10 / 19
第10話 メリエス様、勘違いする
しおりを挟む
「……あぁ、怖かった」
「お見事な演技でした、メリエス様」
門を通過して町に入ったメリエス様が小さな呟きに俺は称賛の言葉を贈ると、メリエス様はジト目で俺を睨んできた。
「お前なら私があんなことをせずともなんとでもできたのではないか?」
メリエス様は俺が可愛い妹キャラを演じるように指示したことを根に持っているようだった。
誰も損しないどころか種族を問わず全ての者が幸せになれる完璧な作戦だっただけに俺にはそれが理解できなかった。
「いいえ、あれ以外に方法はありませんでした。メリエス様も見たでしょう。あの男の目を。メリエス様の迫真の演技がなければ今頃我々は虜囚になり果てていたことでしょう」
まぁ多分妹でなくとも知り合いとか言えば適当に誤魔化せていた気もするが、アレが最善であった事は紛れもない事実なのである。
なぜなら俺の心は今こんなにも満たされているのだから。
(むふふ、可愛かったな。今後もあんな感じで接してくれると俺としては最高なのだが)
まぁとはいえ虜囚に成り果てるということはありえなかっただろう。
最悪の展開でも俺がメリエス様を抱えて逃げればいいのだから。
俺の手配書がベーンヘルクの町に配られる事にはなるだろうが、俺が本気を出せば四天王候補を勧誘するという目的だけに限れば問題なく行う事はできる。
だがそうなった場合、メリエス様を連れて歩くというのは困難になるためやはりこの道が正解だったのである。
(あくまで目的はメリエス様とのデートであって、四天王候補勧誘はついでだからな)
真なる目的を見失っては四天王筆頭として失格なのなのだから。
そんな俺の目的を知ってか知らずかメリエス様は思い出したようにビクッと体を震わせた。
「……まぁ確かにあの者の目は尋常ではなかったな。本気で狩られるかと思ったぞ」
恐らくは娘を持つ者としての迫力だったのだろうが、傍から見れば魔人と相対して決死の覚悟で戦いに挑む戦士のそれと大して変わらないように見えたので可愛い系魔王であるメリエス様が怯えてしまったのも無理はないだろう。
「というかいつまで手を繋いでおる。さっさと離さんか」
そう言ってメリエス様は俺と繋いでいた手を強引に振り払った。
少し残念に思いつつも、俺は先程まで手にあった感触を脳に刻み込んでおく。
「で、今更だがこのような町で一体どうやって候補とやらを見つけるのだ?」
メリエス様が聞きたいのはなぜ人間界の町に来たのかということだろう。
強大な力を持つ魔人を探すのなら魔界であって、人間界にはそもそも魔人はいない。——というのが恐らくメリエス様の主張だ。
だが、メリエス様は大きな思い違いを犯していた。
そもそも俺は一言も強大な魔人を四天王に迎えるなどとは言ってはいなかったのである。
「どうやってですか。まぁ普通に聞き込むのが良いでしょうね。あの者はあまり魔力が高くはないので自力で探すのは難しいですから」
「そういえば、剣士と言っておったな」
強大な魔人であれば魔力を頼りに魔力探知で探す事もできるが、魔力があまり高くないものだとそれもなかなか難しいものなのだ。
周りに人がいないのであればできなくもないが、このベーンヘルクはそれなりに栄えている町なので人もそれなりに多く、周囲の魔力に紛れるのでなおさらだ。
まぁ強大な魔人だったらだったで巧妙に魔力を抑える技術を持っているものも多いので一概には言えないのだが。
「それにしてもこのような所に隠れ住むとはなかなか変わった者のようだな」
「隠れ住んでなどおりませんが」
事実そうなので、俺はメリエス様にそう答えた。
むしろ、結構目立つ職業に就いていると言っていいはずだ。
「なに? そうなのか? まさかこの街を裏から支配しているとかそんな感じなのか?」
妄想力豊かなのは実に微笑ましいがまったくそんな事はない。
探せばそんな魔人もいるかもしれないが、少なくてもそのような事を行っている魔人を俺は知らない。
「どちらかというと町を守っている方ですかね。一般的に見れば」
「ふむふむ、なるほど。そう市民達に見せかけておるという訳じゃな。実に狡猾そうなやつじゃ。頼もしいではないか」
そんな魔人を自分の配下である四天王に加えれば百人力とメリエス様は期待に胸を膨らませているようである。
「狡猾というよりはどちらかというと素直な部類かと思いますが……。まぁとりあえず向かいましょうか?」
「ふふ、そうじゃな。早速向かうとしよう」
そうして、俺達は聞き込みを開始するべくわくわくに胸を膨らますメリエス様と共にある建物へと向かうのだった。
「お見事な演技でした、メリエス様」
門を通過して町に入ったメリエス様が小さな呟きに俺は称賛の言葉を贈ると、メリエス様はジト目で俺を睨んできた。
「お前なら私があんなことをせずともなんとでもできたのではないか?」
メリエス様は俺が可愛い妹キャラを演じるように指示したことを根に持っているようだった。
誰も損しないどころか種族を問わず全ての者が幸せになれる完璧な作戦だっただけに俺にはそれが理解できなかった。
「いいえ、あれ以外に方法はありませんでした。メリエス様も見たでしょう。あの男の目を。メリエス様の迫真の演技がなければ今頃我々は虜囚になり果てていたことでしょう」
まぁ多分妹でなくとも知り合いとか言えば適当に誤魔化せていた気もするが、アレが最善であった事は紛れもない事実なのである。
なぜなら俺の心は今こんなにも満たされているのだから。
(むふふ、可愛かったな。今後もあんな感じで接してくれると俺としては最高なのだが)
まぁとはいえ虜囚に成り果てるということはありえなかっただろう。
最悪の展開でも俺がメリエス様を抱えて逃げればいいのだから。
俺の手配書がベーンヘルクの町に配られる事にはなるだろうが、俺が本気を出せば四天王候補を勧誘するという目的だけに限れば問題なく行う事はできる。
だがそうなった場合、メリエス様を連れて歩くというのは困難になるためやはりこの道が正解だったのである。
(あくまで目的はメリエス様とのデートであって、四天王候補勧誘はついでだからな)
真なる目的を見失っては四天王筆頭として失格なのなのだから。
そんな俺の目的を知ってか知らずかメリエス様は思い出したようにビクッと体を震わせた。
「……まぁ確かにあの者の目は尋常ではなかったな。本気で狩られるかと思ったぞ」
恐らくは娘を持つ者としての迫力だったのだろうが、傍から見れば魔人と相対して決死の覚悟で戦いに挑む戦士のそれと大して変わらないように見えたので可愛い系魔王であるメリエス様が怯えてしまったのも無理はないだろう。
「というかいつまで手を繋いでおる。さっさと離さんか」
そう言ってメリエス様は俺と繋いでいた手を強引に振り払った。
少し残念に思いつつも、俺は先程まで手にあった感触を脳に刻み込んでおく。
「で、今更だがこのような町で一体どうやって候補とやらを見つけるのだ?」
メリエス様が聞きたいのはなぜ人間界の町に来たのかということだろう。
強大な力を持つ魔人を探すのなら魔界であって、人間界にはそもそも魔人はいない。——というのが恐らくメリエス様の主張だ。
だが、メリエス様は大きな思い違いを犯していた。
そもそも俺は一言も強大な魔人を四天王に迎えるなどとは言ってはいなかったのである。
「どうやってですか。まぁ普通に聞き込むのが良いでしょうね。あの者はあまり魔力が高くはないので自力で探すのは難しいですから」
「そういえば、剣士と言っておったな」
強大な魔人であれば魔力を頼りに魔力探知で探す事もできるが、魔力があまり高くないものだとそれもなかなか難しいものなのだ。
周りに人がいないのであればできなくもないが、このベーンヘルクはそれなりに栄えている町なので人もそれなりに多く、周囲の魔力に紛れるのでなおさらだ。
まぁ強大な魔人だったらだったで巧妙に魔力を抑える技術を持っているものも多いので一概には言えないのだが。
「それにしてもこのような所に隠れ住むとはなかなか変わった者のようだな」
「隠れ住んでなどおりませんが」
事実そうなので、俺はメリエス様にそう答えた。
むしろ、結構目立つ職業に就いていると言っていいはずだ。
「なに? そうなのか? まさかこの街を裏から支配しているとかそんな感じなのか?」
妄想力豊かなのは実に微笑ましいがまったくそんな事はない。
探せばそんな魔人もいるかもしれないが、少なくてもそのような事を行っている魔人を俺は知らない。
「どちらかというと町を守っている方ですかね。一般的に見れば」
「ふむふむ、なるほど。そう市民達に見せかけておるという訳じゃな。実に狡猾そうなやつじゃ。頼もしいではないか」
そんな魔人を自分の配下である四天王に加えれば百人力とメリエス様は期待に胸を膨らませているようである。
「狡猾というよりはどちらかというと素直な部類かと思いますが……。まぁとりあえず向かいましょうか?」
「ふふ、そうじゃな。早速向かうとしよう」
そうして、俺達は聞き込みを開始するべくわくわくに胸を膨らますメリエス様と共にある建物へと向かうのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!
るっち
ファンタジー
土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!
最強魔導師エンペラー
ブレイブ
ファンタジー
魔法が当たり前の世界 魔法学園ではF~ZZにランク分けされており かつて実在したZZクラス1位の最強魔導師エンペラー 彼は突然行方不明になった。そして現在 三代目エンペラーはエンペラーであるが 三代目だけは知らぬ秘密があった
スライム・スレイヤー
1336maeno
ファンタジー
異世界に転生したら、スライムが世界を支配していた。
最弱の魔物のはずのスライムが、ドラゴンを滅ぼし、魔王すらも倒してしまったというのだ。
あらゆる攻撃を無効化するスライムに対し、冒険者はスライムを討伐することができず、怯えた生きていた。
そんな中、不慮の交通事故で死んでしまった16歳の高校生がその世界に転生。
前世で培ったゲーム・アニメ知識を駆使し、難攻不落のスライムを滅ぼす冒険に出る...!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最弱職テイマーに転生したけど、規格外なのはお約束だよね?
ノデミチ
ファンタジー
ゲームをしていたと思われる者達が数十名変死を遂げ、そのゲームは運営諸共消滅する。
彼等は、そのゲーム世界に召喚或いは転生していた。
ゲームの中でもトップ級の実力を持つ騎団『地上の星』。
勇者マーズ。
盾騎士プルート。
魔法戦士ジュピター。
義賊マーキュリー。
大賢者サターン。
精霊使いガイア。
聖女ビーナス。
何者かに勇者召喚の形で、パーティ毎ベルン王国に転送される筈だった。
だが、何か違和感を感じたジュピターは召喚を拒み転生を選択する。
ゲーム内で最弱となっていたテイマー。
魔物が戦う事もあって自身のステータスは転職後軒並みダウンする不遇の存在。
ジュピターはロディと名乗り敢えてテイマーに転職して転生する。最弱職となったロディが連れていたのは、愛玩用と言っても良い魔物=ピクシー。
冒険者ギルドでも嘲笑され、パーティも組めないロディ。その彼がクエストをこなしていく事をギルドは訝しむ。
ロディには秘密がある。
転生者というだけでは無く…。
テイマー物第2弾。
ファンタジーカップ参加の為の新作。
応募に間に合いませんでしたが…。
今迄の作品と似た様な名前や同じ名前がありますが、根本的に違う世界の物語です。
カクヨムでも公開しました。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる