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第三章 露草五十鈴 ~ケルベロス討伐録~
第61話 逆襲からの逆襲
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「な、何が起きた……」
「雷の使い手とあろうものが分からないのか。
では、冥土の土産だ。解説してやろう」
煙のように現れた森川先輩は、ケルベロスの目の前に立った。
「雷が発生する条件というのは、簡単に言うと、
雲の中に溜まった電子が、耐えきれず雲の外へ放電する状態だ。
その時、雲の中の上側ではプラス、下側ではマイナスの電子が来る。
そのマイナス電子が放電し、また地上からプラスの電子が放たれる。
それが本来電気を通さない空気中の通り道となり、雷は落ちる。
この、地上からの放電は、お迎え放電なんていう言い方もするんだが……
今回、お前は見事お迎えされたということだ」
「……どういうことだ。さっぱり理解出来ぬ」
要領を得ていないケルベロス。
その発言に、ため息混じりに解説を続ける。
「もう少し勉強したほうが良いぞ、犬っころ?
つまり、京が放った、数珠による放電。
そいつも自然現象と同様にプラスの電子とマイナスの電子を上下に展開させる。
すると、文字通り、お前をお迎え出来るということだ」
「いやー、ボクもびっくりましたよ。
雷を下に撃つ準備をしとけ、なんて言われて!」
「この空間は、地面があるようで無いからな。それも可能だというわけだ」
なるほどー、と京さんが感嘆の息を漏らす。
一方のケルベロスは、なおも疑問を吐き散らした。
「そうだとしても……何故だ。
俺は、雷を操る力を持っているだけで、雷そのものではないのだぞっ!」
「そう思っているだけだ。お前は、移動する際、雷そのものになっているんだぞ」
その言葉に、ケルベロスは目を見張る。
「なんだと……?」
「そうでなければ説明が出来ない。
お前は、自分が移動している時の姿を見たことがあるか?」
眉をひそめ、長考した後、短く答える。
「…………無い」
「そうか、それもそうだろう。
亜光速の速度で走り抜ければ、
例え悪魔の身体であっても、タダでは済まないだろう。
お前たちは、私達のような幽体とは違い、質量を持っているからな」
その説明を理解出来ているのかは分からない。
だが、ケルベロスは無言のまま、森川先輩の言葉に傾聴している。
「だが、雷そのものになれば納得の行く話だ。
お前は、一定速度以上の高速移動をする際には、雷そのものになっている。
だから、移動中の光景は見えていないし、移動先を確認しながらでしか動けない。
そこに、自分の姿を投影し、「作り直す」必要があるからな」
「……なるほどな。貴様には、それが見えたということか」
「正確に見えたわけではない。だが、そのように見えた。
そして、それが事実であることは、今、貴様自身の身体が物語っている」
そう。
雷でなければ、今こうして引き寄せられるはずが無い。
正に、ケルベロスの身体自体が、
一時的に雷となっていたことを物語っているのだ。
完全に拘束したケルベロスに、剣を突きつける。
「終わりだ、ケルベロス。せめて我らの手に掛かることを光栄に思え」
それに併せて、露草先輩が七支刀を構えた。
「母の仇、取らせてもらうわ」
2本の剣を前にして、ケルベロスは不敵に笑う。
「ふふ……なるほどな。
これは興味深い。
俺のことでありながら、俺自身が何も知らなかったというわけか……」
これほど絶望的な状況で、何をそんな余裕の笑みを浮かべているのか。
言い得ぬ恐怖が、私の背筋を凍らせる。
しっかりと捕まえているはずだ。
力など弛められない。
弛められる時間も無い。
私は、ケルベロスをしっかり拘束している。
「観念なさい、ケルベロス」
剣を突きつけられても、なお余裕の笑みを浮かべる。
その笑みは、少しずつ大きくなり、やがて大笑いを始めた。
「観念か……それはむしろ、貴様等に掛けるべき言葉だな。
ちょっとお喋りが過ぎたようだ。
口は災いの元という言葉の典型とも言うべきところだ」
ケルベロスの身体に走る雷が、一気に放電した。
すると、ケルベロスは一瞬にして私の手をすり抜け、上空へと逃げていた。
「ふはははっ!
つまり……雷となってしまえば、
こんな貴様等の拘束など無意味ということだっ!」
私は決して力を抜いたわけではないのに。
どうやって抜けたのか。
考えるまでもない。
ケルベロス自身が雷となった以上、捕まえることなど出来るはずがないのだ。
質量など無いような電撃。
そんなものを掴んでいられるはずがない。
「そして、もう1つ。
俺に、攻撃の方法を伝授してくれたな。
移動の際に雷へと変化しているというならば……
俺の移動ラインに、貴様等を巻き込めば、それで攻撃となる!」
その言葉に、私は顔を青ざめた。
そうだ。
私達は、ケルベロスに対して、更なる攻撃手段を与えてしまった。
そして、その攻撃は……
光の速さで襲い来る攻撃であって。
避けることなど、適うはずもない。
そんな状況に死すら覚悟する私の耳に、森川先輩の声が響く。
「そう、その通りだ」
上空で講釈垂れているケルベロス。
その左右には、露草先輩と森川先輩が、剣をすぐに振れる状態で待っていた。
「お前は、それを自覚していなかった。
だから、教えてやれば、それを利用すると思った。
その上で、手に拘束されていたあの状況。
動けるのは上だけだ」
「だからどうしたというのだ。
拘束から逃れられれば、俺は再び移動するだけだ」
その言葉を終えたケルベロスを切りつける。
露草先輩は左から右へ凪いで首を飛ばし、
森川先輩はケルベロスの心臓を貫いた後に、
そのまま右脇腹まで斬って捨てる。
「な、なんだと……何故雷となって移動が出来な…………」
飛んだ首が、そんな語るような断末魔を上げる。
これが、ケルベロスの最後の言葉となった。
「一応、教えておいてやろう。
お前が移動した後……雷と化してから本来の身体を形成した後に、
もう一度高速移動を行うには、1.5秒のタイムラグがあるんだ。
今度があるなら、己の力をきちんと把握してから使うべきだな」
ついてはいない血糊を捨てるように剣を一振りする。
「一子、今だっ! お前の持つ力を注ぎ込み、この悪魔を消し飛ばせっ!」
そうだ。
まだ斬っただけ。
ティターンのような例もある。
僅かな可能性も残してはいけない。
全てを消し去る必要がある。
魔を浄化する、聖なる光でっ!
「やぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
制服から、一瞬で甲冑を身に纏い、シングメシアを構える。
銀色の光があたりを照らす。
今持っている全てを注げ。
絶対に倒さねばならない。
あの時、力を残してしまった私の……
私にしか出来ない事だっ!
「唸れ……シングメシアァァァァァァアアアアア!!」
宙に舞うケルベロスのトルソ。
その破片全てが光に飲まれると、塵となって消えていった。
「雷の使い手とあろうものが分からないのか。
では、冥土の土産だ。解説してやろう」
煙のように現れた森川先輩は、ケルベロスの目の前に立った。
「雷が発生する条件というのは、簡単に言うと、
雲の中に溜まった電子が、耐えきれず雲の外へ放電する状態だ。
その時、雲の中の上側ではプラス、下側ではマイナスの電子が来る。
そのマイナス電子が放電し、また地上からプラスの電子が放たれる。
それが本来電気を通さない空気中の通り道となり、雷は落ちる。
この、地上からの放電は、お迎え放電なんていう言い方もするんだが……
今回、お前は見事お迎えされたということだ」
「……どういうことだ。さっぱり理解出来ぬ」
要領を得ていないケルベロス。
その発言に、ため息混じりに解説を続ける。
「もう少し勉強したほうが良いぞ、犬っころ?
つまり、京が放った、数珠による放電。
そいつも自然現象と同様にプラスの電子とマイナスの電子を上下に展開させる。
すると、文字通り、お前をお迎え出来るということだ」
「いやー、ボクもびっくりましたよ。
雷を下に撃つ準備をしとけ、なんて言われて!」
「この空間は、地面があるようで無いからな。それも可能だというわけだ」
なるほどー、と京さんが感嘆の息を漏らす。
一方のケルベロスは、なおも疑問を吐き散らした。
「そうだとしても……何故だ。
俺は、雷を操る力を持っているだけで、雷そのものではないのだぞっ!」
「そう思っているだけだ。お前は、移動する際、雷そのものになっているんだぞ」
その言葉に、ケルベロスは目を見張る。
「なんだと……?」
「そうでなければ説明が出来ない。
お前は、自分が移動している時の姿を見たことがあるか?」
眉をひそめ、長考した後、短く答える。
「…………無い」
「そうか、それもそうだろう。
亜光速の速度で走り抜ければ、
例え悪魔の身体であっても、タダでは済まないだろう。
お前たちは、私達のような幽体とは違い、質量を持っているからな」
その説明を理解出来ているのかは分からない。
だが、ケルベロスは無言のまま、森川先輩の言葉に傾聴している。
「だが、雷そのものになれば納得の行く話だ。
お前は、一定速度以上の高速移動をする際には、雷そのものになっている。
だから、移動中の光景は見えていないし、移動先を確認しながらでしか動けない。
そこに、自分の姿を投影し、「作り直す」必要があるからな」
「……なるほどな。貴様には、それが見えたということか」
「正確に見えたわけではない。だが、そのように見えた。
そして、それが事実であることは、今、貴様自身の身体が物語っている」
そう。
雷でなければ、今こうして引き寄せられるはずが無い。
正に、ケルベロスの身体自体が、
一時的に雷となっていたことを物語っているのだ。
完全に拘束したケルベロスに、剣を突きつける。
「終わりだ、ケルベロス。せめて我らの手に掛かることを光栄に思え」
それに併せて、露草先輩が七支刀を構えた。
「母の仇、取らせてもらうわ」
2本の剣を前にして、ケルベロスは不敵に笑う。
「ふふ……なるほどな。
これは興味深い。
俺のことでありながら、俺自身が何も知らなかったというわけか……」
これほど絶望的な状況で、何をそんな余裕の笑みを浮かべているのか。
言い得ぬ恐怖が、私の背筋を凍らせる。
しっかりと捕まえているはずだ。
力など弛められない。
弛められる時間も無い。
私は、ケルベロスをしっかり拘束している。
「観念なさい、ケルベロス」
剣を突きつけられても、なお余裕の笑みを浮かべる。
その笑みは、少しずつ大きくなり、やがて大笑いを始めた。
「観念か……それはむしろ、貴様等に掛けるべき言葉だな。
ちょっとお喋りが過ぎたようだ。
口は災いの元という言葉の典型とも言うべきところだ」
ケルベロスの身体に走る雷が、一気に放電した。
すると、ケルベロスは一瞬にして私の手をすり抜け、上空へと逃げていた。
「ふはははっ!
つまり……雷となってしまえば、
こんな貴様等の拘束など無意味ということだっ!」
私は決して力を抜いたわけではないのに。
どうやって抜けたのか。
考えるまでもない。
ケルベロス自身が雷となった以上、捕まえることなど出来るはずがないのだ。
質量など無いような電撃。
そんなものを掴んでいられるはずがない。
「そして、もう1つ。
俺に、攻撃の方法を伝授してくれたな。
移動の際に雷へと変化しているというならば……
俺の移動ラインに、貴様等を巻き込めば、それで攻撃となる!」
その言葉に、私は顔を青ざめた。
そうだ。
私達は、ケルベロスに対して、更なる攻撃手段を与えてしまった。
そして、その攻撃は……
光の速さで襲い来る攻撃であって。
避けることなど、適うはずもない。
そんな状況に死すら覚悟する私の耳に、森川先輩の声が響く。
「そう、その通りだ」
上空で講釈垂れているケルベロス。
その左右には、露草先輩と森川先輩が、剣をすぐに振れる状態で待っていた。
「お前は、それを自覚していなかった。
だから、教えてやれば、それを利用すると思った。
その上で、手に拘束されていたあの状況。
動けるのは上だけだ」
「だからどうしたというのだ。
拘束から逃れられれば、俺は再び移動するだけだ」
その言葉を終えたケルベロスを切りつける。
露草先輩は左から右へ凪いで首を飛ばし、
森川先輩はケルベロスの心臓を貫いた後に、
そのまま右脇腹まで斬って捨てる。
「な、なんだと……何故雷となって移動が出来な…………」
飛んだ首が、そんな語るような断末魔を上げる。
これが、ケルベロスの最後の言葉となった。
「一応、教えておいてやろう。
お前が移動した後……雷と化してから本来の身体を形成した後に、
もう一度高速移動を行うには、1.5秒のタイムラグがあるんだ。
今度があるなら、己の力をきちんと把握してから使うべきだな」
ついてはいない血糊を捨てるように剣を一振りする。
「一子、今だっ! お前の持つ力を注ぎ込み、この悪魔を消し飛ばせっ!」
そうだ。
まだ斬っただけ。
ティターンのような例もある。
僅かな可能性も残してはいけない。
全てを消し去る必要がある。
魔を浄化する、聖なる光でっ!
「やぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
制服から、一瞬で甲冑を身に纏い、シングメシアを構える。
銀色の光があたりを照らす。
今持っている全てを注げ。
絶対に倒さねばならない。
あの時、力を残してしまった私の……
私にしか出来ない事だっ!
「唸れ……シングメシアァァァァァァアアアアア!!」
宙に舞うケルベロスのトルソ。
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