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第2章 魔人侵攻編
第44話 聖剣無しの勇者
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魔人アルジールが人間界を守っている。
そんな根も葉もない話——というか完全な偽情報に踊らされている冒険者達が勝手に盛り上がりつつ、冒険の準備を始めている最中。
「クドウさん、クドウさん」
俺の事を呼ぶ声がしたので、振り返ると今回の偽情報をバラまいた張本人システアが俺の事を見上げていた。
「……なんですか? システアさん」
さっきまで偉そうに語っていた割には俺に対しては謙虚なシステア。余程俺の事を評価しているのだろうか。
かといって、今はまだE級冒険者でしかない俺が偉そうにするのもなんか違う気がしたので、一応さん付けで呼ぶことにした。
幸い「様をつけろ! 様をぉぉぉ!」と怒鳴ってくる冒険者もいなかったのでとりあえずはこれでいいだろう。
「実は私、転移門の魔法が使えるのですが——」
それは大したもんだ。
恐らく第2級の簡易版の方だろうが、少なくても俺が過去であった冒険者パーティーの中に使える者は一人としていなかったはずだ。
勇者アリアスの件といい今回の勇者パーティーはかなり優秀なのではなかろうか。
そんなことを考えているとシステアは話の続きを話し始めた。
「私達勇者パーティーと共にクドウさんのパーティーも一緒に先行してもらえませんか?」
えっ? なんで?
それが俺の感想である。本来ならば、はい! 喜んで! の場面だが、今回の場合先行しようがしまいが旨みなどまったくない。待っているのは徒労感のみだ。
「いや、ギランディーさんの方がいいのでは?」
俺としてはどうせ何も起きないのだから、後方でアルジール達とくっちゃべりながら時間を潰すのが望ましかった。
活躍の場があるならともかく何もないと分かっているのにやる気を出せるほど俺はできた人間ではない。
アルジール達に積極的にとは言ったがあぁでも言わないとあいつらが何を言い出すか分からないので、仕方なくそう言っただけなのだ。
「いえ、ギランディーには他の冒険者の随行をさせます。万が一、他の冒険者達が魔人と遭遇してしまった場合、ギランディー無しでは全滅の可能性もありますので」
おいおい、E級冒険者の俺をさん付でギランディーは普通に呼び捨てですか?
本格的に目をつけられてしまったようである。
これ以上粘っても無理そうなので俺は抵抗を諦めた。
「分かりました。お役に立てるかは分かりませんが、システアさん達に同行します」
「助かります。あなた達程の冒険者がついて来てくださるととても心強いです」
システアは冒険者達の前で語っていた時には見せなかった笑顔で俺にそう言った。
「俺達、一応まだE級冒険者なんですけど」
「ふふ、一応まだ……ですね? この戦いが終わればクドウさん達も私達と同じA級冒険者になっていますよ」
なるほど、勇者パーティーとただ行動しているだけでA級冒険者になれるのか。
俺は明日になってもE級冒険者のままの方に賭けるね。
「では私も仲間と準備があるので……10分後にでも出発しましょう」
「分かりました、では10分後に」
システアが勇者パーティーの元に戻るとアルジールが俺に話しかけてきた。
「あのちびっ子はなかなかやるようですね。クドウ様の実力を見抜くとは。どうせなら勇者の座も献上すればさらにポイントが高かったのですが」
流石にシステアに勇者の任命権まではないだろう。
とはいえ、全てとまではいかなくとも俺達の実力がE級に留まらない事を一目見ただけで気づくとは油断ならない女であることは確かである。
「それにしても兄貴たちすげーぜ。まさか勇者パーティーに実力を認めさせるなんて」
プリズンは改めて俺達の強さを痛感したのか驚きの声を上げている。
「システア様じゃねぇですが、今回の人間界侵攻で活躍が認められたら兄貴勇者として認められるんじゃねぇですか?」
システアどころかプリズンまでそんなことを言ってきた。そもそも今回俺が活躍することはないのだが、流石に現勇者アリアスがいるのでそれは無理だろう。
よくよく考えたらアリアスは設定上の俺の年齢と同い年だ。そう考えたら俺が勇者となるのは厳しいのでは?
「アリアスがいるからそれは無理だろう」
俺がそう言うと、プリズンからは予想外の返答が返ってきた。
「えっ、別に勇者に人数制限はありませんぜ? あ、でも聖剣は一本しかありませんので、聖剣無しの勇者になりますが」
おっ、マジか。
俺の所には毎回1人しか勇者が来てなかったので1人限定だと勘違いしていたが、勇者クラスの人間が同世代に複数存在することもありえなくはないわけで、勇者は1人に限らないという事らしい。
とはいえ、なんか聖剣持ってる方が本命勇者っぽいな。
まぁ、俺が毎回打ち合っていたアレが聖剣だと言うのなら俺が持っているリティスリティアの方が性能は数段上のはずだ。
だが、魔剣であるリティスリティアを勇者が普段使いするにはちょっとアレだし、できれば気分的に俺もいずれ聖剣が欲しい。
「もう一本作ればいいじゃん」
俺は何も考えずそんなことを言ってみた。
現にアリアスが持っている聖剣より強い剣を俺は何本か知っている。だったら作れるんじゃないかとそう言いたいわけだ。
「いやいや、アリアス様が持つ聖剣は3神の一人、剣神ジンクによって初代勇者が亡くなった時に人間界にもたらされた剣ですよ。そんな簡単にホイホイ作れませんて」
なんか聞いたことがある名前だった。あぁ、ユリウスが言っていた鍛冶屋のおっさんか。
まさか3神の一人だったとは思わなかった。
「ていうか聖剣って初代勇者が使ってた剣じゃないの?」
「初代勇者が使っていた剣は行方不明らしいですぜ。魔王と戦った時に折れてしまったのか。持ち帰った後行方不明になったのかは知りませんが」
折れてしまったとしても世界を救った英雄の遺品をそんなに粗末に扱うだろうか? 修復が不可能だとしてもどこかの博物館なりなんなりに保管しそうなものだが。
持ち帰った後行方不明になったのだとしたら、ひどい話だ。
「まぁそういうことなら仕方ないな」
俺はシステアとの約束までの10分をそんなどうでもいい話に費やしたのだった。
そんな根も葉もない話——というか完全な偽情報に踊らされている冒険者達が勝手に盛り上がりつつ、冒険の準備を始めている最中。
「クドウさん、クドウさん」
俺の事を呼ぶ声がしたので、振り返ると今回の偽情報をバラまいた張本人システアが俺の事を見上げていた。
「……なんですか? システアさん」
さっきまで偉そうに語っていた割には俺に対しては謙虚なシステア。余程俺の事を評価しているのだろうか。
かといって、今はまだE級冒険者でしかない俺が偉そうにするのもなんか違う気がしたので、一応さん付けで呼ぶことにした。
幸い「様をつけろ! 様をぉぉぉ!」と怒鳴ってくる冒険者もいなかったのでとりあえずはこれでいいだろう。
「実は私、転移門の魔法が使えるのですが——」
それは大したもんだ。
恐らく第2級の簡易版の方だろうが、少なくても俺が過去であった冒険者パーティーの中に使える者は一人としていなかったはずだ。
勇者アリアスの件といい今回の勇者パーティーはかなり優秀なのではなかろうか。
そんなことを考えているとシステアは話の続きを話し始めた。
「私達勇者パーティーと共にクドウさんのパーティーも一緒に先行してもらえませんか?」
えっ? なんで?
それが俺の感想である。本来ならば、はい! 喜んで! の場面だが、今回の場合先行しようがしまいが旨みなどまったくない。待っているのは徒労感のみだ。
「いや、ギランディーさんの方がいいのでは?」
俺としてはどうせ何も起きないのだから、後方でアルジール達とくっちゃべりながら時間を潰すのが望ましかった。
活躍の場があるならともかく何もないと分かっているのにやる気を出せるほど俺はできた人間ではない。
アルジール達に積極的にとは言ったがあぁでも言わないとあいつらが何を言い出すか分からないので、仕方なくそう言っただけなのだ。
「いえ、ギランディーには他の冒険者の随行をさせます。万が一、他の冒険者達が魔人と遭遇してしまった場合、ギランディー無しでは全滅の可能性もありますので」
おいおい、E級冒険者の俺をさん付でギランディーは普通に呼び捨てですか?
本格的に目をつけられてしまったようである。
これ以上粘っても無理そうなので俺は抵抗を諦めた。
「分かりました。お役に立てるかは分かりませんが、システアさん達に同行します」
「助かります。あなた達程の冒険者がついて来てくださるととても心強いです」
システアは冒険者達の前で語っていた時には見せなかった笑顔で俺にそう言った。
「俺達、一応まだE級冒険者なんですけど」
「ふふ、一応まだ……ですね? この戦いが終わればクドウさん達も私達と同じA級冒険者になっていますよ」
なるほど、勇者パーティーとただ行動しているだけでA級冒険者になれるのか。
俺は明日になってもE級冒険者のままの方に賭けるね。
「では私も仲間と準備があるので……10分後にでも出発しましょう」
「分かりました、では10分後に」
システアが勇者パーティーの元に戻るとアルジールが俺に話しかけてきた。
「あのちびっ子はなかなかやるようですね。クドウ様の実力を見抜くとは。どうせなら勇者の座も献上すればさらにポイントが高かったのですが」
流石にシステアに勇者の任命権まではないだろう。
とはいえ、全てとまではいかなくとも俺達の実力がE級に留まらない事を一目見ただけで気づくとは油断ならない女であることは確かである。
「それにしても兄貴たちすげーぜ。まさか勇者パーティーに実力を認めさせるなんて」
プリズンは改めて俺達の強さを痛感したのか驚きの声を上げている。
「システア様じゃねぇですが、今回の人間界侵攻で活躍が認められたら兄貴勇者として認められるんじゃねぇですか?」
システアどころかプリズンまでそんなことを言ってきた。そもそも今回俺が活躍することはないのだが、流石に現勇者アリアスがいるのでそれは無理だろう。
よくよく考えたらアリアスは設定上の俺の年齢と同い年だ。そう考えたら俺が勇者となるのは厳しいのでは?
「アリアスがいるからそれは無理だろう」
俺がそう言うと、プリズンからは予想外の返答が返ってきた。
「えっ、別に勇者に人数制限はありませんぜ? あ、でも聖剣は一本しかありませんので、聖剣無しの勇者になりますが」
おっ、マジか。
俺の所には毎回1人しか勇者が来てなかったので1人限定だと勘違いしていたが、勇者クラスの人間が同世代に複数存在することもありえなくはないわけで、勇者は1人に限らないという事らしい。
とはいえ、なんか聖剣持ってる方が本命勇者っぽいな。
まぁ、俺が毎回打ち合っていたアレが聖剣だと言うのなら俺が持っているリティスリティアの方が性能は数段上のはずだ。
だが、魔剣であるリティスリティアを勇者が普段使いするにはちょっとアレだし、できれば気分的に俺もいずれ聖剣が欲しい。
「もう一本作ればいいじゃん」
俺は何も考えずそんなことを言ってみた。
現にアリアスが持っている聖剣より強い剣を俺は何本か知っている。だったら作れるんじゃないかとそう言いたいわけだ。
「いやいや、アリアス様が持つ聖剣は3神の一人、剣神ジンクによって初代勇者が亡くなった時に人間界にもたらされた剣ですよ。そんな簡単にホイホイ作れませんて」
なんか聞いたことがある名前だった。あぁ、ユリウスが言っていた鍛冶屋のおっさんか。
まさか3神の一人だったとは思わなかった。
「ていうか聖剣って初代勇者が使ってた剣じゃないの?」
「初代勇者が使っていた剣は行方不明らしいですぜ。魔王と戦った時に折れてしまったのか。持ち帰った後行方不明になったのかは知りませんが」
折れてしまったとしても世界を救った英雄の遺品をそんなに粗末に扱うだろうか? 修復が不可能だとしてもどこかの博物館なりなんなりに保管しそうなものだが。
持ち帰った後行方不明になったのだとしたら、ひどい話だ。
「まぁそういうことなら仕方ないな」
俺はシステアとの約束までの10分をそんなどうでもいい話に費やしたのだった。
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