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第39話 こいつ、やっぱりいい奴だ

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「め、メル。一体どういうことですか?」

「どういうこと、かぁ……」

 腕組みをしながら、なおも歩き続けるメル。
 そのメルに、ハルナが執拗にまとわりつく。
 実際、俺もリザも疑問に思っていることは一緒であり、ハルナと同じ視線を向けていた。

「そうねぇ……これからも背中を預けるパーティーメンバーになら話しておこうかな」

 そういって、何やら手を後ろに回す。
 嫌な予感に、俺は釘を刺す。

「待て、本当に背中を取って預けるなよ」

「あらバレちゃった?」

 思わずズッコケる俺だが、メルは気にもとめずに話し始める。

「前提として、ボッタクリと私は、きっちり手を組んでるわ」

「そうなのか……」

「そんなガッカリした声出さなくてもいいじゃない」

「あんな悪徳商人と組んでると聞けば、誰だってガックリ来るですよ」

 リザがツンツンした声で反論する。
 ハルナも同調するように首を縦に振った。

「それともう一つ。3層は、私の箱庭だってこと」

「それは想像ついたよ。何だ、あのコレクタールームは」

「ポーチに入れるようなものでもない。倉庫に置くには邪魔になる。そんなものを、あそこに置いてあるのよ。誰も通れないから、私専用って言ってもいいくらいの物置ね」

「だからあんなにスムーズに行けるのか……」

「もちろん、私のスカウトスキルがあってこそだけどね」

 ニヤニヤ笑いながら、俺を流し見する。

「ま、だから、あそこで不幸にも全滅、もしくはサバイバーで帰った人々の品々は、私が拝借するわけ。でも、それじゃあんまりでしょ?」

「あんまりというか、ただの泥棒です」

「その通りね。だから、私が回収して、ボッタクリに流すのよ。物によっては、解呪もお願いしてね」

「解呪?」

 ゲームでは聞き慣れている言葉だが、この世界では初めて聞いた気がする。
 思わず聞き返してしまった。
 それに、リザが答えてくれる。

「洞窟内に残された武器や防具は、そのままにしておくと、魔王の障気に当てられて、呪われてしまうんです。呪われた装備をつけてしまうと、外せなくなるだけでなく、身体に悪影響を及ぼします。呪いの強さによりけりですが、最悪は徐々に体力を奪われ続け、死に至ることもあります」

「魔王の障気、恐ろしいもんだな……」

「解説どーも。んで、私もリザも、解呪魔法を持っているけど、解呪をすると、普通は物も壊れちゃうわけよ。でも、ボッタクリなら壊すことなく呪いを解ける。こればっかりは、何度やってもダメだわね。あいつのユニークスキルかもしれないわ」

 なるほど、だからこそ唯一の商売が出来るということか。
 おのれボッタクリ。

「ま、つまり、そうやって持ってきたものを、元の持ち主に定価の十分の一以下で売らせるのよ。んで、その売り上げの3割が私の手間賃」

「十分の一以下って、安すぎやしないか?」

「ところがそうでもないわ。鎧だって何だって、大抵は既製品じゃなく、セミオーダーくらいになるわ。そうなると、例えば取ってきた鎧は、落とした本人くらいしか装備できないわけ」

「まぁ、そりゃそうか……」

 鎧なんてのは、かなり本人に寄せて作られているだろう。
 武器にしても実はそうで、鍛冶屋で作って貰った場合、その武器は普通、その人専用に作られる。
 既製品で合う場合ももちろんあるが、大抵は若干の仕立て直しが必要となるものだ。

「さて、サバイバーで戻った冒険者たちは、文字通り素っ裸。でも、そこで自分が使っていた装備が格安で売られていたらどうする?」

「当然、買うよな。無理してでも」

「そういうこと。つまり、ボッタクリにとっては絶対的に需要がある品を、私が仕入れてくるって寸法」

 以前に揃えていた装備があるのと無いのとでは、冒険者稼業を続けるにあたり、再開する速度はかなり違うものになるだろう。
 ある意味での救済措置ということになるだろうか。

「こうやって私はお金を工面しているわけ。どう? なかなか非道だと思わない?」

 メルの言葉に、俺たちは沈黙で返した。
 あの行動の裏に、こんな事情があることを知らなかったハルナとリザ。
 何か、言葉が喉まで出ているが、出し切れない様子だ。
 俺も俺で、確信を持てなかった部分に、ようやく確信が持てた。


 こいつ、やっぱりいい奴だ。


 口では、ああだこうだと悪いように言うけれど、結局のところ、世のため人のため、そして自分のために動いている。
 大抵の人間は、自分のために動いている。
 それが精一杯な人ばかりだ。
 俺だってそうだし、普通はそうだ。
 それをメルは、自分のために何かをして、結果としてみんなのために行動をしている。
 自分の利益を生み、他者の利益を生む。
 そんなことを、自然と行動している。
 それがメルだった。


「はぁ、何を勘違いしてるんだか。私は、私のやりたいようにやってるだけよ。それ以上でも、それ以下でもないわ」

「だとしたらお前、格好良すぎだぜ」

「一応、お礼を言うべきかしらね」

「それは任せるわ」

「じゃあ言わない」

 楽しそうに笑うメルに、俺はつられて笑う。
 ハルナとリザも、まるで心を許したように、無垢な笑顔を向けていた。
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