17 / 88
第一章 狩野姉妹 ~ティターン討伐録~
第17話 術中
しおりを挟む
「じゃ、頼んだわよ。
あとは前に結界を張ってあなたたちの邪魔をさせないようにするわ」
そう言い残すと、早々に前にいた配置に戻っていった。
「さて、ここからは私たちが頑張るところでーす!」
ふと見れば、先ほどから忙しそうに、矢をとめどなく発射している樫儀さん。
そのたびに、前に見える黒い点が消滅していた。
「そうだな。ところで千里、ティターンの身体からシングメシアは見えるか?」
「うーん……ちょっと待ってくださーい」
矢を放ちつつ、ティターンの方を見る。
その眼は、まるで鷹の眼のごとく鋭くなっており、
私の背筋は一瞬寒気を覚えた。
「うぅー……ちょっと分からないでーす」
「そうか。仕方ない、まずは宝探しだな」
森川先輩の剣、シングメシアに薄い光が宿る。
不気味なようで、それ以上に美しく光る剣の切れ味は想像に難くない。
とても偽物とは思えない。
「はぁっ!」
森川先輩が飛んだ。
飛んでいくその周囲には、いくつもの黒いものが飛びつこうとしていたが、
それは全て放たれた矢によって阻まれている。
森川先輩がティターンの下半身に取り付く。
そして、身を削ぐように剣を振るう。
それに抵抗するように、ティターンの脚が蹴り飛ばそうとする。
予測していたように森川先輩は軽く身を翻しているが、
空を切った脚からは、凄まじい風を生み出していた。
一撃は確かに大雑把に見えるけど、あれに当たったらどうなるのか。
全身骨折で済めば御の字。
下手すればショック死も免れないのではないだろうか。
それを思うと、身震いが止まらなかった。
「やっぱり……シングメシアが使えないと大変そうですね、森川先輩」
「えっ……?!」
樫儀さんの呟きに、私はびっくりすると同時に絶望感を抱く。
シングメシアが使えない。
その原因は、やっぱりオリジナルである剣が無いからこそなんだろう。
今更ながらに、オリジナルと偽物、違いの大きさを理解する。
「ちっ! こっちじゃないのか?」
舌打ちし、ティターンの下半身から離れる森川先輩。
そして上半身のほうへ向かう。
だが、上半身からの抵抗は大変なものだ。
腕を振り回すことはもちろんのこと、
片手で軸を作ったと思えば身体をコマのごとく回転させるなど、尋常ではない。
痛みなどないのだろう。
あの無茶な挙動は、そう思わせる。
「よし、露草先輩の護方結界が完成したでーす。森川先輩、手伝いまーす!」
樫儀さんは、弓につがえた矢を消し去ると、剣へと変えた。
それも、1本ではない。
10本は束になっているだろうか。
それをおよそ角度80度に構えると、一斉に放出する。
着地点は、ティターンの上半身。
計算された角度で射出された剣は、降りたときには垂直になり、
ティターンに襲いかかっていた。
そして、ティターンの身を削いで行く。
「……危ないだろう」
危うく当たりそうになったのか。
森川先輩がこちらに飛んできて、樫儀さんに注意する。
「だいじょーぶでーす! …………多分」
「……その最後の一言はやめろ」
「冗談でーす。
ほらほら、森川先輩。ダメージ与えに行くのとシングメシア探さないと、
時間切れになるです!
当たらないからだいじょーぶでーす!」
「まったく……信頼するぞ」
再びティターンの元へ飛び込む森川先輩。
樫儀さんは、もう一度剣を撃つのかと思いきや、
矢をつがえて黒い点を捉えていた。
「なるほど、樫儀さんの主な役割っていうのは……」
「もちろん、露草先輩や森川先輩が撃ち漏らした悪魔を狙撃することでーす。
そのためにある「鷹の目」と「与一の弓」でーす。
特に今回は、私が最後の砦ですからねー。
ティターンを削ることより優先するです」
そう言うと、次々に矢で射落としていく。
そして次は、剣をつがえて、ティターンを攻撃。
きちんと状況を把握して、ベストを尽くしているようだ。
「ちぃ……! シングメシアをどこへやったっ!」
気付けばティターンの身体はずいぶん小さくなっているように見える。
現実世界のように、血が出ては肉体が削れるというより、
身体の大きさがただひたすら小さくなっているのだろう。
それでも、森川先輩のシングメシアは見つかっていない。
上半身には無いのか、それとももっと小さくしないと見えないのか。
いずれにせよ、
シングメシアが見つからないと決定打に欠けているように思える。
「森川先輩、一旦脚のほうをお願いしまーす!」
ふと見ると、ティターンの脚は樫儀さんの横あたりに来ていた。
そこを通り過ぎれば、次は狩野姉妹だけだ。
扉のほうは閉まりつつあるけれど、予想以上に脚の速度が速い。
上半身が無くなって軽くなっているのだろうか。
「分かった。少し胴体のほうを頼む」
「がってん承知のすけーです!」
森川先輩が離れるや否や、樫儀さんが上半身に向けて剣を降らせる。
その無限のごとき剣の雨を、
悲鳴を上げることなく受け止める姿は異様なものだ。
何か考えがあるのでは無いのか。
そんな予感が過ぎったとき、下半身が急に走り出した。
それは突風のごとく。
突然、猛烈に速度を上げて疾走する。
森川先輩は、敵の、最初の歩くペースで着地点を合わせていたため、
再び跳躍しなければならない。
その、もう一度飛ぶまでの間に、ティターンはすでに扉の近くまで来ていた。
…………えっ?
……「ティターン」が?
脚だけじゃなく?
気付けば、上半身はいずこかへ消えていた。
そして、まるで生えてきたかのように、脚の上には胴体が乗っていた。
どうやって?
いや、違う。
考えて分かるものじゃない。
そういうことじゃない。
ティターンは、真っ二つにされたその時から、それが狙いだったのだ。
攻撃目標を2つに分けられたのは、
ティターンからすると願ってもいないことだったのだ。
脚のほうを先行させ、後で何らかの方法で胴体を脚の方へテレポートさせた。
そうすることで、ハデスゲートをより通過しやすくなる。
それは恐らく、私たちの未知なる部分で。
知ることなど出来なかったことで。
知らないうちに、ティターンの術中に踊らされていたのだ。
あとは前に結界を張ってあなたたちの邪魔をさせないようにするわ」
そう言い残すと、早々に前にいた配置に戻っていった。
「さて、ここからは私たちが頑張るところでーす!」
ふと見れば、先ほどから忙しそうに、矢をとめどなく発射している樫儀さん。
そのたびに、前に見える黒い点が消滅していた。
「そうだな。ところで千里、ティターンの身体からシングメシアは見えるか?」
「うーん……ちょっと待ってくださーい」
矢を放ちつつ、ティターンの方を見る。
その眼は、まるで鷹の眼のごとく鋭くなっており、
私の背筋は一瞬寒気を覚えた。
「うぅー……ちょっと分からないでーす」
「そうか。仕方ない、まずは宝探しだな」
森川先輩の剣、シングメシアに薄い光が宿る。
不気味なようで、それ以上に美しく光る剣の切れ味は想像に難くない。
とても偽物とは思えない。
「はぁっ!」
森川先輩が飛んだ。
飛んでいくその周囲には、いくつもの黒いものが飛びつこうとしていたが、
それは全て放たれた矢によって阻まれている。
森川先輩がティターンの下半身に取り付く。
そして、身を削ぐように剣を振るう。
それに抵抗するように、ティターンの脚が蹴り飛ばそうとする。
予測していたように森川先輩は軽く身を翻しているが、
空を切った脚からは、凄まじい風を生み出していた。
一撃は確かに大雑把に見えるけど、あれに当たったらどうなるのか。
全身骨折で済めば御の字。
下手すればショック死も免れないのではないだろうか。
それを思うと、身震いが止まらなかった。
「やっぱり……シングメシアが使えないと大変そうですね、森川先輩」
「えっ……?!」
樫儀さんの呟きに、私はびっくりすると同時に絶望感を抱く。
シングメシアが使えない。
その原因は、やっぱりオリジナルである剣が無いからこそなんだろう。
今更ながらに、オリジナルと偽物、違いの大きさを理解する。
「ちっ! こっちじゃないのか?」
舌打ちし、ティターンの下半身から離れる森川先輩。
そして上半身のほうへ向かう。
だが、上半身からの抵抗は大変なものだ。
腕を振り回すことはもちろんのこと、
片手で軸を作ったと思えば身体をコマのごとく回転させるなど、尋常ではない。
痛みなどないのだろう。
あの無茶な挙動は、そう思わせる。
「よし、露草先輩の護方結界が完成したでーす。森川先輩、手伝いまーす!」
樫儀さんは、弓につがえた矢を消し去ると、剣へと変えた。
それも、1本ではない。
10本は束になっているだろうか。
それをおよそ角度80度に構えると、一斉に放出する。
着地点は、ティターンの上半身。
計算された角度で射出された剣は、降りたときには垂直になり、
ティターンに襲いかかっていた。
そして、ティターンの身を削いで行く。
「……危ないだろう」
危うく当たりそうになったのか。
森川先輩がこちらに飛んできて、樫儀さんに注意する。
「だいじょーぶでーす! …………多分」
「……その最後の一言はやめろ」
「冗談でーす。
ほらほら、森川先輩。ダメージ与えに行くのとシングメシア探さないと、
時間切れになるです!
当たらないからだいじょーぶでーす!」
「まったく……信頼するぞ」
再びティターンの元へ飛び込む森川先輩。
樫儀さんは、もう一度剣を撃つのかと思いきや、
矢をつがえて黒い点を捉えていた。
「なるほど、樫儀さんの主な役割っていうのは……」
「もちろん、露草先輩や森川先輩が撃ち漏らした悪魔を狙撃することでーす。
そのためにある「鷹の目」と「与一の弓」でーす。
特に今回は、私が最後の砦ですからねー。
ティターンを削ることより優先するです」
そう言うと、次々に矢で射落としていく。
そして次は、剣をつがえて、ティターンを攻撃。
きちんと状況を把握して、ベストを尽くしているようだ。
「ちぃ……! シングメシアをどこへやったっ!」
気付けばティターンの身体はずいぶん小さくなっているように見える。
現実世界のように、血が出ては肉体が削れるというより、
身体の大きさがただひたすら小さくなっているのだろう。
それでも、森川先輩のシングメシアは見つかっていない。
上半身には無いのか、それとももっと小さくしないと見えないのか。
いずれにせよ、
シングメシアが見つからないと決定打に欠けているように思える。
「森川先輩、一旦脚のほうをお願いしまーす!」
ふと見ると、ティターンの脚は樫儀さんの横あたりに来ていた。
そこを通り過ぎれば、次は狩野姉妹だけだ。
扉のほうは閉まりつつあるけれど、予想以上に脚の速度が速い。
上半身が無くなって軽くなっているのだろうか。
「分かった。少し胴体のほうを頼む」
「がってん承知のすけーです!」
森川先輩が離れるや否や、樫儀さんが上半身に向けて剣を降らせる。
その無限のごとき剣の雨を、
悲鳴を上げることなく受け止める姿は異様なものだ。
何か考えがあるのでは無いのか。
そんな予感が過ぎったとき、下半身が急に走り出した。
それは突風のごとく。
突然、猛烈に速度を上げて疾走する。
森川先輩は、敵の、最初の歩くペースで着地点を合わせていたため、
再び跳躍しなければならない。
その、もう一度飛ぶまでの間に、ティターンはすでに扉の近くまで来ていた。
…………えっ?
……「ティターン」が?
脚だけじゃなく?
気付けば、上半身はいずこかへ消えていた。
そして、まるで生えてきたかのように、脚の上には胴体が乗っていた。
どうやって?
いや、違う。
考えて分かるものじゃない。
そういうことじゃない。
ティターンは、真っ二つにされたその時から、それが狙いだったのだ。
攻撃目標を2つに分けられたのは、
ティターンからすると願ってもいないことだったのだ。
脚のほうを先行させ、後で何らかの方法で胴体を脚の方へテレポートさせた。
そうすることで、ハデスゲートをより通過しやすくなる。
それは恐らく、私たちの未知なる部分で。
知ることなど出来なかったことで。
知らないうちに、ティターンの術中に踊らされていたのだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
アルゴノートのおんがえし
朝食ダンゴ
ファンタジー
『完結済!』【続編製作中!】
『アルゴノート』
そう呼ばれる者達が台頭し始めたのは、半世紀以上前のことである。
元来アルゴノートとは、自然や古代遺跡、ダンジョンと呼ばれる迷宮で採集や狩猟を行う者達の総称である。
彼らを侵略戦争の尖兵として登用したロードルシアは、その勢力を急速に拡大。
二度に渡る大侵略を経て、ロードルシアは大陸に覇を唱える一大帝国となった。
かつて英雄として名を馳せたアルゴノート。その名が持つ価値は、いつしか劣化の一途辿ることになる。
時は、記念すべき帝国歴五十年の佳節。
アルゴノートは、今や荒くれ者の代名詞と成り下がっていた。
『アルゴノート』の少年セスは、ひょんなことから貴族令嬢シルキィの護衛任務を引き受けることに。
典型的な貴族の例に漏れず大のアルゴノート嫌いであるシルキィはセスを邪険に扱うが、そんな彼女をセスは命懸けで守る決意をする。
シルキィのメイド、ティアを伴い帝都を目指す一行は、その道中で国家を巻き込んだ陰謀に巻き込まれてしまう。
セスとシルキィに秘められた過去。
歴史の闇に葬られた亡国の怨恨。
容赦なく襲いかかる戦火。
ーー苦難に立ち向かえ。生きることは、戦いだ。
それぞれの運命が絡み合う本格派ファンタジー開幕。
苦難のなかには生きる人にこそ読んで頂きたい一作。
○表紙イラスト:119 様
※本作は他サイトにも投稿しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
ポリ 外丸
ファンタジー
普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。
海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。
その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。
もう一度もらった命。
啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。
前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる