上 下
3 / 43

2・入学試験一

しおりを挟む
 入学試験当日、俺は母さんにもらった黒の服装に着替え、父さんにもらった剣は、名を決めるため影の戦士たちと会議を開き決めた《バルムンク》を肩にかけ準備を終えた。
「じゃあ、行ってくる」
「クロムちゃん! 頑張って! ご馳走を作って待ってるからね! 今日はクロムちゃんの大好物のエッグタルトもいっぱい作ってあげるからね」
「クロム、お前ならできる。思いっきりやってこい」
 二人に激励をもらい、クシャナス王国、首都ポーラルに向かった。まあ転移で一瞬で着くんだけどね。
 転移して首都ポーラルに辿り着いた。やはり首都ということもあり、多くの出店やあちこちでショーなどを開いており、人々の顔付きも明るい表情をして賑わっていた。
 そして、俺が今回入学試験を受ける予定の魔剣学園はその首都の真ん中にかなり広く高く聳え立っていた。確かに俺の家からでも学園の姿は確認できるほど存在感を放っていたしな。
 学園に向け歩みを進めながら、俺と同様入学試験を受ける者たちの実力を確認しながら進んでいると、一言で言うならば、雑魚の集まりだった。まあこれから成長していく若人だ、今は仕方あるまい。俺の興味を惹きそうなのは、今の時点で二、三人だな。
 学園の門前に辿り着くと一際厳重に送迎されている一団があった。その一団に目を向けると、送迎の馬車から降り立ったのは一人の天使だった。いや、人間なんだが俺にはそう見えた。
 その天使は綺麗な金色の髪で大きな青い瞳、すっと通った鼻筋、表情は気品を兼ね備えつつも明るさが滲み出ているとても可愛らしい少女だった。
 見るからに王族だと判断できる護衛の数、育ちの良さが一目で理解できる所作。俺とはあまりにも境遇が違うし、ましてや王族様がこんな没落貴族の俺なんかと関わり合いを持つはずがない。昔から王族なり、一流貴族の連中は差別意識が強い。たぶん今回の試験の最中もそういった一悶着はきっとあるのだろう、俺は平凡に生きたいので、こういう上昇階級に位置するものではなく俺と同じくらいの没落貴族辺りの人とのんびり時間を共にしたいものだ。
 天使の降臨に釘付けになりながら考え事をしていた俺は不意に一人の男にぶつかってしまった。
「おい! お前! どこを見て歩いているんだ! どこの貴族だ、僕は侯爵家次期当主のアルベルト・ドミニクだぞ」
「あぁ、悪い。少しよそ見していた」
「この僕を前にしてよそ見していただと⁉ 貴様、その様子だと魔剣学園の試験を受けようと思っているんだろ? 貴様のような奴にこの試験を受ける資格は無い! この僕にぶつかった罰を受けるがいい」
 そう叫んだアルベルトは右手に魔力を集中させて、今にも俺に向けてその魔力弾を放とうとしている。やれやれ、これだから上昇階級にいる貴族様は苦手なんだ。
 それに、一応侯爵家次期当主というのは真っ赤な嘘ではなく魔力量もこの歳で考えるならかなり多い方だろう。その次期当主のアルベルトが本気で魔力弾を飛ばせばそれなりに被害が出るし、何よりアルベルトが攻撃しようとしている射線の先には先程の天使様も居る。これは俺が防がなければ周りなど正直どうでもいいが、あの天使様に砂埃一つとして飛ばしたくない。そうと決まれば俺の右手は自然とピストルの様な形に構え、言葉を放った。
「破壊」
 アルベルトが俺に向けて放とうとした魔力弾は破壊の力により跡形もなく消え去った。
「な、何をした⁉」
「このままでは周りに被害が出てしまうからな。だからお前の術式を破壊した」
「術式を破壊しただと⁉ そんなの聞いたことが無い! まさか、それがお前のオリジンスキルなんだな⁉」
「そうだ、だからお前の攻撃は俺に当たらない。どうか、俺の無礼を許してはくれないだろうか?」
「ふざけるな、この僕に無礼を働き、更には恥をかかせるとは父上に言いつけてお前の家族もろとも消し去ってやる」
「おやめなさい! これ以上の狼藉はこのシャルル・クシャナスの名において許しません」
 そう叫ぶ声が聞こえ後ろを振り返ると、そこには先程俺が釘付けになっていた天使がアルベルトを睨み付けながら声を上げていた。クシャナスということはやはり、王族のようだな。
「シャルル様⁉ ですが、この不届き物がこの僕に恥を……」
「お黙りなさい! 注意をするならまだしも、周りの被害も考えずに魔法を放とうとして、この方が防いで下さらなかったたら大惨事になっていましたよ!」
 まあ確かに俺が不注意であいつにぶつかってしまったのは認める。でも、ぶつかった理由はあなたがとても可愛いのが原因ですよ?
「あなたのお陰で被害が出ずに済みました。ありがとうございます。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「申し訳ありません。王族の方に名乗れるほどの家柄ではございませんので、これにて失礼します。もし、ご縁があればその時はまた」
 そう伝えて俺は踵を返し、試験会場に向かった。おかしい、ほんとにおかしいぞ。どうしたんだ俺は、この胸の高鳴りはなんだ。これが恋か⁉ 恋ってやつなのか⁉ 歩みを進めながら俺の意識は影の戦士たちがいる影の世界に向かった。
「おい、お前たち、緊急会議だ」
「どうされましたか王よ」
 俺の呼びかけに影の戦士たちの幹部が集まった。名を十影雄。俺が使役している戦士たちの各部隊の将だ。
「俺は今恋をしているのか?」
 十影雄に今の俺の現状を話し、この蟠る気持ちはなんなのかを問いていると、皆声を揃えてこう言い放った。
「はい、それは恋です!」
 ふむ、やはりそうか、俺は恋をしているのか。だが、よりにもよってまさか王族に恋をすることになるとは。昔には感じたことのない胸の奥が大きく脈を打ち、鼓動が早まっているのがわかる。焦りは禁物だ、じっくりいこう。
 意識を戻すと俺の目の前には大きな正門が聳え立っていた。そして、正門の前には大きな魔法文字で「入学試験参加者は正門を抜けた中庭にて待機を」と書かれていた。
 俺はその指示通り正門をくぐりそこには大きな中庭が広がっていた。中庭の中心には噴水があり、木々の手入れが滞りなく入っていて、暖かな日の光が中庭全体を照らしていた。
 その風景に少々気が緩んでしまったが、すぐさま気を引き締め直すのと同時に入学試験参加者の待機している状況に違和感を覚えた。それは、ほとんどの参加者が中央に集まっているのに対し、ごく一部の者たちは中庭の端の方に待機していた。最初は人付き合いが苦手な者なのだと決めつけていたが、中庭の中央には大きな円があった。そこに足を踏み入れた瞬間に俺はこの配置の謎が解けた。
 この円状のサークルは転移陣だと、これも何かの試験内容なのかもしれないと思い、俺も円の中から抜けて端の方にて待機をすることにした。なるほど、これに気付けるか気付けないかで大きく実力が分かれるということか。
 今現時点で端に居るのは俺を含めて六人の参加者だった。俺の天使、いや、王族の少女も端にて待機している。やはり少女と言っても流石は王族だ、魔力の量も俺を抜いて群を抜いている。かなりの実力が伺える。
 そんなことを思っていると不意に試験官らしき人から声をかけられた。
「そこの君も早く円の中に入って」
「転移されるとわかっていて、入らなければいけないんですか?」
 俺のその言葉に試験官は目をギョッとさせ驚いていた。あれ? 端に居る人たちって転移に気付いている人じゃないの?
 試験官は驚きを押さえつけ、喉を鳴らしわざとらしく誤魔化してきた。
「て、転移? 何のことだか。それより、試験は円の中心に入らないと不合格になってしまうよ」
 まあとぼけるならそれで構わないか。それに、不合格になるのは不本意な訳だしここは素直に従っておくのが吉だろう。転移されるのがわかっていれば咄嗟の判断もしやすくなるし、今は試験内容に気を張ろう。
「これより、試験を始める」
 突如として俺たちの前に現れた一人の試験官らしき男が試験開始の合図を送る。
 周りの参加者も一気に気を引き締めている様子が見て取れる。だが、その緊張感も一瞬で消え去った。そう、先程から俺たちの周りを囲っていた転移陣が光を放ち起動したのだ。
 転移の光が消えて辺りを見渡すと周囲の風景がガラリと変わっていた。先程まで学園の中庭に居たはずなのに、俺たちが今現在居る場所はどこかの島に居るようだった。
 辺りには参加者全員が居るとはとても思えなかった。そして、その疑問にはすぐさま答えが返ってきた。
「入学試験参加の皆さん、一次試験の内容をお伝えします。まず皆さんは合計で四つのグループに別れて試験を行って頂きます。そしてこの第一試験では皆さんは各々転移で飛ばされた島で一日生き抜いてもらうことです。生き残った参加者は明日の丁度この時刻にまた当学園に自動的に転移されます。それでは、第一試験開始!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!

黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。 登山に出かけて事故で死んでしまう。 転生した先でユニークな草を見つける。 手にした錬金術で生成できた物は……!? 夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!

みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜

ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。 年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。 そんな彼女の癒しは3匹のペット達。 シベリアンハスキーのコロ。 カナリアのカナ。 キバラガメのキィ。 犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。 ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。 挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。 アイラもペット達も焼け死んでしまう。 それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。 何故かペット達がチートな力を持って…。 アイラは只の幼女になって…。 そんな彼女達のほのぼの異世界生活。 テイマー物 第3弾。 カクヨムでも公開中。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...