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第4章 魔界編
第249話 イスヴァとラースクルト
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それは男にとって、ようやく手にした平和の時だった。
男は玉座に腰かけ、100年前まで続いていた宇宙怪獣との壮絶な戦いを思い返していた。
白髪の腰まで伸びる髪に黒い肌を持つ隻眼の男の名はイスヴァ。
初代魔王としてこことは違う世界ハーテスに君臨していた彼は突如として、空からやってきた化け物と数十年に渡る戦いによって自身の左目と多くの仲間を失っていた。
強大な力を持つ魔人にとっても、空からやって来た化け物は未曽有の脅威に他ならなかった。
従来の魔獣に比べても遥かに巨大な体を持つ上に空を飛び、外見は外骨格を持つ昆虫のようなものから海に住むような名前もよく分からない軟体生物のようなものまで一貫性がないのに、その体は内包している魔力によってドラゴンを超える耐久性を誇っていた。
そんな脅威の化け物相手から逃げ延びる事ができたのは、多くの戦士達の死と2人の神の存在があってこそのものだった。
それゆえにイスヴァは自分達を救った2人の神に感謝していたが、同時に最近になって少し気になっている事があった。
たった一人の玉座の間の外から声が聞こえてきたのはそんな時だった。
「——イスヴァ様、少しご報告したい事が」
「クルトか、いいぞ、入ってこい」
耳慣れた声にすぐ入室の許可を出すと、扉の向こうからはイスヴァを遥かに超える大男が姿を現した。
3mを超える巨躯を持つ男の名はラースクルト。
魔王であるイスヴァにとって腹心であると同時に長く共に戦ってきた戦友の一人でもあった。
大きな足音を響かせながらラースクルトは玉座の前までやってきた。
「それで報告ってなんだ?」
およそ王に似つかわしくないフランクな口調でイスヴァはラースクルトに問いかけた。
ラースクルトはラースクルトでそんなイスヴァの口調を気にするわけでもなく、報告を始める。
「天翅ラー様がイスヴァ様に面会を求めています。如何いたしますか?」
「如何も何も……会う以外の選択肢ないだろ。俺達の恩人なのだから。で、いつだ? 別にそこまで気を使う相手もいないが、断りの連絡を入れないといかないしな」
イスヴァにとって——というより魔人全体にとってラーは空から来た化け物から救ってくれた大恩ある人物だ。
それゆえに先約がいようがなんだろうが、まず優先すべきはラーとの面会だった。
ラースクルトもイスヴァの答えを予想していたのかすぐにその日時を告げた。
「本日です。御夕食時にでもどうかと仰っています」
「は?」
そんな間の抜けた声を出しながら、イスヴァは玉座の間の傍らに掛けてある大きな時計を見ると、既に14時を過ぎた頃だった。
「間違いないのか? えらく急だな。まぁ今日は特に用事もなかったから逆に良かったと言えば良かったが」
そう言うとイスヴァは玉座の肘掛けに頬杖をつきながら少し考えこむ。
「何か気になることが?」
「いやな、どうも最近ラー様の様子がおかしいと思ってな。100年禁じていた人間界越境をなぜ今、お許しになられたのか」
「私達を信頼しているからではないですか? 当初は力が増さる我らが人間に害する事を危惧していたようですが、大恩あるあの方との約束を反故にするわけにはいきませんから」
これから行く世界には魔人と同じく宇宙怪獣から逃れてきた先住者がいる。
その者達と争うことなくいずれは同じ世界に生きる仲間として手を取り合って生きていく事。
それが宇宙怪獣から逃す為に魔人がこの世界に連れて来られるときにした創世神リティスリティアとの約束だった。
だからある意味越境解禁は自然な流れとも言えなくはない。
それでもイスヴァは違和感を感じれずにいた。
「それにしても急すぎただろ? 少しずつ交流を深めていって、それからならともかく何の前触れもなくいきなりだ。これではまるで——いや、なんでもない」
イスヴァは思わず口に出そうとした言葉をなんとか飲み込み、誤魔化した。
男は玉座に腰かけ、100年前まで続いていた宇宙怪獣との壮絶な戦いを思い返していた。
白髪の腰まで伸びる髪に黒い肌を持つ隻眼の男の名はイスヴァ。
初代魔王としてこことは違う世界ハーテスに君臨していた彼は突如として、空からやってきた化け物と数十年に渡る戦いによって自身の左目と多くの仲間を失っていた。
強大な力を持つ魔人にとっても、空からやって来た化け物は未曽有の脅威に他ならなかった。
従来の魔獣に比べても遥かに巨大な体を持つ上に空を飛び、外見は外骨格を持つ昆虫のようなものから海に住むような名前もよく分からない軟体生物のようなものまで一貫性がないのに、その体は内包している魔力によってドラゴンを超える耐久性を誇っていた。
そんな脅威の化け物相手から逃げ延びる事ができたのは、多くの戦士達の死と2人の神の存在があってこそのものだった。
それゆえにイスヴァは自分達を救った2人の神に感謝していたが、同時に最近になって少し気になっている事があった。
たった一人の玉座の間の外から声が聞こえてきたのはそんな時だった。
「——イスヴァ様、少しご報告したい事が」
「クルトか、いいぞ、入ってこい」
耳慣れた声にすぐ入室の許可を出すと、扉の向こうからはイスヴァを遥かに超える大男が姿を現した。
3mを超える巨躯を持つ男の名はラースクルト。
魔王であるイスヴァにとって腹心であると同時に長く共に戦ってきた戦友の一人でもあった。
大きな足音を響かせながらラースクルトは玉座の前までやってきた。
「それで報告ってなんだ?」
およそ王に似つかわしくないフランクな口調でイスヴァはラースクルトに問いかけた。
ラースクルトはラースクルトでそんなイスヴァの口調を気にするわけでもなく、報告を始める。
「天翅ラー様がイスヴァ様に面会を求めています。如何いたしますか?」
「如何も何も……会う以外の選択肢ないだろ。俺達の恩人なのだから。で、いつだ? 別にそこまで気を使う相手もいないが、断りの連絡を入れないといかないしな」
イスヴァにとって——というより魔人全体にとってラーは空から来た化け物から救ってくれた大恩ある人物だ。
それゆえに先約がいようがなんだろうが、まず優先すべきはラーとの面会だった。
ラースクルトもイスヴァの答えを予想していたのかすぐにその日時を告げた。
「本日です。御夕食時にでもどうかと仰っています」
「は?」
そんな間の抜けた声を出しながら、イスヴァは玉座の間の傍らに掛けてある大きな時計を見ると、既に14時を過ぎた頃だった。
「間違いないのか? えらく急だな。まぁ今日は特に用事もなかったから逆に良かったと言えば良かったが」
そう言うとイスヴァは玉座の肘掛けに頬杖をつきながら少し考えこむ。
「何か気になることが?」
「いやな、どうも最近ラー様の様子がおかしいと思ってな。100年禁じていた人間界越境をなぜ今、お許しになられたのか」
「私達を信頼しているからではないですか? 当初は力が増さる我らが人間に害する事を危惧していたようですが、大恩あるあの方との約束を反故にするわけにはいきませんから」
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だからある意味越境解禁は自然な流れとも言えなくはない。
それでもイスヴァは違和感を感じれずにいた。
「それにしても急すぎただろ? 少しずつ交流を深めていって、それからならともかく何の前触れもなくいきなりだ。これではまるで——いや、なんでもない」
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