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本編

予想通り、めんどくさいことになった ロイside

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「.........えっ?」

最下層から転移し、地上に戻ってきた。

ここの迷宮は、ギルドが冒険者の出入りを管理しているわけではなく、基本的に出入りは時間帯問わず自由。
しかし、だからといってギルド職員が全くいないというわけでもない。
救助要請があればギルド職員が助けに潜ることもあるし、 なにか異変があればすぐに確認・伝達できるように待機している、等 多くはないが少なくもない人数のギルド職員が 常時滞在はしている。


──人の記憶というのは都合のいいもので、
なにか特筆すべき点があれば、そのつもりが当人になかったとしても 多少は記憶に残る人も、いる。

ちょうど転移した時に 魔法陣の目の前を通りがかったギルド職員が、だったようで。

俺たちの姿を認識した直後、驚きの声をあげた。


「マリア、行くぞ」
「はーい」

どうやらマリアも、その職員の顔を覚えていたらしい。

面倒事は御免だ、とマリアも思っているのだろう。

その職員が呆けている間に立ち去ろうと歩みを進めた。


ーしかし。

「ちょ、ちょっと待ってください! まだ1日しか経ってないですよね!? なんで転移魔法陣から出てきたんですか!?」

見た目、(意味は全くわからないが)マリア曰く 天然ゆるふわ系お姉さん。
しかし 迷宮に滞在するギルド職員として働いてるだけあって、状況の理解ははやかった。

呆けていると思った次の瞬間には、服の裾を掴まれていた。


「そ「ギルドへは明日必ず行く。だから今日は一先ず、宿に戻って休ませてくれ」

何を言うつもりだったのかはわからないが、喋りだしたマリアの言葉と視界をわざと遮り、黙ってろ、と視線だけで伝える。

ー意外とそういうところは鋭いマリアは大人しく、リルをぬいぐるみのように前抱きしたまま黙った。

「情報提供して頂けるのですか」

「........あぁ」

「わかりました、ありがとうございます。では明朝いちば「その情報提供が 明日、では遅い可能性もありますから今すぐお願いします」

天然ゆるふわ系の職員の言葉を遮って 話しかけてきたのは、仕事第一で融通の効かなそうな(見た目の)職員だった。

「無理だ」

「.........はい?」

堅物ギルド職員の顔が引き攣る。

「ギルマスにのみ、俺が直接話す。さすがにこんな夜更けに 起こすわけにはいかないだろう」

「もちろんギルドマスターにはお伝えしますが、決めるのは我々職員です」

「ギルマス以外に話すつもりはない、と言っているんだが?」

──さすがに、マリアの規格外っぷりが迷宮に影響した、などとは俺も思いたくない。

だが、絶対に影響していない、とも言いきれない。
言いきれない以上、としてギルドに伝えておく必要は、ある。

しかし、結局は憶測でしかない話を、一介の職員でしかない者には言いたくないし、言えない。



──迷宮は生きている。

これはどこの国でも共通している認識だ。

もちろん生きている以上、これまでにはなかった変化が出始める可能性は、0じゃない。

だが、マリアのせいじゃないとも言いきれない。気がしてならない。



──
憶測込みの話だとしても大丈夫だろう、という確信もあった。情報の秘匿も込みで。


「さっきから聞いてりゃ、Dが、調子こいてるんじゃねぇよ。ギルマスに伝えた方がいいほどの情報を提供できるわけないだろう。勿体ぶってないでさっさと言え」

近くで俺たちのやりとりを聞いていたらしい それなりに体格のいい男の職員が、威圧しながらさらに口を挟んできた。


「グルゥ.......」

明らかに意図的に、かつ こちらに向けられている殺気と威圧に思わずリルが威嚇の声を出すが、 すぐさまマリアに宥められ、唸るのは止めたが、だった。



「ちょっ、サルヴィンさん......!」

たかだか、とか 調子こくな、とか 殺気 とか
ギルド職員として有るまじき言動の連発に、慌て出す他の職員たち。

.........ちなみに 堅物職員は 威圧された瞬間に倒れ、他の職員に退かされ済みだ。


しかし サルヴィンと呼ばれた男は、威圧も 暴言もやめなかった。


「勿体ぶってなんかない。事実を言っている」

「だからそれが勿体ぶってるんだろう。 さっさと言え」

「サルヴィンさん!」

天然ゆるふわ系お姉さんである職員が 自身もサルヴィンによる威圧に脅えているにも関わらず、必死に止めてくれているのは 俺の背に隠されているマリアを想ってのことだろう。

──実際は、 背にいて見えてなくてもわかるほど、平然としているのだが。
むしろ、こんなに明らかな殺気を感じ取れて喜んでいるような気もする。

そしてそれは当たりだったようだ。(後日談)





「おやおや、こんな夜中に 何 殺気立っているんですか?」

そんな現場に、入ってきた、がいた。


「ぎ、ギルドマスター.........」
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