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第二の悪魔
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アリサは、一瞬の内に隆之の話し方
名前と外見の不釣合い、悪臭、内面の薄さ
器の小ささ、頭の悪さ、センスの悪さ
などを見抜き、その全てを否定する。
おしゃべりなアリサも流石に喋り過ぎて
最後は息を切らしている。
こんなに苦労して経験値1では割に合わない。
そしてアリサは、隆之を否定している内に
アリサの中で、この男のランクが下がり
あんたからお前へと呼び方が変化した。
恐らく目上の人間にはお前と言ってはいけない
そういう事は本能的に分かっている筈ではあるが
自ら言葉としてこの男の欠点を羅列し
声で確認していく内にこんな物はお前で十分。
そう呼んでしまっても構わないと気付いたからであろう。
私も、弟の友達の家に遊びに行って
ドッジボールをしたのだが
始めは○○君のお兄さんと慕われていたのだ。
しかし、プレー中に余りにも活躍出来ず
競技後は、弟の友達のリーダー格の少年に
【お前】
呼ばわりされたと言う素晴らしい思い出がある。
彼の唐突の心境の変化に驚いたものである……
私の少年時代は、完全年功序列制。
上である私が黒と言えば、白い物でも
無条件で黒になってしまう。そんな時代であった。
弟の友人数人と、私の小さなコミュニティ。
そのヒエラルキーの頂点であった私だったのだが
そんな中でも、ドッジボールで弱ければ
この私と言えども一気に引きずり降されてしまう
そんな実力主義の一面もあったのだ。
私の少年時代、ドッジボールとは
そんな特別なスポーツだったのだ。
お互いの魂をボールに込め力の限りぶつけ合う。
魂の喧嘩。
まあドッジには回避するという意味があるが
当時の私達に逃げの選択は無く
自らの手で受け止める以外の方法を取らなかった。
何故ならドッヂボールのドッヂの意味を知るのは
成人してからであったから……
少し話はそれてしまったが
確かに○○のお兄さん等とまどろっこしい呼び方を
何回も言うのは面倒だとは思う。
だからと言って、急にお前呼ばわりされるのは
鋼のメンタルを有している私でも少々堪える物があった。
要するに、どんなに年齢が上で立場が上だとしても
能力が無いと相手に舐められると言う事であろう!
隆之は、PCは一応使えるが
家庭教師を雇い3年かけネット接続を覚え
タイプスピードは1分に30文字が限界の脳。
その頭での理解は厳しい。
チャットで会話したなら、相手が10位喋って
やっと1つ目の返事が打てる程である。
ブラインドタッチどころか生まれつき
太すぎる指のせいで
小指の先でキーボードを打つしかないのだ。
なので、特注の携帯電話を使っている。
これは隆之のスーツのポケットに入っている。
特徴は現代の携帯よりかなり大きくボタンも大きい。
指が太くても容易に文字を入力する事が出来る。
しかし、サイズは雑誌の少年ジャソペ位の大きさで
特注の大きいポケットに入れておかないと
持ち運びに不便なのである。
しかし、この言われよう。
余程こいつが憎かったのであろう。
人生で使う脳の数%をこの場面のみで使う勢いだ
私がここまで言われたら生きてはいけないだろう。
「うわあ、小さいのに凄いなあ。惚れちゃったよ!」
パチパチパチ
ただただ感心し、拍手する八郎。
「私に惚れたらおめぇの女が泣くぜ?
それと、小さいは余計だぜ?」
なんかかっこいいアリサ。
「いいぞw もっとやれww」
ロウ・ガイが上機嫌に小声で囁く。
しかし、これ以上やっては危険である。
早口でまくし立てられ呆然とする隆之。
ポカーンとした表情、悪臭を放つ口が開いている。
そのせいで強烈な匂いがダダ漏れしてしまっている。
そして、当然の事ながら隆之は
アリサの言った言葉の9割9分は頭に入っていない。
辛うじて分かったのは、最後に聞いた
【死ね】
の一言だけだった。隆之の知能の低さが幸いし
一割、いや、一分で済んだと言ってもいいだろう。
しかしながら思い出せはしないが隆之にとって
良い事を言われていない事は
その脳みそでも少し分かっていたので
胸に嫌な物が残っていて最悪の気分の隆之。
そしてもし、全てを理解してしまっていたら
直情径行な性格から怒りで我を忘れ、
アリサに手を掛けてしまう事は明白であろう。
語り部の立場としても
ヒロインを一話目から失う訳にはいかない。
その点は、隆之に感謝せねばなるまい。そして
言われっぱなしで黙っている訳にも行かない隆之。
一生懸命考え、無い知恵を絞って叫ぶ。
「い、生ぎる 私は生、ぎだい!!って、何で
そこ、ま、で言われ♡なきゃい、けないの?」
必死に考え、搾り出せた言葉は
たったの2行である。アリサは216行喋ったのに
10分の1いや100分の1も返す事の出来ない
語彙力に乏しい隆之。
(な何、だこ、のガキ? 急に恐ろし、い速さで
喋りやが。って化け物か?
日本。語で喋.りやがれクソ、チビがっ!
だが何だ? こ? の不思? 議な気持ちは?)
ほぼ日本語なのだが……しかしこの男
心の声でもおかしな所で区切るのだった。
それにしても、言われた事の殆ど頭に入っていない癖に
全てを聞き取れたんだ。と言うフリをする惨めな隆之。
そして、アリサに罵倒された後
何か不思議な感覚に陥った。
この感覚が何なのかは隆之本人にも分からない。
しかし、彼に言わせればただ優しく声を掛け
遊戯室の感想を聞いただけなのに
どこをどう間違えたのか? いつの間にか
アリサの容赦ない言葉のナイフで
一方的にこてんぱんにのされていたのだから。
その時隆之は、やっとの思いで手にした
順風満帆な人生に翳かげりが見え始めた様な
焦燥感を感じ、何とも嫌な気分になる。
そして両目には、涙が浮かび上がってきた。
もう零こぼれ落ちるのも時間の問題だ。
しかし、アリサにしてみれば
折角ロウ・ガイの後ろに隠れ
逃げ切れると思っていたのを引っ張り出され
奴の最悪の臭い息を吹きかけられ猛毒状態にもなった。
それだけでも許せなかったが
更に、言うに事欠いて、3周り以上年が離れている上に
恐らくアリサの出会った人間の中で
最も嫌いな者に求婚された。一瞬、隆之と
一緒に暮らすイメージをしてしまい寒気が走り
憎悪が満ち溢れる。
更にはそんなイメージを抱いてしまった自分への怒り
悲しみ、憤り。色々な負の感情を自らの脳にぶつける。
ここまで言っても怒りが収まらないアリサ。
そして、アリサはこの時生まれて初めて
隆之に対し殺意と言う物を覚えた。
人とは、共に歩み、力を合わせ暮らしていく。
そんな事を漠然と感じていた少女に
時には人ですら排斥しても良い。
と言う観念を芽生えさせてしまったのだ。
齢11にしてそんな物を覚えさせる隆之。只者ではない。
顔にアルミホイルを巻けとか
ミントを口に詰めろとか
ホッチキスで口を開かない様にとめておけなど
色々注文をした後、結局死ねである。
アリサは正に現代のかぐや姫である。
「プププ。と、取り敢えずホークスノーに
名前を変えると良いじゃろう。ひぃひぃ」
ロウ・ガイが笑いを堪えつつ嘗て自分の首を切った
涙目で不満の表情の巻き○そ男にアドバイスをする。
アリサにこてんぱんにのされたのを見て
その恨みもすっ飛んでいった様だ。
「別にいいよこんなホテル。
鷲から鷹に改名した所で高が知れてるし」
「あ、今駄洒落言ったな。しかも、物。凄く
つま。らない駄洒落だ、鷹と、高が知れてる。とを
かけ、たんだろう?うわ。ぁ夏。なのに
なん、か急に。寒。くなってきた、ぞ」
確かに掛かってしまっているがただの事故
これは誰だって仕方のない事だろうとスルーするのが
常識なのだが、先程の仕返しとばかりに
オーバーリアクションをしつつ
揚げ足を取ろうとする呆れた隆之。
例えるなら2007年位に
「そんなの関係ないじゃん」
で一世風靡したよじまこしおが流行った時に
たまたま日常会話で
「そんなの関係ないだろ?」
と言ってしまったら
「あれー? よじまこしおのものまねしてるのー?」
と言ってくる同僚と同じである。
そういうのは仕方ないとスルー出来るのが
大人の対応ではないだろうか?
この男にはそういう配慮が全く無く
誰もが気づいている事を自分だけが気付いたと勘違いし
嬉しそうに揚げ足を取ってくるものだから
アリサの怒りは更に更に膨れ上がる。
「は?」
あれ程ボロクソに言い、少しは反省したと思ったら
またも下らない事を言って来る隆之。
かなりのメンタルの持ち主の様だ
その意味のないガッツを見せる隆之に
更に殺意が高まる。
「五月蠅いなあ、偶然でしょう!
何故私がこのタイミングで駄洒落を言うのよ?
一体誰に対して?
少なくとも斉藤隆之には絶対言わないわ。
お前の笑った顔だけは見たくないもの。くたばれ
ちょっと考えれば分かる事でしょう?
下らない事を喋る前に頭を使ってから発言なさい!!!
揚げ足を取っていい気になってないかしら?
・・哀れよね。お前と一文字一文字喋る度
確実に嫌いになってくるのが分かる!!
大人しく消え失せろ!!」
手で蝿を追い払う仕草をするアリサ。
「くっ、そう。です。ね。では、私はこれで」
(これで勝ったと思。うなよク。ソガキが
後で目に物見せ、てく、れる。わ!)
バタン!!
口喧嘩では絶対に勝てないと分かり潔く
元イーグルスノーホテルオーナー斉藤隆之は
涙も拭かずに逃げる様に、乱暴に遊戯室の
ドアを閉め去っていった。その衝撃は凄まじく
ビリヤードの台にあったボールが
衝撃で動いてしまう程だった。
パァァァァァァァァ。
そして、辺りに漂っていた邪気が晴れる。
「やれやれ、やっと空気が綺麗になりおったわい。
あやつの香水のセンス、昔に比べて酷くなっていないか?
わしは職業柄、味覚と嗅覚は、常日頃研ぎ澄ませとる。
だから間違いないと思うが、くうー」
元料理人であり、嗅覚が優れている為
アリサ以上にダメージを受けていたロウ・ガイ。
よく見ると口から一筋の血が流れている。
「あらロウ・ガイ血出てるじゃない。大丈夫なの?」
目の前で死なれては寝覚めが悪いので心配するアリサ。
「うう、すまんアリサ、心配させてしもうたの
じゃがもう大丈夫じゃ。アレも居なくなったからのう
少しずつ良くなって来たぞい。
心配してくれるとは、アリサは毒舌だが優しい子じゃ」
「そう? ならいいんだけど
香水は同じ物じゃない? しかし香水よりも
加齢による体臭の比率が多くなってきて
酷い臭いに感じてきたのよ。
昔のあいつの事は分からないけど
あいつは香水を変える様な事はしないと思うわ」
「成程、そういう事じゃったか、アリサは鋭いのう」
「チェックインした時
不運にも奴が入り口で迎えて来たの
嬉しいという感情は1つも湧かなかったわ。
未知の生物に遭遇した時の恐怖心と猜疑心と
嫌悪感しかなかった。死ねばいいのに。
どす黒いオーラがアレの周りに漂っていたの。
仮にも、接客のプロの筈なのに
そんなオーラしか出せないって致命的よね。
死ねばいいのに。
それにあの男の体臭と口臭。
人類を拒む為、寄せ付けない為に
体から生成された天然の防衛手段の一つよね。
絶対この職種には向いていないわ。どちらかというと
暴力団とか、やくざとかに向いているわね。
死ねばいいのに」
3回も言うアリサ。
「あんなモンいずれ死ぬじゃろ
恐らくわしよりも先にな。
あの男は体の内部はボロボロだと思うしの。
わしはもう少しここで遊んでいくが
アリサは大分疲れているみたいじゃのう」
あんなモン呼ばわりである。
自分を首にした男だから仕方がない
それに、アリサの毒舌を聞き続ける内に
それが伝染ってしまったのであろう。
「ううー、アリサもう部屋に帰るー喋り疲れたー」
脳をかなり使ってしまった為、話し方も弱々しい
「うん。そうした方が良いよ。オーナーの臭いは
健康な人体を蝕むからね。しっかりシャワーを浴びて
落とした方が良いよ。
そして少しでいいから寝た方が良いよ」
八郎がアドバイスする。
「そうじゃの、奴の臭いは地獄の鬼も鼻を塞ぐ程じゃ。
しっかり洗え。
しかしアリサ、お主カッコ良かったぞい。またのー」
「うん。じゃあねー」
激しい戦いの疲れを癒す為
フラフラと遊戯室を出て、よぼよぼと自室を目指す。
と、そこに。
「パパ、20階のプラネタリウム奇麗だったわねー」
「そうそう、20階のプラネタリウム最高だったよ」
「わーいわーいw 20階20階w」
3人の親子である。どうやら遊戯室に向かってる様だ。
すれ違い様に偶然
20階にプラネタリウムがある事を話している。
アリサはその声を聞いてしまった様だ。
このホテルは1階と、10階から10刻みで
50階まで色々な施設があり。最上階の
54階は宴会場である。10階は先程の遊戯室で
20階にどうやらプラネタリウムがある様だ。
もしや隠れユッキーは
それらの施設を全て見て貰いたいと言う
隆之の気持ちから生まれた物なのか?
む……となるとその施設には全て
足を運ばなくてはいけないかもしれない。
「ううー洗いたいけど
私、プラネタリウム行ってみたい……行くか……」
アリサは今、RPGで言う所の猛毒状態である。
だのに解毒せずに
そのまま次のダンジョンに向かおうしている。
決して褒められた物ではない。
だが、アリサの本能がきっとそこにも
何かがあると感じてしまっている。
この子はこういう選択を迫られた場合
必ずと言って良い程、より苛烈である方を選択する。
それが彼女の信念。
これは極限まで自分を追い詰めてから
イ山豆いやままめ等で体力を回復させると
一気に強くなるという設定を
ドラゴンキューブというアニメで知っている為である。
困った事にもしかしたら私も……
これで強くなれるのでは? と思ってしまっているのだ。
「これが終わったら絶対洗うから
もう少しだけ堪えてくれよ? 私」
こうなった彼女は止まらないのだ。
ならば……行くがよい
納得いくまで己が瞳に焼きつけよ。
施設は宿泊客なら完全無料で24時間営業である。
早速行って見る事に。
10階のエレベーターから20階を目指す
丁度半分位行った所。15階で何かを感じるアリサ。
「ん? 何かしら? 何か感じる?
今16階かー、少し前なんだよね。んーまあいいか」
深く考える前にチーン。20階に到着。
分厚い両開きのドアを開けて中へ入ると
薄暗い部屋に椅子が幾つも並べてある。
既に数名の客も座っている様だ
そして天井には、夜空の様な空間。
アリサは、近くの椅子に座りリラックスする。
ポワン
投影機がオリオン座を映し出し、下にその星座の名前が。
「成程。あっ、あの星座見た事ある。
こんな形でオリオン座なんだね、
縦にした鼓みたいなのにね
でもこうしてるとなんか眠くなるー。ふぁー」
ポワン ポワン
次々と星座が現れては消える。ふと右上の方を見る。
すると浮かんでは消えて、別の星座が現れるという
ルールを無視し、独立して少しずつ、だが確実に
ポツポツと一つずつ星が増えている。一体何であろうか?
よく見てみる。すると……なんと!
少しずつ何かの形になって行く。
頭の上に丸い耳が2つついた、オーナーの様な顔。
星達が、光が! ユッキーを形作っているではないか!
これは正しく隠れユッキーである。
流石にその下に名前は書いていない。
ここはプラネタリウム。
小学生も学習に利用しているのに
こんな偽者を見ては間違った知識を得てしまう。
いや、それ以前に幼く尊い命を削られてしまう。
何とかしなくては!
「えっ? まさかこれは! く……脳が痛い。でも!」
パシャリ
消える前に何とか撮影成功。
しかし、アリサの脳にも大きいダメージが残る。
「こ、このホテル、こんな事もして来るのか。
確かに写真だけとは言っていないもんな。
あんなのマジックで塗り潰せる訳ないじゃない。
あれ? ……なんか頭がズキズキする……
あいつを消さないとみんなにも被害が出ちゃうわ。
でも、一体どうすれば……
あの機械をぶっこわ……うーん流石に駄目よね……」
「はい、お客さんこれで終わりよ。また来てね!」
アリサの思考を係の人に遮られてしまう。
「え? でも、悪魔がまだ……」
「悪魔座なんてないわよ? 大熊座と勘違いしてない?
しかし、あなたかなり小さくない?」
失礼な事を言う係のお姉さん。
「はい、そうでした
でも私、そんなに小さくは無いと思いますよ?」
(仕方ないか、部屋に戻って考えなくっちゃ)
「楽しかったねー。あれ?
何か頭が痛いんだけど……どうしよう。
そうだ、40階に植物園があるらしいから
そこでゆっくり休もうかしら?」
「そうしましょう。僕も何だか足がガクガクするよ……」
他の客達も、ユッキーをぼんやりと視界に入れたせいか
色々な症状を訴える。
恐らくユッキーとして認識出来ていなくても
視界に入っただけでその悪魔は人を蝕む様だ。
ただ、植物園に行けば治るかも知れないと言うのだ。
「何々? 40階に植物園かー。
少し寄り道になるけど行ってみよう」
アリサも客達の後を付いていく事に。
名前と外見の不釣合い、悪臭、内面の薄さ
器の小ささ、頭の悪さ、センスの悪さ
などを見抜き、その全てを否定する。
おしゃべりなアリサも流石に喋り過ぎて
最後は息を切らしている。
こんなに苦労して経験値1では割に合わない。
そしてアリサは、隆之を否定している内に
アリサの中で、この男のランクが下がり
あんたからお前へと呼び方が変化した。
恐らく目上の人間にはお前と言ってはいけない
そういう事は本能的に分かっている筈ではあるが
自ら言葉としてこの男の欠点を羅列し
声で確認していく内にこんな物はお前で十分。
そう呼んでしまっても構わないと気付いたからであろう。
私も、弟の友達の家に遊びに行って
ドッジボールをしたのだが
始めは○○君のお兄さんと慕われていたのだ。
しかし、プレー中に余りにも活躍出来ず
競技後は、弟の友達のリーダー格の少年に
【お前】
呼ばわりされたと言う素晴らしい思い出がある。
彼の唐突の心境の変化に驚いたものである……
私の少年時代は、完全年功序列制。
上である私が黒と言えば、白い物でも
無条件で黒になってしまう。そんな時代であった。
弟の友人数人と、私の小さなコミュニティ。
そのヒエラルキーの頂点であった私だったのだが
そんな中でも、ドッジボールで弱ければ
この私と言えども一気に引きずり降されてしまう
そんな実力主義の一面もあったのだ。
私の少年時代、ドッジボールとは
そんな特別なスポーツだったのだ。
お互いの魂をボールに込め力の限りぶつけ合う。
魂の喧嘩。
まあドッジには回避するという意味があるが
当時の私達に逃げの選択は無く
自らの手で受け止める以外の方法を取らなかった。
何故ならドッヂボールのドッヂの意味を知るのは
成人してからであったから……
少し話はそれてしまったが
確かに○○のお兄さん等とまどろっこしい呼び方を
何回も言うのは面倒だとは思う。
だからと言って、急にお前呼ばわりされるのは
鋼のメンタルを有している私でも少々堪える物があった。
要するに、どんなに年齢が上で立場が上だとしても
能力が無いと相手に舐められると言う事であろう!
隆之は、PCは一応使えるが
家庭教師を雇い3年かけネット接続を覚え
タイプスピードは1分に30文字が限界の脳。
その頭での理解は厳しい。
チャットで会話したなら、相手が10位喋って
やっと1つ目の返事が打てる程である。
ブラインドタッチどころか生まれつき
太すぎる指のせいで
小指の先でキーボードを打つしかないのだ。
なので、特注の携帯電話を使っている。
これは隆之のスーツのポケットに入っている。
特徴は現代の携帯よりかなり大きくボタンも大きい。
指が太くても容易に文字を入力する事が出来る。
しかし、サイズは雑誌の少年ジャソペ位の大きさで
特注の大きいポケットに入れておかないと
持ち運びに不便なのである。
しかし、この言われよう。
余程こいつが憎かったのであろう。
人生で使う脳の数%をこの場面のみで使う勢いだ
私がここまで言われたら生きてはいけないだろう。
「うわあ、小さいのに凄いなあ。惚れちゃったよ!」
パチパチパチ
ただただ感心し、拍手する八郎。
「私に惚れたらおめぇの女が泣くぜ?
それと、小さいは余計だぜ?」
なんかかっこいいアリサ。
「いいぞw もっとやれww」
ロウ・ガイが上機嫌に小声で囁く。
しかし、これ以上やっては危険である。
早口でまくし立てられ呆然とする隆之。
ポカーンとした表情、悪臭を放つ口が開いている。
そのせいで強烈な匂いがダダ漏れしてしまっている。
そして、当然の事ながら隆之は
アリサの言った言葉の9割9分は頭に入っていない。
辛うじて分かったのは、最後に聞いた
【死ね】
の一言だけだった。隆之の知能の低さが幸いし
一割、いや、一分で済んだと言ってもいいだろう。
しかしながら思い出せはしないが隆之にとって
良い事を言われていない事は
その脳みそでも少し分かっていたので
胸に嫌な物が残っていて最悪の気分の隆之。
そしてもし、全てを理解してしまっていたら
直情径行な性格から怒りで我を忘れ、
アリサに手を掛けてしまう事は明白であろう。
語り部の立場としても
ヒロインを一話目から失う訳にはいかない。
その点は、隆之に感謝せねばなるまい。そして
言われっぱなしで黙っている訳にも行かない隆之。
一生懸命考え、無い知恵を絞って叫ぶ。
「い、生ぎる 私は生、ぎだい!!って、何で
そこ、ま、で言われ♡なきゃい、けないの?」
必死に考え、搾り出せた言葉は
たったの2行である。アリサは216行喋ったのに
10分の1いや100分の1も返す事の出来ない
語彙力に乏しい隆之。
(な何、だこ、のガキ? 急に恐ろし、い速さで
喋りやが。って化け物か?
日本。語で喋.りやがれクソ、チビがっ!
だが何だ? こ? の不思? 議な気持ちは?)
ほぼ日本語なのだが……しかしこの男
心の声でもおかしな所で区切るのだった。
それにしても、言われた事の殆ど頭に入っていない癖に
全てを聞き取れたんだ。と言うフリをする惨めな隆之。
そして、アリサに罵倒された後
何か不思議な感覚に陥った。
この感覚が何なのかは隆之本人にも分からない。
しかし、彼に言わせればただ優しく声を掛け
遊戯室の感想を聞いただけなのに
どこをどう間違えたのか? いつの間にか
アリサの容赦ない言葉のナイフで
一方的にこてんぱんにのされていたのだから。
その時隆之は、やっとの思いで手にした
順風満帆な人生に翳かげりが見え始めた様な
焦燥感を感じ、何とも嫌な気分になる。
そして両目には、涙が浮かび上がってきた。
もう零こぼれ落ちるのも時間の問題だ。
しかし、アリサにしてみれば
折角ロウ・ガイの後ろに隠れ
逃げ切れると思っていたのを引っ張り出され
奴の最悪の臭い息を吹きかけられ猛毒状態にもなった。
それだけでも許せなかったが
更に、言うに事欠いて、3周り以上年が離れている上に
恐らくアリサの出会った人間の中で
最も嫌いな者に求婚された。一瞬、隆之と
一緒に暮らすイメージをしてしまい寒気が走り
憎悪が満ち溢れる。
更にはそんなイメージを抱いてしまった自分への怒り
悲しみ、憤り。色々な負の感情を自らの脳にぶつける。
ここまで言っても怒りが収まらないアリサ。
そして、アリサはこの時生まれて初めて
隆之に対し殺意と言う物を覚えた。
人とは、共に歩み、力を合わせ暮らしていく。
そんな事を漠然と感じていた少女に
時には人ですら排斥しても良い。
と言う観念を芽生えさせてしまったのだ。
齢11にしてそんな物を覚えさせる隆之。只者ではない。
顔にアルミホイルを巻けとか
ミントを口に詰めろとか
ホッチキスで口を開かない様にとめておけなど
色々注文をした後、結局死ねである。
アリサは正に現代のかぐや姫である。
「プププ。と、取り敢えずホークスノーに
名前を変えると良いじゃろう。ひぃひぃ」
ロウ・ガイが笑いを堪えつつ嘗て自分の首を切った
涙目で不満の表情の巻き○そ男にアドバイスをする。
アリサにこてんぱんにのされたのを見て
その恨みもすっ飛んでいった様だ。
「別にいいよこんなホテル。
鷲から鷹に改名した所で高が知れてるし」
「あ、今駄洒落言ったな。しかも、物。凄く
つま。らない駄洒落だ、鷹と、高が知れてる。とを
かけ、たんだろう?うわ。ぁ夏。なのに
なん、か急に。寒。くなってきた、ぞ」
確かに掛かってしまっているがただの事故
これは誰だって仕方のない事だろうとスルーするのが
常識なのだが、先程の仕返しとばかりに
オーバーリアクションをしつつ
揚げ足を取ろうとする呆れた隆之。
例えるなら2007年位に
「そんなの関係ないじゃん」
で一世風靡したよじまこしおが流行った時に
たまたま日常会話で
「そんなの関係ないだろ?」
と言ってしまったら
「あれー? よじまこしおのものまねしてるのー?」
と言ってくる同僚と同じである。
そういうのは仕方ないとスルー出来るのが
大人の対応ではないだろうか?
この男にはそういう配慮が全く無く
誰もが気づいている事を自分だけが気付いたと勘違いし
嬉しそうに揚げ足を取ってくるものだから
アリサの怒りは更に更に膨れ上がる。
「は?」
あれ程ボロクソに言い、少しは反省したと思ったら
またも下らない事を言って来る隆之。
かなりのメンタルの持ち主の様だ
その意味のないガッツを見せる隆之に
更に殺意が高まる。
「五月蠅いなあ、偶然でしょう!
何故私がこのタイミングで駄洒落を言うのよ?
一体誰に対して?
少なくとも斉藤隆之には絶対言わないわ。
お前の笑った顔だけは見たくないもの。くたばれ
ちょっと考えれば分かる事でしょう?
下らない事を喋る前に頭を使ってから発言なさい!!!
揚げ足を取っていい気になってないかしら?
・・哀れよね。お前と一文字一文字喋る度
確実に嫌いになってくるのが分かる!!
大人しく消え失せろ!!」
手で蝿を追い払う仕草をするアリサ。
「くっ、そう。です。ね。では、私はこれで」
(これで勝ったと思。うなよク。ソガキが
後で目に物見せ、てく、れる。わ!)
バタン!!
口喧嘩では絶対に勝てないと分かり潔く
元イーグルスノーホテルオーナー斉藤隆之は
涙も拭かずに逃げる様に、乱暴に遊戯室の
ドアを閉め去っていった。その衝撃は凄まじく
ビリヤードの台にあったボールが
衝撃で動いてしまう程だった。
パァァァァァァァァ。
そして、辺りに漂っていた邪気が晴れる。
「やれやれ、やっと空気が綺麗になりおったわい。
あやつの香水のセンス、昔に比べて酷くなっていないか?
わしは職業柄、味覚と嗅覚は、常日頃研ぎ澄ませとる。
だから間違いないと思うが、くうー」
元料理人であり、嗅覚が優れている為
アリサ以上にダメージを受けていたロウ・ガイ。
よく見ると口から一筋の血が流れている。
「あらロウ・ガイ血出てるじゃない。大丈夫なの?」
目の前で死なれては寝覚めが悪いので心配するアリサ。
「うう、すまんアリサ、心配させてしもうたの
じゃがもう大丈夫じゃ。アレも居なくなったからのう
少しずつ良くなって来たぞい。
心配してくれるとは、アリサは毒舌だが優しい子じゃ」
「そう? ならいいんだけど
香水は同じ物じゃない? しかし香水よりも
加齢による体臭の比率が多くなってきて
酷い臭いに感じてきたのよ。
昔のあいつの事は分からないけど
あいつは香水を変える様な事はしないと思うわ」
「成程、そういう事じゃったか、アリサは鋭いのう」
「チェックインした時
不運にも奴が入り口で迎えて来たの
嬉しいという感情は1つも湧かなかったわ。
未知の生物に遭遇した時の恐怖心と猜疑心と
嫌悪感しかなかった。死ねばいいのに。
どす黒いオーラがアレの周りに漂っていたの。
仮にも、接客のプロの筈なのに
そんなオーラしか出せないって致命的よね。
死ねばいいのに。
それにあの男の体臭と口臭。
人類を拒む為、寄せ付けない為に
体から生成された天然の防衛手段の一つよね。
絶対この職種には向いていないわ。どちらかというと
暴力団とか、やくざとかに向いているわね。
死ねばいいのに」
3回も言うアリサ。
「あんなモンいずれ死ぬじゃろ
恐らくわしよりも先にな。
あの男は体の内部はボロボロだと思うしの。
わしはもう少しここで遊んでいくが
アリサは大分疲れているみたいじゃのう」
あんなモン呼ばわりである。
自分を首にした男だから仕方がない
それに、アリサの毒舌を聞き続ける内に
それが伝染ってしまったのであろう。
「ううー、アリサもう部屋に帰るー喋り疲れたー」
脳をかなり使ってしまった為、話し方も弱々しい
「うん。そうした方が良いよ。オーナーの臭いは
健康な人体を蝕むからね。しっかりシャワーを浴びて
落とした方が良いよ。
そして少しでいいから寝た方が良いよ」
八郎がアドバイスする。
「そうじゃの、奴の臭いは地獄の鬼も鼻を塞ぐ程じゃ。
しっかり洗え。
しかしアリサ、お主カッコ良かったぞい。またのー」
「うん。じゃあねー」
激しい戦いの疲れを癒す為
フラフラと遊戯室を出て、よぼよぼと自室を目指す。
と、そこに。
「パパ、20階のプラネタリウム奇麗だったわねー」
「そうそう、20階のプラネタリウム最高だったよ」
「わーいわーいw 20階20階w」
3人の親子である。どうやら遊戯室に向かってる様だ。
すれ違い様に偶然
20階にプラネタリウムがある事を話している。
アリサはその声を聞いてしまった様だ。
このホテルは1階と、10階から10刻みで
50階まで色々な施設があり。最上階の
54階は宴会場である。10階は先程の遊戯室で
20階にどうやらプラネタリウムがある様だ。
もしや隠れユッキーは
それらの施設を全て見て貰いたいと言う
隆之の気持ちから生まれた物なのか?
む……となるとその施設には全て
足を運ばなくてはいけないかもしれない。
「ううー洗いたいけど
私、プラネタリウム行ってみたい……行くか……」
アリサは今、RPGで言う所の猛毒状態である。
だのに解毒せずに
そのまま次のダンジョンに向かおうしている。
決して褒められた物ではない。
だが、アリサの本能がきっとそこにも
何かがあると感じてしまっている。
この子はこういう選択を迫られた場合
必ずと言って良い程、より苛烈である方を選択する。
それが彼女の信念。
これは極限まで自分を追い詰めてから
イ山豆いやままめ等で体力を回復させると
一気に強くなるという設定を
ドラゴンキューブというアニメで知っている為である。
困った事にもしかしたら私も……
これで強くなれるのでは? と思ってしまっているのだ。
「これが終わったら絶対洗うから
もう少しだけ堪えてくれよ? 私」
こうなった彼女は止まらないのだ。
ならば……行くがよい
納得いくまで己が瞳に焼きつけよ。
施設は宿泊客なら完全無料で24時間営業である。
早速行って見る事に。
10階のエレベーターから20階を目指す
丁度半分位行った所。15階で何かを感じるアリサ。
「ん? 何かしら? 何か感じる?
今16階かー、少し前なんだよね。んーまあいいか」
深く考える前にチーン。20階に到着。
分厚い両開きのドアを開けて中へ入ると
薄暗い部屋に椅子が幾つも並べてある。
既に数名の客も座っている様だ
そして天井には、夜空の様な空間。
アリサは、近くの椅子に座りリラックスする。
ポワン
投影機がオリオン座を映し出し、下にその星座の名前が。
「成程。あっ、あの星座見た事ある。
こんな形でオリオン座なんだね、
縦にした鼓みたいなのにね
でもこうしてるとなんか眠くなるー。ふぁー」
ポワン ポワン
次々と星座が現れては消える。ふと右上の方を見る。
すると浮かんでは消えて、別の星座が現れるという
ルールを無視し、独立して少しずつ、だが確実に
ポツポツと一つずつ星が増えている。一体何であろうか?
よく見てみる。すると……なんと!
少しずつ何かの形になって行く。
頭の上に丸い耳が2つついた、オーナーの様な顔。
星達が、光が! ユッキーを形作っているではないか!
これは正しく隠れユッキーである。
流石にその下に名前は書いていない。
ここはプラネタリウム。
小学生も学習に利用しているのに
こんな偽者を見ては間違った知識を得てしまう。
いや、それ以前に幼く尊い命を削られてしまう。
何とかしなくては!
「えっ? まさかこれは! く……脳が痛い。でも!」
パシャリ
消える前に何とか撮影成功。
しかし、アリサの脳にも大きいダメージが残る。
「こ、このホテル、こんな事もして来るのか。
確かに写真だけとは言っていないもんな。
あんなのマジックで塗り潰せる訳ないじゃない。
あれ? ……なんか頭がズキズキする……
あいつを消さないとみんなにも被害が出ちゃうわ。
でも、一体どうすれば……
あの機械をぶっこわ……うーん流石に駄目よね……」
「はい、お客さんこれで終わりよ。また来てね!」
アリサの思考を係の人に遮られてしまう。
「え? でも、悪魔がまだ……」
「悪魔座なんてないわよ? 大熊座と勘違いしてない?
しかし、あなたかなり小さくない?」
失礼な事を言う係のお姉さん。
「はい、そうでした
でも私、そんなに小さくは無いと思いますよ?」
(仕方ないか、部屋に戻って考えなくっちゃ)
「楽しかったねー。あれ?
何か頭が痛いんだけど……どうしよう。
そうだ、40階に植物園があるらしいから
そこでゆっくり休もうかしら?」
「そうしましょう。僕も何だか足がガクガクするよ……」
他の客達も、ユッキーをぼんやりと視界に入れたせいか
色々な症状を訴える。
恐らくユッキーとして認識出来ていなくても
視界に入っただけでその悪魔は人を蝕む様だ。
ただ、植物園に行けば治るかも知れないと言うのだ。
「何々? 40階に植物園かー。
少し寄り道になるけど行ってみよう」
アリサも客達の後を付いていく事に。
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