ニート転生 ~元社畜はもう絶対に働きたくない~

コメッコ

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第11話 聖鎧勇者

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「って、おいっ! 助けないのか!?」


そんな声に俺が振り返ると、見事な銀色のフルプレートアーマーを着た男が立っていた。

俺が返答に困っていると、フルプレートアーマーの男は俺の前までやってきて俺に向かって更に問いかけた。


「あの流れは君が少女を救うという展開だっただろう? なぜ助けてやらない?」


「いや、流れとか展開とか言われましても……」


漫画とかラノベの読み過ぎでは?

いや、俺も結構好きだったけど、現実にまで持ち込んでくるやつは初めて見たよ。

俺はそんな事を思いつつ、ふと男と少女の方を見ると少女の方はポカンとした表情で鎧男を見ていたが、男はなぜか鎧男を凝視したまま驚きの表情で固まっていた。


(おいおいっ、さっきまでの威勢はどうした? さっさと100金貨がどうたらのくだりを聞かせてこの中二病鎧男を黙らせてくれよ)


なぜか俺が内心で男を応援していると、男が呟くように口を開いた。


「……せ、聖鎧勇者」


「……は?」


えっ? この男が聖鎧勇者? マジ?

確かに高そうな鎧着てるし、この街に来ているって宿屋のおっさんが言ってたけどこんなに速攻でエンカウントしちゃうもん?

ていうか思いっきり顔見られちゃってますけど俺? 大丈夫なの?

だが、そんな心配を他所に俺と向き合っていた聖鎧勇者は「はぁ……」とため息を吐いた後、頭がアレな上司もどき男へと向き直った。


「おいっ、そこの男! 一部始終を見ていたぞ!」


聖鎧勇者の迫力のある声に一瞬ビクッとした頭がアレな上司もどき男だったが、すぐに冷静さを取り戻したのか聖鎧勇者に媚び始める。


「そ、そうなんですよぉ~。この男が私の所有物であるこの奴隷を10金貨で売れって無茶を言うもので困っていたんですよぉ~」


先程の俺に対する態度とは大違いである。

正にあの頭のアレな上司の平社員への罵倒と会社役員への媚び売りくらいの差だ。

ていうか俺、「話はなかったことで」って言ったよね?

それ聞いてニヤって笑み浮べてたじゃん。全く困ってなかったよね?

すると、男の頭のおかしい言い分を聞いた聖鎧勇者は男の更に上を行くとんでもない事を言い出した。


「そうか、ならば10金貨で売ればいい」


「はっ? いや、こいつは半魔人の奴隷で相場が100金貨はするのですが?」


「知っている。一部始終を見ていたと言っただろう。この冒険者は10金貨なら払えると言った。ならば10金貨で取引は成立だ。何か問題はあるか?」


凄い理屈である。

逆になんで問題がないと思ったのか俺にすら理解できない。

すると、やっぱり問題ありすぎだったのか流石の頭のアレな媚び売り上司もどき男もプルプルと震えた後、聖鎧勇者に向かって叫んだ。


「だ、黙って聞いてりゃ、言いたい事ばかり言いやがってぇ! 今度の聖鎧勇者は頭がイカレてやがんのかぁー! 誰が10金貨如きでこいつを手放すかぁー! 冒険者風情が!」


(おぉ、見事な化けの剥がれっぷり。でもあのイカレ上司だったらこれくらいではキレなかっただろうな。アレは媚売りだけなら世界を取れる逸材だったからな)


ある意味で本当の頭なアレな上司と頭のアレな上司もどき男の格の違いを見れたような気がした。


まぁそれはさておき。

聖鎧勇者は頭のアレな男の変貌ぶりにも大した動揺も見せずに男に向けてはっきりと告げた。


「そうか、理解できなかったか。それでお前の違法行為を見逃してやろうと言ったのが。奴隷に対する暴行は王国の法で禁じられている。それに恐らくだが、少女に休養日を与えていないな。それに労働時間と労働強度も基準から逸脱しているだろう」


えっ? そんなのあんの?

ていうか詳しすぎない? アンタ労働監督官じゃなくて勇者だよね?

すると、図星だったのか頭がアレな上司もどき男は開き直ったかのように更に喚き散らす。


「あぁ!? あんな最近できたばかりの法なんざ知るかよ! 昔からこの街を治めている領主と俺達は仲が良いんだ。あんな形だけの労働監督所に言ったって無駄だぜ」


(なるほど、つまり賄賂やらなんやらで役所とはズブズブなのね。確かにそれは手ごわそうだ)

俺がそんな事を思っていると男の開き直りを見た聖鎧勇者は溜息を吐き呟いた。


「そうか、私の願いは形だけの物として王国全土に伝わっていたのか。後日釘を刺しておくとしよう」


「何わけの分からない事を抜かしてやがる!」


男はもう後には引けないとばかりに聖鎧勇者にそう言うと、聖鎧勇者は男に憐れむように見た。


「ところでお前はなぜギルザール帝国が王国に攻め込んで来ないかを知っているか?」


ギルザール帝国とはこのブランフール王国の隣接する軍事国家である。

ブランフール王国とギルザール帝国は長きに渡って領土問題により犬猿の仲だったが、俺がこのバリエスタにやってきていた100年前頃は魔王軍の存在があったおかげか大きな戦いはなかったと聞いた事がある。

すると俺の予想通り頭のアレな上司もどき男はこう答えた。


「魔王軍がいるからだろ? 人間同士で争っている場合じゃないってこった」


「確かにそういう理由もなくはない。だが、人間というものは見えない敵の事なんて数十年もすれば忘れてしまうのさ。100年前に勇者ハルト様が魔王軍四天王筆頭ゼストを倒して以来魔王軍の動きはほとんど見られなくなったそのたった10年後の事だった。ギルザール帝国がこのブランフール王国に突如攻め入ってきたのさ」


聖鎧勇者の言葉を聞いて俺は90年前の事思い出そうとしてみたが、そもそもこの100年ブランフール王国とギルザール帝国が大きな戦争を行った事すら聞いた事がなかった。

俺がド田舎に住んでいたからそんな話が聞こえてこなかったのかと思っていると、頭がアレな上司もどき男が喚き叫んだ。


「嘘を吐くな! 帝国が攻めてきたなんて話など聞いた事ないぞ!」


頭がアレな上司もどき男の喚き声を見た聖鎧勇者が溜息を吐く。


「何がおかしい!」


「あぁ、すまない。一市民のお前が知らないのも無理はないな。先程は攻め入ってきたと言ったが、実際ギルザール帝国軍は一歩たりともプランフールの地を踏むことなく領土侵略は失敗に終わったのさ。だがそれも当然の話だろう? 勇者ハルト様が愛したこの王国を蹂躙されるのを初代聖鎧勇者が黙って見ているわけがなかったのだからな」
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