239 / 255
第4章 魔界編
第239話 覚悟
しおりを挟む
「ブ、ブリガンティス様、そのフィーリーアという者は何者なのですか?」
凄まじい緊張感の中、ゾデュスは恐る恐るブリガンティスに尋ねた。
ブリガンティスがそこまでいう相手。
それだけでフィーリーアという存在が只者ではない事は理解できたが、それでもゾデュスはピンと来ていなかった。
たった昨日に遭遇した巨竜がそうだという事に。
そんなゾデュスを馬鹿にするようにセラフィーナが溜息を吐く。
「はぁ、アンタ、アレに会ったんでしょ?」
「アレ? アレとはなんだ?」
セラフィーナにそう聞き返した時、ブリガンティスの笑い声が聞こえ、ゾデュスはびくりと思わず体を震わせた。
「ふふ、そうか、そうだな。アレと戦うなんて事を誰も考えたくはない。本人を見てもなお分からないという事はお前は無意識にアレと戦うという選択肢を除外したという訳だ」
(……俺がブリガンティス様の殺したい奴に会った?)
そう思いながらゾデュスはこの数日内の事を思い返してみた。
数日前まではつまらない日々の連続だった。
魔王ギラスマティアによって人間との戦いを禁じられ、のうのうとした日々をゾデュスは過ごしてきたのだ。
(つまり俺がそいつと会ったのはギラスマティアが死んでからの事か? 誰だ? 俺は誰と会った?)
数日内の出来事でゾデュスにとって一番衝撃的だったのはやはり900年に渡ってこの魔界に君臨し続けた魔王ギラスマティアの死だ。
実際に現場を目にしたわけではないが、この事件以上に頭に残る出来事はない。
そして、人間界侵攻作戦の時に出会ったクドウ達との遭遇。
確かにクドウ達はゾデュス達を圧倒するほどの力を見せたが、歴史的に見れば魔人を圧倒するほどの力を持った人間がいなかったわけではない。
衝撃の度合いだけで見れば今日のブリガンティスやセラフィーナの言動の方がゾデュスにとっては印象が強いくらいのものだった。
(クドウにアールに勇者アリアス、そしてこの女。それ以外で俺が出会った強者……?)
そうして、何度もそう思い返す内に遂にゾデュスはその答えを見つけ出した。
「……いや、まさか、確かに竜かもしれないが……ていうかアレに名前なんてものがあったのか?」
一般的な魔人は人間界に比べて、始祖竜フィーリーアの情報が少ない。
その一因はフィーリーアが魔法の修業をつけた初代勇者ユリウスが人間界にフィーリーアの情報を語った事によるもので、それに対してフィーリーアは魔界に住んでこそいるものの目撃した者すらほとんどなく、実際に会話をした者など皆無に近いからだった。
そういう理由から魔界ではフィーリーアの名を知る者はほとんどおらず、ただ巨竜と呼ばれ、知っている情報と言えばただただ強大な力を持つ存在だということのみだった。
ただそれでも人間界魔界ともに共通している認識がある。
それは決して手を出してはならないという事。
そんな単純な認識は人間界魔界だけに限った話ではない。
「やっと分かったの? ホントにアンタって無能ね。あの竜こそが全ての竜の始まりにしてこの世界最強の存在。始まりの者と戦う事ができるのは同じく始まりの者だけ。だから人間はもちろん魔人や神でさえアレと戦う事は考えない」
それははるか昔、天使となったセラフィーナが戦う術を教わる前にユリウスから聞いた教えだった。
だからセラフィーナは今日この日まで始祖竜フィーリーアと戦う事など考えすらしなかった。
だからこそそんな超常の存在を殺すと宣言したブリガンティスの目的がセラフィーナにはよく理解できた。
(……復讐か)
「いいわよ」
「……いいのか?」
思いの他、フィーリーアの事に詳しいセラフィーナがこうも簡単に自身の提案を受け入れたことはブリガンティスにとって少し拍子抜けだった。
「もしかして約束を反故にすると思ってるの?」
「いや、そうは思わないが」
普通に考えればそう考えてもおかしくはない状況だが、不思議とセラフィーナの表情を見て、ブリガンティスにはセラフィーナがそんな事を考えているとは思えなかった。
「まだ考える時間はあるが、本当にいいのか?」
「いいわよ、別に。戦う覚悟なんてとうの昔に決めたから」
凄まじい緊張感の中、ゾデュスは恐る恐るブリガンティスに尋ねた。
ブリガンティスがそこまでいう相手。
それだけでフィーリーアという存在が只者ではない事は理解できたが、それでもゾデュスはピンと来ていなかった。
たった昨日に遭遇した巨竜がそうだという事に。
そんなゾデュスを馬鹿にするようにセラフィーナが溜息を吐く。
「はぁ、アンタ、アレに会ったんでしょ?」
「アレ? アレとはなんだ?」
セラフィーナにそう聞き返した時、ブリガンティスの笑い声が聞こえ、ゾデュスはびくりと思わず体を震わせた。
「ふふ、そうか、そうだな。アレと戦うなんて事を誰も考えたくはない。本人を見てもなお分からないという事はお前は無意識にアレと戦うという選択肢を除外したという訳だ」
(……俺がブリガンティス様の殺したい奴に会った?)
そう思いながらゾデュスはこの数日内の事を思い返してみた。
数日前まではつまらない日々の連続だった。
魔王ギラスマティアによって人間との戦いを禁じられ、のうのうとした日々をゾデュスは過ごしてきたのだ。
(つまり俺がそいつと会ったのはギラスマティアが死んでからの事か? 誰だ? 俺は誰と会った?)
数日内の出来事でゾデュスにとって一番衝撃的だったのはやはり900年に渡ってこの魔界に君臨し続けた魔王ギラスマティアの死だ。
実際に現場を目にしたわけではないが、この事件以上に頭に残る出来事はない。
そして、人間界侵攻作戦の時に出会ったクドウ達との遭遇。
確かにクドウ達はゾデュス達を圧倒するほどの力を見せたが、歴史的に見れば魔人を圧倒するほどの力を持った人間がいなかったわけではない。
衝撃の度合いだけで見れば今日のブリガンティスやセラフィーナの言動の方がゾデュスにとっては印象が強いくらいのものだった。
(クドウにアールに勇者アリアス、そしてこの女。それ以外で俺が出会った強者……?)
そうして、何度もそう思い返す内に遂にゾデュスはその答えを見つけ出した。
「……いや、まさか、確かに竜かもしれないが……ていうかアレに名前なんてものがあったのか?」
一般的な魔人は人間界に比べて、始祖竜フィーリーアの情報が少ない。
その一因はフィーリーアが魔法の修業をつけた初代勇者ユリウスが人間界にフィーリーアの情報を語った事によるもので、それに対してフィーリーアは魔界に住んでこそいるものの目撃した者すらほとんどなく、実際に会話をした者など皆無に近いからだった。
そういう理由から魔界ではフィーリーアの名を知る者はほとんどおらず、ただ巨竜と呼ばれ、知っている情報と言えばただただ強大な力を持つ存在だということのみだった。
ただそれでも人間界魔界ともに共通している認識がある。
それは決して手を出してはならないという事。
そんな単純な認識は人間界魔界だけに限った話ではない。
「やっと分かったの? ホントにアンタって無能ね。あの竜こそが全ての竜の始まりにしてこの世界最強の存在。始まりの者と戦う事ができるのは同じく始まりの者だけ。だから人間はもちろん魔人や神でさえアレと戦う事は考えない」
それははるか昔、天使となったセラフィーナが戦う術を教わる前にユリウスから聞いた教えだった。
だからセラフィーナは今日この日まで始祖竜フィーリーアと戦う事など考えすらしなかった。
だからこそそんな超常の存在を殺すと宣言したブリガンティスの目的がセラフィーナにはよく理解できた。
(……復讐か)
「いいわよ」
「……いいのか?」
思いの他、フィーリーアの事に詳しいセラフィーナがこうも簡単に自身の提案を受け入れたことはブリガンティスにとって少し拍子抜けだった。
「もしかして約束を反故にすると思ってるの?」
「いや、そうは思わないが」
普通に考えればそう考えてもおかしくはない状況だが、不思議とセラフィーナの表情を見て、ブリガンティスにはセラフィーナがそんな事を考えているとは思えなかった。
「まだ考える時間はあるが、本当にいいのか?」
「いいわよ、別に。戦う覚悟なんてとうの昔に決めたから」
0
お気に入りに追加
522
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
友人Aの俺は女主人公を助けたらハーレムを築いていた
山田空
ファンタジー
友人Aに転生した俺は筋肉で全てを凌駕し鬱ゲー世界をぶち壊す
絶対に報われない鬱ゲーというキャッチコピーで売り出されていたゲームを買った俺はそのゲームの主人公に惚れてしまう。
ゲームの女主人公が報われてほしいそう思う。
だがもちろん報われることはなく友人は死ぬし助けてくれて恋人になったやつに裏切られていじめを受ける。
そしてようやく努力が報われたかと思ったら最後は主人公が車にひかれて死ぬ。
……1ミリも報われてねえどころかゲームをする前の方が報われてたんじゃ。
そう考えてしまうほど報われない鬱ゲーの友人キャラに俺は転生してしまった。
俺が転生した山田啓介は第1章のラストで殺される不幸の始まりとされるキャラクターだ。
最初はまだ楽しそうな雰囲気があったが山田啓介が死んだことで雰囲気が変わり鬱ゲーらしくなる。
そんな友人Aに転生した俺は半年を筋トレに費やす。
俺は女主人公を影で助ける。
そしたらいつのまにか俺の周りにはハーレムが築かれていて
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―
物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師
そんな彼が出会った一人の女性
日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。
表紙画像はAIで作成した主人公です。
キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。
更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~
星天
ファンタジー
幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!
創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。
『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく
はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる