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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/6 その十一

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「なんで……」

 最大の難関は過ぎた……と思ってた。
 五分でスーパーに到着し、お目当てのアンパン○ンのプリンを手に入れた……そう思って安堵しとった。
 けれども、ここにきて、ミッションインポッシブルがおこった。
 その理由は……。

「……ない」

 そう……ア○パンマンのプリンが全て……消え去っていた!
 な、なんでぇええええええええええええええええ!
 さっきまでいっぱいあったやん! 十個以上あったのに、全部売り切れとか、ありえへん!
 えっ? どういうこと? 意味わからん!
 三十分もたってへんのに全部売れるとか、どこかの人気プリンなんかとツッコミを禁じ得ない。

「店員さん」
「はい! なんでしょう!」

 ウチは近くの店員に声をかける。

「アンパ○マンのプリンが欲しいんですけど」
「売り切れみたいですね!」
「……在庫、ありませんの?」
「出てるだけです!」

 めまいがした……。
 もし、プリンを買えず、家に帰ったら……。


「まぁまあああああああ! プリンたべたぁいいいいいいいい! ぷりぃんんんんん! ぷりぃいいいいいんん!」
「朝乃宮……ないわぁ~~~~~! プリン食べるの、ないわぁ~~~! 思わず声に出てしまったわ~~~~~! 朝乃宮のことなんか”バカな女”と切り捨てるわ~~~~~~~! 桜花の手前、オーバーに笑うわ~~~~~!」


 あっか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん! 離婚の危機や!
 って、なんで離婚やねん! 結婚してへんわ!
 若干、キャン○ャニ∞の名曲が混同するくらい混乱したけど、心の中でセルフボケツッコミをすることでかろうじて心の平穏を取り戻す。

 とにかく、状況を整理!
 このスーパーにはアン○ンマンのプリンはない。
 けど、あれほど大量のプリンが短時間で消える? もしかすると、まだ大量に買い占めた腹立たしい客は精算を終わってない可能性あり。
 それなら……。

「一個譲ってもらえるかもしれへん」

 ウチは即、レジに向かいつつ、信吾はんに電話する。

「もしもし、千春ちゃん? げんき~?」
「……今、どこにいてます?」
「お風呂! 今、パンツ一丁で、もうすぐ生まれたままの姿になるところ! いやん。エッチ~」

 ブチッ!

「今すぐその姿でスーパーにいってもらえます?」
「いろんな意味で死んじゃうよ、僕!」
「社会的か身体的に死ぬか、ウチに殺されたいか、選んでもらえます?」
「選択肢がデットしかない!」
「信吾はん、あんさんがコンビニでバイトしていたとき、一桁間違えてアーモンドプリンを発注しましたよね? その尻拭い、誰がしましたっけ?」
「……朝乃宮姫です」
「恩を感じているのなら、今すぐスーパーに向かって、アンパ○マンのプリンを手に入れてください」
「あ、アンパン○ンのプリン? なんで、僕が?」
「今すぐ手に入れへんと、次の朝日を拝めなくなりますけど、それでもええなら、最後の入浴を楽しんでください」
「嫌だよ! 怖いよ! 最後の入浴ってなに! 晩餐の親戚なの! それにア○パンマンのプリンってなに? 桜花ちゃんがらみなの?」
「ノーコメント」
「もしかして……千春ちゃんの自業自得でア○パンマンのプリンを手に入れたいんじゃあ……」

 ピッ!

 ウチはレジに到着する。

「あの、すみません」
「……」

 ウチはレジのお姉さんに声をかける。

「あの、すみません」
「……なんですか?」

 迷惑そうにレジ打ちをしながら、こっちを見ずにこたえてくる。

「一つ聞きたいんですけど、アンパンマンのプリンを大量に買った方、知りません? もしくは買いそうな方」
「……そういうの、お答え出来ないんですけど」

 せやろうな……。
 けど、このまま引くわけにはいかない。

「店長、呼んでもらえます?」
「はぁ? 何の権限があって……」
「朝乃宮様~。いつも当店をごひいきにしていただき、ありがとうございます!」

 ふぅ、呼ぶ手間が省けた。
 このスーパーは朝乃宮家の息がかかっている。
 ある程度の要求を押し通すことが出来る。

「店長、一つお聞きしたいことがあるんですけど」
「なんなりと!」
「アンパンマンのプリンを大量に買っていったお人がいるんですけど、知りません?」
「ああ~あの方ですね! 先ほどすれ違いました! 銘産品コーナーです!」

 よし! 希望が出てきた!
 後はその方に交渉するだけ! マネーパワーでゲットしたる!

「あの~彼女が何か、朝乃宮様にご迷惑をおかけしましたか?」
「!」

 レジのお姉さんが真っ青な顔をしている。ウチが何者かを知ったから。
 ウチは笑顔で答えた。

「いいえ。逆にお仕事中に話をしてしまってウチの方がご迷惑をおかけしました」
「いえいえ! 朝乃宮様はお得意様です! 迷惑に思う従業員はおりません!」

 ウチは店長に頭を下げ、銘産品コーナーへ急いだ。



 はよぉ! はよぉ!
 ウチは早足で名産品コーナーに向かう。

 ターゲットは買い物かご、もしくはショッピングカートを持っている。
 ウチの記憶ではアンパ○マンのプリンは十二個ほどあったはず。
 それを短時間で、三十分以内に複数人の客が購入したとは考えにくい。
 ありえるけど、一人で買い占める方がありえる。

 それなら、一つくらい譲って……もしくは、高値で交渉すれば手に入る可能性が高い。
 そう思って、ウチは先ほどの条件に該当しそうな客をさが……。

「げぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 下品な野太い声が売り場に響き渡る。
 なんやの、迷惑な客……。

「おまぁ! おまぁ! おまぁ! お前はぁあああああああああああああああ!」

 一人の客がウチを指さしている。
 迷惑な上に失礼な客。
 こんな相手は無視……。

「アンタ! 私を無視する気!」
「……どこかでお会いしました?」

 次の瞬間、迷惑で失礼な巨体の男が顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。

「私の顔を忘れたのぉ! あんなことしといてぇ!」
「?」

 なんやろ……デジャブ?

「ひどい! 酷いわ! 『風紀委員 藤堂正道 最愛の選択 第二部 プロローグ 伊藤ほのかの日常 その一』で出てきた、亜羅死の四天王の一人、覇亜斗よぉ! って、ちがぁあああああう! アンタのせいでリストラされた元レッドアーミー特攻部隊死神しじん、NEO覇亜斗改めGENBUよ!」

 ど~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!

 爆音が鳴り響く……わけもなく、ウチはああっ……っと思い出していた。
 あのウインクからの横ピース。腹立つわ~~~。
 それにリストラされたのなら、ただの一般人やん。

 ウチは肩をすくめ、今度こそ……あああああああああああ!
 ウチはある一点に視線がくぎつけになった。
 勿論、デヘソ出しコーデという本日サービスシーンに目が奪われた……わけやなく、オネエデブのショッピングカートに積まれていたアン○ンマンのプリン。

 アンタかぁああああああ!
 ウチはこのデブに殺意を抱いた。
 せや、いいこと思いついた。

「まあ、アンタとはいろいろとあったけど、今の私はただのプリティボーイ。見逃してあげるから……」

 ブン!

 ウチは木刀を振るう。

「ちょ! ちょっと! なんで臨戦態勢に入ってるの!」
「ウチな……敵に出会ったら叩きのめすのが信条なんです」
「ヤ○ザか! それにアンタと喧嘩するつもりはないって言ってるでしょ!」

 ちっ!
 正当防衛がなりたたへん。
 それなら……。

「ウチな……あんさんに襲われて、腹がたってるんよ……」
「あれだけ叩きのめしておいて!」

 ちっ! 細かいことを……。
 それなら……。

「それに……子供用のお菓子を大人買いする人、許せへんねん。他の人のことも考え」
「い、いいでしょ! ちゃんとお金を払ってるんだから! ま、まさか、買い物かごに入っているお菓子が欲しいの! ダメよ! 絶対に譲らないわ! アンタなら尚更ね!」

 せやろうな……。
 この男はウチの事を恨んでる。
 交渉は失敗するのは目に見えてる。

「それなら実力行使をするまでです」
「ち、力尽くで奪う気! か、買い物かごにある商品を他人がとったら、それは立派な窃盗罪よ!」

 買い物かごに商品があるということは、購入する意思があると判断され、お金を払っていなくても人の物と判断される。
 そのことを言ってるんやろ。
 それも対策済み。

「あんさん、ゲームします?」
「げ、ゲーム?」
「強はんがやっていた……RPG? やったと思うんですけど、確か勇者が敵を殺したとき、その持ち物やお金を自分の物にすることが出来るシステムでした」
「言葉! 言葉遣い気をつけて! その言い方じゃあ、勇者は世界一クレイジーな強盗殺人者になっちゃうじゃない! ある意味勇者かもしれないけど!」
「そのシステムにのとって敗者の物はウチの物とします」
「どんなジャイアニズムなの!」

 時間がない。それに前に襲われたのは事実。
 返り討ちにしたからといって、襲われた事を許した覚えはないし、許す気もない。
 ウチは目の前の男を問答無用で叩きのめした。



 ウチはアンパ○マンのプリンを購入した後、すぐにマンションに戻った。
 マンションを出て二十五分が過ぎてる。
 想定内。
 電話がかかってきた。

「はい」
「千春ちゃん! ア○パンマンのプリン、手に入れたよ! それで? どうするの、これ? まさか、届けろって言うんじゃあ……」
「もう不要になりました。結構です」
「ええええええええ~~~~~!」
「ちゃんとお金は払いますから、レシートは保管しておいてください」
「ちょっと!」

 ピッ!

 ウチは信吾はんの電話を切り、玄関のドアをゆっくりと開ける。
 誰もいないことを確認し、入る。
 コートや手袋といったものはとりあえず、洗濯機の中に隠し、普段着の格好になった。
 これで部屋に入る前に見つかっても言い訳はつく。

 ウチは足音を立てずに進む。
 リビングのドアの向こうに気配がする。桜花ちゃんと藤堂はんがいるんや。
 リビングのドアを少し開け、中の様子を確認する。
 桜花ちゃんは……藤堂はんの膝の上に座ってテレビを見ている。
 そして、泣きべそかきながらラッコのマーチを食べていた。
 ど、どんな状況?
 ウチは呆然と桜花ちゃんを見つめていると……あっ、目が合った。

「マァマアアアアアアア!」

 桜花ちゃんがダッシュで近づき、抱きついてきた。

「あ、朝乃宮?」

 藤堂はんが目を丸くしている。
 ウチはずっと部屋にいると思っていたから、驚いているみたい。

「どうしたの、桜花ちゃん。可愛ええ顔が台無しや」
「ママァアアア! ママァアアアア!」
「よしよし」

 ウチは桜花ちゃんをなだめる。

「藤堂はん、これは……」
「なあ、アン○ンマンのプリン、知らないか?」

 ドキッ!

「どこにも見当たらなくてな、桜花が大泣きして大変だったんだ。朝乃宮に聞こうと思ってたんだが、邪魔したらマズいと思ってな」

 ふぅ……保険はうまくいったみたい。
 真面目な藤堂はんなら、多少トラブルが起こっても、ウチの部屋に入ることはしないと踏んでいたけど、その通りやった。
 ほんま、信頼できるお人や。

「ママァアアア! ママァアアアア!」

 せやった……桜花ちゃんの涙を止めへんと。

「アンパンマンのプリンやったら、冷蔵庫に入れておきましたけど?」
「そ、そうなのか?」
「ない! れいぞうこにない!」

 藤堂はんは首をかしげ、桜花ちゃんは大泣きしている。
 ウチは桜花ちゃんを抱えながら、冷蔵庫を開ける。
 ウチはお腹に隠していたプリンを取り出す。

「れいぞうこにないよ、ママ!」
「えっ? ここにありますけど?」

 ウチは冷蔵庫から取り出すフリをして、手にしていたプリンを桜花ちゃんの前に出す。いかにも冷蔵庫から取り出したかのように。

「……あれ?」
「桜花ちゃんのあわてんぼうさん。ちゃんとありますから」

 桜花ちゃんは涙と鼻水を出しながら、呆然としている。

 ずずっ!

 桜花ちゃんは鼻水をすすった。

「これで問題解決やね、桜花ちゃん」
「……ママぁああああ!」

 桜花ちゃんはウチにギュッと抱きついた。
 これで問題解決。疲れたわ。
 桜花ちゃんはプリンがあったことに安心したのか、ラッコのマーチを握りながらテレビの方へ戻っていった。

 はぁ……ミッション完了。
 母親って疲れる……けど、まあ、子供に振り回されるのも、あまり悪い気はせえへん。ウチの中で桜花ちゃんの存在が大きくなっていく。
 ほんま……厄介な子や。

 ウチは安堵のため息をついていると、後ろから藤堂はんに肩を置かれた。
 きっと、迷惑をかけてすまない、とねぎらってくれるはず。まあ、ウチが悪いんやけど。
 ウチは少しの罪悪感があったけど、苦労をねぎらってほしかった気持ちもあった。
 藤堂はんはウチの耳元で囁いた。

「アンパ○マンのプリン、美味しかったか?」
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