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第1章 異世界転移編

第14話 行く手を阻む者

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「まさか3000金貨になるとはな。あのクズ石が」


「確かにびっくりね。ていうかあの会長、途中から震えてたわよ。当初の査定価格が1000金貨だったのに最終査定価格が3000金貨ってどういうことよ。絶対足出てるでしょ、アレ」


交渉を終え、商会を後にした俺様達はずっしりと重い革袋を手に町の大通りを歩いていた。

俺様、エメル、セラで1000金貨分の価値がある白金貨を100枚ずつ平等に分け合った。
元々責任者風の中年男(どうやら商会長だったらしい)が最初に俺様に提示した査定価格は100白金貨だったのだが、俺様の巧妙な値上げ術によりなんとその3倍である300白金貨にまで値上げに成功したのである。

確かにエメルの言う通り、それは普通に考えればありえない事だ。
当初の価格が余程低い査定金額だったのならまだ分からなくもないが、あの商会長の様子から見るにそれは多分なかったのだと俺様は率直に思う。


「あの男にはあのクズ石をどうしても手に入れなければならない何らか事情があったのだろうな。まぁそのおかげであんなありえない値上げに成功したわけだがな。ふはは」

気分よく話す俺様とエメルとは対照的にグレイスはなにやらそわそわと、セラはなぜか気分が沈んでいた。


「アンタらよくそんな大金持って平気でいられるな? 併せて300白金貨だぞ! 俺はそんな大金見た事ねぇよ」


そんなことを周囲をキョロキョロと挙動不審に見回すグレイスが小さな声で俺に耳打ちするが、俺様からすればこんな金など1か月の遊興費くらいのものでしかない。


「グレイス、お前のそれは逆に不自然だぞ。もっと堂々としていろ」


「それはそうなんだろうが……」


そんなことを言いつつもグレイスはキョロキョロと周囲への警戒を止める事はできなかった。
今のこいつには恐らく周り全てが盗人に映っているのだろう。
それほどまでに挙動不信感が半端ではない。自分の金ですらないのにな。

まぁどのみちスリだろうが強盗だろうが俺様の持ち物をどうこうできるはずもないので、俺様はなぜか気分が落ち込んでいるセラへと視線を移すとセラは独り言のように呟いていた。


「はぁ、アレックス君にもらった私の宝物が……」


どうやらどこぞの村でもらった只のガキから貰ったネックレスに未だ未練を抱いているらしい。
宝石以外のチェーンの部分は返してもらったのだからエメルに適当な魔石でももらえばそれなりに上等なマジックアイテムになるだろうに何が悲しいのか俺様にはよく分からない。


まぁその内そこらへんのガキに小遣いでも握らせて適当なネックレスでも渡させれば機嫌は治るだろう。
と俺様がそんな事を考えていると。


「おいっ、隠れろ!」


キョロキョロと周囲を見回していたグレイスが何かに気付いたのか俺様達に注意を促すように叫んだ。


「ん? どうした? 町で有名なチンピラでも出たか?」


だが、そんなもので俺様は慌てない。なぜなら俺様は偉大過ぎる勇者だから。
仮にドラゴンが出ようが魔王が出ようが俺様が何かから隠れる事などありえない。


既に大通りの脇にある小さな路地に避難しているグレイスが激しい手招きをしてくるが、とりあえず俺様はそのままの立ち位置でグレイスの話を聞いてやる事にする。


「王子! 王子が来てる!」


「王子?」


俺様はグレイスが指差す方を見ると確かに大通りのかなり向こうから大名行列のような騎士の甲冑を着た集団がやって来ているのが見え、大通りにいた人々もそれに気づいたのかグレイスのように路地から逃げ出す者とその場で道の中央を空け跪く者の2通りに分かれている。
だがそれでも俺様の行動は変わらない。


「王子如きに何を隠れる必要がある?」


何度でも言おう。俺様は偉大過ぎる勇者。
ドラゴンが来ようが魔王が来ようが俺様が逃げ隠れする事などあり得ないのだ。


いつの間にか俺様の手下ども2人もグレイスの忠告通り路地へと避難していて、王子とやらの大名行列からかなり離れているというのに、俺様の付近で大通りのど真ん中に立っているのは俺様ただ一人となっていた。


「さーて、その王子とやらに挨拶してやるとするか」


俺様がそう言って大名行列の方へと歩き出すと、グレイスは真っ青な顔をしながら避難していたはずの路地から飛び出してきた。


「おい! アッシュさん! アンタ正気か!? ルシード王子は自尊心が強い事で有名だ! 殺されてしまうぞ!」


グレイスはそう言って俺の手を路地に引き込もうと力を入れるがもちろんびくともしない。


「ち、力強いな! いいから言う通りにしてくれよ! 恩人のアンタをこんな所で死なせたくないんだ!」


グレイスは必死だった。恐らく自身の危険すら顧みず俺様の事を思っての事だったのだろう。
別に俺様としては隠れる必要はまったくない。まったくないが。


「はぁ、分かった。隠れればいいんだろう。仕方ないな」


そうしてグレイスの手をほどき、俺様が路地へ向かおうとしたその時。


「貴様ぁぁぁ! 恐れ多くもドレアス王国第一王子ルシード殿下の行く手を阻むとは!」


そんな凄まじい怒声が遠く離れた俺達の元まで聞こえてきた。
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