魔王討伐後のゴージャスかつ優雅な生活を邪魔された。俺様一人異世界転移させられるのもなんか癪なので他の奴らも異世界転移に巻き込むことにする

コメッコ

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第2章 ドラゴン襲来編

第30話 嵐の去った後

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アッシュが去った後の玉座の間では元々いたドレアス王国の重鎮に加え、報告を行ったりそれに対する指示を出された兵士が慌ただしく出入りを続け、普段の荘厳たる雰囲気は見る影もなくなっていた。





「それで人的被害は?」





そんな喧騒の中、玉座の豪華な装飾が施されたひじ掛けに肘をかけて不快そうにそう言ったドレアス王国国王ユーディーンに軍務長官ベルゼスは部下から上がってきた報告に信じられないという衝撃を受けながらもありのままを告げる。





「……王都近辺に待機していたドレアス中央軍1万の内の2000程の騎士、一般兵が今回の戦いで負傷。現在、軍宿舎にて治療中でございます」





たった一人の男が上げた戦果としてはあり得ない数字にユーディーンではなく、傍に控えていた大臣、親衛隊騎士から次々と驚きの声が上がる。

主に「そんな馬鹿な」「報告の誤りではないか」などそういったものだ。



報告を行ったベルゼス自身そうではないかと信じたいが、兵士から上げられた報告に間違いなどなく現に宿舎には入りきらない程の負傷者が溢れかえっている。

短時間で上げさせた報告なので多少の誤差くらいはあるかもしれないが、仮に負傷者が多少過剰報告されていたとしても受ける衝撃の度合いとしては変わる事はないだろう。



正に一騎当千かそれ以上である。

先程までこの場にいたアッシュという男は監視の目を掻い潜ったわけでもなく正面から堂々と立ちはだかった2000人近くの兵を相手に息一つ切らすことなくここまでやってきたということになる。



そんな頭が痛くなるはずの報告だというのにユーディーンに慌てた様子はない。

ユーディーンは不機嫌なのはアッシュが玉座の間を去る際に騎士達に羽交い絞めにされた事に対してであり、むしろベルゼスの報告を興味深そうに聞き入っていた。





「それで2000のうち何人死んだ? 報告がないぞ」





「いえ、それが……」





ユーディーンの問いにベルゼスは口ごもった。

普通であれば負傷者の数に加え、死者の数も併せて報告するのが通例であり、それがなかったのでユーディーンは尋ねたのだが、数が多すぎてまだ把握しきれていないのかとユーディーンは予想する。





「大まかの数でかまわぬ。報告せよ」





ユーディーンがそう促すと、ベルゼスは予想もしていないとんでもない事を口にした。





「0名です。現在のところ死者の報告は入っておりません」





「……なに?」





ユーディーンは玉座の間から出ていないので、外の様子は確認していないが、2000の負傷者という所から考えると、玉座の間を出れば死屍累々の山だったのではないかと予想していた。

実際見た感じはその通りなのだが、兵士一人一人だけを見れば戦闘不能に陥ってはいたものの致命傷といえるケガを負っている者は皆無だったという。





「偶然にしては出来過ぎているな。2000もの兵士を前に殺さず手加減しながらここまでやってきたという事か」





信じられない話だが、結果を見るとそう判断せざる得ない状況にユーディーンは溜息をもらす。

しかも兵士がアッシュの襲来もとい挨拶をユーディーンまで報告を上げてくるのとアッシュがやってくるまでのタイムラグがほとんどなかった。

そこから考えるとルシードとのいざこざがあった現場からユーディーンがいる玉座の間までやってくるまでにアッシュは大した時間もかからなかったということになる。

2000人以上もの兵士相手に死者を出さないように手加減しながらだ。



どう考えても人間業ではない。

レイでももしかしたら2000人の兵士相手でも玉座の間までやってくること自体は可能かもしれないが、死者一人出さず短時間なんてことは絶対にできないとユーディーンは断言できる。





(まるで1吹きで100の人間を焼き尽くすドラゴンのようではないか)





確かにドレアス王国最強の剣聖レイは一騎当千の神獣であるドラゴンを退けたが、それでもレイにはドラゴンのように1吹きのブレスで100の人間を倒すような剣技はない。

いくら強さを極めてドラゴンを超える強さを手に入れたとしてもそれが人間という種族の限界だ。





「あの者は一体わが軍に何をしたのだ?」





ユーディーンはアッシュを脅威に思うと同時に純粋にどうやって短時間にそれだけの戦功を上げたのかに純粋に興味が湧いた。

配下の者達の邪魔が入らなければ、ユーディーンはそれをアッシュに問うつもりだったがもうその機は逸してしまった。





「で、あの者の追跡は?」





「……申し訳ございません。見失ったようです」





「であろうな」





「すぐに捜索隊を組み、ドレアス全土に手配をかけます」





確かに一般的に考えればそれは正しい判断だろうとユーディーンも思うが、すぐにそれをユーディーンは却下する。





「無駄な事はしなくてよい。2000もの兵が瞬く間にやられる相手に発見した数名の兵で対処できるというのか? とはいえ動向は探りたい所だ。大体的な捜索は控えできるだけ秘密裏に行方を追え」





ベルゼスにそう指示を出したユーディーンは玉座に深く座り考えこんだ。





(それにしてもルシードがあそこまで愚かだったか。エンデもエンデで訳の分からん昔話を引っ張り出して場をかき乱しおって……)





喧騒の中、ユーディーンは考えを巡らせ続けるのだった。

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