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小さくてもフェンリルはフェンリル
しおりを挟む「……………変」
「そうだな」
「え、何が??」
街を出てから3日ほど経った昼下がり。
ライムがとうとう、疑問を口にした。
「街をでてもう3日だよ。なのに1回も魔物と遭遇してない。ここら辺は魔物が比較的少ない場所とはいえ、まったく見ないなんておかしい」
「そうなの?」
「少なくとも1日1回くらいはな。 襲われないにしても姿くらいは見かけるのが普通だな」
「少なくとも、俺が感知できる範囲内に 魔物の気配さえないよ」
「「…………………………」」
ハルのせいだと、アリスもジュードも思った。
しかしもちろん、そんなことを口にしたりはしない。
「まぁ、魔物が来ないにこしたことはねぇし、いいんじゃねぇの」
「そっ、そうそう!来ないならいいじゃん!安全第一!平和が1番!」
「……………そうだね」
「そうだな」
「「「「「……………………………」」」」」
そうして流れる沈黙の時間に、ジュードは胃が痛く、アリスは心が痛かった。
「ま、いつ魔物がではじめるかもわかんねぇし、平和な間に先に進もうぜ」
「………そうだな」
◇ ◇ ◇
「ジュード。もうこれ、言っちゃいたいんだけどダメかなぁ? 気ぃ張ってるの疲れた……」
その日の夜。
ライムは夜営中の見張り番、レオンハルトは自主練のために馬車の中にはアリスとジュード2人きりだったため、アリスは話を切り出した。
「……今夜、俺が見張り番最後だし、その間に考えとく。 どこまで言うかとか どこをどう濁すかとかを」
「やっぱり全部は言わないほうがいいやつだよね……」
「言わないっつーか 言えないだろ。言いたいのか?」
「んー…知っててもらったほうが万が一の時に話が早いっていうかさ、良いような気もするけど……どうなんだろ?」
アリスは、 この世界における“フェンリル”のヒエラルキーはよくわかっていない。
ジュードの反応は、鑑定スキルを持っているため、あまり当てにならない。
転生の際与えられた“必要最低限の知識”の中に フェンリルに関することなど入っているわけがない。
“必要最低限の知識”の中に体内に魔力を巡らす、魔力循環すら 入っていなかったというのにフェンリルのことなど入っているわけがないのだ。
その与えられた知識というのが、本当に驚くほど最低限だったのだと ライムたちに街で色々と教えて貰ってわかり、がっかりしたほどだ。
「とりあえずそこも含めて考えておく。
……フェンリルの力が必要な程の危険が及ぶことは滅多にねぇと思うけどな。
万が一ってこともあるしな」
「ジュードたちが戦闘不能になったときは私が戦うでもいいよ? それでもダメだったときにハルの出番」
「とりあえず手紙の用件終わったらダンジョン行ってお前とハルの戦闘能力諸々、確認する必要があるな。それまでは攻撃魔法の使用は禁止だぞ」
「はーい」
威力の確認もだが、ジュードが1番気になる事柄は、
常識的な魔法の戦闘方法をアリスがとれるかどうかだった。
ただ単に魔法の威力が強いだけであれば
単に所持する魔力量が多い、子供故にまだ制御しきれていない、などと誤魔化しようはあるだろう。
しかし 戦い方そのものが非常識だとしたら、その言い訳が効かない可能性は十二分にある。
そしてアリスなら有り得るとジュードは思ったのだった。
そしてその想像はほとんどまちがっていないだろうことも、ジュードは察していた。
1人で抱え込むには重すぎる上に多すぎるジュードの受難は、まだしばらくは続きそうだ。
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