きれいな場所

海鳥 日菜

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銀杏

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 金色の葉が、ひらひらと、ひらひらと、黄色い絨毯を地面に広げ、黄色く、黄色く一面を染め上げていた。
ひらひらと、ひらひらと。

 そこは、きれいな場所だった。
 どれがいつのかはさすがに知らないが、地元の中学生たちが毎年、毎年、種類の違う樹木を植えて、段々と形作られた、きれいな場所だった。
 そう、きれいな場所だったのだ。
 そして、私が生まれ育った場所の近くでもあった。
 私たちの代は銀杏を植えた。
 金色の葉が、とてもきれいに、あたり一面を染めているのを見るためだけに、里帰りを今までしている位には、そこが好きだった。

 ある年のこと、里帰りすると、きれいな場所は、あたり一面更地になっていた。
 もうすぐアスファルトで道路でもつくるのだろう、赤いコーンにさえぎられたその先に、毎年黄色く色づいている地面は真っ黒だった。
「君、見ない顔だね」
 そう、声をかけてきたのは、ヘルメットをかぶった工事の男だ。
 年は同じくらいだろうか、男はどこか疲れた表情で私のほうを見ていた。
「里帰りで、」
 それ以上の言葉は続かなかったが、男は納得したように頷いた。
「この場所はここの人たちにとって、何だったんですか?」
「?」
 そんなことをいきなり聞いてきた男に、私は首を傾げた。
「毎日、ここに誰かしら、地元の人だと思うんですけど、見に来るんですよ。あなたのように、里帰りだと言ってここを見に来ていた人も、両手では足りないくらいきていました」
 ああ、みんな、私と同じことをしていたのか。
「……ここは、」
 そう口にして、私は口をつぐんだ。
「あの?」
 男が怪奇そうにこっちを見ている。
「……ここは、きれいな場所なんです」
「は?」
 不可解だと言いたげな声を出す男に、私は笑った。
「きれいな、場所でした」
 ひらひらと、ひらひらと、金色の葉が、私の脳裏を黄色く染めた。
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