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第1話 異世界転生!

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 俺の名前は片上勇二(かたがみゆうじ)。

 本来なら高校2年生。
 肩書きも、一応まだ高校2年生。
 いわゆる不登校児というやつで、次の進級は危ういかもしれない。

 キッカケは、ほんの些細なことだった。

 ちょっと、可愛い女子のリコーダーを持っていただけ。
 その現場を目撃されてしまった。

 見られたのは、まさにリコーダーの持ち主。
 あんなに可愛かった顔が、般若の面のようになり、キモいだの変態だの、謂われのない言葉を浴びせられた。

(まだ舐めてもいないのに……)

 全く、ひどい言いがかりだ。

 しかして、俺が住むのはドがつくほどのド田舎。
 根も葉もない噂はあっという間に広がり、ついに俺は学校に通えなくなった。
 こんな肩身の狭い思いをして、通学など出来やしない。

 今日も今日とて、朝に寝て夜に起き、ネトゲをして過ごす毎日。
 いつも通りにログインしようと思ったが、そこにはいつもの画面ではなく、警告画面が出てきた。

「あれ……課金切れか?」

 このご時世、珍しい月額課金制。
 その期間が切れているとのお達しだ。

「仕方ない、コンビニ行くかぁ……」

 財布一つだけ持つと、重い腰を上げて久々の外出となった。



 コンビニに行くと言って、侮る無かれ。
 その距離は、片道徒歩30分。
 しかも舗装もされていない真っ暗な農道という近道を通ってのタイム。

(まぁ、それでも近いほうなんだけど)

 人によっては、車でなければ来れない人間も多い。
 自転車でも行けるが、夜の農道は想像以上に危険だからやめておく。
 真っ暗な中、自転車で駆け抜けたことがあるが、見事にすっころび、肥溜めに落ちたことがある。

 以来、夜に自転車は使っていない。


 コンビニが近づいてきた頃、正面から軽トラが来ているのが分かる。
 別に特別な光景じゃない。

 さっさと脇道に反れた、その瞬間。

(あれって……子犬か?)

 ヘッドライトに当てられ、おびえているように見える子犬。
 その場から全く動こうとしていない。

(軽トラは……ダメだ、ぜんぜん気づいてないぞ!)

 思わず駆け出し、飛び出す。
 その瞬間。
 ヘッドライトが目の前に迫ると、俺の視界はたちまち真っ白に染まっていった。



 ◆ ◆ ◆



「ここは……?」

 俺は、小さな円の上に立っていた。
 周囲には真っ白な霧が立ちこめ、よく見えない。

(まさか、死後の世界なのか?)

 急に不安になり、周囲をキョロキョロ見渡す。
 すると。

「落ち着きなさい、愚か者」

 綺麗な女性の声。
 優しい口調で言っているが……

 愚か者ってどうよ?

 俺の正面にスポットライトのように明かりが照らされ、そこの部分だけ霧が晴れていく。

 真っ赤な髪。
 それが強く印象に残る。
 その真紅の髪が、地面スレスレまで伸びており、風に棚引くように揺れている。
 年齢は、ちょうど俺と同じくらいだろうか。
 服装がかなり奇抜で、ギリシャ神話の神様たちみたいな、白いローブを着ている。
 右手には太陽を象った杖。
 大きさは、身長と同じくらいと、かなり大きい。

「私は輪廻転生を司る女神フォイニー。早速ですが、ボンクラ。貴方は死んでしまいました」

「うっ、やっぱりそうなのか……てかボンクラて」

 なんか、漫画やアニメではよくある展開だが、いざ自分に降りかかると実感なんて微塵も無いな。
 っと、そういえば!

「そ、そうだ。あの子犬は助かったのか?」

「子犬……? あぁ、貴方が助けようとした、あの子犬ですね。はい、無事でしたよ」

「そうか。よかった……」

 これで格好いい死に方が出来たというもんだ。
 命を使っての汚名返上と言ったところか。

「ぷっ…………あははははははははっ!」

 と、思っていると、女神が急に吹き出した。
 そして、その場でうずくまり、地面を叩きながら腹を抱えての大笑い。
 ひーひー言いながら、なおも笑い続ける。

「あのー、何が面白いんすか」

 思わず白い目で見てしまう。
 女神は、腹をよじらせながらも事情を説明してくれる。

「だってだって、あのトラックは何もしなくても子犬に気づいて止まってたし! あんたは、助けるつもりで飛んでいったら、ショックで気を失って、そのまま肥溜めに顔突っ込んで! それでそのまま窒息死とか! この仕事やってて長いけど、こんな死に方見たこと無いわー! マジひどいわー! おめでとう、ダーウィン賞!」

「ウワーソウナンダー」

 棒読みで返す。
 汚名返上どころか、恥の上塗りです本当にありがとうございました。
 ……まぁ、もう終わった人生か。
 もう振り返らずにいよう。

 しばらく笑い続ける女神を、俺は白い目で見続けた。
 時間にして約1分。
 ようやく落ち着いてきたのか、ゆっくりと立ち上がり、さっきの優しげな声に戻した。

「さて、愚人。貴方に選択肢を与えましょう」

「ハイ」

 愚人と言われて、否定する気も無くなってくる。
 そんなしらけた俺を差し置いて、なおも続ける女神。

「貴方は、再び人として転生したいですか?」

「いや、イイっす」

 即答だ。
 もう人間なんて真っ平ごめんだ。
 輪廻転生するなら、ころっころの豆柴にでもなりたい。
 そして、どうせなら一人暮らしの可愛い女子大生に飼われて「私のパートナーはあなただけよ♪」などと言われ、辛い時、苦しい時にはいつでも寄り添い、心も体も、時にはあっちの方も慰めてあげたい。
 そのまま社会人になっても、俺が寿命を全うするまで、結婚は愚か彼氏も作らないような、そんな女子大生に飼われたい。

「では、貴方を人として転生させましょう」

「おいまてこら」

 反射的に口が動いた。
 俺のさっきまでの要望……もとい、妄想はどうなるんだと。
 一方の女神は、相変わらず声だけは優しく続ける。

「残念ながらド変態な痴れ者に選択権などありませんわ。決めるのは、わ・た・し」

「じゃあ何で聞いたんだ?」

「一応聞いてみようかな、と。よかったですね、再び人間に転生出来るんなんて」

「いや、人の話聞いてますー?」

 俺の声に、怒りの感情は無く、むしろ呆れている。
 ちなみに、なおも女神の声はどこまでも慈悲深いような声だ。
 声だけは。

「まったく、我が儘な愚物ですね。では、仕方ないので私から妥協案を一つ提案しましょう」

「妥協案?」

「今の世界にではなく、異世界へ転生させましょう。白痴な貴方にも分かりやすく言えば、ファンタジー世界です。そこで、貴方は魔王を倒してもらいます」

「いや、余計に嫌なんですケド」

 まだ今の世界に戻ったほうが、勝手が分かるってもの。
 それに、何かさりげに無理難題押しつけて来てるぞ?
 そんなもの、絶対にお断りだ。
 しかし、女神は笑顔で首を傾げて。

「承諾しない場合、貴方の次の転生はミジンコで決定します。なお、転生先で魔王を倒せなかった場合も、ミジンコです」

「職権濫用すぎませんかねー!」

「拒否権などありません」

「ですよねー!」

 いい加減、この呼吸にも慣れてきた。
 結局、このクソ失礼な女神の思うがままにされるしかないらしい。
 だったら、さっさと終わらせてもらったほうが有益というもの。
 適当に返事をしておこう。

「では、この転生に快諾いただいたお礼として、私から最後にプレゼントを差し上げます」

「プレゼント?」

 女神が地面を杖で叩くと、俺の目の前にガラポンが現れる。
 あの、100円入れて、取っ手をグルグル回すと、カプセルが出てくるアレだ。

「これは?」

「さっさと回しなさい、ヌケサク」

「はぁ……」

 取っ手を回そうとするも、お金が入っていない時のように、全く動かない。

「あの、これ動かすのにお金いるんじゃ」

「100円くらい出しなさい。うつけものでも、そのくらいは持ち合わせているでしょう?」

「無理言いなさんな」

 こちとら死んでるんだ。
 金なんか持ってるはずがない。

「はぁ、これは本当に鈍物ですね。こんなのが世界を救えるのかしら。ちょっと待ってなさい」

 なにやら背を向け、屈んで何かを探している。
 形のいいお尻がこちらに向けられるが、どうにも興奮する気分にはなれそうにない。

「はい、これで回しなさい」

 指で弾いたと思うと。


 バキューン!


 弾丸よろしく、俺の頭を掠めていった。

「取り損ねたわね、役立たず」

「取れるかボケ! 殺す気か!」

「死んでますって」

 呆れ顔になり、今度は軽く硬貨を1枚こちらに投げる。
 見たことのない変なオッサンが彫られた硬貨だが、まぁこれで回せるらしい。

「ほいほいっと。最初からそうやって渡せばいいんだっての」

 ガチャコンガチャコン。
 特有の音が響くと、カプセルが一つ落ちてくる。
 そいつを開けると、中には一枚の紙が入っていた。

「強化?」

「おめでとうございます、たわけ者。貴方は、強化スキルを特化した状態で転生します」

「おぉ、何か凄そうだな!」

「そうですね。私も初めて見ました。そんなものがあるんだと」

 声の若干トーンが下がった気がするが……
 気のせいだろうか。
 だが、それ以上に気になったことがある。

「……ってことは、何人かは、こうやって転生してるってことか」

「はい」

「ちなみに、他の人はどんなものが当たってるんだ?」

「伝説の聖剣とか、生まれ持った特別な魔法の才能などがありますね」

「なるほど」

 つまり、それに匹敵するだけの能力、ということか!

「では、私の仕事はここまでです。貴方の身体は、基本的に今の身体をそのままに、転生先の環境に順応させた上で、先ほどの強化スキル特化が付与されます」

 つまり、基本スペックは今の俺のまま、ということか。
 ちぇっ、そっちもチート級にしてもらって無双したかったな。

「あぁ、それと、最初は冒険者ギルドに行きなさい。それじゃ、私は忙しいからこの辺で」

 言い終えると、急に視界が真っ白になり、意識がゆっくり落ちていく。
 しかし、最後の最後まで、表面上はめっちゃ優しい声色だけは変えなかったな、あの女神……
 まあ、そんなことはどうでもいい。


 また人として転生することになったけど、今度は異世界だ。
 男なら、誰もが憧れる世界に、俺は実際に足を踏み入れる。
 魔王討伐が出来なければ次の転生はミジンコらしいが……


 そんなもの、俺の強化スキルとやらで何とかしてやるぜ!


 意気揚々としている中……
 真っ白だった視界が、少しずつ輪郭を露わにしてきた。
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