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第4章 魔界編
第251話 疑惑
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「どういうおつもりか?」
「やめろ、クルト」
ラーの爆弾発言に声を荒げたのはイスヴァの隣に座っていたラースクルトだった。
イスヴァが止めに入るが、ラースクルトはラーの事を射殺さんばかりに睨みつけていた。
そんなラースクトを見た双子の天翅が咄嗟に立ち上がるが、ラーが手で制すと、すぐに席に戻った。
「理由をお聞かせ願いませんか?」
「お前達がそれを知る必要はない。黙ってラー様に従っていればいいのだ」
双子の内の男の天翅がそう言って、イスヴァ達に厳しい視線を浴びセルト、少し冷静さを取り戻していたラースクルトもラー達を再度睨み返した。
(……不味いな)
室内は完全に殺伐とした雰囲気に支配されていた。
イスヴァにとってそれはかなりまずい展開だった。
確かにラーはリティスリティアと比べると親しみを持てる相手ではなかったが、かといって敵対していい相手ではない。
だからといって、天翅の言う通り黙って従う事もイスヴァにはできない。
(……俺達はこんなことをするために生き永らえたのではない)
少しの無言が続いた後、言い聞かすような口調でラーが口を開く。
「これは世界を守る為に必要な事であり、ひいてはティアの為でもある。できれば何も聞かずに協力してもらいたい」
「……リティスリティア様の為」
己が信じる女神の名を出された事によって、イスヴァの心は揺れた。
それでもやれることとやれない事の境界線くらいはイスヴァにもある。
ましてや当のリティスリティアもいない中、人間達の代表である王達を皆殺しにする選択を選べるはずもなかった。
ラーにはリティスリティアのように他者の心を読む力はない。
それでも今のイスヴァの迷いを読み取る事は容易だった。
「ではこうしようか。イスヴァ、君も会談に参加すればいい。人間を見てそれでどうしても納得できないというのなら私も違う手を考えよう。シンティ、イスヴァにこれを」
ラーはそう言うと、双子の女の方、シンティに淡い黒味がかったクリスタルを手渡した。
シンティはラーからクリスタルを受け取ると、ゆっくりとイスヴァの横からテーブルにそれを置いた。
「これは?」
「転移門発生クリスタルだ。これを使えば、会場がある都市近くまで転移ができる。日時は3日後の14時。10人くらいまでなら往復可能だと思うから配下の者も何人か連れて行っても構わないよ」
「……そうですか。御配慮に感謝致します」
その後、異様な空気のままラーとの面会は終了した。
そして、ラー達を城の外まで送り届けたイスヴァ達はすぐに3日後の会談に向けた幹部会議を開くことにした。
会議には今回ラーと面会したイスヴァとラースクルト以外にも3人の魔人が参加することになった。
「今回のラー様の話おかしいとは思いませんか?」
開口一番に口を開いたのはラーとの面会にも参加していたラースクルトだった。
これまではラーに敬意を持っていたラースクルトだったが、今回の一件でラーに強い不信感を持つようになっていた。
「おかしいと言えばリティスリティア様もです。この50年、あの方は一度として姿を現されていません。あの御方は我らを見放したのでしょうか? あの方は今回の件の事ご存じなのでしょうか?」
「リティスリティアも今回の件は承知していると、ラー様は仰ってられたが、正直俺はあの方がそのような決断をしたようには思えん」
人間の王が集まる会議で王達を皆殺しにする。
リティスリティアがそのような暴挙を許すような人だとはイスヴァにはどう見ても思えなかった。
そんな中、幹部の一人が言った一言が場の空気を氷付かせることになった。
「……リティスリティア様はラー様によって、軟禁されているのではないでしょうか? 今回の件を別にしてもあの方が50年もお姿を見せないのはどう考えても異常事態です。リティスリティア様に何かあったとしか私には考えられません」
「そんな馬鹿な事が……」
——ありえるか。と言いかけて、イスヴァは言い淀む。
そうする理由など見当も付かないが、あながちありえない話でもないと思ってしまったからだ。
むしろそうだとすれば、リティスリティアが今回の件に何も口出ししてこない件も50年間、ハーテスエントラに一度も姿を現さない事の説明がつく。
「そうであるのなら我らでリティスリティア様をお救いするべきです。今もあの御方は助けを待っているかもしれません」
「……そうであると決まったわけではない」
本当にそうであるとするならラースクルトの言う通り今すぐにでもリティスリティアを救うに向かうべきだった。
それでも確定した事実でない以上まずイスヴァ達には確かめなければならないことがある。
「その前にラー様の真意を確かめるべきだ。本当に事情があるのかもしれんし、人間が邪悪な存在だという可能性も否定はできない。まずはラー様の言う通り、人間達の会議に参加しようと思う。……これに異議がある者はいるか?」
イスヴァの問いに答える者はこの場にいなかった。
とりあえず様子を見る他ない。
それがこの場にいる幹部全員の総意だった。
「やめろ、クルト」
ラーの爆弾発言に声を荒げたのはイスヴァの隣に座っていたラースクルトだった。
イスヴァが止めに入るが、ラースクルトはラーの事を射殺さんばかりに睨みつけていた。
そんなラースクトを見た双子の天翅が咄嗟に立ち上がるが、ラーが手で制すと、すぐに席に戻った。
「理由をお聞かせ願いませんか?」
「お前達がそれを知る必要はない。黙ってラー様に従っていればいいのだ」
双子の内の男の天翅がそう言って、イスヴァ達に厳しい視線を浴びセルト、少し冷静さを取り戻していたラースクルトもラー達を再度睨み返した。
(……不味いな)
室内は完全に殺伐とした雰囲気に支配されていた。
イスヴァにとってそれはかなりまずい展開だった。
確かにラーはリティスリティアと比べると親しみを持てる相手ではなかったが、かといって敵対していい相手ではない。
だからといって、天翅の言う通り黙って従う事もイスヴァにはできない。
(……俺達はこんなことをするために生き永らえたのではない)
少しの無言が続いた後、言い聞かすような口調でラーが口を開く。
「これは世界を守る為に必要な事であり、ひいてはティアの為でもある。できれば何も聞かずに協力してもらいたい」
「……リティスリティア様の為」
己が信じる女神の名を出された事によって、イスヴァの心は揺れた。
それでもやれることとやれない事の境界線くらいはイスヴァにもある。
ましてや当のリティスリティアもいない中、人間達の代表である王達を皆殺しにする選択を選べるはずもなかった。
ラーにはリティスリティアのように他者の心を読む力はない。
それでも今のイスヴァの迷いを読み取る事は容易だった。
「ではこうしようか。イスヴァ、君も会談に参加すればいい。人間を見てそれでどうしても納得できないというのなら私も違う手を考えよう。シンティ、イスヴァにこれを」
ラーはそう言うと、双子の女の方、シンティに淡い黒味がかったクリスタルを手渡した。
シンティはラーからクリスタルを受け取ると、ゆっくりとイスヴァの横からテーブルにそれを置いた。
「これは?」
「転移門発生クリスタルだ。これを使えば、会場がある都市近くまで転移ができる。日時は3日後の14時。10人くらいまでなら往復可能だと思うから配下の者も何人か連れて行っても構わないよ」
「……そうですか。御配慮に感謝致します」
その後、異様な空気のままラーとの面会は終了した。
そして、ラー達を城の外まで送り届けたイスヴァ達はすぐに3日後の会談に向けた幹部会議を開くことにした。
会議には今回ラーと面会したイスヴァとラースクルト以外にも3人の魔人が参加することになった。
「今回のラー様の話おかしいとは思いませんか?」
開口一番に口を開いたのはラーとの面会にも参加していたラースクルトだった。
これまではラーに敬意を持っていたラースクルトだったが、今回の一件でラーに強い不信感を持つようになっていた。
「おかしいと言えばリティスリティア様もです。この50年、あの方は一度として姿を現されていません。あの御方は我らを見放したのでしょうか? あの方は今回の件の事ご存じなのでしょうか?」
「リティスリティアも今回の件は承知していると、ラー様は仰ってられたが、正直俺はあの方がそのような決断をしたようには思えん」
人間の王が集まる会議で王達を皆殺しにする。
リティスリティアがそのような暴挙を許すような人だとはイスヴァにはどう見ても思えなかった。
そんな中、幹部の一人が言った一言が場の空気を氷付かせることになった。
「……リティスリティア様はラー様によって、軟禁されているのではないでしょうか? 今回の件を別にしてもあの方が50年もお姿を見せないのはどう考えても異常事態です。リティスリティア様に何かあったとしか私には考えられません」
「そんな馬鹿な事が……」
——ありえるか。と言いかけて、イスヴァは言い淀む。
そうする理由など見当も付かないが、あながちありえない話でもないと思ってしまったからだ。
むしろそうだとすれば、リティスリティアが今回の件に何も口出ししてこない件も50年間、ハーテスエントラに一度も姿を現さない事の説明がつく。
「そうであるのなら我らでリティスリティア様をお救いするべきです。今もあの御方は助けを待っているかもしれません」
「……そうであると決まったわけではない」
本当にそうであるとするならラースクルトの言う通り今すぐにでもリティスリティアを救うに向かうべきだった。
それでも確定した事実でない以上まずイスヴァ達には確かめなければならないことがある。
「その前にラー様の真意を確かめるべきだ。本当に事情があるのかもしれんし、人間が邪悪な存在だという可能性も否定はできない。まずはラー様の言う通り、人間達の会議に参加しようと思う。……これに異議がある者はいるか?」
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