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プロローグ
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プロローグ
この世界では三つの勢力が争い合っていた。
人間族、魔族、そして、影の王と呼ばれる死霊使いの三つ巴の戦いを繰り広げていた。
人間族と魔族の抗争は正直不思議な話ではない。だが、この死霊使いが質が悪い。
好き好んで争い事には関与しないのだが、自分が居たところで抗争が起きると、人間族魔族両族共に殲滅してしまうのだ。
これには流石の魔王と勇者も迷惑をし、一度三人で話し合いの場を提供して会合を開くことにしたのだ。
この会合を知っている者たちの間ではこの会合を支配者の会と呼ばれていた。
今回の支配者の会で今後の行方が大きく変わる事は間違いのない事実であるため、皆各々の代表に縋る思いで託していた。
支配者の会の会合場所は、人間族が住まい、勇者が属している国家クシャナス王国で開催されることになった。
王国の王族のみが入ることを許されている庭園、使用人が隅々まで綺麗に仕上げたガーデニング、天井がガラス張りになっていることで日の照り返しが反射し、宝石のような輝きを放っている。勇者は先にこの場所にて残りの二人を待っていた。この会合がここの庭園のように穏やかに終わることを切に願いながら。
勇者ルキウス。生まれながらにして勇者の資格を持って生まれた。剣術に加え、五つの属性を司る精霊を使役している。硬派で人当たりの良い性格をしており、周囲の者たちからの人気も高い。
それから少しの時間を経て、勇者の目の前に黒いゲートが出現した。勇者も見覚えのあるゲート。そう、魔王の降臨だ。
「やあ、エンヴィー。今日はこの会合に来てくれたことに心より感謝を」
「うむ、仕方なかろう。状況が状況だからな。それで? 今回の件の最重要人物がまだ来てはおらなんだな」
魔王エンヴィー。子供をイメージさせるような童顔で、行動もやや子供の思考に近い。だがこうして正式な場ではきちんと弁え、話し合いにも積極的に参加してくれる。本来なら敵対している事にも疑問を抱いてしまうほど話のわかる奴だ。
「そういえば、勇者よ。主はあの死霊使いの素顔を知っておるのか?」
「あ……。そういえば、いつも仮面を被っていて素顔を見たことがない」
「うむ。我も同じだな。なら、どこにあやつがおるのかわからんという事だ。どれ」
そう言い放ったエンヴィーは周囲に視線を巡らせる。きっと彼女の持つ魔眼のひとつなのだろう。だが、その魔眼を以てしても死霊使いを見つけることができず、魔王は唇を嚙んでいた。
勇者と魔王が並んでいる時点で周囲の使用人は眩暈を起こしそうになっている。それもそのはず、本来なら両者が揃って顔を合わすこと、それすなわち人魔大戦を表すのだから。
「ふむ。勇者と魔王が揃っているのに俺を見つけることができないとは、少々残念だ」
その声を聞いた瞬間、勇者と魔王は声の方に急ぎ顔を向ける。そこには、黒いローブを身に纏い、全身を黒で包み込む青年が居た。
「ま、まさかお前が死霊使い? ……人間だったのか?」
「貴様! 一体どこに隠れていたのだ」
「まあ、待てよ。隠れるも何も俺はずっと目の前に居たぜ?」
「「……」」
突如現れた死霊使いの言葉に勇者と魔王は揃って絶句していた。
「馬鹿を抜かすな! 我の魔眼で周囲を見渡したが貴様の姿は無かった」
「あぁ。魔眼対策しているからな」
「気配も無かったし、スキルでも肉眼でも君のことを感知できなかった」
「対策済みだ」
「「じゃあどうやって見つけるんだよ!」」
「ふむ。さてはお前たち仲良しだな? 息がぴったりだ」
近くに居た使用人が気を失いかけている。まさか、魔王と勇者相手に喧嘩を売るような真似はこの世界のどこを探してもこの死霊使いだけしか居ないだろう。
死霊使いの言葉を聞いた魔王が怒り、右手を前にかざし、声を荒げて魔法を使用した。爆炎魔法・獄炎球(ヘルフレア)を魔王が放とうとした瞬間に、死霊使いは右手を拳銃の様な形に構え言葉を放つ。
「破壊(クラッシュ)」
死霊使いがその言葉を放つと、発動前の獄炎球は発動することなく消え去った。魔王と勇者はこの光景を目の当たりにして驚きの表情を隠せていなかった。
「貴様、今何をした……」
「何をしたとは? 見ての通り破壊したまでだが?」
「あの獄炎球をいとも簡単に消し去るなんて、一体どんなスキルを使ったんだ?」
勇者と魔王の二人は死霊使いが言い放った言葉を聞いても未だ理解が及んでいない様子だった。
勇者としてもその光景はあまり面白いものではなかったのだろう。なんせ、あの獄炎球を防ぐことができずに多くの犠牲が出ていたのだからだ。
「まあ、落ち着けよ。今日は争いの為に呼んだのではないだろ? もし、争いを望むのなら今ここでやり合うか?」
そう告げながら、死霊使いは不敵に微笑んだ。
そのあまりの迫力に勇者と魔王はたじろいでいた。
「では、本題に入ろうか。勇者ルキウス、今日呼び出したのは何用だ?」
「あ、あぁ。今日呼んだのは他ならぬ、死霊使い。お前についてだ」
「それで?」
「悪戯に俺たち人間族と魔族を攻撃するのは止めにしてくれないか?」
「……」
勇者の言葉に死霊使いは言葉を失う。だが、ひとしきり沈黙が流れたのちに死霊使いが言葉を放つ。
「悪戯とは失礼な言い草だな。俺はそんなことしたつもりは無い。それに先に攻撃してくるのはいつもお前たちだ」
「それはどういうことだ」
告げるエンヴィー。
「俺が居る場所で、お前たちが争いをするから、俺が巻き込まれる。だから、攻撃する。何か俺は間違っているだろうか?」
「それでは、この前の四つの国が同時にお前に襲われた説明が付かない」
「あぁ、あれはな、俺のお気に入りの店がある国が戦場となっていたから防いだまでだ。それに、俺が本気でお前らを滅ぼそうと思うなら、一日で事足りる」
「ほぉ? 言ってくれるではないか。我ら魔王軍と、人間族を同時に相手することができると本気で言っているのか?」
「できる。なんなら試すか?」
「面白い。ルキウス、お前さんもやるだろう?」
「はぁ、やっぱりこうなったか……」
「では、俺では相手にならないからな、俺の戦士とやってもらおう」
そう言うと、死霊使いは両手を前で叩き、一つの結界を作り出した。
その中に勇者、魔王、死霊使いの三人が入っていた。
「来い。インドラ、アシュラ」
その言葉の後に、黒い影のような円状の形をした魔王が使うゲートにも似た中から二人の黒の戦士たちが現れた。
「お前たちではこいつらにも勝てないと思うが、だが安心しろ。この結界では絶対に死んだりはしないから」
「舐めるな! 建てに魔王を名乗っておらんわ! こんな兵士共で我を倒そうなど片腹痛いわ!」
「まあ、やってみればすぐにわかる」
「精霊召喚! 精霊王アルカディアス」
「魔力全開放」
勇者と魔王は各々臨戦態勢に入ったが、その迫力を前にしても死霊使いの表情は一切崩れることはなかった。
そして苛烈を極めると思われた戦いも一瞬で片が付いた。
勇者と魔王の敗北という形で。
「これで、わかっただろう? あー、ちなみにこいつらは俺の兵士の中でも三番目と四番目に強い戦士だ」
「う、嘘だろ……。こんな化け物より強いのがまだ、二体も存在するのか」
「だが、これが現実だ。ちなみに俺はいつもこいつらを含めた十対一で修練をしているぞ。もちろん、スキルは使わずにな」
「……わかった。認める」
「これで、お前たちも少しは戦う場所を選ぶだろ? それならこの会合に参加しただけの価値はあったな」
未だ、起き上がることができない二人であったが、不意に魔王は死霊使いに向け言葉を放った。
「お前の望みはなんだ、それだけの力を以てして何を望む」
「俺の望みは簡単だ。俺は平凡な暮らしがしたい。そうだな、普通に恋というものもしてみたい」
「「は?」」
「そんなに、驚く事ではないと思うぞ? 俺だって人間だ。普通に仲間と語らい、酒を酌み交わし、平凡に生きていたいんだよ」
死霊使いの見当はずれの話に魔王も、勇者も言葉を失っていた。
そんな両者を意に介さず、死霊使いは淡々と言葉を紡ぐ。
「もう、戦いには飽きた。だから、俺は転生することにする」
「て、転生だと⁉ そんな不可能だ。そんなスキルや魔法は聞いたことが無い」
「かなり古い文献には記されていたぞ? 勇者よ勉強不足だな」
「本当にそんな奇跡の様なことができるのか?」
「我もそんな話、聞いたことも無かった……」
《その疑問には私がお答えましょう》
突如として聞こえてきたのは、勇者の中に宿る精霊王の声だった。
「アルカディアス、お前はその答えを知っているのか?」
《はい。マスター。その前に一つ、貴殿は只の人間ではありませんね?》
その言葉を聞いた死霊使いは意外にも驚きの表情を見せていた。
「ほぅ、流石は精霊界の王だ。慧眼だ」
「只の人間ではないってどういうことだ」
《どのような手法を用いたのか定かではありませんが、おそらく貴殿は半神(デミゴッド)ですね?》
精霊王の言葉に死霊使いは首を縦に振り首肯する。
《半神であれば転生の儀を行使することは可能です。ですが……、私の知る知識によると貴殿一人の力では不可能です》
精霊王の話を聞いても魔王も勇者も理解が及んでいない様子だった。それを見兼ねてか死霊使いが補足する形で口を開く。
「その通りだ。だから、今日こうしてお前たちの前に姿を現したのだ。お前たちが持つ聖剣と魔剣の力が必要不可欠だからだ」
「聖剣と魔剣だと⁉ それで? 俺たちに一体何をさせようとしてるんだ?」
「それは至ってシンプルなことだ。お前たちで俺を殺してくれ」
「そんなことで転生ができるのか⁉」
そう言い放った勇者が確認の為、アルカディアスに意識を向けた。
《はい。既に彼の肉体は転生の儀を終えています。そして、その儀を完遂するためにはマスターの聖剣と魔王エンヴィーの魔剣が必要です。彼の行った儀式は自身の魂の消滅をトリガーに行使する儀式になっています》
「俺を唯一殺すことができるのはその二本の剣による攻撃しかあり得ない。だから、お前たちが俺を殺してくれ」
あまりの事態に魔王も勇者も困惑している様子だった。それもそのはず、争いの場ならまだしも、こうした場でいきなり人を殺すのだと些か決意が緩む。
だが、意外にも魔王よりも先に勇者が聖剣を顕現させ、死霊使いに向けて構えた。
「ルキウス、本気か?」
「あぁ、本気だ。だけど最後に死霊使い、君に聞いておきたいことがある」
勇者に向けられた聖剣と言葉に死霊使いは視線を外さずにその言葉の先を促していた。
「君はその転生先に何を望む?」
「そうだな、争いの無い世界かな」
「……わかった。できるだけ善処する。エンヴィー、君も覚悟はできたか?」
「無論だ」
「言っておくが、全力で攻撃しないと俺の結界は破れんぞ」
そして、死霊使いに向けて、魔王と勇者が聖剣と魔剣を構え、一閃した。
二人の一閃は結界を破り死霊使いの体を切り裂いた。
切り裂かれた途端、死霊使いの体は光に包まれていた。体全体を素粒子に変換しているかのような一つ一つ小さな粒子に変わっていった。
こうして、人間族、魔族、死霊使いによる三つ巴の戦いは終わりを告げた……。
この世界では三つの勢力が争い合っていた。
人間族、魔族、そして、影の王と呼ばれる死霊使いの三つ巴の戦いを繰り広げていた。
人間族と魔族の抗争は正直不思議な話ではない。だが、この死霊使いが質が悪い。
好き好んで争い事には関与しないのだが、自分が居たところで抗争が起きると、人間族魔族両族共に殲滅してしまうのだ。
これには流石の魔王と勇者も迷惑をし、一度三人で話し合いの場を提供して会合を開くことにしたのだ。
この会合を知っている者たちの間ではこの会合を支配者の会と呼ばれていた。
今回の支配者の会で今後の行方が大きく変わる事は間違いのない事実であるため、皆各々の代表に縋る思いで託していた。
支配者の会の会合場所は、人間族が住まい、勇者が属している国家クシャナス王国で開催されることになった。
王国の王族のみが入ることを許されている庭園、使用人が隅々まで綺麗に仕上げたガーデニング、天井がガラス張りになっていることで日の照り返しが反射し、宝石のような輝きを放っている。勇者は先にこの場所にて残りの二人を待っていた。この会合がここの庭園のように穏やかに終わることを切に願いながら。
勇者ルキウス。生まれながらにして勇者の資格を持って生まれた。剣術に加え、五つの属性を司る精霊を使役している。硬派で人当たりの良い性格をしており、周囲の者たちからの人気も高い。
それから少しの時間を経て、勇者の目の前に黒いゲートが出現した。勇者も見覚えのあるゲート。そう、魔王の降臨だ。
「やあ、エンヴィー。今日はこの会合に来てくれたことに心より感謝を」
「うむ、仕方なかろう。状況が状況だからな。それで? 今回の件の最重要人物がまだ来てはおらなんだな」
魔王エンヴィー。子供をイメージさせるような童顔で、行動もやや子供の思考に近い。だがこうして正式な場ではきちんと弁え、話し合いにも積極的に参加してくれる。本来なら敵対している事にも疑問を抱いてしまうほど話のわかる奴だ。
「そういえば、勇者よ。主はあの死霊使いの素顔を知っておるのか?」
「あ……。そういえば、いつも仮面を被っていて素顔を見たことがない」
「うむ。我も同じだな。なら、どこにあやつがおるのかわからんという事だ。どれ」
そう言い放ったエンヴィーは周囲に視線を巡らせる。きっと彼女の持つ魔眼のひとつなのだろう。だが、その魔眼を以てしても死霊使いを見つけることができず、魔王は唇を嚙んでいた。
勇者と魔王が並んでいる時点で周囲の使用人は眩暈を起こしそうになっている。それもそのはず、本来なら両者が揃って顔を合わすこと、それすなわち人魔大戦を表すのだから。
「ふむ。勇者と魔王が揃っているのに俺を見つけることができないとは、少々残念だ」
その声を聞いた瞬間、勇者と魔王は声の方に急ぎ顔を向ける。そこには、黒いローブを身に纏い、全身を黒で包み込む青年が居た。
「ま、まさかお前が死霊使い? ……人間だったのか?」
「貴様! 一体どこに隠れていたのだ」
「まあ、待てよ。隠れるも何も俺はずっと目の前に居たぜ?」
「「……」」
突如現れた死霊使いの言葉に勇者と魔王は揃って絶句していた。
「馬鹿を抜かすな! 我の魔眼で周囲を見渡したが貴様の姿は無かった」
「あぁ。魔眼対策しているからな」
「気配も無かったし、スキルでも肉眼でも君のことを感知できなかった」
「対策済みだ」
「「じゃあどうやって見つけるんだよ!」」
「ふむ。さてはお前たち仲良しだな? 息がぴったりだ」
近くに居た使用人が気を失いかけている。まさか、魔王と勇者相手に喧嘩を売るような真似はこの世界のどこを探してもこの死霊使いだけしか居ないだろう。
死霊使いの言葉を聞いた魔王が怒り、右手を前にかざし、声を荒げて魔法を使用した。爆炎魔法・獄炎球(ヘルフレア)を魔王が放とうとした瞬間に、死霊使いは右手を拳銃の様な形に構え言葉を放つ。
「破壊(クラッシュ)」
死霊使いがその言葉を放つと、発動前の獄炎球は発動することなく消え去った。魔王と勇者はこの光景を目の当たりにして驚きの表情を隠せていなかった。
「貴様、今何をした……」
「何をしたとは? 見ての通り破壊したまでだが?」
「あの獄炎球をいとも簡単に消し去るなんて、一体どんなスキルを使ったんだ?」
勇者と魔王の二人は死霊使いが言い放った言葉を聞いても未だ理解が及んでいない様子だった。
勇者としてもその光景はあまり面白いものではなかったのだろう。なんせ、あの獄炎球を防ぐことができずに多くの犠牲が出ていたのだからだ。
「まあ、落ち着けよ。今日は争いの為に呼んだのではないだろ? もし、争いを望むのなら今ここでやり合うか?」
そう告げながら、死霊使いは不敵に微笑んだ。
そのあまりの迫力に勇者と魔王はたじろいでいた。
「では、本題に入ろうか。勇者ルキウス、今日呼び出したのは何用だ?」
「あ、あぁ。今日呼んだのは他ならぬ、死霊使い。お前についてだ」
「それで?」
「悪戯に俺たち人間族と魔族を攻撃するのは止めにしてくれないか?」
「……」
勇者の言葉に死霊使いは言葉を失う。だが、ひとしきり沈黙が流れたのちに死霊使いが言葉を放つ。
「悪戯とは失礼な言い草だな。俺はそんなことしたつもりは無い。それに先に攻撃してくるのはいつもお前たちだ」
「それはどういうことだ」
告げるエンヴィー。
「俺が居る場所で、お前たちが争いをするから、俺が巻き込まれる。だから、攻撃する。何か俺は間違っているだろうか?」
「それでは、この前の四つの国が同時にお前に襲われた説明が付かない」
「あぁ、あれはな、俺のお気に入りの店がある国が戦場となっていたから防いだまでだ。それに、俺が本気でお前らを滅ぼそうと思うなら、一日で事足りる」
「ほぉ? 言ってくれるではないか。我ら魔王軍と、人間族を同時に相手することができると本気で言っているのか?」
「できる。なんなら試すか?」
「面白い。ルキウス、お前さんもやるだろう?」
「はぁ、やっぱりこうなったか……」
「では、俺では相手にならないからな、俺の戦士とやってもらおう」
そう言うと、死霊使いは両手を前で叩き、一つの結界を作り出した。
その中に勇者、魔王、死霊使いの三人が入っていた。
「来い。インドラ、アシュラ」
その言葉の後に、黒い影のような円状の形をした魔王が使うゲートにも似た中から二人の黒の戦士たちが現れた。
「お前たちではこいつらにも勝てないと思うが、だが安心しろ。この結界では絶対に死んだりはしないから」
「舐めるな! 建てに魔王を名乗っておらんわ! こんな兵士共で我を倒そうなど片腹痛いわ!」
「まあ、やってみればすぐにわかる」
「精霊召喚! 精霊王アルカディアス」
「魔力全開放」
勇者と魔王は各々臨戦態勢に入ったが、その迫力を前にしても死霊使いの表情は一切崩れることはなかった。
そして苛烈を極めると思われた戦いも一瞬で片が付いた。
勇者と魔王の敗北という形で。
「これで、わかっただろう? あー、ちなみにこいつらは俺の兵士の中でも三番目と四番目に強い戦士だ」
「う、嘘だろ……。こんな化け物より強いのがまだ、二体も存在するのか」
「だが、これが現実だ。ちなみに俺はいつもこいつらを含めた十対一で修練をしているぞ。もちろん、スキルは使わずにな」
「……わかった。認める」
「これで、お前たちも少しは戦う場所を選ぶだろ? それならこの会合に参加しただけの価値はあったな」
未だ、起き上がることができない二人であったが、不意に魔王は死霊使いに向け言葉を放った。
「お前の望みはなんだ、それだけの力を以てして何を望む」
「俺の望みは簡単だ。俺は平凡な暮らしがしたい。そうだな、普通に恋というものもしてみたい」
「「は?」」
「そんなに、驚く事ではないと思うぞ? 俺だって人間だ。普通に仲間と語らい、酒を酌み交わし、平凡に生きていたいんだよ」
死霊使いの見当はずれの話に魔王も、勇者も言葉を失っていた。
そんな両者を意に介さず、死霊使いは淡々と言葉を紡ぐ。
「もう、戦いには飽きた。だから、俺は転生することにする」
「て、転生だと⁉ そんな不可能だ。そんなスキルや魔法は聞いたことが無い」
「かなり古い文献には記されていたぞ? 勇者よ勉強不足だな」
「本当にそんな奇跡の様なことができるのか?」
「我もそんな話、聞いたことも無かった……」
《その疑問には私がお答えましょう》
突如として聞こえてきたのは、勇者の中に宿る精霊王の声だった。
「アルカディアス、お前はその答えを知っているのか?」
《はい。マスター。その前に一つ、貴殿は只の人間ではありませんね?》
その言葉を聞いた死霊使いは意外にも驚きの表情を見せていた。
「ほぅ、流石は精霊界の王だ。慧眼だ」
「只の人間ではないってどういうことだ」
《どのような手法を用いたのか定かではありませんが、おそらく貴殿は半神(デミゴッド)ですね?》
精霊王の言葉に死霊使いは首を縦に振り首肯する。
《半神であれば転生の儀を行使することは可能です。ですが……、私の知る知識によると貴殿一人の力では不可能です》
精霊王の話を聞いても魔王も勇者も理解が及んでいない様子だった。それを見兼ねてか死霊使いが補足する形で口を開く。
「その通りだ。だから、今日こうしてお前たちの前に姿を現したのだ。お前たちが持つ聖剣と魔剣の力が必要不可欠だからだ」
「聖剣と魔剣だと⁉ それで? 俺たちに一体何をさせようとしてるんだ?」
「それは至ってシンプルなことだ。お前たちで俺を殺してくれ」
「そんなことで転生ができるのか⁉」
そう言い放った勇者が確認の為、アルカディアスに意識を向けた。
《はい。既に彼の肉体は転生の儀を終えています。そして、その儀を完遂するためにはマスターの聖剣と魔王エンヴィーの魔剣が必要です。彼の行った儀式は自身の魂の消滅をトリガーに行使する儀式になっています》
「俺を唯一殺すことができるのはその二本の剣による攻撃しかあり得ない。だから、お前たちが俺を殺してくれ」
あまりの事態に魔王も勇者も困惑している様子だった。それもそのはず、争いの場ならまだしも、こうした場でいきなり人を殺すのだと些か決意が緩む。
だが、意外にも魔王よりも先に勇者が聖剣を顕現させ、死霊使いに向けて構えた。
「ルキウス、本気か?」
「あぁ、本気だ。だけど最後に死霊使い、君に聞いておきたいことがある」
勇者に向けられた聖剣と言葉に死霊使いは視線を外さずにその言葉の先を促していた。
「君はその転生先に何を望む?」
「そうだな、争いの無い世界かな」
「……わかった。できるだけ善処する。エンヴィー、君も覚悟はできたか?」
「無論だ」
「言っておくが、全力で攻撃しないと俺の結界は破れんぞ」
そして、死霊使いに向けて、魔王と勇者が聖剣と魔剣を構え、一閃した。
二人の一閃は結界を破り死霊使いの体を切り裂いた。
切り裂かれた途端、死霊使いの体は光に包まれていた。体全体を素粒子に変換しているかのような一つ一つ小さな粒子に変わっていった。
こうして、人間族、魔族、死霊使いによる三つ巴の戦いは終わりを告げた……。
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