158 / 255
第4章 魔界編
第158話 主人公は遅れてやってくる
しおりを挟む
「終わったか」
アルジールはそう呟いて、先程まで広場だった場所を覗き込む。
金色の竜が降り注いだ広場は地面がかなり深く抉られたクレーター状の大穴が開いていた。
アルジールが放った魔法は第一級魔法『雷神竜』。
単発の魔法ながら広範囲に超高威力の竜を模した雷撃を叩きこむそんな魔法だった。
弱点としては雷系の魔法としてはあまり速度が出ず、普通に放ってもクロナのような高機動戦闘を得意とする相手には当てづらい点があげられる。
正直アルジール的には『雷神招来』の方が使い勝手が良く、あまりこれまで出番の少なかった魔法だった。
(要は使い様ということだな。それにこれはクドウ様のお気に入りでもあるからな)
「さて」
アルジールは巨大なクレーターを挟んだ場所にいたレナザードを見る。
「次は貴様の番だ。覚悟は良いな?」
アルジールがそう問いかけるが、レナザードからの返事はない。
「どうした? 今更怖気づいたのか?」
更にアルジールが尋ねると遂にレナザードは突然笑い声を上げ始めた。
想定外すぎる出来事におかしくなったのかとアルジールは一瞬思ったが、レナザードは次の瞬間こんなことを言い始めた。
「ふははは、まさかクロナとここまで戦えるとはな。少々貴様の事を見くびっていたようだな」
「身内の敗北が受け入れられないのか? 貴様の頼みの部下は消した。もう一度言うが今度はお前が消える番だ」
正直アルジールの残存魔力はもうあまり残ってはいない。
だが、アルジールにはまだ剣がある。
レナザードを直感的にクロナよりも格下と見ていたアルジールからすれば今の状態でもレナザードは決して勝てない相手ではない。
だが、アルジールの言葉を無視してレナザードは話を続ける。
「それでもやはりリアには遠く及ばんな。貴様がどう頑張った所で1分と保たないだろう」
(さっきから何を言っている? クドウ様がお越しになる前に早々に始末してしまった方が良いな)
アルジールにはレナザードが何を言っているかさっぱり分からない。
こんな輩相手にクドウの手を煩わせわけにはいかない。
そうなる前に始末してしまおうとアルジールが飛行魔法を行使しようとしたその時。
「そうだ。一つだけ忠告しておこう」
レナザードがそう言った。
レナザードにそう言われ、アルジールはクドウの言葉を思い出す。
——自己紹介中とか大事そうな場面では相手を攻撃してはいけないんだ。分かるか? 分かるよな?
特にレナザードの遺言になど興味はなかったアルジールだがクドウの言葉は絶対である。
「なんだ? 言ってみろ」
「先程の戦いは見事だった。足元に視線を引きつけてからのおとりの集中攻撃。そしてトドメの第一級魔法。……だが、人の話を聞かないのは減点だ。仕留め損ねた上に自分が同じ手で敗れるのだからな」
「……なに?」
その時だった。
アルジールは上空からすさまじい速度で近づいてくる何かに瞬間的に気づき、上を見上げるとそこにはアルジールによって跡形もなく吹き飛ばしたはずのクロナが眼前にまで迫っていた。
そしてクロナが振り下ろした剣はアルジールの額に目にも見えない速度で直撃し——。
ばたん。
アルジールは何の抵抗もできず意識を刈り取られその場に崩れ落ちる。
それとほぼ同時にクロナは凄まじい落下速度だったのにも関わらず見事な着地を見せるとすぐさま立ち上がった。
「やったか?」
立ち上がったクロナにレナザードがそう話しかけると、クロナはなぜか驚いたように剣を見つつそれに答える。
「さてどうでしょう? 一応峰打ちにしたのですが。まぁどのみち当分立つことは不可能でしょうね。それこそフィーリーア様でもない限りは」
クロナが倒れているアルジールの額を確認すると、出血こそしているものの傷口自体は浅く普通の人間から考えればありえないが、生きていても不思議ではない状態に思えた。
(なんという頑丈さだ。まさか攻撃したこちらの剣がダメになるとは……)
クロナが剣を確認すると、刀身全体にヒビが入り使い物にならなくなっていた。
かの楽園でも10指に入るほどの名剣であったのにもかかわらずである。
仮に刃で斬りつけていたら完全に折れていただろう。
クロナからすれば奥の手まで使わされ、予想外過ぎる事の連続だったがこれで本当に決着である。
「まぁなんにしてもこれで邪魔は入る事はないでしょう。このままクドウを待つことにしましょう」
クロナの提案にやはりレナザードは難色の表情を示している。
「まだそんなことを言っているのか? それ以前にこの惨状を見てそのクドウは黙って話を聞くのか? どうせまた話を聞かず攻撃してくるだけだろう」
町の破壊自体は100%アルジールによるものだが、クロナは既にガラン、アリアス、アルジールとクドウの仲間を3人も倒してしまっている。
当初は問題なくクドウに話を聞けると思っていたからレナザードはここにやってきたのだ。
限りなく可能性が低い上に面倒を起こしてまでここに留まるのにレナザードは反対だった。
「どうせリアの事など知っているわけがない。面倒な事になる前にさっさと魔界へ——」
とレナザードとクロナが言い合いを続けようとしたその時。
「あー、揉めてる所悪いんだけど、アンタらに選択権なんかないよ」
クロナとレナザードが割って入った声がする方を振り返ると、そこには黒髪黒眼の少年——勇者クドウが笑顔で立っていた。
アルジールはそう呟いて、先程まで広場だった場所を覗き込む。
金色の竜が降り注いだ広場は地面がかなり深く抉られたクレーター状の大穴が開いていた。
アルジールが放った魔法は第一級魔法『雷神竜』。
単発の魔法ながら広範囲に超高威力の竜を模した雷撃を叩きこむそんな魔法だった。
弱点としては雷系の魔法としてはあまり速度が出ず、普通に放ってもクロナのような高機動戦闘を得意とする相手には当てづらい点があげられる。
正直アルジール的には『雷神招来』の方が使い勝手が良く、あまりこれまで出番の少なかった魔法だった。
(要は使い様ということだな。それにこれはクドウ様のお気に入りでもあるからな)
「さて」
アルジールは巨大なクレーターを挟んだ場所にいたレナザードを見る。
「次は貴様の番だ。覚悟は良いな?」
アルジールがそう問いかけるが、レナザードからの返事はない。
「どうした? 今更怖気づいたのか?」
更にアルジールが尋ねると遂にレナザードは突然笑い声を上げ始めた。
想定外すぎる出来事におかしくなったのかとアルジールは一瞬思ったが、レナザードは次の瞬間こんなことを言い始めた。
「ふははは、まさかクロナとここまで戦えるとはな。少々貴様の事を見くびっていたようだな」
「身内の敗北が受け入れられないのか? 貴様の頼みの部下は消した。もう一度言うが今度はお前が消える番だ」
正直アルジールの残存魔力はもうあまり残ってはいない。
だが、アルジールにはまだ剣がある。
レナザードを直感的にクロナよりも格下と見ていたアルジールからすれば今の状態でもレナザードは決して勝てない相手ではない。
だが、アルジールの言葉を無視してレナザードは話を続ける。
「それでもやはりリアには遠く及ばんな。貴様がどう頑張った所で1分と保たないだろう」
(さっきから何を言っている? クドウ様がお越しになる前に早々に始末してしまった方が良いな)
アルジールにはレナザードが何を言っているかさっぱり分からない。
こんな輩相手にクドウの手を煩わせわけにはいかない。
そうなる前に始末してしまおうとアルジールが飛行魔法を行使しようとしたその時。
「そうだ。一つだけ忠告しておこう」
レナザードがそう言った。
レナザードにそう言われ、アルジールはクドウの言葉を思い出す。
——自己紹介中とか大事そうな場面では相手を攻撃してはいけないんだ。分かるか? 分かるよな?
特にレナザードの遺言になど興味はなかったアルジールだがクドウの言葉は絶対である。
「なんだ? 言ってみろ」
「先程の戦いは見事だった。足元に視線を引きつけてからのおとりの集中攻撃。そしてトドメの第一級魔法。……だが、人の話を聞かないのは減点だ。仕留め損ねた上に自分が同じ手で敗れるのだからな」
「……なに?」
その時だった。
アルジールは上空からすさまじい速度で近づいてくる何かに瞬間的に気づき、上を見上げるとそこにはアルジールによって跡形もなく吹き飛ばしたはずのクロナが眼前にまで迫っていた。
そしてクロナが振り下ろした剣はアルジールの額に目にも見えない速度で直撃し——。
ばたん。
アルジールは何の抵抗もできず意識を刈り取られその場に崩れ落ちる。
それとほぼ同時にクロナは凄まじい落下速度だったのにも関わらず見事な着地を見せるとすぐさま立ち上がった。
「やったか?」
立ち上がったクロナにレナザードがそう話しかけると、クロナはなぜか驚いたように剣を見つつそれに答える。
「さてどうでしょう? 一応峰打ちにしたのですが。まぁどのみち当分立つことは不可能でしょうね。それこそフィーリーア様でもない限りは」
クロナが倒れているアルジールの額を確認すると、出血こそしているものの傷口自体は浅く普通の人間から考えればありえないが、生きていても不思議ではない状態に思えた。
(なんという頑丈さだ。まさか攻撃したこちらの剣がダメになるとは……)
クロナが剣を確認すると、刀身全体にヒビが入り使い物にならなくなっていた。
かの楽園でも10指に入るほどの名剣であったのにもかかわらずである。
仮に刃で斬りつけていたら完全に折れていただろう。
クロナからすれば奥の手まで使わされ、予想外過ぎる事の連続だったがこれで本当に決着である。
「まぁなんにしてもこれで邪魔は入る事はないでしょう。このままクドウを待つことにしましょう」
クロナの提案にやはりレナザードは難色の表情を示している。
「まだそんなことを言っているのか? それ以前にこの惨状を見てそのクドウは黙って話を聞くのか? どうせまた話を聞かず攻撃してくるだけだろう」
町の破壊自体は100%アルジールによるものだが、クロナは既にガラン、アリアス、アルジールとクドウの仲間を3人も倒してしまっている。
当初は問題なくクドウに話を聞けると思っていたからレナザードはここにやってきたのだ。
限りなく可能性が低い上に面倒を起こしてまでここに留まるのにレナザードは反対だった。
「どうせリアの事など知っているわけがない。面倒な事になる前にさっさと魔界へ——」
とレナザードとクロナが言い合いを続けようとしたその時。
「あー、揉めてる所悪いんだけど、アンタらに選択権なんかないよ」
クロナとレナザードが割って入った声がする方を振り返ると、そこには黒髪黒眼の少年——勇者クドウが笑顔で立っていた。
0
お気に入りに追加
522
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
友人Aの俺は女主人公を助けたらハーレムを築いていた
山田空
ファンタジー
友人Aに転生した俺は筋肉で全てを凌駕し鬱ゲー世界をぶち壊す
絶対に報われない鬱ゲーというキャッチコピーで売り出されていたゲームを買った俺はそのゲームの主人公に惚れてしまう。
ゲームの女主人公が報われてほしいそう思う。
だがもちろん報われることはなく友人は死ぬし助けてくれて恋人になったやつに裏切られていじめを受ける。
そしてようやく努力が報われたかと思ったら最後は主人公が車にひかれて死ぬ。
……1ミリも報われてねえどころかゲームをする前の方が報われてたんじゃ。
そう考えてしまうほど報われない鬱ゲーの友人キャラに俺は転生してしまった。
俺が転生した山田啓介は第1章のラストで殺される不幸の始まりとされるキャラクターだ。
最初はまだ楽しそうな雰囲気があったが山田啓介が死んだことで雰囲気が変わり鬱ゲーらしくなる。
そんな友人Aに転生した俺は半年を筋トレに費やす。
俺は女主人公を影で助ける。
そしたらいつのまにか俺の周りにはハーレムが築かれていて
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる
ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。
モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。
実は前世が剣聖の俺。
剣を持てば最強だ。
最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~
星天
ファンタジー
幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!
創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。
『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく
はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる