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第4章 魔界編
第239話 覚悟
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「ブ、ブリガンティス様、そのフィーリーアという者は何者なのですか?」
凄まじい緊張感の中、ゾデュスは恐る恐るブリガンティスに尋ねた。
ブリガンティスがそこまでいう相手。
それだけでフィーリーアという存在が只者ではない事は理解できたが、それでもゾデュスはピンと来ていなかった。
たった昨日に遭遇した巨竜がそうだという事に。
そんなゾデュスを馬鹿にするようにセラフィーナが溜息を吐く。
「はぁ、アンタ、アレに会ったんでしょ?」
「アレ? アレとはなんだ?」
セラフィーナにそう聞き返した時、ブリガンティスの笑い声が聞こえ、ゾデュスはびくりと思わず体を震わせた。
「ふふ、そうか、そうだな。アレと戦うなんて事を誰も考えたくはない。本人を見てもなお分からないという事はお前は無意識にアレと戦うという選択肢を除外したという訳だ」
(……俺がブリガンティス様の殺したい奴に会った?)
そう思いながらゾデュスはこの数日内の事を思い返してみた。
数日前まではつまらない日々の連続だった。
魔王ギラスマティアによって人間との戦いを禁じられ、のうのうとした日々をゾデュスは過ごしてきたのだ。
(つまり俺がそいつと会ったのはギラスマティアが死んでからの事か? 誰だ? 俺は誰と会った?)
数日内の出来事でゾデュスにとって一番衝撃的だったのはやはり900年に渡ってこの魔界に君臨し続けた魔王ギラスマティアの死だ。
実際に現場を目にしたわけではないが、この事件以上に頭に残る出来事はない。
そして、人間界侵攻作戦の時に出会ったクドウ達との遭遇。
確かにクドウ達はゾデュス達を圧倒するほどの力を見せたが、歴史的に見れば魔人を圧倒するほどの力を持った人間がいなかったわけではない。
衝撃の度合いだけで見れば今日のブリガンティスやセラフィーナの言動の方がゾデュスにとっては印象が強いくらいのものだった。
(クドウにアールに勇者アリアス、そしてこの女。それ以外で俺が出会った強者……?)
そうして、何度もそう思い返す内に遂にゾデュスはその答えを見つけ出した。
「……いや、まさか、確かに竜かもしれないが……ていうかアレに名前なんてものがあったのか?」
一般的な魔人は人間界に比べて、始祖竜フィーリーアの情報が少ない。
その一因はフィーリーアが魔法の修業をつけた初代勇者ユリウスが人間界にフィーリーアの情報を語った事によるもので、それに対してフィーリーアは魔界に住んでこそいるものの目撃した者すらほとんどなく、実際に会話をした者など皆無に近いからだった。
そういう理由から魔界ではフィーリーアの名を知る者はほとんどおらず、ただ巨竜と呼ばれ、知っている情報と言えばただただ強大な力を持つ存在だということのみだった。
ただそれでも人間界魔界ともに共通している認識がある。
それは決して手を出してはならないという事。
そんな単純な認識は人間界魔界だけに限った話ではない。
「やっと分かったの? ホントにアンタって無能ね。あの竜こそが全ての竜の始まりにしてこの世界最強の存在。始まりの者と戦う事ができるのは同じく始まりの者だけ。だから人間はもちろん魔人や神でさえアレと戦う事は考えない」
それははるか昔、天使となったセラフィーナが戦う術を教わる前にユリウスから聞いた教えだった。
だからセラフィーナは今日この日まで始祖竜フィーリーアと戦う事など考えすらしなかった。
だからこそそんな超常の存在を殺すと宣言したブリガンティスの目的がセラフィーナにはよく理解できた。
(……復讐か)
「いいわよ」
「……いいのか?」
思いの他、フィーリーアの事に詳しいセラフィーナがこうも簡単に自身の提案を受け入れたことはブリガンティスにとって少し拍子抜けだった。
「もしかして約束を反故にすると思ってるの?」
「いや、そうは思わないが」
普通に考えればそう考えてもおかしくはない状況だが、不思議とセラフィーナの表情を見て、ブリガンティスにはセラフィーナがそんな事を考えているとは思えなかった。
「まだ考える時間はあるが、本当にいいのか?」
「いいわよ、別に。戦う覚悟なんてとうの昔に決めたから」
凄まじい緊張感の中、ゾデュスは恐る恐るブリガンティスに尋ねた。
ブリガンティスがそこまでいう相手。
それだけでフィーリーアという存在が只者ではない事は理解できたが、それでもゾデュスはピンと来ていなかった。
たった昨日に遭遇した巨竜がそうだという事に。
そんなゾデュスを馬鹿にするようにセラフィーナが溜息を吐く。
「はぁ、アンタ、アレに会ったんでしょ?」
「アレ? アレとはなんだ?」
セラフィーナにそう聞き返した時、ブリガンティスの笑い声が聞こえ、ゾデュスはびくりと思わず体を震わせた。
「ふふ、そうか、そうだな。アレと戦うなんて事を誰も考えたくはない。本人を見てもなお分からないという事はお前は無意識にアレと戦うという選択肢を除外したという訳だ」
(……俺がブリガンティス様の殺したい奴に会った?)
そう思いながらゾデュスはこの数日内の事を思い返してみた。
数日前まではつまらない日々の連続だった。
魔王ギラスマティアによって人間との戦いを禁じられ、のうのうとした日々をゾデュスは過ごしてきたのだ。
(つまり俺がそいつと会ったのはギラスマティアが死んでからの事か? 誰だ? 俺は誰と会った?)
数日内の出来事でゾデュスにとって一番衝撃的だったのはやはり900年に渡ってこの魔界に君臨し続けた魔王ギラスマティアの死だ。
実際に現場を目にしたわけではないが、この事件以上に頭に残る出来事はない。
そして、人間界侵攻作戦の時に出会ったクドウ達との遭遇。
確かにクドウ達はゾデュス達を圧倒するほどの力を見せたが、歴史的に見れば魔人を圧倒するほどの力を持った人間がいなかったわけではない。
衝撃の度合いだけで見れば今日のブリガンティスやセラフィーナの言動の方がゾデュスにとっては印象が強いくらいのものだった。
(クドウにアールに勇者アリアス、そしてこの女。それ以外で俺が出会った強者……?)
そうして、何度もそう思い返す内に遂にゾデュスはその答えを見つけ出した。
「……いや、まさか、確かに竜かもしれないが……ていうかアレに名前なんてものがあったのか?」
一般的な魔人は人間界に比べて、始祖竜フィーリーアの情報が少ない。
その一因はフィーリーアが魔法の修業をつけた初代勇者ユリウスが人間界にフィーリーアの情報を語った事によるもので、それに対してフィーリーアは魔界に住んでこそいるものの目撃した者すらほとんどなく、実際に会話をした者など皆無に近いからだった。
そういう理由から魔界ではフィーリーアの名を知る者はほとんどおらず、ただ巨竜と呼ばれ、知っている情報と言えばただただ強大な力を持つ存在だということのみだった。
ただそれでも人間界魔界ともに共通している認識がある。
それは決して手を出してはならないという事。
そんな単純な認識は人間界魔界だけに限った話ではない。
「やっと分かったの? ホントにアンタって無能ね。あの竜こそが全ての竜の始まりにしてこの世界最強の存在。始まりの者と戦う事ができるのは同じく始まりの者だけ。だから人間はもちろん魔人や神でさえアレと戦う事は考えない」
それははるか昔、天使となったセラフィーナが戦う術を教わる前にユリウスから聞いた教えだった。
だからセラフィーナは今日この日まで始祖竜フィーリーアと戦う事など考えすらしなかった。
だからこそそんな超常の存在を殺すと宣言したブリガンティスの目的がセラフィーナにはよく理解できた。
(……復讐か)
「いいわよ」
「……いいのか?」
思いの他、フィーリーアの事に詳しいセラフィーナがこうも簡単に自身の提案を受け入れたことはブリガンティスにとって少し拍子抜けだった。
「もしかして約束を反故にすると思ってるの?」
「いや、そうは思わないが」
普通に考えればそう考えてもおかしくはない状況だが、不思議とセラフィーナの表情を見て、ブリガンティスにはセラフィーナがそんな事を考えているとは思えなかった。
「まだ考える時間はあるが、本当にいいのか?」
「いいわよ、別に。戦う覚悟なんてとうの昔に決めたから」
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