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4.サマースクール
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その翌朝、その日の仕事に取りかかろうとしたロジィをイーサンが呼び止めた。
そして、ロジィにイーサンと同じ執事服を渡し、それに着替えさせた。
初めて着るパリッと糊の利いているシャツは、少しきゅつくつにも思えた。
また、硬い靴に履き替えたため足先とかかとが痛い。
そんな様子のロジィにはお構いなしに、イーサンは付いて来いとばかりにスタスタと歩き出した。
慌ててロジィがそのあとを追いかける。
イーサンは、1つの扉の前で止まり、扉をノックして中に入った。
あまり物のないわりとさっぱりとした部屋の中心にダニエルが立っている。
ダニエルは、ロジィの姿を目に捉えると少し口元をほころばせた。
今日からロジィは、ダニエルの世話全般を任せられることになった。
ダニエルの身の回りの事は、今までこの屋敷での様々な多種多様の仕事をこなしていたことが、大いに役立った。
また、学問はダニエルと共に学ぶことを許された。
ダニエルには専門の家庭教師が何人かいる。
ダニエルの学びはなかなか高度で、たくさんの国の言語を学び、また、歩兵術などロジィには今まで縁のない事柄も共に学ぶことになった。
最初のうちはほとんど学問に付いていけなかったが、元々、何かを身に付けること学ぶことが好きなたちのロジィは徐々にその難しい学問にもついて行けるようになった。
この時代、多くの貴族は子供を寄宿学校に入れさせた。
しかし、どの時代も閉鎖的な空間にいると人と、いう者はグループを作り力を誇示しようとする者が出てくる。
ダニエルの父の侯爵は、自分の寄宿学校時代のそんな嫌な思い出があったため、寄宿学校には子供たちを入れさせたくないと考え、自分の息子には家庭教師を付けた。
そして、その時の寄宿学校時代の経験からこの屋敷に住む者は、皆、それぞれの役割を尊重し、お互いを思いやることを主に置いた。
数日が過ぎ、ここしばらくダニエルに仕えていると1つ分かったことがあった。
ダニエルは無愛想というわけではなく、ただ人見知りだったと言うこと。
一度心を開くとよく笑顔を見せてくれ、かなり親しみを感じることができた。
ある日、こんなことがあった。
「ロジィ」
「はい、何でしょう、ダニエル様」
ごく普通に返事をしたはずだったが、ダニエルは無言でしばらくロジィを見ている。
「…?どうされましたか?ダニエル様?」
ダニエルは深く1つ大きなため息をつき言った。
「その、『ダニエル』と言うのを止めないか?僕と父様が同じ名前だろ、何か『ダニエル』と呼ばれると、どっちを呼んでいるのか…」
「…?私は旦那のことを『ダニエル様』とは呼びませんよ?」
意味がわからず、ロジィは眉間にシワを寄せる。
「ほら、母様が僕を呼ぶ時みたいに『ダニー』とか『ダン』て呼ぶとかさ、そんな風に呼ばないか?」
少し、照れくさそうにダニエルが言ったが…。
ひるむことなくロジィは言った。
「いいえ、ダニエル様はダニエル様です。それこそ、今おっしゃったように『ダニー様』とか『ダン様』に変えますと、他の人の名前を呼んでいるみたいです。今さら呼び方を変えたくないです」
しばらく、にらみ合いのような沈黙が続いた。
先に折れたのはダニエルだった。
「はぁ、お前も頑固だなぁ、良いよ、好きにすれば」
「はい、ダニエル様」
ロジィがにっこりと微笑んだ。
それからまた月日は流れ、ロジィは15歳になった。
ダニエルもロジィもまだまだ背丈は低く5.4フィート(160㎝)、これから伸び代があるようだ。
季節は夏、ダニエルが自分の部屋の窓に寄りかかり、憂鬱そうに外を見ている。
ロジィはダニエルのその表情の原因を知っている。
毎年、世間一般の学校が夏休みになるこの季節になると、貴族の子供たちを集めたサマースクールが開催される。
年ごとに各貴族が順に主催者となり、このイベントを行う。
そこでは約2週間ほど避暑地の施設に宿泊し、学問を学ぶ。
だいたい12歳から18歳ほどの貴族の子供が参加する。
ダニエルは寄宿学校に行っていない分、貴族間での交流・人脈を作るためにサマースクールには参加を毎年させられていた。
しかしながら、たった2週間とは言ってもそこは多くの甘やかされた貴族の子供たちが参加をする。
侯爵が嫌う『力を誇示しようとする者』がやはりいるのだ。
ダニエルは、その者達と2週間も一緒に過ごさなければいけないことが憂鬱なのだ。
もちろん、このサマースクールには、ロジィも同伴する。
多くの貴族は自分の身の回りの世話をする者を連れてくる。
初めてダニエルのロジィがサマースクールに参加した年、使用人の中では一番年少であるロジィをからかう輩も当然いた。
ダニエルもロジィもできるだけ相手をしないようにはしていたのだが…。
「あぁ、面倒くさい!」
ダニエルが大きなため息をついた。
「仕方ありませんよ。こればかりは。一緒に耐えましょう」
ロジィは、少し困った顔をしながらも穏やかにダニエルをなだめた。
数日後、2人はサマースクールが開催される湖のほとりに建てられた2階建ての木造の学校に来た。
避暑地とは言っても夏は暑い。
教室の窓を全開にして、何とか暑さをしのぎながら子供たちは授業を受けていた。
ロジィたちお付きの者は、その教室の後ろでまるで参観日の保護者のように自分の主人が学ぶ姿を黙って見ていた。
初めて2人が参加したときには小さな執事見習いをからかう者がいたが、予想以上にロジィがダニエルの世話をスムーズにこなし、他のお付きの者とも仲良くしていたので、今はもうロジィちにょっかいを出す者はいなかった。
ただ1人、スティーブンを除いては。
彼は、王族に近い血筋の貴族の嫡子で、何かにつけては自分の血筋を自慢し、多くの子分(その他の貴族の子供)を従えていた。
休み時間、ダニエルは窓辺で1人本を読んでいた。そのそばで、ロジィはダニエルの邪魔をしないように黙って立っていた。
教室の前方で、ひときわ下品な笑い声を響かすスティーブン以外は、皆各々の休み時間を静かに過ごしている。
ダニエルもこのスティーブンには再再ちょっかいを出されていたが、どんな時でもあまり表情を変えず、反応もほとんどしなかったので、スティーブンからは〈つまらないやつ〉という部類に分類され、最近はあまり干渉してこなくなっていた。
スティーブンは、暑さでイライラも出てきたのか、誰かをからかってストレス発散しているようだ。そして、たまたま、その時にそばを歩いていたメガネをかけた小柄な少年の足を引っ掛けた。
その少年はふいの衝撃にふらつき、スティーブンの取り巻きの一人にぶつかってしまった。
ここぞとばかりにスティーブンが言い寄ってきた。
「おいおい、俺の大切な友人になんて事してくれるんだよ」
完璧な言いがかりだ。
少年はどうしていいのか分からずにオドオドしている。
ロジィはそれを見てどうにかしたいと思ったが、自分の勝手な行動でダニエルに迷惑がかかってはいけないと思い、踏みとどまった。
一方、ダニエルは、特に関心を示さず、本を読み続けている。
なおもスティーブンは少年に脅しをかける。
「おい!何とか言えよ!」
そう言うと同時に少年の肩をドンと押した。
弾みで少年のメガネがロジィの足元まで転がってきた。
ロジィはだんだん腹が立ってきた。そして、足元に転がってきたそのメガネを拾
い上げようと手を伸ばすが…。
その横から別の手がメガネを拾い上げた。
「ダニエル様?」
メガネを拾い上げたのは、先ほどまで本を読み、我関せずだったダニエルだ。
ダニエルは、視線でロジィに動かないようにと合図し、自分はつかつかとスティーブンの所に歩いて行った。
そして、周りには目もくれず倒れている少年を抱き起こし、メガネを渡した。
「おい!勝手な事するな!」
スティーブンが、ドスの利いた声で怒鳴る。
しかしダニエルは、全く表情を変えることなく、
「ぶつかったことは謝ります。彼とは先約があったので(嘘です)、僕の方からしっかりと注意をしておきますので」
ひるむことなくダニエルはスティーブンの目をしっかりと見て言った。
その堂々としたダニエルの態度にスティーブンは一瞬たじろいたが、すぐに気を取り直し、今度はダニエルの胸ぐらを掴んだ。
「何だ、その態度は!」
「一応、謝罪をしていますけど?それに、今回この者が躓いたのもそちらの長い足のせいでもありますし…」
「屁理屈言うな!」
スティーブンは右腕を大きく振りかぶった!
ダニエルは、(多少痛いだろうがガマンしないとな、あぁ、面倒なことに手を出しちゃったな)などと思いながら痛みに耐える覚悟をし、目をつむった。
ガッ!!
「…?」
何かを殴ったような音と机に何かがぶつかる音が聞こえたが、自分に痛みは感じられない。
おかしい?と思い目を開けると、ロジィがダニエルの代わりに殴られ、目の前にうずくまっていた。
「ロジィ!」
ダニエルが慌ててロジィの方を起こす。
「…大丈夫です」
キッと、ダニエルはスティーブンを睨みつけ、今にも飛びかかろうと!
ロジィは、そんなダニエルの腕を必死に掴んだ!
そこへ、
「何を騒いでいるのです!」
先生が、タイミングが良いのか悪いのか教室に入ってきた。
とりあえず、大乱闘にはならなかった。
「大丈夫?」
先ほど、ダニエルが庇った少年がロジィの顔をのぞき込む。
「大丈夫です」
痛みはあったが、それを隠すようにロジィは微笑んだ。
「…血が出てる。ちょっと待ってて」
そう言うと、その少年のお付きの者に何かの箱を持ってこさせた。
救急キットだ。
少年は、慣れた手つきでロジィを手当てした。
「ありがとうございます」
ロジィがお礼を言う。
「手当て上手いな、ありがとう」
その様子を見ていたダニエルも同じようにお礼を言った。
「とんでもない!!お礼は僕の方が言わないといけません!!本当に、本当にありがとうございます!」
少年は、有名な軍医者の息子で名前をマシューと言った。
それからダニエルとロジィはよくマシューと話すようになった。
彼はなかなかの博識で、見た目はひ弱そうだが、医学のことになると眼を輝かせ、同じ人物とは思えないくらい頼もしさが感じられた。
「何かあるときは、必ずお二人の力になります。いえ、ならせて下さいね!」
「その時は、頼むよ」
そう意気込むマシューの肩を嬉しそうに叩きながらダニエルが言った。
その後、こってり先生に怒られたスティーブンはすっかり大人しくなった。
残りの数日間は、穏やかに日にちが過ぎ、無事にサマースクールを終えることが出来た。
そして、ロジィにイーサンと同じ執事服を渡し、それに着替えさせた。
初めて着るパリッと糊の利いているシャツは、少しきゅつくつにも思えた。
また、硬い靴に履き替えたため足先とかかとが痛い。
そんな様子のロジィにはお構いなしに、イーサンは付いて来いとばかりにスタスタと歩き出した。
慌ててロジィがそのあとを追いかける。
イーサンは、1つの扉の前で止まり、扉をノックして中に入った。
あまり物のないわりとさっぱりとした部屋の中心にダニエルが立っている。
ダニエルは、ロジィの姿を目に捉えると少し口元をほころばせた。
今日からロジィは、ダニエルの世話全般を任せられることになった。
ダニエルの身の回りの事は、今までこの屋敷での様々な多種多様の仕事をこなしていたことが、大いに役立った。
また、学問はダニエルと共に学ぶことを許された。
ダニエルには専門の家庭教師が何人かいる。
ダニエルの学びはなかなか高度で、たくさんの国の言語を学び、また、歩兵術などロジィには今まで縁のない事柄も共に学ぶことになった。
最初のうちはほとんど学問に付いていけなかったが、元々、何かを身に付けること学ぶことが好きなたちのロジィは徐々にその難しい学問にもついて行けるようになった。
この時代、多くの貴族は子供を寄宿学校に入れさせた。
しかし、どの時代も閉鎖的な空間にいると人と、いう者はグループを作り力を誇示しようとする者が出てくる。
ダニエルの父の侯爵は、自分の寄宿学校時代のそんな嫌な思い出があったため、寄宿学校には子供たちを入れさせたくないと考え、自分の息子には家庭教師を付けた。
そして、その時の寄宿学校時代の経験からこの屋敷に住む者は、皆、それぞれの役割を尊重し、お互いを思いやることを主に置いた。
数日が過ぎ、ここしばらくダニエルに仕えていると1つ分かったことがあった。
ダニエルは無愛想というわけではなく、ただ人見知りだったと言うこと。
一度心を開くとよく笑顔を見せてくれ、かなり親しみを感じることができた。
ある日、こんなことがあった。
「ロジィ」
「はい、何でしょう、ダニエル様」
ごく普通に返事をしたはずだったが、ダニエルは無言でしばらくロジィを見ている。
「…?どうされましたか?ダニエル様?」
ダニエルは深く1つ大きなため息をつき言った。
「その、『ダニエル』と言うのを止めないか?僕と父様が同じ名前だろ、何か『ダニエル』と呼ばれると、どっちを呼んでいるのか…」
「…?私は旦那のことを『ダニエル様』とは呼びませんよ?」
意味がわからず、ロジィは眉間にシワを寄せる。
「ほら、母様が僕を呼ぶ時みたいに『ダニー』とか『ダン』て呼ぶとかさ、そんな風に呼ばないか?」
少し、照れくさそうにダニエルが言ったが…。
ひるむことなくロジィは言った。
「いいえ、ダニエル様はダニエル様です。それこそ、今おっしゃったように『ダニー様』とか『ダン様』に変えますと、他の人の名前を呼んでいるみたいです。今さら呼び方を変えたくないです」
しばらく、にらみ合いのような沈黙が続いた。
先に折れたのはダニエルだった。
「はぁ、お前も頑固だなぁ、良いよ、好きにすれば」
「はい、ダニエル様」
ロジィがにっこりと微笑んだ。
それからまた月日は流れ、ロジィは15歳になった。
ダニエルもロジィもまだまだ背丈は低く5.4フィート(160㎝)、これから伸び代があるようだ。
季節は夏、ダニエルが自分の部屋の窓に寄りかかり、憂鬱そうに外を見ている。
ロジィはダニエルのその表情の原因を知っている。
毎年、世間一般の学校が夏休みになるこの季節になると、貴族の子供たちを集めたサマースクールが開催される。
年ごとに各貴族が順に主催者となり、このイベントを行う。
そこでは約2週間ほど避暑地の施設に宿泊し、学問を学ぶ。
だいたい12歳から18歳ほどの貴族の子供が参加する。
ダニエルは寄宿学校に行っていない分、貴族間での交流・人脈を作るためにサマースクールには参加を毎年させられていた。
しかしながら、たった2週間とは言ってもそこは多くの甘やかされた貴族の子供たちが参加をする。
侯爵が嫌う『力を誇示しようとする者』がやはりいるのだ。
ダニエルは、その者達と2週間も一緒に過ごさなければいけないことが憂鬱なのだ。
もちろん、このサマースクールには、ロジィも同伴する。
多くの貴族は自分の身の回りの世話をする者を連れてくる。
初めてダニエルのロジィがサマースクールに参加した年、使用人の中では一番年少であるロジィをからかう輩も当然いた。
ダニエルもロジィもできるだけ相手をしないようにはしていたのだが…。
「あぁ、面倒くさい!」
ダニエルが大きなため息をついた。
「仕方ありませんよ。こればかりは。一緒に耐えましょう」
ロジィは、少し困った顔をしながらも穏やかにダニエルをなだめた。
数日後、2人はサマースクールが開催される湖のほとりに建てられた2階建ての木造の学校に来た。
避暑地とは言っても夏は暑い。
教室の窓を全開にして、何とか暑さをしのぎながら子供たちは授業を受けていた。
ロジィたちお付きの者は、その教室の後ろでまるで参観日の保護者のように自分の主人が学ぶ姿を黙って見ていた。
初めて2人が参加したときには小さな執事見習いをからかう者がいたが、予想以上にロジィがダニエルの世話をスムーズにこなし、他のお付きの者とも仲良くしていたので、今はもうロジィちにょっかいを出す者はいなかった。
ただ1人、スティーブンを除いては。
彼は、王族に近い血筋の貴族の嫡子で、何かにつけては自分の血筋を自慢し、多くの子分(その他の貴族の子供)を従えていた。
休み時間、ダニエルは窓辺で1人本を読んでいた。そのそばで、ロジィはダニエルの邪魔をしないように黙って立っていた。
教室の前方で、ひときわ下品な笑い声を響かすスティーブン以外は、皆各々の休み時間を静かに過ごしている。
ダニエルもこのスティーブンには再再ちょっかいを出されていたが、どんな時でもあまり表情を変えず、反応もほとんどしなかったので、スティーブンからは〈つまらないやつ〉という部類に分類され、最近はあまり干渉してこなくなっていた。
スティーブンは、暑さでイライラも出てきたのか、誰かをからかってストレス発散しているようだ。そして、たまたま、その時にそばを歩いていたメガネをかけた小柄な少年の足を引っ掛けた。
その少年はふいの衝撃にふらつき、スティーブンの取り巻きの一人にぶつかってしまった。
ここぞとばかりにスティーブンが言い寄ってきた。
「おいおい、俺の大切な友人になんて事してくれるんだよ」
完璧な言いがかりだ。
少年はどうしていいのか分からずにオドオドしている。
ロジィはそれを見てどうにかしたいと思ったが、自分の勝手な行動でダニエルに迷惑がかかってはいけないと思い、踏みとどまった。
一方、ダニエルは、特に関心を示さず、本を読み続けている。
なおもスティーブンは少年に脅しをかける。
「おい!何とか言えよ!」
そう言うと同時に少年の肩をドンと押した。
弾みで少年のメガネがロジィの足元まで転がってきた。
ロジィはだんだん腹が立ってきた。そして、足元に転がってきたそのメガネを拾
い上げようと手を伸ばすが…。
その横から別の手がメガネを拾い上げた。
「ダニエル様?」
メガネを拾い上げたのは、先ほどまで本を読み、我関せずだったダニエルだ。
ダニエルは、視線でロジィに動かないようにと合図し、自分はつかつかとスティーブンの所に歩いて行った。
そして、周りには目もくれず倒れている少年を抱き起こし、メガネを渡した。
「おい!勝手な事するな!」
スティーブンが、ドスの利いた声で怒鳴る。
しかしダニエルは、全く表情を変えることなく、
「ぶつかったことは謝ります。彼とは先約があったので(嘘です)、僕の方からしっかりと注意をしておきますので」
ひるむことなくダニエルはスティーブンの目をしっかりと見て言った。
その堂々としたダニエルの態度にスティーブンは一瞬たじろいたが、すぐに気を取り直し、今度はダニエルの胸ぐらを掴んだ。
「何だ、その態度は!」
「一応、謝罪をしていますけど?それに、今回この者が躓いたのもそちらの長い足のせいでもありますし…」
「屁理屈言うな!」
スティーブンは右腕を大きく振りかぶった!
ダニエルは、(多少痛いだろうがガマンしないとな、あぁ、面倒なことに手を出しちゃったな)などと思いながら痛みに耐える覚悟をし、目をつむった。
ガッ!!
「…?」
何かを殴ったような音と机に何かがぶつかる音が聞こえたが、自分に痛みは感じられない。
おかしい?と思い目を開けると、ロジィがダニエルの代わりに殴られ、目の前にうずくまっていた。
「ロジィ!」
ダニエルが慌ててロジィの方を起こす。
「…大丈夫です」
キッと、ダニエルはスティーブンを睨みつけ、今にも飛びかかろうと!
ロジィは、そんなダニエルの腕を必死に掴んだ!
そこへ、
「何を騒いでいるのです!」
先生が、タイミングが良いのか悪いのか教室に入ってきた。
とりあえず、大乱闘にはならなかった。
「大丈夫?」
先ほど、ダニエルが庇った少年がロジィの顔をのぞき込む。
「大丈夫です」
痛みはあったが、それを隠すようにロジィは微笑んだ。
「…血が出てる。ちょっと待ってて」
そう言うと、その少年のお付きの者に何かの箱を持ってこさせた。
救急キットだ。
少年は、慣れた手つきでロジィを手当てした。
「ありがとうございます」
ロジィがお礼を言う。
「手当て上手いな、ありがとう」
その様子を見ていたダニエルも同じようにお礼を言った。
「とんでもない!!お礼は僕の方が言わないといけません!!本当に、本当にありがとうございます!」
少年は、有名な軍医者の息子で名前をマシューと言った。
それからダニエルとロジィはよくマシューと話すようになった。
彼はなかなかの博識で、見た目はひ弱そうだが、医学のことになると眼を輝かせ、同じ人物とは思えないくらい頼もしさが感じられた。
「何かあるときは、必ずお二人の力になります。いえ、ならせて下さいね!」
「その時は、頼むよ」
そう意気込むマシューの肩を嬉しそうに叩きながらダニエルが言った。
その後、こってり先生に怒られたスティーブンはすっかり大人しくなった。
残りの数日間は、穏やかに日にちが過ぎ、無事にサマースクールを終えることが出来た。
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