たいまぶ!

司条 圭

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第五章 朝生一子 ~私に出来ること~

第85話 一子と零華

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「来ると思ってたわ、ローレライ……いえ、朝生零華!」

「よかった、ようやく受け入れてくれたのね。嬉しいよ、お姉ちゃん」

 本当に嬉しそうな声を出すローレライ。
 その感情に嘘は無さそうだ。

「そうね、ちょっと時間が掛かったけれど……あなたは私の妹よ」

「それじゃあ、私が悪魔になった経緯も知ってる?」

「知らないけれど、想像はついてるわ」

「そうなんだ……じゃあ、教えてよ」

 母から聞いた話。

 私達双子は、流産するだろうと言われていたらしい。
 それでも、何とか分娩まではありつけた。

 そんな難産の中、先に取り上げられたのは…………

 零華のほうだったという。

 しかし、零華は、取り上げられた直後に死んでしまった。

「その瞬間、あなたに悪魔が囁いたんでしょう。転生を希望するかどうかを。あなたは、赤ん坊の本能の赴くまま転生し、そして悪魔になってしまった」

「そう。そしてお姉ちゃんもまた、死にそうになったんだよ」

「その時、私の願いを聞き届けたのが……零華、あなたね」

「ご名答♪」

「私は……零華のおかげで、無事に生まれることが出来た」

 零華が死んだ瞬間、キーパーの候補者となった私。
 私の、生きたいという生存本能を叶えたのが零華。

 生きたい、というキーパー候補の私の願いを持ち、奇跡的にゲートを潜った零華は、ディアボロスになった。

 その時に汚れた、私のカルマ。

「だから、呪歌とも言えるカタストロフィーの影響が少ない。そういうことよね」

 この子の言うとおり、私のカルマは既に汚れていた。
 だから、私には影響が少なかった。

 もしかしたら…………
 私は、キーパーではなく、むしろディアボロスに近い存在になっているのかもしれない。

「さて、無事に姉妹の再会を果たしたところで……お姉ちゃんはどうするの?」

「もちろん、やることは同じ。私は、私のやるべきことを……そして、やりたいことをやり遂げる!」

「ふぅん……そっか」

 挑発とも取れるような声のトーン。
 零華は、両手から棘の鞭を展開させる。

「じゃあ、頑張ってみよっか!」

 言葉と同時に放たれる零華の鞭。

 四方八方。
 縦横無尽。
 鞭は、全方位から襲い来る。

 それを防ぐ術を、私はこれしか知らない。

「愛さん……お借りします!」

 全ての方向からの攻撃を守るのは、愛さんがいつも張っていたバリア。
 見た目は薄いけれど、私と京さんをずっと守り続けてくれていた、とても優しい壁。
 その障壁に、零華は容赦なく鞭を振るう。

「ほらほら、どうしたの? そんなに籠もっちゃって。お姉ちゃんは貝になりたかったのかな? それとも亀?」

 煽り立てるような零華の言葉。
 私は、それを黙って受ける。

「反撃してこないの? ただ叩いてるだけってつまらないんだけど」

 有言実行というべきか。
 体言するように鞭を振るうのをゆっくりと止める。

 攻撃を一切止めたその時。
 私は、零華を見つめる。

「私、あなたとは戦わない」

 真面目に言う私の顔を見て、思わず吹き出す零華。

「ぷっ……あははっ! ちょっとお姉ちゃん、本気で言ってる? こんな状況にまでなって、戦いたくないって!」

「大真面目よ。私は、あなたとは戦わない。それが今、私のしたいことよ」

「ふぅん…………」

 何かに興味の湧いた子供のような顔つきになる。

 ニヤリと笑い、面白いものを見つめるように目を細めた。

「朝生さん!」

 露草先輩がフォローに入ろうと、草薙を準備している。

 それが見えて、私は制止の声を張り上げた。

「先輩、邪魔しないで! これは、私達姉妹の問題です!」

「…………っ!」

 鬼気迫る私の声を聞き、踏みとどまる露草先輩。

 その様子を見て、零華は笑う。

「あははっ! 面白いね、お姉ちゃん。私とは戦わない。私とは戦わせない。じゃあどうやって勝つつもり?」

 ケラケラ笑う零華。

 そんな妹に、私は表情を一切崩さずに言う。

「…………零華。私は、あなたに願いを託すわ」

 私の言葉に、零華だけでなく、露草先輩も驚きを露わにした。

「ちょっと、朝生さん!」

 露草先輩の制止する声も、数多の悪魔が迫る護方結界を張り直す作業に追われ、まともに届かない。

 表情を改めた零華は、私を俯瞰する。

 その視線は、冷たい氷そのものだった。

「ふぅん……じゃあ、お姉ちゃんのやりたいことって何? 私が叶えてあげるよ? ほら、言ってみなよ。そんなものがあるならさ!」
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