魔王をするのにも飽きたので神をボコって主人公に再転生!

コメッコ

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第1章 転生編

第13話 神ユリウスの記憶② 魔王降臨

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魔王は倒されたが、世界に平和が訪れたわけではなかった。

もちろん、勇者が現れる前に比べれば、世界は平和になったのかもしれない。

だが、今この時にも、人々は魔物や魔人に殺され、滅びる街もある。



今残っている当初に勇者王が仲間にしたパーティーの生き残りは聖女ただ一人である。

生き残った聖女が聖女の祖国に帰ってまず行ったのは教会の設置だった。

魔人達に怯える人々に救いの手を差し伸べ、魔人達の戦いで親や家族を失った子供の面倒を見る為に必要であったからだ。



これが後にこの世界初となる宗教、ユリウス教の前身となる。



聖女は祈りを捧げるが、一向に世界は平和にはならない。

冒険者協会も魔物や魔人の討伐に奔走した。



結果、人類の魔人による被害が少しずつ減ってはいくものの根本的な解決にはならなかった。

勇者がかつて夢見た平和は勇者が目的としていた魔王討伐を成しても訪れることはなかったのである。

それでも人々は抗った。

かつて勇者が信じたようにいつか真の平和が訪れるのを信じて。



そして、少し時は流れる。

勇者の最後の仲間であった聖女もこの世を去り、世界は変化のないまま進むかと思われた。



だが、その日はやってきた。

何の前触れもなかった。

魔人がなんらかの理由で死に絶えた訳でもない。

だが、その日を境に魔人による被害がピタリと止んだのだ。



人々は不思議に思った。



なぜ魔人達が大人しくなったのかと。



その理由はすぐに判明する。



魔人による被害が0になった日が続いたある日、昼だというのに、突如として人間界全域の空が暗黒に染まった。



その暗黒の空に現れたのは2体の魔人。



人々は恐怖した。



力の持たない人々でもそれがなにか瞬時に理解してしまったのだ。



——魔王。



絶対的な力の権化にして魔人を統べる存在。

かつて勇者が現れる前、世界を覆っていた闇。



勇者は今はない。



かつての絶望の日々がまた訪れるのかと人々は絶望する。



そして、魔人の1体が言葉を発する。



「魔王様、こちらが人間界にございます」



すると、魔王は暗黒の空から人々を見下ろし、笑みを浮かべる。



「ほぅ、人間か。見るのは久方ぶりだ」



魔王は更に笑みを深めると、もう一人の魔人が不思議そうに魔王に尋ねた。



「恐れながら、魔王様。人間界は初めてだと仰っていませんでしたか?」



 「……ん? あぁ、魔界に迷い込んだ人間に会ったのだ。確かそうだった気がする。間違いない」



「ですが、ここ100年程、人間が魔界に来ることはなかったと思いますが。魔王様も魔人の相手に忙しく戦っておられたようですし」



「うるさいな。……迷い込んだと言っているだろう。今いい所なんだ。邪魔をするな」



「これは失礼致しました! 人間共! 魔王様のお言葉をありがたく聞くがいい!」



魔人はそう言うと、人類を見下ろし、凄まじい威圧感を漂わす。



そして、魔王は話し始めた。



「俺は魔王。魔界を支配し、魔人達の王となった者だ」



人々は理解する。

わずか数日だけ訪れた平和は魔王がその座に就く準備が忙しかっただけだと。



「我を倒したい者がいるのならば、魔王城に来い! 俺、自ら相手をしてやろう。それまで、魔人共にはこちらに手出しはさせないと約束する。強き者を集め、俺に挑め!」



魔王の言葉に聞き入っていたもう1人の魔人が途中から驚いた表情で魔王を見ていた。



「ま、魔王様? 本日は人間共を蹂躙しにやってきたのでは? 魔王城で待つ? 魔人に手出しはさせない? ……一体どういう事でしょうか?」



魔人は魔王にいくつもの疑問をぶつけるが、魔王は魔人に冷ややかな声で言った。



「なんだ? アルジール。まさか俺に意見でもあるのか?」



「い、いえ、滅相も御座いません! 私は貴方様に忠誠を尽くす者。仮に魔王様に意に反する愚か者がいれば、私自らの手で滅ぼしてご覧にいれましょう」



人々には目の前にいる魔人達の言っている事が理解できなかった。

魔王とは世界に滅びをもたらす者。

今度の魔王は策を弄するタイプの魔王なのか? そう考えた人々もいたが、そんな考えはすぐにやめた。

策を弄さずともこの目の前の魔王にはそんな事をする必要がない力がある。



「では、勇者が来るのを魔王城で待っているぞ。俺に抗って見せるがいい!」



そう言って、魔王は魔人アルジールと共に人間界から去っていった。



暗黒の空は晴れ、本当に魔王が言っていた通りそれから魔人がやってくることはなかった。



人々は意外な形で長きに渡る平和を手に入れたのだった。
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