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第6章 退散

第36話 ミリス

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「ファイアボルト!」

 響きわたる声。
 同時に飛来する炎の矢。

 標的はミリス。
 悪魔が腕を差し出すと、炎の矢はいとも容易く消滅する。

 ミリスは、その正体をすぐに悟った。

「その声……シロップね。まさか、戻ってくるなんて思わなかった」

 その言葉を無視するように、次のファイアボルトが飛んでくる。
 だが、そのファイアボルトも、悪魔の手で軽く消滅してしまう。

「無駄よ。その程度、何のダメージにもならない」

 ミリスが吐き捨てる。

 それでもなお、ファイアボルトは一定の間隔を空けて飛んでくる。あまりにしつこいため、次第に苛立ってくる。

「いい加減にしなさい、シロップ。こんな攻撃は無駄なの」

「無駄だと分かってても……でも、じっとなんてしていられない!」

 ようやくきた返事。それに、ため息をついて返事をする。

「シロップ。同僚のよしみで見逃してあげるから、もうやめて。私はそっちに用があるから、歩いていくわ。それまでに消えていなかったら、たとえあなたでも容赦しないわよ」

 一歩を踏み出す。

 その瞬間。

 真後ろに熱気。

 それも、熱源は1つではない。
 複数、おそらくは7つほど。

 悪魔の方も気づいていない。
 となると、ミリスが起こせる行動は。

「ディ!」

 緊急回避とは正にこのことだ。

 目の前に迫っていた7本のファイアボルト。
 それを、フォースシェルで何とか消滅せしめた。

「一体何を……」

 戸惑うミリス。
 何が起きたのか、想像が追いつかない。

 この真夜中、人がそれほどいるものか。

 いや、シロップがいた。

 飛んできたファイアボルトは7本。
 シロップとの人の繋がりを考えれば。

 なるほど、そういうことか。

「あんたたちまで、私の邪魔をするのね……私の同僚さんたちぃぃいいいっ!!」

 シロップの居る方とは反対方向に、叫びを上げる。

 それほど遠くない位置に、彼女たちはいた。
 正確には、遠い場所では、彼女たちの魔法では当てることが出来なかった。

 ミリスにとっては同僚。
 メイドたちの姿がそこにあった。

 普段のメイド服ではなく、寝間着のままで、夜の林に立っている。

「邪魔をしないでよ、みんなっ! 私は、悪魔と契約して、この世界に復讐してやるんだからぁ!」

「そんなことしてどうするのよ、ミリスっ! お願い、目を覚まして!」

 シロップが遠くから呼びかける。
 ミリスはシロップがいる方向を睨みつける。

「うるさいっ! あんただって、どれだけこの世界の理不尽を見てきたのよ! 私もあんたも、両親に捨てられ、周囲の人間には意味もなく虐げられ、食べるものもなく、泥水啜ってここまで生きてきたのよ! たまたま拾った本……呪い魔法の教典を拾って、それに魅入られて、それを支えにして、いつかこの魔法が使えるようになったらって。それだけで生きてきた。それを支えにして、私もあなたもこの魔法学院に入った。仕事をしながら勉強が出来るって聞いて……いざ入ってみたらこの様よ! 結局、まともに教えるつもりなんて無かった! 毎日毎日、仕事だけを繰り返し、勉強なんて出来やしない! タダで勉強出来るっていうことを餌に、労働力が欲しいだけだった! もううんざりよ! お金が無いと、まともなことも出来ない世界なんておかしい! 私はこの世界を変えてやるの。悪魔の力を、我が主の力を借りてでも!」

「そんなことはさせない!」

「なら止めてみなさいよ!」

 ミリスが詠唱の後にファイアボルトを放つが、林の奥に消えてしまう。

「ふん、まぁいいわ。そっちに行くから、覚悟してて」

「おーっほっほっ! 覚悟するのはそちらでしてよ!」

「っ!?」
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