転生貴族令嬢と詐欺猫

星馴染

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1章:転生令嬢と神様な猫

神様な猫は何ができるの?

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神様?何言ってんだコイツ……。

ブサ猫は顔を洗いながら答える。
『お前、前世でかなりポイントが溜まってるんだよね』
「ポイント?」
『徳って言うのかね。で、俺が遣わされた訳だ。ありがたく思え』
「……ありがとう?」
 よく解らないがお礼を言ってみる。
『まあ俺が来たから安心してくれ。お前は前みたいに不幸な人生にはならない』
「やっぱり前世の俺は不幸だったのか」
『中にはもっと不幸な人間も居るが、徳の割に不幸な人生だな。
 あれ?もしかして損してない?嘘、私の年収低すぎ?ってな』

 肉球を口に当ててびっくりするような表情をする猫に少しだけイラッと来た。
「年収が低かったのは事実だけど」
『そういう風に思える人間は稀だぜ?この世の幸せと不幸は等価交換だ。誰かが幸せになれば誰かが不幸になる。お前が安い給料で働く分、会社が儲かる。会社を経営している人が幸せになる』

 あ、こいつの足汚れてるな。床が猫足型にスタンプされていってる……。
 えっと、バケツと雑巾は。ああ、ここか……。
『おい、何をしている?』
「床が汚れてるから拭いてるんだけど?」
『馬鹿なのか?だからお前は損をしているんだ。何で人より率先して掃除するんだよ』
「率先するって大げさな。汚れてるのに気付いた人が掃除をすればいいと思うんだけど……」
 俺が拭き掃除をしている所へ、城勤めの人間だろうか。

 俺の目の前にタバコを捨てた。
 俺はタバコを拾って火を消し、ゴミ箱に捨てる。
『だから何でそんな不遇慣れしてるんだ!』
「あのままだと吸殻が目に入って気分が悪くなる人がいるかもしれないし」

 そして城内の人がバケツに躓き、水をあたりにぶちまける。
 そして床に這って掃除をしていた俺の服がドロドロになる。

「誰だ、こんな所に物を置いたのは。君か!危ないじゃないか気を付けたまえ!」
「ごめんなさい、端においておけばよかったですね、ごめんなさい」
 そういうと、男は俺に唾を吐き、歩き去っていく。
『……なんて不幸体質。だが俺が来たからには安心していい。お前を救ってやる』
「……期待してます」
 そういうと、水を自分の毛皮に吸い込ませていく不細工な猫。
『ほら、片付いたぞ。俺も前もドロドロだし、風呂に入ろうぜ!』
「水浴びでもしてきなよ。そこに水たまりがあるよ」
 ドロドロの汚れた水をかぶった猫をお風呂に連れていくと、何を言われる事やら。
『何を言ってるんだ。猫はこの世界に居ないって言っただろう。俺は風呂に入りたいんだ』
「じゃあ勝手に入ればって、猫だけじゃ無理か。仕方ない、洗ってあげればいいの?」
 困ってる時は手を差し伸べなさい。という父親の言葉を思い出し、ドロドロの猫を抱きかかえる。
『チョロいな。お前チョロインだろ?押し倒したらいけそうな感じだな』
「猫の癖に何を言ってるんだよ……」

 自称、神様な猫と一緒に城内のお風呂に入り、タオルで綺麗に拭いてあげた。
 冷たいミルクを出すと、顔を突っ込んで飲み、はふぅと満足そうな声を上げる。

『お前も飲むか?揉んだ時にも思ったが、さっきの風呂で確信した。お前にはミルクが足りない』
 俺の胸を肉球で指さす猫の首を掴んで睨みつける。

「で、どうやって救ってくれるの?」
『どうやって救われたい?』
 そういう猫に俺は救われるシチュエーションを考えてみる。

「父様と母様を生き返らせる事はできる?」
『それは無理だな。生き返らせるとか馬鹿なの?そんな事したら魔女裁判にかけられるぞ』
「……じゃあ、時間を戻したりとかできる?調べたけどピタタボラは薬をすぐに飲めば抑えられるみたいだから、過去に戻って薬を持って待てばきっと」
『知ってるか?時間って誰にでも平等に流れるんだぜ?』
 つまり無理って事なのか。
「生活を変えない事はできない?今まで通り」
『今まではお前の父親が金を稼いでた訳だよ。父親が居なくなったら仕事しない訳だろ?それなのに金が貰えると思うの?当然金が無いんだから使用人はなくなる。焼けた家も戻らないし、どうしようもないだろ』

「うーん、父様と母様が残した遺産を守っていければ、学園にも行けるくらいのお金はあるし、領地収入もあるし、何とかなりそうだけど」
『知ってるか?この世界では女は貴族を継げない。爵位もお前の父親に与えられていた物で、えらいのはお前じゃない。お前の親父だ。お前はただの元貴族令嬢でしかない訳だよ。領地も当然国に返すし、商会は未成年女性が主ってだけで舐められるから、おろされるだろうな』
「だったらどうすればいいんだよ!」
『一般的に一番いいのは、お前の父親の親戚に引き取ってもらう事なんだよ。
 そうすれば領地はそのまま維持出来て、商会も動かせる。
 貴族令嬢って待遇もそのままだし、お前は今までと変わらない生活ができる!』
 そのはずなんだけど、と猫は声を萎ませた。
『まあ、お前の親戚はちょっとアレだから、このままだと無理だろうな』

「えらそうな事を言って結局何もできないじゃない!救いに来たとか言って期待させておいて何なの!?」
 本当に何なのこの猫……。
『そこで俺の出番って訳だ。俺が来たからにはもう安心だ。お前を幸せにしてやろう』
 プロポーズのような事を言う猫に、俺は不安そうに頷いた。
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