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第4章 魔界編
第147話 本当の強者
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——あなたは強者ですか?
ガランにとってそれは生まれて初めての質問だった。
幼かった少年時代でさえガランは並の冒険者よりも強かった。
そんなガランが職業として選んだのは魔物と戦う冒険者ではなく、エルナス王国にある唯一ある闘技場の剣闘士だった。
特に理由もなく始めた剣闘士だったが、ガランはその世界で頭角を現すのはさほど時間はかからなかった。
1年もしない内にガランは並みいる剣闘士を押しのけエルナス王国闘技場のチャンピオンとして君臨することになる。
そんなガランに誰も「強者ですか?」などと聞くことはない。
尋ねるまでもなくエルナス王国最強の戦士。
それが自他共に認めるガランの評価だった。
それはある日、闘技場に飛び入り参加したアリアスによって崩される事になったのだが、それでも観客は両者の健闘を褒めたたえ、ガランを敗者などと呼ぶものは誰一人いなかったのである。
そんな美談を置いておくとしてもガランは実際問題、数少ないA級冒険者の中でもトップクラスの強さを持つ。
そんなガランにクロナは「あなたはこの世界の強者ですか?」と尋ねたのだ。
そんなクロナの言葉に聞き耳を立てていた冒険者協会内の冒険者数名からは失笑が漏れる。
聞くまでもなくガランはこの世界の人間界における強者なのだ。
そんな周りの冒険者達とは対照的にガランはクロナの言葉に呆気に取られていた。
「え、まぁ強い方だとは思うッスよ」
流石にガランも最強だとは言わない。
人間界で考えればクドウ達『魔王』を含めたとしても上位10指に入る自信はあるが、この冒険者協会内だけでも少なくともガランより強い人間は2人いる。
シラルークで言えば更に2人増えることになる。
そんなガランの肯定にクロナは平然と表情をまったく崩すことなく信じられない言葉を言い放った。
「では私があなたを倒す事が出来れば勇者クドウと勇者アールの居場所を教えていただけますか?」
ガラン達がクロナの突拍子もない言葉に驚く中、クロナの後ろにいるレナザードは至って平然とクロナを見守っている。
「やれるものならやってみるがよい」
クロナの言葉を挑発と受け取ったシステアがガランに代わってクロナに答える。
何を勝手なと思うガランだったが、大人しく捕まる気がないというのならここでどう答えようが一緒かと諦めることにした。
「そういう事らしいっスからいつでもどうぞっス」
ガランがそう言うとクロナが不思議そうな顔で聞き返す。
「いつでもいいのですか? 剣は抜かないのですか?」
ガランは剣を抜いてはいなかった。
だがそれはクロナも同じでお互い剣を抜いてもいなければ構えてすらいなかった。
ガランからすれば恐らく剣士で魔法使いでは絶対にないクロナが抜いてもいないのに先に抜くわけにはいかなかったのである。
「アンタが抜いたら抜くっスよ。降参するのならいつでもどうぞっス」
「そうですか。それではお言葉に甘えて——」
言い終えると同時にクロナの姿がガランの目の前から——いや、この冒険者協会シラルーク支部にいる全ての冒険者の前から消え去った。
そして次の瞬間——。
ドンッ!
それほど凄まじい衝撃音ではなかった。
何かがぶつかったような音の方向へこの場にいたほぼ全ての人間が振り返る。
「「ガランッ!」」
いち早く状況に気づいたシステアとアリアスが声を上げると2人の視線の先には壁に激しく打ち付けられたガランとガランの鎧の胸部に手を当てていたクロナの姿があった。
少し遅れてガランの身体が崩れ落ちるように倒れ、アリアスとシステアが駆け寄ろうとすると——。
「大丈夫です。死んではいません。ただ少し頭を打ったと思うので当分起き上がる事は出来ないと思いますが」
クロナがそう言うのを無視してアリアスがガランへと駆け寄り、自分よりもかなり巨体なガランの身体を抱き起こす。
「確かに生きてます……」
周囲が騒然とする中、アリアスが無言で意識のないガランを背負った所で受付の奥からギルドマスターが慌てて飛び出てきた。
「おいっ! なんだ!? 今の音は! ってガラン殿!」
すぐにガランを背負っているアリアスとガラン、それに明らかに破損した壁を見てギルドマスターは大声で叫ぶ。
ギルドマスターはガランを背負うアリアスの元まで駆け寄り、事情を尋ねた。
「どうされたのですか? アリアス様!」
ギルドマスターに問われ、アリアスは視線をクロナとレナザードへと向けギルドマスターに言う。
「急いでクドウさんとアールさんを呼んできてください。長くは持たないかもしれません」
アリアスの表情は今までに見た事がないほど余裕がないようにギルドマスターには見えた。
ガランにとってそれは生まれて初めての質問だった。
幼かった少年時代でさえガランは並の冒険者よりも強かった。
そんなガランが職業として選んだのは魔物と戦う冒険者ではなく、エルナス王国にある唯一ある闘技場の剣闘士だった。
特に理由もなく始めた剣闘士だったが、ガランはその世界で頭角を現すのはさほど時間はかからなかった。
1年もしない内にガランは並みいる剣闘士を押しのけエルナス王国闘技場のチャンピオンとして君臨することになる。
そんなガランに誰も「強者ですか?」などと聞くことはない。
尋ねるまでもなくエルナス王国最強の戦士。
それが自他共に認めるガランの評価だった。
それはある日、闘技場に飛び入り参加したアリアスによって崩される事になったのだが、それでも観客は両者の健闘を褒めたたえ、ガランを敗者などと呼ぶものは誰一人いなかったのである。
そんな美談を置いておくとしてもガランは実際問題、数少ないA級冒険者の中でもトップクラスの強さを持つ。
そんなガランにクロナは「あなたはこの世界の強者ですか?」と尋ねたのだ。
そんなクロナの言葉に聞き耳を立てていた冒険者協会内の冒険者数名からは失笑が漏れる。
聞くまでもなくガランはこの世界の人間界における強者なのだ。
そんな周りの冒険者達とは対照的にガランはクロナの言葉に呆気に取られていた。
「え、まぁ強い方だとは思うッスよ」
流石にガランも最強だとは言わない。
人間界で考えればクドウ達『魔王』を含めたとしても上位10指に入る自信はあるが、この冒険者協会内だけでも少なくともガランより強い人間は2人いる。
シラルークで言えば更に2人増えることになる。
そんなガランの肯定にクロナは平然と表情をまったく崩すことなく信じられない言葉を言い放った。
「では私があなたを倒す事が出来れば勇者クドウと勇者アールの居場所を教えていただけますか?」
ガラン達がクロナの突拍子もない言葉に驚く中、クロナの後ろにいるレナザードは至って平然とクロナを見守っている。
「やれるものならやってみるがよい」
クロナの言葉を挑発と受け取ったシステアがガランに代わってクロナに答える。
何を勝手なと思うガランだったが、大人しく捕まる気がないというのならここでどう答えようが一緒かと諦めることにした。
「そういう事らしいっスからいつでもどうぞっス」
ガランがそう言うとクロナが不思議そうな顔で聞き返す。
「いつでもいいのですか? 剣は抜かないのですか?」
ガランは剣を抜いてはいなかった。
だがそれはクロナも同じでお互い剣を抜いてもいなければ構えてすらいなかった。
ガランからすれば恐らく剣士で魔法使いでは絶対にないクロナが抜いてもいないのに先に抜くわけにはいかなかったのである。
「アンタが抜いたら抜くっスよ。降参するのならいつでもどうぞっス」
「そうですか。それではお言葉に甘えて——」
言い終えると同時にクロナの姿がガランの目の前から——いや、この冒険者協会シラルーク支部にいる全ての冒険者の前から消え去った。
そして次の瞬間——。
ドンッ!
それほど凄まじい衝撃音ではなかった。
何かがぶつかったような音の方向へこの場にいたほぼ全ての人間が振り返る。
「「ガランッ!」」
いち早く状況に気づいたシステアとアリアスが声を上げると2人の視線の先には壁に激しく打ち付けられたガランとガランの鎧の胸部に手を当てていたクロナの姿があった。
少し遅れてガランの身体が崩れ落ちるように倒れ、アリアスとシステアが駆け寄ろうとすると——。
「大丈夫です。死んではいません。ただ少し頭を打ったと思うので当分起き上がる事は出来ないと思いますが」
クロナがそう言うのを無視してアリアスがガランへと駆け寄り、自分よりもかなり巨体なガランの身体を抱き起こす。
「確かに生きてます……」
周囲が騒然とする中、アリアスが無言で意識のないガランを背負った所で受付の奥からギルドマスターが慌てて飛び出てきた。
「おいっ! なんだ!? 今の音は! ってガラン殿!」
すぐにガランを背負っているアリアスとガラン、それに明らかに破損した壁を見てギルドマスターは大声で叫ぶ。
ギルドマスターはガランを背負うアリアスの元まで駆け寄り、事情を尋ねた。
「どうされたのですか? アリアス様!」
ギルドマスターに問われ、アリアスは視線をクロナとレナザードへと向けギルドマスターに言う。
「急いでクドウさんとアールさんを呼んできてください。長くは持たないかもしれません」
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