魔王討伐後のゴージャスかつ優雅な生活を邪魔された。俺様一人異世界転移させられるのもなんか癪なので他の奴らも異世界転移に巻き込むことにする

コメッコ

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第2章 ドラゴン襲来編

第41話 子供アッシュ

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「そろそろ着きます。姫様」





天馬の手綱を握るガルドの声が御者席から届き、カレンは確認の為、窓から顔を出して前方の確認をしています。





「ようやく着きましたね」





私がポケットから出した時計を確認すると12時を過ぎた所でした。

王都を出た時は確か9時過ぎだったはずなので、予定通り3時間ほどで着いたようです。



運命の交渉が間近に迫り微かに緊張に包まれていた室内に呑気なアイルの声が響き渡ります。





「もうお昼ですねー。お食事はどうしましょうかー?」





「……村に着いたら食事にしましょう。それくらいの時間はあるでしょう」





何を呑気なと思いつつも、大事な交渉の前にお腹を満たす事も重要だと思って私はそうアイルに返しました。

そんな時、窓から顔を出していたカレンが小さな声で私に声をかけてきました。





「エリシア様」





「どうしました? もうルベリ村は見えますか?」





「村はもう見えていますが、そうではなく……」





村は見えているようですが、カレンが何やら言い淀んでいるので、何か他に見つけたという事でしょう。

私が問い返す前にカレンは更にこう言葉を付け加えます。





「村の前で男の子と女性が見えます」





カレンの言い方からして村に住んでいる親子か少し歳の離れた姉弟と言った感じでしょうか。

別にそんなに驚くようなことではないと思うのですが、カレンの様子がちょっと変です。





「では、その女性にグレイスと言う商店主の家を尋ねましょう。それと食事処の場所も」





「…………」





普通の事を言っただけなのになぜか首を窓の外に出したままのカレンから回答はありません。

代わりと言っていいか分かりませんが私の言葉を聞いていたガルドが馬車の速度を徐々に緩めて数秒後完全に停車しました。

別に停車した事自体、変な事ではないのですが、ガルドは一言も発しないのが少し気になります。





「2人共、どうしました?」





流石に気になって、私も反対側の窓から顔を出し、馬車が進んでいた方向を確認すると、確かにカレンの報告通り、少し離れた所に一人の女性と小さな男の子が立っていてこちらを見ています。



女性の年齢は私と同じか少し上くらいで遠目に見てもかなり整った容姿をしているのが分かります。

髪は金髪で肩より少し下まで伸ばしたロングヘヤーと比較的よく見る髪型です。

服はあまり王都では見かけないデザインのように思えますが、かといって村で売っていそうな安っぱい感じではなく様々な装飾がついた白のワンピース型の衣装です。



男の子の方は多分10歳くらい?

弟がいないのであまり自信はありませんが多分そのくらいでしょう。

こちらは普通によく王都の町中でも見かけそうな男の子です。





「女性の方は村の者にしては少し垢抜けていますね」





正直少しどころではなく、王都の貴族街を歩いていても目立ちそうな容姿ですが、カレンとガルドはあの女性に目を奪われてしまったという事でしょうか?

確かにかなりの美人ですが、カレンやエミュラやアイルだってそれほど負けてはいないと私には思えます。

この3人だって学院時代にはかなりモテていましたから。



すると、私の意図を否定するようにカレンは小さな声で言いました。





「いえ、そちらではなく男の子が……」





「男の子?」





カレンに言われ、男の子の方を再度確認してみますが、やはり王都で見かける子供と何ら変わらないように思えます。

確かに幼い子供特有の可愛らしさはありますが、服装などにも特筆する所もありませんし、わざわざ指摘するまでの外見的特徴はありません。



カレンの言いたい事はよく分かりませんでしたが、このままでは埒が明かないので私は馬車から降りようと立ち上がると、カレンは大きな声を上げました。





「危険です! エリシア様!」





「えっ?」





何が危険なのか分からず、私は戸惑いながらカレンを見ると、その顔は真剣そのものでした。

カレンはアイルとは違い——と言うとアイルに失礼かもしれませんが、冗談を言うような子ではありません。

とりあえず何が危険かも分からないので、私はカレンの次の言葉を待っていると、信じられない事を言い放つのでした。





「あの少年、火を吐きました」





「……え?」





私の聞き間違いでしょうか。



火を吐いた? 意味は分かりますが意味が分かりません。

ドラゴンじゃないのですから人は火なんか吐いたりはしませんよ。





「……カレン、アイルじゃないのですから冗談はやめてください」





「失礼ながら姫様、吐いたのかは別として少年が火の玉を出したところは私も確認致しました。カレン嬢の言った事は事実です」





冗談を言うのはアイルだけでいいと思っていた私に御者席にいたガルドまでそんなことを言い始めます。

そこで私は王宮の間で父上が話していたアッシュが使ったという不思議な力の事を思い出しました。





「……えっ? もしかしてあの小さな男の子がアッシュ?」





窓から確認する限りではどう考えても10歳かそれくらいの男の子にしか私には見えませんが、火の玉を放つなど不思議な力としか言いようがありません。





「あ、あんな小さな男の子にレイと1000人の兵は倒されたというのですか?」





そんな衝撃的な事実に私の頭は混乱し、交渉の事など頭の隅に追いやられそうになっていると、こちらをじっと見つめてアッシュが隣の女性に何か話しかけているのが見えました。



そして、次の瞬間、アッシュが勢いよくこちらに振り返ると同時に大きな声を上げたのです。





「どうしてここが分かった!? 外道共! 師匠の眠りの邪魔はさせません!」





アッシュはそう大きな声を上げると同時に手に持っていた棒のような物をこちらに向けて——。





「ファイヤーボール!」





そう大声を上げたかと思ったら、アッシュは手に持っていた棒の周囲から突然出現した数発の火の玉をこちらに向け勢いよく飛ばしてくるのでした。

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