魔王をするのにも飽きたので神をボコって主人公に再転生!

コメッコ

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第4章 魔界編

第215話 ユリウスの記憶⑨ 鍛冶師ジンク

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ユリウスが魔王討伐の旅に出る事は数日中にエルナス王国中に伝えられた。



中には、魔王討伐への希望を抱く者もいたが、多くの者の反応は悲観的なものだった。



人間が魔王に勝てるわけがない。

エルナス王国は終わりだ。

これから人類はどうなるんだ。



直接ユリウスの耳に届くことはなかったが、それらのほとんどはユリウスが小さなころから父エルナスや周りの大人達から聞いてきた言葉そのものだった。

周囲の雰囲気でそんな事を国民が感じている事はなんとなく察していたが、ユリウスの決意は変わらなかった。

魔王討伐に出る事を決めたユリウスだったが、直接魔界へと向かったわけではない。



まずユリウスが始めたのは仲間集めだ。



ユリウスは冒険者協会の精鋭冒険者たちと旅に出たのだが、この時代、冒険者協会は王都エルナシティアにある冒険者協会本部と周囲の都市2か所にしか存在していなかった。

そういう理由からユリウスが完全に把握していた強者はエルナシティアとその2つの冒険者協会に所属している冒険者のみだった。

そんな中でもユリウスは幾度か旅した中でいくらかの当たりをつけていた。



ケルアック村の聖女マリアと都市タラントの鍛冶師ジンク。



とはいっても実際に面識がないのはケルアックという村の聖女と呼ばれるマリアという少女のみだ。

ユリウスは王都エルナシティアを出て僅か半日で鍛冶師ジンクがいる都市タラントへとやってきていた。

そしてタラントに入って僅か10分で目的の場所に到着した。

ユリウスと共にやってきた冒険者の一人が目の前にある鍛冶工房を見て、不思議そうな顔でユリウスに尋ねた。





「ユリウス様、なぜこのような場所へ? 武器を整えるのですか?」





タラントには2つしかない冒険者協会の支部がある。

その為、男は冒険者協会で仲間を募る為タラントに寄ったのだと思っていた。





「まぁそれもある。だけどここへはとある人を勧誘する為に来た」





そんなユリウスの言葉を聞いた冒険者達の頭の上に?マークが浮かぶ。

武器の整備要員を勧誘でもしに来たのかと一応は納得した冒険者達だったが、それは正解でもあり、間違いでもあった。



ユリウスはそんな冒険者達を横目に鍛冶工房の門を叩く。

すると工房に併設されている店舗のカウンター奥の椅子に座っていた黒髪の若い男と目が合った。

そしてそのまま入ってきたユリウスをチラッと見た若い男は呟くように言う。





「またお前か、仕事の邪魔だ。帰れ」





突然飛び出した男の暴言に冒険者達は言葉を失った。

だが、すぐに男の言葉の意味を理解し、怒鳴り声が上がる。





「貴様! この御方を誰だと思っている!? エルナス国王にして世界を救う英雄であられる——」





「——ユリウスだろ? 知ってるよ」





全てを言い終える前に男に答えを言われた冒険者の男は怒りのあまり手を剣にかける。

冒険者達にとってユリウスはリーダーである前に人類に魔法と魔人に抗う術を伝えた恩人であり英雄だ。

そのユリウスの正体を知りつつ、暴言を吐いた男を許せる者などこの場はおろか世界中どこを探してもそうはいなかった。





「まぁ待て、お前達、いつもの事だ。気にするな。今日はこの人を勧誘に来たんだ。……というわけで如何ですか? いっちょ僕達と一緒に世界を救う旅に出ませんか?」





まるでお茶にでもどうですか? という雰囲気でユリウスが問うと、男は溜息を吐いた。





「またあの馬鹿げた話か。人間が魔王に勝てるわけがないだろう。勝手な妄想は結構だが、俺をそんな話に巻き込まないでくれ」





男にとって、ユリウスの話は全て夢物語だった。

何度も勧誘してきた当初は笑ってユリウスの話に付き合っていたが、最近では本気で疎ましく思っているほどだ。

男も他の人々と同じく人類が魔王に勝てるなどと思っていない人間の一人だった。



とはいえ、冒険者達はそうではない。

本気で魔王から人類を救うというユリウスの元へと集まってきた者達の集まりなのだ。

単純に断るならともかくユリウスを馬鹿にしたような男の態度にこの場にいた全ての冒険者達が殺気立っていた。



そして、男が更に溜息を吐いたのをみて、遂に冒険者の一人が無言で剣を引き抜いた。

次の瞬間、男へと斬りかかる。

冒険者の男は魔王討伐に選ばれるだけあって、冒険者協会でも10本の指に入る優秀な魔法剣士だったが——。





キィーン。





冒険者の男の剣は黒髪の男に届くことはなかった。

冒険者の男が飛び出した瞬間、黒髪の男は近くに置いてあった剣を手に取り、冒険者の男を迎え撃ったのだ。

そして、剣同士が触れた瞬間、冒険者の男が持っていた剣は真っ二つにへし折られてしまった。





「ふんっ、そんなナマクラで魔王討伐などとは聞いて呆れる。とはいえ腕は悪くない。ここで一本買っていけ。少しは長生きできるだろうさ」





黒髪の男はそう言ってまた席に着いた。

まるで斬りかかられた事など全く気にしてもいないように。





「ははっ、流石ジンさん! 凄い腕だ! これでもこいつは一流の冒険者なんだけどな」





ジンクはユリウスが1年ほど前に見つけた凄腕の鍛冶師にして凄腕の剣士だ。

現在ほど金属の流通量が豊かではなく、人類が魔獣や魔人に怯えて暮らしていた時代にジンクは自らの手で金属を探し歩く程の猛者だった。



だが、ジンクにとって剣士としての腕は剣を作る為の手段であって、目的ではなかった。

全ては剣造りの為であり、ジンクは剣の腕自体には何の誇りも持ち合わせてはいない。



だというのに、ユリウスはジンクの事を剣の腕ばかりで評価していた。

そんなユリウスにジンクは溜息を吐く。





「俺は鍛冶師だ。褒めるなら剣を褒めろ」





「まぁ剣は剣で買い込むけど、今日はジンさん、あなたの事を買いに来た。どうか僕と一緒について来てくれ。損はさせない」





「だから魔王討伐など俺は——」





行かない——と言いかけた所でユリウスは自身の剣とは別に持っていた剣をカウンターに叩きつけた。





「これは?」





「前にやってきた魔人が持っていた物です。まぁ見てくれたら分かるかと」





ユリウスに促され、ジンクはカウンターに置かれた剣をじっくりと観察し始めた。

そしてすぐにそれが何かに気付いたジンクは驚きの声を上げた。





「なんだ、これは? 作りは荒いが、見たことのない金属だ」





「あぁ、これはアダマンタイトというらしい。産出量はあまり多くないらしいが、ある程度以上の魔人はこれと同じ種類の金属で作られた剣を持ってます。硬度は鉄よりもかなり高く、ミスリルと比べても1,3倍ほどの硬度があるらしい」





「ミスリルの1,3倍だと? まさかそんな事が?」





ユリウスの言葉に信じられないような表情を浮かべた後、ジンクはアダマンタイトの剣をコツコツと叩いてから更にじっくりと眺め始めた。

目の前に出された未知の金属に興奮気味のジンクにユリウスは悪魔の言葉を囁く。





「ジンさん、僕達について来てくれるというのならその剣はジンさんに譲るよ。それにジンさんだって分かってるだろ? 昔のような時代に戻ればジンさんだって今のような創作活動は続けられないよ」





かつてジンクは小さな村でも鍛冶師をやっていた。

だが、ジンクの作る剣は需要が云々以前にミスリルはおろか鉄の供給が少なすぎた所為で鉄を手に入れること自体が今と比べて遥かに困難だった。

時には自ら、金属を探し求めて旅をしたが、それでもたまに手に入った鉄などの金属のほとんどは鍋や小さな包丁を作る為に使われ、剣を作った事は数回程度のものだった。



その環境が激変したのはユリウスが初めて魔人を倒し、大きな街が出来始めたのがきっかけだった。

それ以降、剣の需要と供給は以前とは比べ物にならないほど増えた。

そうして剣を作る機会が増えたジンクは今まで抑制されていた剣造りに狂ったように没頭するようになった。



そんな理由からユリウスに感謝はしていたが、数年前からやってきたユリウスを少し疎ましくも思っていた。



ジンクにとっては剣造りが全てでそれ以外には何の興味もなかったのに、ユリウスはジンクの鍛冶師としての腕よりもかつて旅の中で自然と鍛え上げられた剣士としての腕を買っていたからだ。

もちろんユリウスからすれば両方の腕を買っているのだが、今の状況ではなにより強い戦士を求めていた。

ジンクはそんなユリウスが気に入らなかった。

だがジンクは目の前に差し出された未知なる金属への欲望に耐える事はできなかった。





「いいだろう。お前のバカな夢、付き合ってやる。だが、その道中で手に入れた剣の全てを俺に寄こせ。全て最高の剣にして返してやる」





そうして鍛冶師兼剣士ジンクがユリウスの仲間になった。
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