14 / 43
第1章 異世界転移編
第14話 行く手を阻む者
しおりを挟む
「まさか3000金貨になるとはな。あのクズ石が」
「確かにびっくりね。ていうかあの会長、途中から震えてたわよ。当初の査定価格が1000金貨だったのに最終査定価格が3000金貨ってどういうことよ。絶対足出てるでしょ、アレ」
交渉を終え、商会を後にした俺様達はずっしりと重い革袋を手に町の大通りを歩いていた。
俺様、エメル、セラで1000金貨分の価値がある白金貨を100枚ずつ平等に分け合った。
元々責任者風の中年男(どうやら商会長だったらしい)が最初に俺様に提示した査定価格は100白金貨だったのだが、俺様の巧妙な値上げ術によりなんとその3倍である300白金貨にまで値上げに成功したのである。
確かにエメルの言う通り、それは普通に考えればありえない事だ。
当初の価格が余程低い査定金額だったのならまだ分からなくもないが、あの商会長の様子から見るにそれは多分なかったのだと俺様は率直に思う。
「あの男にはあのクズ石をどうしても手に入れなければならない何らか事情があったのだろうな。まぁそのおかげであんなありえない値上げに成功したわけだがな。ふはは」
気分よく話す俺様とエメルとは対照的にグレイスはなにやらそわそわと、セラはなぜか気分が沈んでいた。
「アンタらよくそんな大金持って平気でいられるな? 併せて300白金貨だぞ! 俺はそんな大金見た事ねぇよ」
そんなことを周囲をキョロキョロと挙動不審に見回すグレイスが小さな声で俺に耳打ちするが、俺様からすればこんな金など1か月の遊興費くらいのものでしかない。
「グレイス、お前のそれは逆に不自然だぞ。もっと堂々としていろ」
「それはそうなんだろうが……」
そんなことを言いつつもグレイスはキョロキョロと周囲への警戒を止める事はできなかった。
今のこいつには恐らく周り全てが盗人に映っているのだろう。
それほどまでに挙動不信感が半端ではない。自分の金ですらないのにな。
まぁどのみちスリだろうが強盗だろうが俺様の持ち物をどうこうできるはずもないので、俺様はなぜか気分が落ち込んでいるセラへと視線を移すとセラは独り言のように呟いていた。
「はぁ、アレックス君にもらった私の宝物が……」
どうやらどこぞの村でもらった只のガキから貰ったネックレスに未だ未練を抱いているらしい。
宝石以外のチェーンの部分は返してもらったのだからエメルに適当な魔石でももらえばそれなりに上等なマジックアイテムになるだろうに何が悲しいのか俺様にはよく分からない。
まぁその内そこらへんのガキに小遣いでも握らせて適当なネックレスでも渡させれば機嫌は治るだろう。
と俺様がそんな事を考えていると。
「おいっ、隠れろ!」
キョロキョロと周囲を見回していたグレイスが何かに気付いたのか俺様達に注意を促すように叫んだ。
「ん? どうした? 町で有名なチンピラでも出たか?」
だが、そんなもので俺様は慌てない。なぜなら俺様は偉大過ぎる勇者だから。
仮にドラゴンが出ようが魔王が出ようが俺様が何かから隠れる事などありえない。
既に大通りの脇にある小さな路地に避難しているグレイスが激しい手招きをしてくるが、とりあえず俺様はそのままの立ち位置でグレイスの話を聞いてやる事にする。
「王子! 王子が来てる!」
「王子?」
俺様はグレイスが指差す方を見ると確かに大通りのかなり向こうから大名行列のような騎士の甲冑を着た集団がやって来ているのが見え、大通りにいた人々もそれに気づいたのかグレイスのように路地から逃げ出す者とその場で道の中央を空け跪く者の2通りに分かれている。
だがそれでも俺様の行動は変わらない。
「王子如きに何を隠れる必要がある?」
何度でも言おう。俺様は偉大過ぎる勇者。
ドラゴンが来ようが魔王が来ようが俺様が逃げ隠れする事などあり得ないのだ。
いつの間にか俺様の手下ども2人もグレイスの忠告通り路地へと避難していて、王子とやらの大名行列からかなり離れているというのに、俺様の付近で大通りのど真ん中に立っているのは俺様ただ一人となっていた。
「さーて、その王子とやらに挨拶してやるとするか」
俺様がそう言って大名行列の方へと歩き出すと、グレイスは真っ青な顔をしながら避難していたはずの路地から飛び出してきた。
「おい! アッシュさん! アンタ正気か!? ルシード王子は自尊心が強い事で有名だ! 殺されてしまうぞ!」
グレイスはそう言って俺の手を路地に引き込もうと力を入れるがもちろんびくともしない。
「ち、力強いな! いいから言う通りにしてくれよ! 恩人のアンタをこんな所で死なせたくないんだ!」
グレイスは必死だった。恐らく自身の危険すら顧みず俺様の事を思っての事だったのだろう。
別に俺様としては隠れる必要はまったくない。まったくないが。
「はぁ、分かった。隠れればいいんだろう。仕方ないな」
そうしてグレイスの手をほどき、俺様が路地へ向かおうとしたその時。
「貴様ぁぁぁ! 恐れ多くもドレアス王国第一王子ルシード殿下の行く手を阻むとは!」
そんな凄まじい怒声が遠く離れた俺達の元まで聞こえてきた。
「確かにびっくりね。ていうかあの会長、途中から震えてたわよ。当初の査定価格が1000金貨だったのに最終査定価格が3000金貨ってどういうことよ。絶対足出てるでしょ、アレ」
交渉を終え、商会を後にした俺様達はずっしりと重い革袋を手に町の大通りを歩いていた。
俺様、エメル、セラで1000金貨分の価値がある白金貨を100枚ずつ平等に分け合った。
元々責任者風の中年男(どうやら商会長だったらしい)が最初に俺様に提示した査定価格は100白金貨だったのだが、俺様の巧妙な値上げ術によりなんとその3倍である300白金貨にまで値上げに成功したのである。
確かにエメルの言う通り、それは普通に考えればありえない事だ。
当初の価格が余程低い査定金額だったのならまだ分からなくもないが、あの商会長の様子から見るにそれは多分なかったのだと俺様は率直に思う。
「あの男にはあのクズ石をどうしても手に入れなければならない何らか事情があったのだろうな。まぁそのおかげであんなありえない値上げに成功したわけだがな。ふはは」
気分よく話す俺様とエメルとは対照的にグレイスはなにやらそわそわと、セラはなぜか気分が沈んでいた。
「アンタらよくそんな大金持って平気でいられるな? 併せて300白金貨だぞ! 俺はそんな大金見た事ねぇよ」
そんなことを周囲をキョロキョロと挙動不審に見回すグレイスが小さな声で俺に耳打ちするが、俺様からすればこんな金など1か月の遊興費くらいのものでしかない。
「グレイス、お前のそれは逆に不自然だぞ。もっと堂々としていろ」
「それはそうなんだろうが……」
そんなことを言いつつもグレイスはキョロキョロと周囲への警戒を止める事はできなかった。
今のこいつには恐らく周り全てが盗人に映っているのだろう。
それほどまでに挙動不信感が半端ではない。自分の金ですらないのにな。
まぁどのみちスリだろうが強盗だろうが俺様の持ち物をどうこうできるはずもないので、俺様はなぜか気分が落ち込んでいるセラへと視線を移すとセラは独り言のように呟いていた。
「はぁ、アレックス君にもらった私の宝物が……」
どうやらどこぞの村でもらった只のガキから貰ったネックレスに未だ未練を抱いているらしい。
宝石以外のチェーンの部分は返してもらったのだからエメルに適当な魔石でももらえばそれなりに上等なマジックアイテムになるだろうに何が悲しいのか俺様にはよく分からない。
まぁその内そこらへんのガキに小遣いでも握らせて適当なネックレスでも渡させれば機嫌は治るだろう。
と俺様がそんな事を考えていると。
「おいっ、隠れろ!」
キョロキョロと周囲を見回していたグレイスが何かに気付いたのか俺様達に注意を促すように叫んだ。
「ん? どうした? 町で有名なチンピラでも出たか?」
だが、そんなもので俺様は慌てない。なぜなら俺様は偉大過ぎる勇者だから。
仮にドラゴンが出ようが魔王が出ようが俺様が何かから隠れる事などありえない。
既に大通りの脇にある小さな路地に避難しているグレイスが激しい手招きをしてくるが、とりあえず俺様はそのままの立ち位置でグレイスの話を聞いてやる事にする。
「王子! 王子が来てる!」
「王子?」
俺様はグレイスが指差す方を見ると確かに大通りのかなり向こうから大名行列のような騎士の甲冑を着た集団がやって来ているのが見え、大通りにいた人々もそれに気づいたのかグレイスのように路地から逃げ出す者とその場で道の中央を空け跪く者の2通りに分かれている。
だがそれでも俺様の行動は変わらない。
「王子如きに何を隠れる必要がある?」
何度でも言おう。俺様は偉大過ぎる勇者。
ドラゴンが来ようが魔王が来ようが俺様が逃げ隠れする事などあり得ないのだ。
いつの間にか俺様の手下ども2人もグレイスの忠告通り路地へと避難していて、王子とやらの大名行列からかなり離れているというのに、俺様の付近で大通りのど真ん中に立っているのは俺様ただ一人となっていた。
「さーて、その王子とやらに挨拶してやるとするか」
俺様がそう言って大名行列の方へと歩き出すと、グレイスは真っ青な顔をしながら避難していたはずの路地から飛び出してきた。
「おい! アッシュさん! アンタ正気か!? ルシード王子は自尊心が強い事で有名だ! 殺されてしまうぞ!」
グレイスはそう言って俺の手を路地に引き込もうと力を入れるがもちろんびくともしない。
「ち、力強いな! いいから言う通りにしてくれよ! 恩人のアンタをこんな所で死なせたくないんだ!」
グレイスは必死だった。恐らく自身の危険すら顧みず俺様の事を思っての事だったのだろう。
別に俺様としては隠れる必要はまったくない。まったくないが。
「はぁ、分かった。隠れればいいんだろう。仕方ないな」
そうしてグレイスの手をほどき、俺様が路地へ向かおうとしたその時。
「貴様ぁぁぁ! 恐れ多くもドレアス王国第一王子ルシード殿下の行く手を阻むとは!」
そんな凄まじい怒声が遠く離れた俺達の元まで聞こえてきた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる