上 下
2 / 3

ノイジーナイスとノイジー

しおりを挟む
 ノイジーナイスは小柄な牝馬だった。
 母父、サファラタ産駒は小柄だったと聞く。ならこれはサファラタの血かな、と。
 競走馬にはなれないかもしれない。そうカストリオ牧場の主は唸った。

 買い手を探したがサファラタ産駒に似た小さな体躯を見て、買い手はつかなかった。

 小さな体躯は同じ斤量でも不利になる。

 50キロの重りと40キロの騎手が乗ったとして、300キロの馬が100キロを背負ってレースをするよりも、400キロの馬が100キロを背負う方が有利に決まっている。

「これは、うちでオーナーするしかないか。牝馬なのがまだ救いだな」

 カストリオ牧場の息子、カストリオ=ノイジーは騎手となり若手でナンバーワンと呼ばれている。

 カストリオ牧場の長男、若き天才騎手は、牧場のコネなどもはや必要ないくらいに実力がついてきていた。

「乗せてやろう」と言われる立場から、「乗ってください」と依頼される程度には実績を積んでいる。

 ノイジーの賞金額で牧場の借金は返せた。
 ノイジーナイスのオーナー

 ノイジーナイスが競走馬になれたら、だが。実際に競走馬になって走る時になれば、ノイジーも中堅だろう。

 もし可能ならば、とカストリオ牧場の主は空想する。

「父が残したサファラタの血を、私が育てて、息子が乗ってG1を獲る。そんな日が来ればいいなぁ……」

 そしてノイジーナイスとして登録され、新馬戦を迎える。

「嫌だよ、あんな小さな馬に乗るのは」
「新馬戦だけだから、頼むよノイジー」
「その新馬戦が重要なんだよ、新馬のうちにいい馬の主戦騎手になれたら賞金額は目が飛び出るほど違うんだからな!」

 そしてノイジーはノイジーナイスに乗らなかった。
 もっとも、主戦騎手がどうこうと言うのは言い訳で、

「そもそも馬名に!息子の名前にナイスってつけんなよ!」

 父の牧場の生産馬で
 自分の息子ナイスってつけた馬で
 その息子がリーディングジョッキーで
「ダメだろ、この世界は舐められたらおしまいなんだよ!」

 ノイジーはノイジーナイスに新馬戦から未勝利戦数戦まで乗らなかった。

「ノイジー先輩。ノイジーナイスって先輩の牧場の馬なんですね、すごいいいセンスですね。プッククク!」

 ほら、こんな風にからかわれるんだよ、とノイジーは頭を抱えた。

 かかり癖(馬がペース配分を無視して飛ばす癖)があり、走らせまいと抑えると気分を害してやる気がない走りを見せた。

 ノイジーナイスが新馬戦と未勝利戦を最下位で終えた後、ノイジーは父に呼び出された。

「なぁ、ノイジー。頼む、乗ってくれないか?お前はリーディングジョッキー(最優秀騎手)にも選ばれる程だし乗る馬には困らないだろうが、一回だけ乗ってやってくれないか」
「だから嫌だってば……」
「お前が可愛がっていたウパニャースの初仔だぞ。一回も乗ってやらなくていいのか?」

 ウパニャースと聞いて、ノイジーは父へと振り返った。

 騎手になる前。
 ウパニャースが仔馬の頃に一緒に遊んだ記憶。ウパニャースが新馬戦のレースに負けて、騎手の腕が悪いからだと泣き、騎手になろうと決めた事を思い出した。

「一回もって……空いたらそりゃ一回くらいは乗ってもいいけどさ」

 ノイジーがそう言うと、ノイジーの父は悲しそうに顔を伏せた。
「騎手が決まらないんだ。かかり癖もあるし、気性も荒いし抑えると機嫌が悪くなり走らなくなる」
「なんだよ、その馬。息子を。いや、そもそもリーディングジョッキーをそんな馬に乗せようとすんなよ……」
 下手に乗れば出場停止を食らってしまう。

「2戦0勝、せめて記念に一度は乗ってやって欲しい。考えてくれないか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...