だろうアレ」
「ふむ?……成程、確かにそうみたいですね。育っていくと悪魔自体を召喚できるんですかね?」
「ロマンはあるね。リビルド考えるときは候補に入るかな」
店を見るだけの冷やかしをしつつ、第二区画を歩いていく。
すると、一際目を引く建物が見えてきた。
「あれは……」
「ほう、ダンジョンとな」
ダンジョン。
どこを飛んでいるかは分からないが、この浮遊都市にもそれらの類はあるようで。
少し背景を調べれば恐らくはそういった情報も出るのだろうが、今は重要なのはそちらではない。
横を見れば、同じことを考えていたのかCNVLもこちらを見て頷いている。
「折角ですし行きましょうか」
「良いね。やっぱりゲームなんだから敵倒さないと!」
既にドロップ系のパッシブを試したはずの彼女の言は気になるものの、言う事は理解できる。
何せ、ここまででやった戦闘行動のようなものは一つもない。
……チュートリアル?いやいや、アレはただの拷問ですし。
そうして私とCNVLは一緒になってダンジョンのある建物へと向かっていった。
ダンジョン前はやはり賑わっていて、軽いお祭りのようになっていた。
洋館にしか見えない建物の前でのお祭り騒ぎだ。中に住人が住んでいたら冗談じゃなく激怒するだろう。
ダンジョンだからこそ問題ないのかもしれないが。……いや、この場合は敵性モブが住人に当たるのだろうか?その場合、罪状に強盗殺人?まで増えてしまう事にはなるが。
だが、それにしても騒いでいるような気がする。
「はーい!こっち【ゲイン】1【ゲイシー】1の【リッパ―】2ですよー!迷ってる人いたら先着1名ー!」
「【リッパ―】募集ー!アタッカー以外は揃ってるぞー!」
「【ゲイン】で固めて【人革】うっはうはしてみないー?」
などなど。
プレイヤーたちがそれぞれのパーティ募集のために声を張り上げていたり、それを見た街の住人……商売人たちがそれに乗っかって臨時の売店を出している状態だ。
買おうと思えば割と色々買えるんじゃないだろうか。ゲーム内通貨があるのならば、だが。
「聞いてきたよ」
「どうでした?」
「中は別サーバっぽくて、他のパーティと鉢合わせになることはないってさ。敵に関しては、一応は格上だけど倒せないほどじゃあないらしい」
「ほう。ならこのまま二人で行ってもいいかもですね」
「だね。……というか、敬語じゃなくてもいいぜ?普段の言葉遣いがそれなら別にいいんだけど」
「あら、そう?一応、初対面だしってことで敬語にはしてたけど。そう言ってもらえるならこれからはこっちで話すわ」
そんなことを話しながら、私とCNVLはパーティを組みそのまま建物の入り口……ダンジョンの入り口に入っていく。
手にはチュートリアルクエストでも使ったナイフとハサミを持ち。
CNVLもいつの間にか中華包丁のような武器を取り出している。持ち手に人革らしきものが使われているため、チュートリアルが終わった後に作ったものだろう。
そして、視界が光に包まれる。
--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 1F
そこは、海外ドラマや映画に出てくるような内装の……誰もが一度は見たことのありそうな風景が広がっていた。
アンティーク調の家具や、よく分からない風景画。恐らく何らかの部屋に繋がっているであろう木製の扉に、天井から伸びた照明が私達を照らしている。
ここまでならばダンジョンではなく、普通の建物だ。
しかし、ここがダンジョン足りうる要素ももちろんある。
パッと見ただけで終わりの見えない廊下に、なぜか転がっている人間の死体。
そして宙に浮かんでいる何やら楽譜のようなものや、文字の書かれている羊皮紙。
そんな現実感のない光景がここがダンジョンであると教えてくれる。
「さ、行こうか。このゲーム初の冒険だ、楽しんでいこうぜお姉さん」
「えぇ、一緒に行けるところまで頑張りましょう」
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