13 / 255
第1章 転生編
第13話 神ユリウスの記憶② 魔王降臨
しおりを挟む
魔王は倒されたが、世界に平和が訪れたわけではなかった。
もちろん、勇者が現れる前に比べれば、世界は平和になったのかもしれない。
だが、今この時にも、人々は魔物や魔人に殺され、滅びる街もある。
今残っている当初に勇者王が仲間にしたパーティーの生き残りは聖女ただ一人である。
生き残った聖女が聖女の祖国に帰ってまず行ったのは教会の設置だった。
魔人達に怯える人々に救いの手を差し伸べ、魔人達の戦いで親や家族を失った子供の面倒を見る為に必要であったからだ。
これが後にこの世界初となる宗教、ユリウス教の前身となる。
聖女は祈りを捧げるが、一向に世界は平和にはならない。
冒険者協会も魔物や魔人の討伐に奔走した。
結果、人類の魔人による被害が少しずつ減ってはいくものの根本的な解決にはならなかった。
勇者がかつて夢見た平和は勇者が目的としていた魔王討伐を成しても訪れることはなかったのである。
それでも人々は抗った。
かつて勇者が信じたようにいつか真の平和が訪れるのを信じて。
そして、少し時は流れる。
勇者の最後の仲間であった聖女もこの世を去り、世界は変化のないまま進むかと思われた。
だが、その日はやってきた。
何の前触れもなかった。
魔人がなんらかの理由で死に絶えた訳でもない。
だが、その日を境に魔人による被害がピタリと止んだのだ。
人々は不思議に思った。
なぜ魔人達が大人しくなったのかと。
その理由はすぐに判明する。
魔人による被害が0になった日が続いたある日、昼だというのに、突如として人間界全域の空が暗黒に染まった。
その暗黒の空に現れたのは2体の魔人。
人々は恐怖した。
力の持たない人々でもそれがなにか瞬時に理解してしまったのだ。
——魔王。
絶対的な力の権化にして魔人を統べる存在。
かつて勇者が現れる前、世界を覆っていた闇。
勇者は今はない。
かつての絶望の日々がまた訪れるのかと人々は絶望する。
そして、魔人の1体が言葉を発する。
「魔王様、こちらが人間界にございます」
すると、魔王は暗黒の空から人々を見下ろし、笑みを浮かべる。
「ほぅ、人間か。見るのは久方ぶりだ」
魔王は更に笑みを深めると、もう一人の魔人が不思議そうに魔王に尋ねた。
「恐れながら、魔王様。人間界は初めてだと仰っていませんでしたか?」
「……ん? あぁ、魔界に迷い込んだ人間に会ったのだ。確かそうだった気がする。間違いない」
「ですが、ここ100年程、人間が魔界に来ることはなかったと思いますが。魔王様も魔人の相手に忙しく戦っておられたようですし」
「うるさいな。……迷い込んだと言っているだろう。今いい所なんだ。邪魔をするな」
「これは失礼致しました! 人間共! 魔王様のお言葉をありがたく聞くがいい!」
魔人はそう言うと、人類を見下ろし、凄まじい威圧感を漂わす。
そして、魔王は話し始めた。
「俺は魔王。魔界を支配し、魔人達の王となった者だ」
人々は理解する。
わずか数日だけ訪れた平和は魔王がその座に就く準備が忙しかっただけだと。
「我を倒したい者がいるのならば、魔王城に来い! 俺、自ら相手をしてやろう。それまで、魔人共にはこちらに手出しはさせないと約束する。強き者を集め、俺に挑め!」
魔王の言葉に聞き入っていたもう1人の魔人が途中から驚いた表情で魔王を見ていた。
「ま、魔王様? 本日は人間共を蹂躙しにやってきたのでは? 魔王城で待つ? 魔人に手出しはさせない? ……一体どういう事でしょうか?」
魔人は魔王にいくつもの疑問をぶつけるが、魔王は魔人に冷ややかな声で言った。
「なんだ? アルジール。まさか俺に意見でもあるのか?」
「い、いえ、滅相も御座いません! 私は貴方様に忠誠を尽くす者。仮に魔王様に意に反する愚か者がいれば、私自らの手で滅ぼしてご覧にいれましょう」
人々には目の前にいる魔人達の言っている事が理解できなかった。
魔王とは世界に滅びをもたらす者。
今度の魔王は策を弄するタイプの魔王なのか? そう考えた人々もいたが、そんな考えはすぐにやめた。
策を弄さずともこの目の前の魔王にはそんな事をする必要がない力がある。
「では、勇者が来るのを魔王城で待っているぞ。俺に抗って見せるがいい!」
そう言って、魔王は魔人アルジールと共に人間界から去っていった。
暗黒の空は晴れ、本当に魔王が言っていた通りそれから魔人がやってくることはなかった。
人々は意外な形で長きに渡る平和を手に入れたのだった。
もちろん、勇者が現れる前に比べれば、世界は平和になったのかもしれない。
だが、今この時にも、人々は魔物や魔人に殺され、滅びる街もある。
今残っている当初に勇者王が仲間にしたパーティーの生き残りは聖女ただ一人である。
生き残った聖女が聖女の祖国に帰ってまず行ったのは教会の設置だった。
魔人達に怯える人々に救いの手を差し伸べ、魔人達の戦いで親や家族を失った子供の面倒を見る為に必要であったからだ。
これが後にこの世界初となる宗教、ユリウス教の前身となる。
聖女は祈りを捧げるが、一向に世界は平和にはならない。
冒険者協会も魔物や魔人の討伐に奔走した。
結果、人類の魔人による被害が少しずつ減ってはいくものの根本的な解決にはならなかった。
勇者がかつて夢見た平和は勇者が目的としていた魔王討伐を成しても訪れることはなかったのである。
それでも人々は抗った。
かつて勇者が信じたようにいつか真の平和が訪れるのを信じて。
そして、少し時は流れる。
勇者の最後の仲間であった聖女もこの世を去り、世界は変化のないまま進むかと思われた。
だが、その日はやってきた。
何の前触れもなかった。
魔人がなんらかの理由で死に絶えた訳でもない。
だが、その日を境に魔人による被害がピタリと止んだのだ。
人々は不思議に思った。
なぜ魔人達が大人しくなったのかと。
その理由はすぐに判明する。
魔人による被害が0になった日が続いたある日、昼だというのに、突如として人間界全域の空が暗黒に染まった。
その暗黒の空に現れたのは2体の魔人。
人々は恐怖した。
力の持たない人々でもそれがなにか瞬時に理解してしまったのだ。
——魔王。
絶対的な力の権化にして魔人を統べる存在。
かつて勇者が現れる前、世界を覆っていた闇。
勇者は今はない。
かつての絶望の日々がまた訪れるのかと人々は絶望する。
そして、魔人の1体が言葉を発する。
「魔王様、こちらが人間界にございます」
すると、魔王は暗黒の空から人々を見下ろし、笑みを浮かべる。
「ほぅ、人間か。見るのは久方ぶりだ」
魔王は更に笑みを深めると、もう一人の魔人が不思議そうに魔王に尋ねた。
「恐れながら、魔王様。人間界は初めてだと仰っていませんでしたか?」
「……ん? あぁ、魔界に迷い込んだ人間に会ったのだ。確かそうだった気がする。間違いない」
「ですが、ここ100年程、人間が魔界に来ることはなかったと思いますが。魔王様も魔人の相手に忙しく戦っておられたようですし」
「うるさいな。……迷い込んだと言っているだろう。今いい所なんだ。邪魔をするな」
「これは失礼致しました! 人間共! 魔王様のお言葉をありがたく聞くがいい!」
魔人はそう言うと、人類を見下ろし、凄まじい威圧感を漂わす。
そして、魔王は話し始めた。
「俺は魔王。魔界を支配し、魔人達の王となった者だ」
人々は理解する。
わずか数日だけ訪れた平和は魔王がその座に就く準備が忙しかっただけだと。
「我を倒したい者がいるのならば、魔王城に来い! 俺、自ら相手をしてやろう。それまで、魔人共にはこちらに手出しはさせないと約束する。強き者を集め、俺に挑め!」
魔王の言葉に聞き入っていたもう1人の魔人が途中から驚いた表情で魔王を見ていた。
「ま、魔王様? 本日は人間共を蹂躙しにやってきたのでは? 魔王城で待つ? 魔人に手出しはさせない? ……一体どういう事でしょうか?」
魔人は魔王にいくつもの疑問をぶつけるが、魔王は魔人に冷ややかな声で言った。
「なんだ? アルジール。まさか俺に意見でもあるのか?」
「い、いえ、滅相も御座いません! 私は貴方様に忠誠を尽くす者。仮に魔王様に意に反する愚か者がいれば、私自らの手で滅ぼしてご覧にいれましょう」
人々には目の前にいる魔人達の言っている事が理解できなかった。
魔王とは世界に滅びをもたらす者。
今度の魔王は策を弄するタイプの魔王なのか? そう考えた人々もいたが、そんな考えはすぐにやめた。
策を弄さずともこの目の前の魔王にはそんな事をする必要がない力がある。
「では、勇者が来るのを魔王城で待っているぞ。俺に抗って見せるがいい!」
そう言って、魔王は魔人アルジールと共に人間界から去っていった。
暗黒の空は晴れ、本当に魔王が言っていた通りそれから魔人がやってくることはなかった。
人々は意外な形で長きに渡る平和を手に入れたのだった。
0
お気に入りに追加
522
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
友人Aの俺は女主人公を助けたらハーレムを築いていた
山田空
ファンタジー
友人Aに転生した俺は筋肉で全てを凌駕し鬱ゲー世界をぶち壊す
絶対に報われない鬱ゲーというキャッチコピーで売り出されていたゲームを買った俺はそのゲームの主人公に惚れてしまう。
ゲームの女主人公が報われてほしいそう思う。
だがもちろん報われることはなく友人は死ぬし助けてくれて恋人になったやつに裏切られていじめを受ける。
そしてようやく努力が報われたかと思ったら最後は主人公が車にひかれて死ぬ。
……1ミリも報われてねえどころかゲームをする前の方が報われてたんじゃ。
そう考えてしまうほど報われない鬱ゲーの友人キャラに俺は転生してしまった。
俺が転生した山田啓介は第1章のラストで殺される不幸の始まりとされるキャラクターだ。
最初はまだ楽しそうな雰囲気があったが山田啓介が死んだことで雰囲気が変わり鬱ゲーらしくなる。
そんな友人Aに転生した俺は半年を筋トレに費やす。
俺は女主人公を影で助ける。
そしたらいつのまにか俺の周りにはハーレムが築かれていて
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―
物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師
そんな彼が出会った一人の女性
日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。
表紙画像はAIで作成した主人公です。
キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。
更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~
星天
ファンタジー
幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!
創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。
『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく
はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる