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第1章

夕月の回想

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 幼い瞳は不安げに僕を覗き込んできた。しかし、するりとその視線は長兄と次兄に
向けられた。彼女はいつだって僕の兄たちの愛情を奪っていく。そう父上が手に入れ損ねた女の娘ーーー百合子がやってきたから水森家は彼女中心に回り始めた。

「いやよ、行かないで」

 見合いに行こうとする兄たちにそう泣きながらせがめば、兄たちは狼狽えて頷くしかない。後ほど、父上からなんと言われようが百合子の機嫌を損ねまいと兄たちは必死なのだ。けれども、一度だけ清澄兄さんが失態を犯したのを目の当たりにした。

 あれは使用人すら滅多にこない離れの書斎だった。
 たまたま、あの日は家庭教師がやってくる日でさぼりたくて仕方がなくて書斎へと行こうとしたのだ。書斎へと向かおうと歩いて入れば、耳に入って来たのは百合子の泣き声だった。ゆっくりと書斎に近寄り、耳を澄ませて会話を盗み聞きすることにした。

「清澄兄様、やめてっ!!!」

「どうして、圭吾や仁で俺じゃないんだ。百合子、俺は貴族の血を引いている。あいつらなぞ、庶民と変わらない」

「き、今日の清澄兄様はおかしいわ」

「百合子、ここで俺がお前を抱いてしまえば……お前は他の兄弟は選べない。元々、お前が水森家へとやってきたのは俺らのうち誰かと結婚するためだからな。ああ、でもお前は貴族だから夫を複数持てるんだったな、百合子」


 百合子の指摘通り、今日の清澄はおかしい。
 まるで百合子を見下すような発言をし、書斎で百合子を犯そうとしているような雰囲気すら感じ取れた。僕は百合子が嫌いだから、このまま犯されてしまえばいいとすら思った。しかし、清澄に当主の座を奪われるほうがよっぽど嫌だ。

 そう思い、咄嗟に書斎の扉を開けた。

「なんだ、2人して何してるの?」

 わざとらしくないように聞いてみれば、清澄は「ああ……またね、百合子」と言って出て言ってしまった。百合子を見れば、呆然として俺の言葉が頭に入っていなかったらしい。よく見て見れば、百合子の手首には強く握られた痕があった。それに少しブラウスがはだけていて、指摘をすれば、百合子は慌てて服を整えた。

 その日の夜、僕は圭吾兄さんに聞いたこと、見たことをすべて話した。それは決して百合子を守るためなんかじゃなく、僕は百合子なんかよりも清澄が大嫌いだからだ。


 そのせいか、



 百合子の生誕祝いの日に清澄は屋敷を追い出された。




 しかし、清澄がまた戻ってくるなど僕はこのときまだ知らなかった。
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