僕と彼女の異世界因果律(コーザリティー)

司条 圭

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第2章 霧島杏奈

第18話(現世界)告白

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「も、もうお腹一杯……」

「大丈夫、大和君ならもっと食べられる」

 僕は今、委員長の家にお呼ばれしている。

 何でそうなったのか。
 どういった経緯なのか。
 それは、たった今、異世界から戻ってきた僕には分かるはずもない。

 しかし、やたらとお腹が一杯なのが分かる。
 目の前には、まだこれかと言わんばかりに並ぶご馳走。

「わ、私の手料理。残したら許さない」

 腰に手を当て、珍しく怒った表情を見せる委員長。

(そうか……委員長、生き返ったんだな)

 それを認識出来た瞬間、目尻に涙が溜まる。
 委員長は、僕の顔を見て、今度は心配そうに顔を覗かせる。

「そ、そんなに私の料理おいしくないの?」

「あ、いや。そういうんじゃなくて……」

 説明は出来ないし、参ったなぁ。
 とりあえず、目の前にある料理を食べるしかなさそうだ。
 では、一番手前にある炒飯を。

「…………っ!?」

 口に運んだ瞬間。
 程よい塩と胡椒、そしてパラパラになったお米が口の中で踊る。
 これならいくらでも食べられそう……
 なのに。

(うぐっ……)

 何とか声には出さなかったが……
 お腹が受け付けない。
 参った、本当に胃が限界だ。

「い、委員長……」

 ちょっとさすがに無理。

 そう言い掛けたが、既に厨房に戻り、調理を始めている。

 だが、その鼻歌がとても美しく。
 何よりとても嬉しそうで。
 僕は、その先を続けることが出来なくなってしまった。

 あんなに可愛い女の子が、あんなに嬉しそうに、僕だけのために、とても素晴らしい料理の腕を振るってくれている。

 男冥利に尽きる。

 この言葉が、これほどまでに合う状況があるだろうか。

(男になれ、葛城大和……!)

 僕は、意を決して。
 もとい、胃を決して、目の前にある料理を食べまくった。




(さ、さすがに死ぬ……)

 シャツがパツンパツン。

 妊婦顔負けの腹になり、胃どころか食道まで詰め込んだところで、委員長式の満漢全席が終わりを告げた。
 一息すらもつけず、トドのように息を絶え絶えするしかない。

 しかしながら、この満腹感は、同時に達成感すら覚える。

 僕は、口をパクパクさせながら、ダイニングの椅子に座っている。
 委員長も、頬杖をつきながら、満足げに僕を見つめていた。

「ど、どう? 美味しかった?」

「も、もちろんだ」

「そう……嬉しい」

 顔を真っ赤にさせる委員長。
 可愛いと思いつつも、お腹が一杯でそちらに気が散ってしまう。

「な、なぁ委員長。何でこんなにご馳走になってるんだっけ?」

「じ、実は私もよく覚えてなくて……」

 不思議と、そのあたりは長山と同じようだ。
 長山の時も、何故か2人で剣道場にいたんだっけ。
 それと同じような現象として、僕は委員長のご飯を食べさせてもらっているのだろうか。

「その、よく分からないんだけど。この料理は、私のお礼の気持ちなの。何故だか、大和君に感謝しないといけないと思って……あの、変な感じだと思うけど、それでも言わせて」

 椅子から立ち上がり、ゆっくりと頭を下げる。
 そして。

「ありがとう」

 顔を上げたその顔は、笑顔でありながら、涙で溢れていた。


 その涙の意味は、僕には分からない。
 だから、僕は抱きしめる。

 僕に出来ることは、そのくらいしか無かった。
 彼女の不安を取り除くには、他に方法が思いつかなかった。
 そして、それ以上に、僕がそうしたかった。

(良かった……生き返って良かったっ!)

 委員長の温もりを感じる。
 それだけが、今の僕の救い。

「ふぇ……ふぇぇぇぇぇぇぇっ」

 急に泣き出してしまう委員長。
 救う前の時の記憶がフラッシュバックしてしまったのだろうか。
 そんなことがあり得るのだろうか。

「大丈夫……大丈夫だよ。僕が守るから」

 頭を優しく撫でる。
 激しく揺れる肩が、少しずつ治まっていく。
 やがて、泣き声も止み始める。

「大丈夫?」

「うん……ごめんね、急に」

「大丈夫だよ」

「ふふ……大和君、さっきから大丈夫しか言ってない」

「あはは、確かに」

 ようやく笑う顔がみれた。
 僕は、それを見て安堵する。

「あ、あの大和君。そろそろいいかな……?」

「え、あ、ごめん」

 そういえば、抱きしめっぱなしだった。
 あまりに心地良いものだから、ついそのままでいてしまった。
 離そうとするが、逆に委員長が腕を背中に回してくる。

「……委員長?」

「……あ、杏奈って呼んで欲しい、な」


 ドキッ!


 甘えるような声。
 今まで聞いたことの無い委員長の声色に、僕の胸の鼓動が高鳴る。

「い、委員長。何を言って?」

「ごめんね、李奈……」

 ポツリと独り言のように呟いてから、潤んだ目で僕をまっすぐに見つめる。
 そして。
 ゆっくりとした口調で。

「わ、私。大和君が……好き、ですっ!」

 僕は、生まれて初めて。
 女の子に告白されたのだった。
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