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第6章 退散
第33話 危機
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「もらった……!」
衝撃音が響きわたる。
会心の一撃。
衝突と同時に、冷気が周囲を包む。
目の前は、気温が突然下がったことにより霧が発生している。
そんな視界の悪い中。
「無駄ですよ」
感情のこもっていないミリスの冷言が響いた。
冷たいのは、言葉のみならず、目の前にある現実もだった。
氷の槍がへし折れている。
これだけの魔力を込めたフリジットランス。
メイプルの記憶では、巨大な岩ですら貫通し、そして砕いたことがある。
そんな一撃を受けてなお、痛がる様子もない。
それどころか、そのままメイプルを掴みかかろうとする。
襲いかかる手を、後ろに飛び退きながら避ける。
着地と同時。
迫り来るのは、ダークストライク。
(ちっ……!)
杖を向け、詠唱を開始する。
先の攻撃で魔法を使い、防御に向けた魔法は後手に回ってしまっている。
「アイスジャベリン!」
常人ならば20秒はかかるであろうアイスジャベリン。
それを、わずか2秒程度で収めているのは、人間離れしていると言って良いだろう。
だが、こと、この瞬間においては、その2秒では僅かばかり時間が足りなかった。
すでに目前に迫ったダークストライク。
アイスジャベリンが放たれる。
相殺した瞬間に、互いの魔法は弾け飛んだ。
その飛沫。
メイプルの放ったアイスジャベリンの氷片。
ダークストライクの破片。
それらが、容赦なくメイプルに降りかかる。
肌に感じるのは、氷の冷たい感触。
そして、それ以上に冷たい何かがメイプルの肌を抉る。
凍傷、という表現では生ぬるい。
当たった部分の全てに、切れ味の悪いナイフを突き刺され、グリグリと回されているような。
そんな、鋭い痛み。
散り散りになったダークストライクの破片。
その黒い破片は、衣服の繊維を軽く焼き焦がし、直接メイプルの肌を灼く。
それに当たった肌の神経が、メイプルの痛覚を激しく刺激していた。
「くっ……ぅっ!」
思わず漏れる悲鳴。
それを聞いたミリスは、悦に入った表情だ。
「ふふ、痛いでしょう? この世では、そうは感じることが出来ない痛みですよ。そして何と、ダークストライクには、相手の生命力を奪う能力があるんです。我が主は、今ので僅かに減った体力が回復。メイプルさんはというと……随分と元気に避けていましたけど、もうそんな気力がありますか?」
ご丁寧な解説も、メイプルの耳には半分も届いていない。
集中しなければ、次に来る攻撃が避けられないかもしれない。
そう思うと、気を抜くことも、どこか違うところへ向けることも出来ないでいた。
「さて、ではそろそろ終わりにしましょう。我が主、お願いします」
悪魔が腕を薙ぎ払う。
視認して行動を起こそうとするも、身体が重い。
言うことを聞かない。
想像以上に、体力を吸収されていることに愕然とする。
それでも、無理矢理にでも身体を奮い立たせる。
避けなければならない。
避け損なえば、その時点で負ける。
重い一撃を食らえば、それで身体は動かなくなる。
故に、その一撃を食らってはいけない。
目前に迫る巨大な腕。
振っている速度は、そうは変わっていないはずなのに、それまでの速度と比べると、早く見えてしまう。
「くっ!」
その場に伏せて凌ぐ。
跳躍するのは諦めた。
最小限の動きで避けることを選択する。
だが、それは同時に。
その場凌ぎの選択であることを思い知らされる。
衝撃音。
結構な音が鳴り響いたはずなのに、あまり聞こえなかったのは、あまり耳が機能しなかったから。
そして、そのことに気が付いたのは、顔と地面をくっつけた時だった。
今更のように襲い来る、背中が灼けるような激痛。
背中を撃ったのは尻尾だった。
鞭よりも凶悪なしなりと強度を持つそれは、人間くらいならば、ただの一撃で戦闘不能にするだけの力を秘めている。
伏せていただけのつもりが、本当に地べたに這いつくばされてしまっていた。
衝撃音が響きわたる。
会心の一撃。
衝突と同時に、冷気が周囲を包む。
目の前は、気温が突然下がったことにより霧が発生している。
そんな視界の悪い中。
「無駄ですよ」
感情のこもっていないミリスの冷言が響いた。
冷たいのは、言葉のみならず、目の前にある現実もだった。
氷の槍がへし折れている。
これだけの魔力を込めたフリジットランス。
メイプルの記憶では、巨大な岩ですら貫通し、そして砕いたことがある。
そんな一撃を受けてなお、痛がる様子もない。
それどころか、そのままメイプルを掴みかかろうとする。
襲いかかる手を、後ろに飛び退きながら避ける。
着地と同時。
迫り来るのは、ダークストライク。
(ちっ……!)
杖を向け、詠唱を開始する。
先の攻撃で魔法を使い、防御に向けた魔法は後手に回ってしまっている。
「アイスジャベリン!」
常人ならば20秒はかかるであろうアイスジャベリン。
それを、わずか2秒程度で収めているのは、人間離れしていると言って良いだろう。
だが、こと、この瞬間においては、その2秒では僅かばかり時間が足りなかった。
すでに目前に迫ったダークストライク。
アイスジャベリンが放たれる。
相殺した瞬間に、互いの魔法は弾け飛んだ。
その飛沫。
メイプルの放ったアイスジャベリンの氷片。
ダークストライクの破片。
それらが、容赦なくメイプルに降りかかる。
肌に感じるのは、氷の冷たい感触。
そして、それ以上に冷たい何かがメイプルの肌を抉る。
凍傷、という表現では生ぬるい。
当たった部分の全てに、切れ味の悪いナイフを突き刺され、グリグリと回されているような。
そんな、鋭い痛み。
散り散りになったダークストライクの破片。
その黒い破片は、衣服の繊維を軽く焼き焦がし、直接メイプルの肌を灼く。
それに当たった肌の神経が、メイプルの痛覚を激しく刺激していた。
「くっ……ぅっ!」
思わず漏れる悲鳴。
それを聞いたミリスは、悦に入った表情だ。
「ふふ、痛いでしょう? この世では、そうは感じることが出来ない痛みですよ。そして何と、ダークストライクには、相手の生命力を奪う能力があるんです。我が主は、今ので僅かに減った体力が回復。メイプルさんはというと……随分と元気に避けていましたけど、もうそんな気力がありますか?」
ご丁寧な解説も、メイプルの耳には半分も届いていない。
集中しなければ、次に来る攻撃が避けられないかもしれない。
そう思うと、気を抜くことも、どこか違うところへ向けることも出来ないでいた。
「さて、ではそろそろ終わりにしましょう。我が主、お願いします」
悪魔が腕を薙ぎ払う。
視認して行動を起こそうとするも、身体が重い。
言うことを聞かない。
想像以上に、体力を吸収されていることに愕然とする。
それでも、無理矢理にでも身体を奮い立たせる。
避けなければならない。
避け損なえば、その時点で負ける。
重い一撃を食らえば、それで身体は動かなくなる。
故に、その一撃を食らってはいけない。
目前に迫る巨大な腕。
振っている速度は、そうは変わっていないはずなのに、それまでの速度と比べると、早く見えてしまう。
「くっ!」
その場に伏せて凌ぐ。
跳躍するのは諦めた。
最小限の動きで避けることを選択する。
だが、それは同時に。
その場凌ぎの選択であることを思い知らされる。
衝撃音。
結構な音が鳴り響いたはずなのに、あまり聞こえなかったのは、あまり耳が機能しなかったから。
そして、そのことに気が付いたのは、顔と地面をくっつけた時だった。
今更のように襲い来る、背中が灼けるような激痛。
背中を撃ったのは尻尾だった。
鞭よりも凶悪なしなりと強度を持つそれは、人間くらいならば、ただの一撃で戦闘不能にするだけの力を秘めている。
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