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第3章 聖竜襲来編
第67話 聖竜が世界で最も愛したもの
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ギルドマスターと都市長が聖竜に事情を聞きに行くと言っても、実際に聖竜がいるシラルークの東の端まで走っていくという事ではなかった。
いくら比較的近くにいたとはいえ、町の端まで走るとなればそれなりに距離がある。
ギルドマスター1人ならそれでもどうにかなったかもしれないが都市長はそれなりに歳も食った上にもともと体力がある方でもない。
ギルドマスターは冒険者協会近くにあった大広場へと都市長と共に走りながら、魔力を使い直接、聖竜へと語り掛けた。
システアが冒険者協会に冒険者を集めた時に使ったアレだ。
「聖竜様、聞こえますか?」
ギルドマスターが聖竜にそう問いかけると、聖竜はすぐに広場へと走るギルドマスターに気づいた。
「なんだ、貴様らは?」
綺麗に澄んだ女の声なのに重い声がギルドマスターの身体中に響いた。
まるで会ったことすらない魔王でも相手にしている気分になる。
「私はこのシラルーク冒険者協会ギルドマスターをしている者です。名は——」
「貴様らの名などどうでもいい! それで隣を走っている明らかに弱そうな者はなんだ?」
アンタが聞いたんだろ?——とギルドマスターはそんな事は考えない。
ちなみに隣を走っている都市長はなんとかついて来てはいるがかなり息が上がってしまっている。
偉そうなことを言っていた割に情けない限りである。
「都市長です」
「そうか、……で勇者はどこにいる?」
会話の途中でギルドマスターと息絶え絶えな都市長は大広間へと到着した。
あとは聖竜がこちらに来ればいいのだが、一向に向かってくる気配はない。
それどころか地上にゆっくりと降下を始めたのだ。
そして——。
いきなり聖竜はギルドマスター達がいる大広場に出現し、その後に続きエレメンタルドラゴンも次々と出現した。
(……まさか転移門! あの巨大な体を覆いこむほどのか!)
ギルドマスターが知る限り人間界で転移門の魔法を使用できるのはシステアただ一人だ。
そのシステアでさえ、複数回の連続行使には魔力をかなり消耗すると言っている。
それをこの聖竜はたった1kmほどの距離を移動するためだけにあれほど巨大な転移門を行使したのである。
恐らく、シラルーク東に突然現れた時にも使用したのだろう。
光の超遠距離魔法を放ってからここに到着した時間から考えると、高速飛行中の空中に転移門を展開し、次々と転移してきたとギルドマスターは予測する。
(……化け物め)
ギルドマスターは転移門を使ったことがないので具体的にどれほどの難易度があるのかは想像するしかないが、それでも高速飛行中に簡単に使用できる魔法ではない事くらいわかる。
「もう一度聞く。勇者はどこにいる?」
「その前に、事情を聞かせてもらえませんか? 勇者があなたに何をしたというのですか?」
「知れた事。勇者は私のこの世で一番愛する大事なモノを奪っていった。今すぐ、出さねば、手始めにこの街を滅ぼす!」
聖竜の優美だが重い声が町に響き渡り、シラルークの町の人々に緊張が走った。
だがそれでもギルドマスターは引かなかった。
「その大事な物とはなんでしょう? アリアス様はここ最近、冒険者協会本部の町付近でずっと依頼を行ってきました。貴方の大事な物を奪う事などできなかったと思われますが」
そう、今はここシラルークの町の東で魔人討伐の作戦に従事していたアリアス達だったが、その直前まではここからずっと離れた冒険者協会本部がある町を拠点に活動していた。
聖竜の大事なモノとやらの正体は分からないが、ずっと東の魔界方面から飛んで来た聖竜がいた場所とはまったくの正反対の方向なのだ。
聖竜の手から離れていたのならば可能性はなくないのかもしれないが、ギルドマスターからすればアリアスがその聖竜の大事な何かを奪っていったという話は納得のできない話だった。
いくら比較的近くにいたとはいえ、町の端まで走るとなればそれなりに距離がある。
ギルドマスター1人ならそれでもどうにかなったかもしれないが都市長はそれなりに歳も食った上にもともと体力がある方でもない。
ギルドマスターは冒険者協会近くにあった大広場へと都市長と共に走りながら、魔力を使い直接、聖竜へと語り掛けた。
システアが冒険者協会に冒険者を集めた時に使ったアレだ。
「聖竜様、聞こえますか?」
ギルドマスターが聖竜にそう問いかけると、聖竜はすぐに広場へと走るギルドマスターに気づいた。
「なんだ、貴様らは?」
綺麗に澄んだ女の声なのに重い声がギルドマスターの身体中に響いた。
まるで会ったことすらない魔王でも相手にしている気分になる。
「私はこのシラルーク冒険者協会ギルドマスターをしている者です。名は——」
「貴様らの名などどうでもいい! それで隣を走っている明らかに弱そうな者はなんだ?」
アンタが聞いたんだろ?——とギルドマスターはそんな事は考えない。
ちなみに隣を走っている都市長はなんとかついて来てはいるがかなり息が上がってしまっている。
偉そうなことを言っていた割に情けない限りである。
「都市長です」
「そうか、……で勇者はどこにいる?」
会話の途中でギルドマスターと息絶え絶えな都市長は大広間へと到着した。
あとは聖竜がこちらに来ればいいのだが、一向に向かってくる気配はない。
それどころか地上にゆっくりと降下を始めたのだ。
そして——。
いきなり聖竜はギルドマスター達がいる大広場に出現し、その後に続きエレメンタルドラゴンも次々と出現した。
(……まさか転移門! あの巨大な体を覆いこむほどのか!)
ギルドマスターが知る限り人間界で転移門の魔法を使用できるのはシステアただ一人だ。
そのシステアでさえ、複数回の連続行使には魔力をかなり消耗すると言っている。
それをこの聖竜はたった1kmほどの距離を移動するためだけにあれほど巨大な転移門を行使したのである。
恐らく、シラルーク東に突然現れた時にも使用したのだろう。
光の超遠距離魔法を放ってからここに到着した時間から考えると、高速飛行中の空中に転移門を展開し、次々と転移してきたとギルドマスターは予測する。
(……化け物め)
ギルドマスターは転移門を使ったことがないので具体的にどれほどの難易度があるのかは想像するしかないが、それでも高速飛行中に簡単に使用できる魔法ではない事くらいわかる。
「もう一度聞く。勇者はどこにいる?」
「その前に、事情を聞かせてもらえませんか? 勇者があなたに何をしたというのですか?」
「知れた事。勇者は私のこの世で一番愛する大事なモノを奪っていった。今すぐ、出さねば、手始めにこの街を滅ぼす!」
聖竜の優美だが重い声が町に響き渡り、シラルークの町の人々に緊張が走った。
だがそれでもギルドマスターは引かなかった。
「その大事な物とはなんでしょう? アリアス様はここ最近、冒険者協会本部の町付近でずっと依頼を行ってきました。貴方の大事な物を奪う事などできなかったと思われますが」
そう、今はここシラルークの町の東で魔人討伐の作戦に従事していたアリアス達だったが、その直前まではここからずっと離れた冒険者協会本部がある町を拠点に活動していた。
聖竜の大事なモノとやらの正体は分からないが、ずっと東の魔界方面から飛んで来た聖竜がいた場所とはまったくの正反対の方向なのだ。
聖竜の手から離れていたのならば可能性はなくないのかもしれないが、ギルドマスターからすればアリアスがその聖竜の大事な何かを奪っていったという話は納得のできない話だった。
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