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本編
考えて考えた結果
しおりを挟む結局昨日、あのあと。
宿にはロイさんが私の帰りを待ってて、諦めそうな気配はまるでなしってことで帰るのをそうそうに諦め、久しぶりに街の路地裏で夜を明かすことになった。
エミリーさんがすごく心配してくれていたけど、エミリーさんの帰るところはルイスのところ、つまり宿舎なわけで。ロイさんの部屋とは既婚者用の別棟とはいえ宿舎に変わりはない上に、割と頻繁に来るとのことで、当然無理だとわかっているので心配はしてくれるものの、それ以上もそれ以下もなかった。
「ロイさん怒ってるよね、絶対……」
ロイさん結局いつまで部屋の前にいたのかな。諦める気配なさそうだったとはいえ、さすがに一晩中待ってたってことはない……と思う。思いたい。
思いたいけど……。ロイさんだしなぁ……。
「当たり前だろ」
「だよね~ そりゃそうだよ……ね………?」
あれ私 今 誰としゃべって……?
一人言なはすなのに何故か成り立つ会話。冷ややかな目線と、背後から感じるなんとも言い難い異様な雰囲気。
恐る恐る背後を振り返るとそこにいるのはー……
「やっと見つけたぞ。マリア」
「ろ、ロイ……さん…………」
腕を組み、仁王立ちするロイさんが、いたー……。
「おはよう。昨日は宿に戻らなかったのな。路地裏でひと晩明かしたのか」
「え、あ、う、うん。なんか、久しぶりに街中で寝たいなーとか思っ……たり、思わなかったり」
途中でギロリ、と睨まれ、思わず語尾がおかしなことになった。
「理由は……わかってるよな?逃げてんだもんな」
そう言って笑顔を見せるロイさん、怖いです。
「は、ハイ……」
ホントロクなことしてくれないよね、ルイスも。
いやまぁ今回は私も半分……とちょっとくらいは悪いけど。
それでもルイスの伝達スピードは異常だから!
門からギルドに行って解体のお願いしてたその間に伝わったんだよ?
門からギルドまでなんてたいして離れてなければ、別に解体のお願いに時間かかったわけでもないのに。
しいていえばエミリーさんとの立ち話が多少長かったけど。そんなの微々たるもんだよ?
「もちろん説明、してくれるな?(ニッコリ)」
「……ごめんなさい」
「はっ?」
「いくらロイさん相手でも、言えない。ごめんなさい」
「………………」
既にだいぶやらかしまくってるからこんなこと言ったって説得力なんてないけど。それでもさすがに、わかってる。これは言っちゃダメなやつ。
「ごめんなさい。ロイさん」
ひと晩、考えた。ロイさんにだけは言ってもいいんじゃないかって。この世界に1人くらい、私の全部を知っている人が自分以外にいてもいいんじゃないかって。神様に忠告されているとはいえ、受け入れてくれる人が0なんてことはないって思いたいなって。もしいたとしたらそれがロイさんなんじゃないかって。
寝ずにずっと考え続けた。
考えて考えて、許容された場合。拒絶された場合。拒絶はせれないけど理解もされなかった場合。頭おかしいやつだと思われた場合……考え得る可能性全てで打ちあけるところからロイさんの反応までを脳内シュミレーションしてみたりもした。
そしてでた結論は結局、「言わない」「言えない」だった。 私の異常すぎるステータスもそうだけど……それ以上に、特殊個体な自分は、家族にさえ受け入れて貰えなかった。兄のたった一言で全てがなくなった。その傷が自分で思っていた以上に心の深いところでえぐられていたことに気づいた。
それを他人に受け入れて貰えるわけがない。
……もう、信じていたものを失いたくはない。
だから……言えない。
2回目の謝罪の言葉と共に頭を下げたから、ロイさんの顔は見えない。
「はぁ…… わかったからもういい。頭上げろ。
俺は仕事に行くから。宿に戻ってちゃんと寝ろよ。お前昨日寝てないだろ。
今日はギルドで依頼こなすの禁止だからな。エミリーにもそう言ってあるからちゃんと大人しくしてろよ」
そう言って頭をくしゃっと撫でて、珍しく耳も少しぐにぐにと触ってから、ロイさんは仕事に向かった。
ー私が散々やらかしても、そのせいで迷惑かけても、怒ってても、私が逃げても、次の日自分が仕事でも、それでも私のこと探してくれて、見つけてくれて、自分だって寝てないくせに私の心配してくれた、ロイさん。
一晩散々悩んで決めたはずの心が、あっという間に揺らぎそうになる、単純な私に気づく。
私、ここにいていいのかな。
そんな疑問がふと頭をよぎったー…。
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