魔王をするのにも飽きたので神をボコって主人公に再転生!

コメッコ

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第4章 魔界編

第197話 敗走

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「みんな頑張って!」





そんなリルの声援を合図に戦いの幕は開けた。



だが、その戦いの狼煙を上げたのはシステアでもゾデュスでもなく、ましてやこの場にいる唯一の勇者アリアスでもなかった。





「爆ぜろ! ホーリー・デスプロージョン!」





今まさに始まろうとしていた勇者パーティーと魔人幹部の戦いを前にそんな耳慣れた声がゾデュスに耳に入ってきたのである。





「は?」「えっ?」





ゾデュスとガデュスが同時に声のした方を振り返る。

すると、そこには路地裏から姿を現したセラフィーナが立っていた。

セラフィーナは着ていたはずのマントは脱ぎ捨てていたが、あるはずの羽がついていなかった。

そんなセラフィーナを見て瞬時に魔法か何かで羽が無いように偽装したのだと気付いたが、そんなことは今、ゾデュスにとってどうでもいい事だった。



そう、ゾデュスとガデュスにとって今もっとも注意を向けなければいけなかったのは、2人に向けてセラフィーナから放たれた光球だ。





(クソが! あのクソ女やっぱり裏切ってやがった!)





迫りくる光球を見て、ゾデュスはセラフィーナの裏切りを確信する。

そして、聖竜の攻撃を機にクドウから敗走したあの森で見たセラフィーナの攻撃魔法【ホーリー・デスプロ—ジョン】の威力と効果を思い出していた。





(あのクソ女、ここで俺達を始末する気か!)





そんな間違った判断を瞬時に下したゾデュスはガデュスと共にホーリー・デスプロ—ジョンを防御すべく魔法を発動させた。





「アース・フォートレス!」「アース・ウォールぅ!」





ガデュスが発動させたアース・ウォールは第3級魔法に位置する防御魔法で強化した1枚の岩壁で敵の攻撃を防ぐ魔法。

そしてゾデュスが発動させた魔法アース・フォートレスは第2級魔法に位置する防御魔法で、ガデュスのアース・ウォールよりも強固かつ分厚い岩壁で自身の周囲全てを覆いこみ防御する魔法だった。

ガデュスはゾデュスが発動させたアース・フォートレスの前方にアース・ウォールを複数発動させ、守りをより強固なモノにさせていた。

互いの邪魔にならないように一瞬で判断し、魔法を発動させたのは兄弟だからこそ為せる技だろう。

そしてゾデュスは自身の守りを万全にした上で更に魔法を発動させる。





「アース・ロック!」





岩石でできた岩石の要塞内からは見えない前方にあるはずの光球に向けてゾデュスは第3級魔法アース・ロックで大きな岩石を形成し飛ばし始めた。

一応、魔力探知である程度の位置は掴めていたのでまったくの当てずっぽうではないが、流石目で確認できないホーリー・デスプロ—ジョンを一撃で撃ち落とす技量をゾデュスは持っていない。

そこは数の力でカバーする為、ゾデュスは出来得る限りの速度でアースロックを飛ばし続けた。





そして——。





ドオォォーンと凄まじい衝撃音の後、ゾデュスは凄まじい衝撃と爆風で自身が作り出したアース・フォートレスの岩壁に叩きつけられた。





「ぐっ、おいっ、大丈夫か?」





「……なんとかぁ~」





同じく吹き飛ばされたガデュスに声をかけるとすぐに返事は返ってきた。

辺りは土埃がかなり舞っているが、ゾデュスはなんとか状況の確認を試みる。





(衝撃だけでこの威力か)





ゾデュスは予定通りアース・ロックをホーリー・デスプロ—ジョンに当て、誘爆させることに成功していた。

それでもホーリー・デスプロ—ジョンによる爆発はガデュスが作り出した全てのアース・ウォールを全て粉々に破壊し、更にはゾデュスが作り出したより頑強なアース・フォートレスの前方部分を破壊するまでの威力を秘めていた。

セラフィーナのホーリー・デスプロ—ジョンの威力に脅威を覚える中、ゾデュスとガデュスの耳に聞きなれた女の声が聞こえてきた。





『おー、やるじゃない。これ喰らってほぼ無傷なんて。片腕くらいは吹き飛ばすつもりでやったんだけどなー』





なぜかその声は通常の音声によるものではなくセラフィーナの魔法通話によるものだった。

ゾデュスは青筋を立ててこみ上げる怒りを抑えながら、セラフィーナの声に答える。





『おいっ、クソ女、よくも裏切りやがったな。只で済むと思うなよ。人間共の前にまずてめぇから始末してやる。覚悟しろ』





『酷いよぉ~、セラフィーナちゃ~ん』





ゾデュスに続き、気の抜けた声でだがガデュスも非難の声を上げた。

すると、そんな声に反応するようにセラフィーナの呆れたような声が脳内に響く。





『はぁ? 裏切り? 何言ってんの? アンタのバカな弟の不始末のフォローをしてあげたんじゃない。作戦があるって言ったでしょ? ねぇ、アンタらって2人揃って馬鹿なの? ねぇ馬鹿なの?』





『馬鹿って何度も言わないでくれよぉ~』





『黙れ、裏切者が。何が無傷だ。てめぇ、俺達を始末する気だっただろう』





少なくとも、ゾデュスから見ればセラフィーナが放ったホーリー・デスプロ—ジョンの威力はそれほどの威力があった。

恐らくゾデュス達が平均的な力しか持たない魔人だったなら無事で済んでなどいなかったはずだ。

だが、それでもセラフィーナの呆れ声は止むことはなかった。





『はぁ? 馬鹿なの? ホントに始末する気ならもう何発かまとめて撃ち込んでたわよ。せっかく手加減してあげたのに酷いこと言うわね、アンタ。……ていうか何してんの? アンタらさっさと逃げなさいよ。ホントは少し戦って隙を見て、逃がすつもりだったけどアンタらの魔法が土魔法で助かったわ』





セラフィーナの言葉を聞いて、怒りで頭に血が上っていたゾデュスもようやく気付いた。

よく考えてみれば、セラフィーナのホーリー・デスプロ—ジョンの連射性はともかくとして、本当に始末する気なら未だ攻撃が飛んでこないのはおかしな話だ。

それにセラフィーナの言う通り、今はチャンスだった。

想定はしていなかったが、今はゾデュス達が防御に土属性の魔法を使ったためか周囲に土埃が立ち込めていて、見通しが悪い。



これ以上ないと言っていい逃走のチャンスだろう。



そうゾデュスが気づいた所で、土埃の向こうからシステアの声が聞こえてきた。





「うぉほ、げほっげほっ。なんじゃ! どうなった!? なんじゃ今の爆発は!?」





システア達も爆発地点から遠いが、ホーリー・デスプロ—ジョンの爆発の余波に巻き込まれていたのだ。

ダメージこそ受けてはいないが、爆風に吹き飛ばされ、周囲の土埃に巻き込まれる形で完全に視界を塞がれていた。





『……本当に裏切っていないんだな?』





ゾデュスは最後の確認の為、セラフィーナに問いかけた。





『しつこいわね。もう一発撃ち込むわよ』





『……そうか、分かった。ではリル様を頼む』





セラフィーナの答えを確認したゾデュスは魔法通話を切り、近くにいたガデュスの方を見る。





「ガデュス、いつものだ」





それだけでゾデュスの意図を理解したガデュスは少し渋い顔を見せた。





「え~、いつもじゃないよぉ~、兄貴ぃ~。前回だけだよぉ~」





「時間がない。いいからやれ。これはお前にしかできないことだ」





ゾデュスに迫られ、ガデュスはできればそんな事はやりたくはない。

だが今はそれでも渋々兄の指示に従う事にしかなかった。

ガデュスは大きく息を吸い込んで、周囲の者全てが聞こえるような大声を上げた。





「ダメだぁ~! こいつら強すぎるぜぇ~! 俺は逃げるぜぇ~、兄貴ぃ~!」





そんな情けない大声を上げる弟にゾデュスは棒読みで台詞を被せる。





「あ、おい、まてー、ゾデュス。おい、にげるなー」





そんな言葉を残し、魔人ゾデュスと魔人ガデュスはエルナシティアから全速力で去って行った。
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