4 / 88
プロローグ ~退魔部入部~
第4話 幽体離脱
しおりを挟む
たどり着いたのは隣の教室。
気になったのは、「使用禁止」の張り紙が張ってあったこと。
それに、視線で気づいた露草先輩が、
「これは、私たち以外は使用禁止っていう意味よ」
と教えてくれた。
なるほど、ウソは書いてないっていうことみたいだ。
中はとても暗かった。
まだ夕方だから、日は出ているはずなのにかなり厚い遮光カーテンが、
その日差しを完全に遮断していた。
窓はもちろん、出入りするドアも光が入れないようになっている。
あまりよく見えないけれど、中は普通の教室のようだ。
端っこのほうに机と椅子が積み重なっているように見える。
その空いているスペースで、みんなが手を取り合って輪を作っている。
「朝生さん、こっちに来て」
露草先輩に呼ばれると、先輩の右に立つ。
私の左は愛さんだ。
「はい、手を繋ぎましょ。あとは私たちに任せて」
求められるままに手を差し出すと、露草先輩は首を横に振る。
「みんなと同じように手を繋いで。
私には左手を、愛さんには右手を。腕を前で交差するように」
「あ、はい」
なるほど、人数にしては輪が小さいわけだ。
露草先輩に左手を、愛さんに右手を差し出すと、優しく握られる。
「目を瞑って、心を落ち着けてくださいね」
「はい……」
愛さんに優しく諭されるように言われ、素直に目を瞑る。
深呼吸。
ゆっくりと、3回。
身体の力が抜けていく。
耳には、露草先輩の声が聞こえる。
「いざ行かん。我らの戦地へ。我らの宿業の地へ。魔の潜む地へ。
受け入れよう、我らが魂に課せられし運命を」
徐々に。
徐々に力が抜けていく。
立っていることすらも出来ない。
でも、
力を入れようとしても、
動かない。
もどかしく。
もどかしく。
もどかしくて。
思わず目を開けた。
「……あれ?」
鏡でしか見たことのないものがある。
それは、普段はよく見えないもので。
そして、とても身近な。
おそらくは、自分が生きる上で一番大事なもの。
「どう? 自分の身体を、こうして俯瞰して見た感想は」
露草先輩の声がした気がする。
でも、その声はイマイチ私の耳には入らない。
目に入るものがあまりに驚きで。
あまりに刮目して。
耳に神経が行かないでいる。
そこには、私の身体があった。
その身体の首筋から細い糸のようなものが伸びていて、
私の尾てい骨のあたりに繋がっている。
その糸はとかく細く、意識しないでいると、見失ってしまうほど。
まるで蜘蛛の糸のようだった。
「初めての幽体離脱、おめでとうございます。気分はどうですか?」
「ゆ、幽体離脱……?」
よく見ると、隣にいる露草先輩も、
そしてみんなの身体からも同様に糸が伸びている。
「なんだか、信じられない感じです……」
「ふふ、最初はみんなそうですよ」
そう言って、ふわりと飛んでいく露草先輩。
その先輩の姿は、巫女さんの姿だった。
「えっへへ~、いっちゃんの裸見ぃ~ちゃった!」
何故か軍隊の迷彩服を着ている京さんが私に飛びついてくる。
そこで初めて、自分の姿が裸になっていることに気づいた。
「いっちゃん、胸小さいぞ。私と同じだなー、この可愛いやつめ」
胸に顔を埋めて左右に首を振る京さん。
「ちょ、ちょっと……ひぁ!」
「良いではないか、良いではないか~」
怪しい顔つきで言う。
さて、これからと言わんばかりに、舌なめずりをして、
手をわきわきさせている京さんの、首根っこを捕まえる人が1人。
「京ちゃーん……今はともかく、後でおしおきですよ」
「あ、あはは~……ちょっとしたスキンシップですよ、愛さま……」
後ろから激しいオーラを出しつつ、私から京さんをひき剥がす愛さん。
頭にはもちろん、怒りマークがついている。
そんな鬼の形相から、私のほうへ振り返ったときには、
菩薩のような顔になっていた。
「先に言っておかないといけなかったですよね。
服は自分でイメージしたものを着ることが出来ますよ。
ただ、最初に幽体離脱するときしか出来ないので、今回は我慢してください」
申し訳無さそうに頭を下げる愛さん。
その愛さんは、教会のシスターの格好をしている。
確か、家は仏教って言っていたような気もするけど、
京さんの迷彩服は更に関係ないところを鑑みると……
案外、何でも有りなのかもしれない。
「朝生さん、フルーツポンチね!
日本女子たるもの、やっぱりそのくらい肝が座ってないとだめですねー」
樫儀さんの服装は、新撰組のごとく、男性の着物だ。
正確には羽織りというべきか。
っていうかフルーツポンチって……?
「それを言うならフルモンテイだろう。元は英語のはずだが?」
「あはは、そうでしたー!」
あの時出会ったままの、銀髪の騎士が、樫儀さんの言葉を訂正する。
その容姿は劇的に変わっているものの、
森川先輩だということに気づくのには、そう時間は掛からなかった。
それにしても、森川先輩のこの格好。
どこかで見たことがあるような……?
「ほら、みんな。あんまり朝生さんをからかわないで」
一通りみんなの姿を見て思わず茫然自失でいる私を、
露草先輩が手を引いてくれた。
「こちらです。さぁ、ここからが、退魔部の本当の体験入部ですよ」
気になったのは、「使用禁止」の張り紙が張ってあったこと。
それに、視線で気づいた露草先輩が、
「これは、私たち以外は使用禁止っていう意味よ」
と教えてくれた。
なるほど、ウソは書いてないっていうことみたいだ。
中はとても暗かった。
まだ夕方だから、日は出ているはずなのにかなり厚い遮光カーテンが、
その日差しを完全に遮断していた。
窓はもちろん、出入りするドアも光が入れないようになっている。
あまりよく見えないけれど、中は普通の教室のようだ。
端っこのほうに机と椅子が積み重なっているように見える。
その空いているスペースで、みんなが手を取り合って輪を作っている。
「朝生さん、こっちに来て」
露草先輩に呼ばれると、先輩の右に立つ。
私の左は愛さんだ。
「はい、手を繋ぎましょ。あとは私たちに任せて」
求められるままに手を差し出すと、露草先輩は首を横に振る。
「みんなと同じように手を繋いで。
私には左手を、愛さんには右手を。腕を前で交差するように」
「あ、はい」
なるほど、人数にしては輪が小さいわけだ。
露草先輩に左手を、愛さんに右手を差し出すと、優しく握られる。
「目を瞑って、心を落ち着けてくださいね」
「はい……」
愛さんに優しく諭されるように言われ、素直に目を瞑る。
深呼吸。
ゆっくりと、3回。
身体の力が抜けていく。
耳には、露草先輩の声が聞こえる。
「いざ行かん。我らの戦地へ。我らの宿業の地へ。魔の潜む地へ。
受け入れよう、我らが魂に課せられし運命を」
徐々に。
徐々に力が抜けていく。
立っていることすらも出来ない。
でも、
力を入れようとしても、
動かない。
もどかしく。
もどかしく。
もどかしくて。
思わず目を開けた。
「……あれ?」
鏡でしか見たことのないものがある。
それは、普段はよく見えないもので。
そして、とても身近な。
おそらくは、自分が生きる上で一番大事なもの。
「どう? 自分の身体を、こうして俯瞰して見た感想は」
露草先輩の声がした気がする。
でも、その声はイマイチ私の耳には入らない。
目に入るものがあまりに驚きで。
あまりに刮目して。
耳に神経が行かないでいる。
そこには、私の身体があった。
その身体の首筋から細い糸のようなものが伸びていて、
私の尾てい骨のあたりに繋がっている。
その糸はとかく細く、意識しないでいると、見失ってしまうほど。
まるで蜘蛛の糸のようだった。
「初めての幽体離脱、おめでとうございます。気分はどうですか?」
「ゆ、幽体離脱……?」
よく見ると、隣にいる露草先輩も、
そしてみんなの身体からも同様に糸が伸びている。
「なんだか、信じられない感じです……」
「ふふ、最初はみんなそうですよ」
そう言って、ふわりと飛んでいく露草先輩。
その先輩の姿は、巫女さんの姿だった。
「えっへへ~、いっちゃんの裸見ぃ~ちゃった!」
何故か軍隊の迷彩服を着ている京さんが私に飛びついてくる。
そこで初めて、自分の姿が裸になっていることに気づいた。
「いっちゃん、胸小さいぞ。私と同じだなー、この可愛いやつめ」
胸に顔を埋めて左右に首を振る京さん。
「ちょ、ちょっと……ひぁ!」
「良いではないか、良いではないか~」
怪しい顔つきで言う。
さて、これからと言わんばかりに、舌なめずりをして、
手をわきわきさせている京さんの、首根っこを捕まえる人が1人。
「京ちゃーん……今はともかく、後でおしおきですよ」
「あ、あはは~……ちょっとしたスキンシップですよ、愛さま……」
後ろから激しいオーラを出しつつ、私から京さんをひき剥がす愛さん。
頭にはもちろん、怒りマークがついている。
そんな鬼の形相から、私のほうへ振り返ったときには、
菩薩のような顔になっていた。
「先に言っておかないといけなかったですよね。
服は自分でイメージしたものを着ることが出来ますよ。
ただ、最初に幽体離脱するときしか出来ないので、今回は我慢してください」
申し訳無さそうに頭を下げる愛さん。
その愛さんは、教会のシスターの格好をしている。
確か、家は仏教って言っていたような気もするけど、
京さんの迷彩服は更に関係ないところを鑑みると……
案外、何でも有りなのかもしれない。
「朝生さん、フルーツポンチね!
日本女子たるもの、やっぱりそのくらい肝が座ってないとだめですねー」
樫儀さんの服装は、新撰組のごとく、男性の着物だ。
正確には羽織りというべきか。
っていうかフルーツポンチって……?
「それを言うならフルモンテイだろう。元は英語のはずだが?」
「あはは、そうでしたー!」
あの時出会ったままの、銀髪の騎士が、樫儀さんの言葉を訂正する。
その容姿は劇的に変わっているものの、
森川先輩だということに気づくのには、そう時間は掛からなかった。
それにしても、森川先輩のこの格好。
どこかで見たことがあるような……?
「ほら、みんな。あんまり朝生さんをからかわないで」
一通りみんなの姿を見て思わず茫然自失でいる私を、
露草先輩が手を引いてくれた。
「こちらです。さぁ、ここからが、退魔部の本当の体験入部ですよ」
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)
青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。
ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。
さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。
青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる