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第5章 囮捜査その果てに
第27話 判決
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「ほう、それでは何も知らないと?」
「はい……」
始まってすぐに、シロップの状況は悪くなっていく。
それも無理は無い。
シロップは最初から「何も知らない」「分からない」という否定しかしていないのだ。
だが、被害者周囲からの目撃証言として、メイドのような人間を見た、という者も数多くいる。
シロップを擁護するような証言は無く、不利な状況証拠だけが揃っていく。
シロップ自身も、本当に何も覚えていないのか。
それとも黙秘しているだけなのか。
しかし、見たところシロップは、目を白黒させて、飛び交う言葉を追っていくのが精一杯のように見える。
ミリスは傍聴席に居ながらも、何もしていなかった。
考えてみれば、ミリスにシロップが犯人ではない、という証言が出来るはずもない。
ミリスは何も見ていない。
何も調べていない。
何も知らない。
「こんなところで喚いてないで、シロップのためを思うなら、もっと違う行動を起こすべきよ」
そう魔法の師は言った。
完全に無策でここにいる。
完全に無力でここにいる。
それが悔しいのか。
それが無念なのか。
俯いたまま、シロップを見ることも出来ないでいる。
会わせる顔も無いのだろうか。
下を向き、震えているように見える。
「では、シロップ・フーリアよ。お前を擁護する証人はいないのか?」
すべてをひたすら否定するシロップに、ライプリッツがそう宣告する。
「分かりません……」
そう口にした。
そんな者がいるはずがない。
そもそも、何故自分がここに立っているのか、何の罪で立たされているのか。
それすらもよく理解出来ていない。
それなのに、自分を擁護する人なんて。
分かるはずもないだろう。
沈黙が続いている。
今、この場の発言は、シロップを擁護する発言と取られる。
そう思ってか、誰も一言も発していなかった。
張りつめた空気の中、それを破ったのはメイプルだった。
「シロップ、私はあなたに魔法を教えたわよね。でも、まさかこんな形で使うなんて思わなかったわ。心外もいいところよ」
「…………?」
いまいち要領が掴めていないシロップの頭にハテナマークが浮かんでいるように見える。
そんなシロップにはお構いなしに、メイプルは言葉を続ける。
「ところで呪い魔法については1つとして教えてない、っていうか、そもそも教えることなんて出来ないんだけど。どうやって学んだのかしら」
「分かりません……」
「しらばっくれないで。あなたが呪い魔法を使っているのは、私が見ていたわ。どこでそのやり方を?」
「分かりません……」
「…………」
さっきから考えることを放棄しているのか、「分かりません」としか返答していない。
どうにも何を話しても無駄のように思える。
「……メイプル・サクロートから少々聞き捨てならぬ言葉を聞いたな。メイドたちに魔法を教えていたのか?」
「えぇ、そうよ。それがどうかしたの?」
周囲からどよめきが湧く。
「それが許される行為だと思っているのか?」
「規則には、違反とは書いてないわね」
無理もないことだ。
規則に書いていないのは何故か。
それは、規則を作った人間の想像に及ぶ範囲において、罰則を付与出来るからだ。
だからこそ、規則を作る時には、多数の人間が関与して、一つのものを作り上げていく。
そもそも、メイドたちに魔法を教えよう、などという酔狂な発想に達することそのものがおかしい、ということである。
「では、お前が魔法を教えたりしなければ、こんな事件はそもそも起きなかったんじゃないのか?」
傍聴席から飛び出た言葉。
それに、異口同音に賛同していく。
「つまり、諸悪の根源はお前じゃないか!」
「お前がいなければ起きなかった事件だ!」
「出て行け!」
「今すぐ出て行け!」
「すぐに、この学院から出て行け!」
聞こえた限りの言葉を並べるとこんな感じだった。
それに対して反論する気など無い。
メイプルは、確かに魔法を教えた。
それが例え呪い魔法では無いとしても、メイプルの教えそのものが、某かのきっかけになっている可能性が高い。
それならば。
今受けている非難の声は、決しておかしいものではない。
理に適う以上、メイプルは口を固く閉ざす。
それを受け入れる。
それがメイプルの流儀だった。
「静粛に」
ライプリッツの槌の音が響くと、一瞬にして静寂が訪れる。
魔法にでも掛かったかのように、生徒たちの口が閉ざされる。
「今は、メイプル・サクロートを非難する時間ではない。それを履き違えてはならぬ。その件は、また次の機会に糾弾するとしよう」
「御高配賜り、光栄でございます」
そのやりとりの後には、再び沈黙が続く。
よもや時間だけが重苦しく流れていく。
「どうやら、これ以上の審議は無駄のようだ。既に裁判員からの意見も集約した。被告、シロップ・フーリアに判決を下す」
槌を2回鳴らし、低い声で宣告する。
「シロップ・フーリアを、魔封じの牢へ投獄。永久監禁することとする」
事実上の死刑を告げられる。
それでもなお、シロップの表情に変化は見られなかった。
「はい……」
始まってすぐに、シロップの状況は悪くなっていく。
それも無理は無い。
シロップは最初から「何も知らない」「分からない」という否定しかしていないのだ。
だが、被害者周囲からの目撃証言として、メイドのような人間を見た、という者も数多くいる。
シロップを擁護するような証言は無く、不利な状況証拠だけが揃っていく。
シロップ自身も、本当に何も覚えていないのか。
それとも黙秘しているだけなのか。
しかし、見たところシロップは、目を白黒させて、飛び交う言葉を追っていくのが精一杯のように見える。
ミリスは傍聴席に居ながらも、何もしていなかった。
考えてみれば、ミリスにシロップが犯人ではない、という証言が出来るはずもない。
ミリスは何も見ていない。
何も調べていない。
何も知らない。
「こんなところで喚いてないで、シロップのためを思うなら、もっと違う行動を起こすべきよ」
そう魔法の師は言った。
完全に無策でここにいる。
完全に無力でここにいる。
それが悔しいのか。
それが無念なのか。
俯いたまま、シロップを見ることも出来ないでいる。
会わせる顔も無いのだろうか。
下を向き、震えているように見える。
「では、シロップ・フーリアよ。お前を擁護する証人はいないのか?」
すべてをひたすら否定するシロップに、ライプリッツがそう宣告する。
「分かりません……」
そう口にした。
そんな者がいるはずがない。
そもそも、何故自分がここに立っているのか、何の罪で立たされているのか。
それすらもよく理解出来ていない。
それなのに、自分を擁護する人なんて。
分かるはずもないだろう。
沈黙が続いている。
今、この場の発言は、シロップを擁護する発言と取られる。
そう思ってか、誰も一言も発していなかった。
張りつめた空気の中、それを破ったのはメイプルだった。
「シロップ、私はあなたに魔法を教えたわよね。でも、まさかこんな形で使うなんて思わなかったわ。心外もいいところよ」
「…………?」
いまいち要領が掴めていないシロップの頭にハテナマークが浮かんでいるように見える。
そんなシロップにはお構いなしに、メイプルは言葉を続ける。
「ところで呪い魔法については1つとして教えてない、っていうか、そもそも教えることなんて出来ないんだけど。どうやって学んだのかしら」
「分かりません……」
「しらばっくれないで。あなたが呪い魔法を使っているのは、私が見ていたわ。どこでそのやり方を?」
「分かりません……」
「…………」
さっきから考えることを放棄しているのか、「分かりません」としか返答していない。
どうにも何を話しても無駄のように思える。
「……メイプル・サクロートから少々聞き捨てならぬ言葉を聞いたな。メイドたちに魔法を教えていたのか?」
「えぇ、そうよ。それがどうかしたの?」
周囲からどよめきが湧く。
「それが許される行為だと思っているのか?」
「規則には、違反とは書いてないわね」
無理もないことだ。
規則に書いていないのは何故か。
それは、規則を作った人間の想像に及ぶ範囲において、罰則を付与出来るからだ。
だからこそ、規則を作る時には、多数の人間が関与して、一つのものを作り上げていく。
そもそも、メイドたちに魔法を教えよう、などという酔狂な発想に達することそのものがおかしい、ということである。
「では、お前が魔法を教えたりしなければ、こんな事件はそもそも起きなかったんじゃないのか?」
傍聴席から飛び出た言葉。
それに、異口同音に賛同していく。
「つまり、諸悪の根源はお前じゃないか!」
「お前がいなければ起きなかった事件だ!」
「出て行け!」
「今すぐ出て行け!」
「すぐに、この学院から出て行け!」
聞こえた限りの言葉を並べるとこんな感じだった。
それに対して反論する気など無い。
メイプルは、確かに魔法を教えた。
それが例え呪い魔法では無いとしても、メイプルの教えそのものが、某かのきっかけになっている可能性が高い。
それならば。
今受けている非難の声は、決しておかしいものではない。
理に適う以上、メイプルは口を固く閉ざす。
それを受け入れる。
それがメイプルの流儀だった。
「静粛に」
ライプリッツの槌の音が響くと、一瞬にして静寂が訪れる。
魔法にでも掛かったかのように、生徒たちの口が閉ざされる。
「今は、メイプル・サクロートを非難する時間ではない。それを履き違えてはならぬ。その件は、また次の機会に糾弾するとしよう」
「御高配賜り、光栄でございます」
そのやりとりの後には、再び沈黙が続く。
よもや時間だけが重苦しく流れていく。
「どうやら、これ以上の審議は無駄のようだ。既に裁判員からの意見も集約した。被告、シロップ・フーリアに判決を下す」
槌を2回鳴らし、低い声で宣告する。
「シロップ・フーリアを、魔封じの牢へ投獄。永久監禁することとする」
事実上の死刑を告げられる。
それでもなお、シロップの表情に変化は見られなかった。
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