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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE
2/6 その十
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「……やってもうた……」
目の前には三つ、空っぽになった容器が転がっていた……。
ピロ~ン!
「……」
ウチは黙ってスマホを見る。
『なぜ三つ食べたしWWW』
……返す言葉もない。
咲のメッセージを無視し、ウチはその場に座り込んだ。
ど、どないしよ……。
結論から言うと、味はぼちぼちやった。
京 八坂プリンの方が美味しい。
しかし、一つ分かったことがある。
アンパンマンの顔を食べた者達の気持ちと……アンパンマンの究極の自己犠牲の精神が。
ピロ~ン!
「……」
『なんでやねんWWW』
ウチも何思ってるのか、分からへん。
それだけ頭が混乱していた。
お、落ち着き! まずは状況確認。
時間は……まだ藤堂はん達と帰ってからそんな時間がたってない。
多分、十分分程度過ぎてる……って! ウチ! 桜花ちゃんのプリンを食べるか悩んで三つ食べてから三分もたってないんちゃう!
ピロ~ン!
「……」
『躊躇なさ過ぎWWW』
タイムイズマネーやし。
とにかく、早すぎたおかげで夕飯を作るまでには時間がある。
結論。
桜花ちゃんや藤堂はんにバレずにプリンを買って、冷蔵庫に入れる。
ピロ~ン!
「……」
『反省の色無しWWW』
悪事はお天道様の下で白日になれば証明されるのであって、気づかれなければそれはもう、悪事ではない。
それにバレたら桜花ちゃんが悲しむ。藤堂はんも悲しむ。
こんなふうに……。
「ママ! なんでおうかちゃんのぷりんをたべたの! ママなんてだいきらい!」
「朝乃宮……いい加減、意地悪はやめてやれ。朝乃宮はいつもそうだよな。上春に何度怒られた? 大体、朝乃宮はいつもいつも……」
あっか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!
これはあかん! ウチの家での地位が! 好感度が!
ピロ~ン!
「……」
『そんなのあったんだWWW』
あるわ!
ウチは母親として、桜花ちゃんの涙を止める義務がある。
そう、これは桜花ちゃんの為。信頼を勝ち取るため……。
ピロ~ン!
「……」
『それ、永田町の並の自分の事しか考えていない言い訳WWW 火の玉にでもなる気WWW』
と、とにかく!
ウチはいくつかの準備をして、エコバックと財布を握りしめ、部屋のドアを少し開ける。
そこには桜花ちゃんがリビングで正座しながら、藤堂はんの着替えを待っていた。
か、可愛ええわ~~~~!
いい子アピでお菓子をもらう気満々の桜花ちゃんにほっこりしてまう。
あ、あかん! 今は任務に集中せな!
幸い、藤堂はんはまだ部屋にいて、おばさまもいない。
桜花ちゃんはこっちに背を向けている。
チャンスや!
ウチはそっと部屋を出ようと……。
「パパ……まだかな?」
お、桜花ちゃん!
桜花ちゃんが立ち上がって、藤堂はんの部屋へと走って行く。
もう少し我慢して!
よほどお腹がすいてるの? それとも、ただ食べたいだけなの?
桜花ちゃんは藤堂はんの部屋に向かっている。
け、けど、これはチャンス2!
桜花ちゃんが藤堂はんの部屋に入れば、リビングは蛻の殻や。リビングを通って玄関に出れる!
ミッション、開始や!
ウチの頭の中でスパイ映画のBGMが流れ出す。
「パパ! パパ!」
「……どうした、桜花?」
とととととととととととと!
ウチは急ブレーキをかけ、部屋に退散する。
だから、早い早い!
桜花ちゃんの声に、藤堂はんが部屋を出てきてしまった。事態は一気に悪化してしまう。
くっ! もう少しやったのに!
状況はリアルタイムで変わる。油断できへん。
ウチはごくりっと息をのむ。
まさか、家に帰って窮地に陥るとは思ってもなかった。今日最大のピンチかも。
橘はんや三小はん、清洲はんに少し申し訳ない気持ちになった。
さて、二人に気づかれずにどうやって玄関へ向かって、外に出る?
策を練る前に状況を把握する。
「パパ! ママにプレゼントした!」
「……喜んでくれたか?」
「うん!」
桜花ちゃん、いい返事や。藤堂はんはその場にしゃがんで桜花ちゃんの頭を撫でる。
ここから予想出来ること。
それは……チャンスがまた来ること。
藤堂はんの手には『ラッコのマーチ』がない。つまり、部屋の中にある。
桜花ちゃんに激甘の藤堂はんのことや。絶対に『ラッコのマーチ』と『なつちゃん』を桜花ちゃんに渡すはず。
その為に買っていたとさえ思える。
つまり、藤堂はんは最初から桜花ちゃんの為に二つ用意していた。
けど、どうして? 桜花ちゃんを喜ばせる為のプレゼント? プリンを買っているのに?
プレゼント……。
ま、待って! 桜花ちゃんはウチを元気づけるためにプレゼントしてくれた。
でも、それって桜花ちゃんが考えついたの? 入れ知恵があったのでは?
そ、それじゃあ、ウチを元気づけようとしたのは……。
ウチは胸の中が暖かくなるとともに、罪悪感が膨れ上がった。
ああ……プリンのことさえなければ……素直に感動できたのに……。
「良い子にはご褒美をあげないとな」
「やったぁ!」
キタァアアアアアアアアアアアアアアアア!
藤堂はんは苦笑しながらも部屋に戻っていった。
ここや!
ウチはすぐに部屋を出て、玄関へ向かう。
桜花ちゃんはわくわくしながら、藤堂はんの部屋を凝視している。
このまま玄関に……。
「!」
ウチは転がるようにしてソファーに隠れた。桜花ちゃんがこっちを見たから。
な、なんで! 気づかれた?
「ママ?」
気づかれてる! ううん! まだ気づかれてない!
気づいていたら、もっと話しかけているはず。こっちにかけよってくるはず。
どういう理由かは分からへんけど、ウチがリビングにいると疑問に思っている。
見えないけど、いる。
「……」
桜花ちゃんは動かない。ウチは動けない。
このままやと藤堂はんが戻ってくる。
時間だけが過ぎていく。
しゃあない!
ウチはポケットからBB弾を取り出し、ソファーの影から親指ではじいた。
BB弾は壁、天井、壁と当たり……。
「あいた……」
桜花ちゃんの後頭部に当たった。
桜花ちゃんは後頭部に小さな衝撃を受けて、注意が後ろにいく。
ここや! ウチは低姿勢で地面を滑るようにして移動する。リビング、クリア!
ウチはそのまま足音を立てずに、玄関のドアを開け、いつもとは違う靴で外に出た。
ウチはダッシュでスーパーへ向かう。二十分以内には部屋に戻る。
スーパーまで走って三分以内。往復で七分以内。
時間帯は夕方の忙しい時間帯。けど、このスーパーのタイムセール前なので、さほどレジは混雑していない。
それなら、二十分以内にもミッションコンプリート。
問題なければ十五分以内にも終わる。
藤堂はんはメッセージ一本で足止めしている。
後は桜花ちゃん。
この不確定要素だけは予測不可能。
けど、対策はある。
なるべくなら、この策は使いたくないんやけど……。
ピピピッ!
早速警告音がなる。
この音は桜花ちゃんがウチの部屋に入った音。
ウチは早速エコバックからVRゴーグルを取り出す。
スイッチを入れると……。
「……あれ? ママがいない……」
画面に桜花ちゃんの姿がうつる。
この映像はウチの部屋にあるテディベア……の目についているカメラから送られている。
このテディベアは、おもちゃ会社『タカラトニー』の試作品、ぬいぐるみロボット『N-2189』通称『アルメイダ』。
アルメイダは大株主である朝乃宮に送られた試作機で最新のデジタル技術を駆使している。
目には超小型カメラ。耳にはマイク。口にはスピーカーが内蔵されている。
超小型カメラは1080P画質小型カメラが二つ、その画像を無線でVRゴーグルに送信。
マイクは48kHz/24bitオーディオ録音により、CDを超える高音質で部屋の音をひろう。
スピーカーはノイズフィルタースピーカーにより、クリアな声を送信できる。
この機能を駆使すれば……。
「桜花ちゃん」
「……ママ?」
桜花ちゃんと遠隔操作で話すことが出来る。
つまり……。
「桜花ちゃん、聞いて。これは大事なことなの」
桜花ちゃんを説得し、時間稼ぎが出来る。
けど、これ……恥ずかしい……。
中の人が外で会話しているから、周りに丸見え。
こんな羞恥、初めてや……。
「……ママ、どこにいるの?」
「ママは……悪い魔女にぬいぐるみにされたの」
「なにをいってるの、ママ?」
ですよね~。
けど、桜花ちゃんに通常の駆け引きは無理。
それなら……。
「本当のことなの。でも、すぐに魔法は解けるわ」
「……そうなの?」
桜花ちゃんはぬいぐるみに近づき、ぬいぐるみを調べている。
ぬいぐるみからウチの声が聞こえてくるから半信半疑ってところやね。
「でもね、桜花ちゃん。このことをふじ……パパに話すと大変なことになるの」
「たいへんなこと?」
「桜花ちゃんが話したら……ママはずっと、ぬいぐるみになっちゃうの」
「!」
桜花ちゃんはポトリとぬいぐるみを落とした。
桜花ちゃんの姿がよく見えないけど、このまま説得するしかない。
「だから、パパには……」
「いやぁああああああ! ママが! ぬいぐるみになっちゃいやぁあああああ!」
お、桜花ちゃん?
桜花ちゃんが大泣きしてもうた。
ぴゅ、ピュアやな~桜花ちゃん。
可愛ええと思いつつも、もの凄い罪悪感が……。
か、堪忍や、桜花ちゃん。この罪滅ぼしは絶対にするから!
「桜花ちゃん、落ち着いて! ママは大丈夫やから! 泣かないで!」
「ママ~~! ママ~~~!」
「桜花ちゃん、泣き止んで! お願いやから!」
マズい! 桜花ちゃんが大泣きしているのがバレたら、流石に藤堂はんも部屋に入ってくる!
そしたら、プリンのことが絶対にバレる!
なんとかして桜花ちゃんの涙をとめんと!
このぬいぐるみロボットを使って、桜花ちゃんの涙を止めるには……。
~~♪ ~~~~♪
「……うたがきこえる」
桜花ちゃんの好きなアニメ、ミラキュレスのOPの曲をスピーカー越しに流す。
桜花ちゃんの涙が止まった。
ふぅ……賭けは無事に成功。子供が大泣きした場合の対応として、音楽や童謡を歌ったりすることで気をそらす。
ネットで見た対応策やったけど、音楽と好きな歌で桜花ちゃんの気を引くことに成功したのはラッキーや。
「桜花ちゃん、よく聞いて」
「ママ……」
涙と鼻水を垂らしながら、桜花ちゃんはウチの話しを聞いてくれる。
今しかない!
「桜花ちゃん、すぐにウチは元に戻るから、パパには内緒にして。桜花ちゃん、ママのお願い」
「ママのおねがい……」
「桜花ちゃんはええ子やろ? お願い」
お願い、桜花ちゃん! お願いを聞いて!
「……わかった。ママのいうこと、きく」
よっしゃぁあああああああああああああああああああああああああ!
「桜花ちゃんがええ子にしてたら、ご褒美があるから」
「ごほうび? やったぁああ!」
げ、現金な子や。けど、好きやわ~~~。
「ママが元に戻るまでパパと一緒にいてな」
「わかった……パパ! パパ!」
ふぅ……これで問題は解決……。
「ママがぬいぐるみになっちゃった!」
おうかちゃあああああああああああああああああああああああああん!
全然分かってない!
くっ! 藤堂はんにフォローのメッセージをいれておかな。
ウチはため息をつき、VRゴーグルを脱いでスーパーに突入した。
目の前には三つ、空っぽになった容器が転がっていた……。
ピロ~ン!
「……」
ウチは黙ってスマホを見る。
『なぜ三つ食べたしWWW』
……返す言葉もない。
咲のメッセージを無視し、ウチはその場に座り込んだ。
ど、どないしよ……。
結論から言うと、味はぼちぼちやった。
京 八坂プリンの方が美味しい。
しかし、一つ分かったことがある。
アンパンマンの顔を食べた者達の気持ちと……アンパンマンの究極の自己犠牲の精神が。
ピロ~ン!
「……」
『なんでやねんWWW』
ウチも何思ってるのか、分からへん。
それだけ頭が混乱していた。
お、落ち着き! まずは状況確認。
時間は……まだ藤堂はん達と帰ってからそんな時間がたってない。
多分、十分分程度過ぎてる……って! ウチ! 桜花ちゃんのプリンを食べるか悩んで三つ食べてから三分もたってないんちゃう!
ピロ~ン!
「……」
『躊躇なさ過ぎWWW』
タイムイズマネーやし。
とにかく、早すぎたおかげで夕飯を作るまでには時間がある。
結論。
桜花ちゃんや藤堂はんにバレずにプリンを買って、冷蔵庫に入れる。
ピロ~ン!
「……」
『反省の色無しWWW』
悪事はお天道様の下で白日になれば証明されるのであって、気づかれなければそれはもう、悪事ではない。
それにバレたら桜花ちゃんが悲しむ。藤堂はんも悲しむ。
こんなふうに……。
「ママ! なんでおうかちゃんのぷりんをたべたの! ママなんてだいきらい!」
「朝乃宮……いい加減、意地悪はやめてやれ。朝乃宮はいつもそうだよな。上春に何度怒られた? 大体、朝乃宮はいつもいつも……」
あっか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!
これはあかん! ウチの家での地位が! 好感度が!
ピロ~ン!
「……」
『そんなのあったんだWWW』
あるわ!
ウチは母親として、桜花ちゃんの涙を止める義務がある。
そう、これは桜花ちゃんの為。信頼を勝ち取るため……。
ピロ~ン!
「……」
『それ、永田町の並の自分の事しか考えていない言い訳WWW 火の玉にでもなる気WWW』
と、とにかく!
ウチはいくつかの準備をして、エコバックと財布を握りしめ、部屋のドアを少し開ける。
そこには桜花ちゃんがリビングで正座しながら、藤堂はんの着替えを待っていた。
か、可愛ええわ~~~~!
いい子アピでお菓子をもらう気満々の桜花ちゃんにほっこりしてまう。
あ、あかん! 今は任務に集中せな!
幸い、藤堂はんはまだ部屋にいて、おばさまもいない。
桜花ちゃんはこっちに背を向けている。
チャンスや!
ウチはそっと部屋を出ようと……。
「パパ……まだかな?」
お、桜花ちゃん!
桜花ちゃんが立ち上がって、藤堂はんの部屋へと走って行く。
もう少し我慢して!
よほどお腹がすいてるの? それとも、ただ食べたいだけなの?
桜花ちゃんは藤堂はんの部屋に向かっている。
け、けど、これはチャンス2!
桜花ちゃんが藤堂はんの部屋に入れば、リビングは蛻の殻や。リビングを通って玄関に出れる!
ミッション、開始や!
ウチの頭の中でスパイ映画のBGMが流れ出す。
「パパ! パパ!」
「……どうした、桜花?」
とととととととととととと!
ウチは急ブレーキをかけ、部屋に退散する。
だから、早い早い!
桜花ちゃんの声に、藤堂はんが部屋を出てきてしまった。事態は一気に悪化してしまう。
くっ! もう少しやったのに!
状況はリアルタイムで変わる。油断できへん。
ウチはごくりっと息をのむ。
まさか、家に帰って窮地に陥るとは思ってもなかった。今日最大のピンチかも。
橘はんや三小はん、清洲はんに少し申し訳ない気持ちになった。
さて、二人に気づかれずにどうやって玄関へ向かって、外に出る?
策を練る前に状況を把握する。
「パパ! ママにプレゼントした!」
「……喜んでくれたか?」
「うん!」
桜花ちゃん、いい返事や。藤堂はんはその場にしゃがんで桜花ちゃんの頭を撫でる。
ここから予想出来ること。
それは……チャンスがまた来ること。
藤堂はんの手には『ラッコのマーチ』がない。つまり、部屋の中にある。
桜花ちゃんに激甘の藤堂はんのことや。絶対に『ラッコのマーチ』と『なつちゃん』を桜花ちゃんに渡すはず。
その為に買っていたとさえ思える。
つまり、藤堂はんは最初から桜花ちゃんの為に二つ用意していた。
けど、どうして? 桜花ちゃんを喜ばせる為のプレゼント? プリンを買っているのに?
プレゼント……。
ま、待って! 桜花ちゃんはウチを元気づけるためにプレゼントしてくれた。
でも、それって桜花ちゃんが考えついたの? 入れ知恵があったのでは?
そ、それじゃあ、ウチを元気づけようとしたのは……。
ウチは胸の中が暖かくなるとともに、罪悪感が膨れ上がった。
ああ……プリンのことさえなければ……素直に感動できたのに……。
「良い子にはご褒美をあげないとな」
「やったぁ!」
キタァアアアアアアアアアアアアアアアア!
藤堂はんは苦笑しながらも部屋に戻っていった。
ここや!
ウチはすぐに部屋を出て、玄関へ向かう。
桜花ちゃんはわくわくしながら、藤堂はんの部屋を凝視している。
このまま玄関に……。
「!」
ウチは転がるようにしてソファーに隠れた。桜花ちゃんがこっちを見たから。
な、なんで! 気づかれた?
「ママ?」
気づかれてる! ううん! まだ気づかれてない!
気づいていたら、もっと話しかけているはず。こっちにかけよってくるはず。
どういう理由かは分からへんけど、ウチがリビングにいると疑問に思っている。
見えないけど、いる。
「……」
桜花ちゃんは動かない。ウチは動けない。
このままやと藤堂はんが戻ってくる。
時間だけが過ぎていく。
しゃあない!
ウチはポケットからBB弾を取り出し、ソファーの影から親指ではじいた。
BB弾は壁、天井、壁と当たり……。
「あいた……」
桜花ちゃんの後頭部に当たった。
桜花ちゃんは後頭部に小さな衝撃を受けて、注意が後ろにいく。
ここや! ウチは低姿勢で地面を滑るようにして移動する。リビング、クリア!
ウチはそのまま足音を立てずに、玄関のドアを開け、いつもとは違う靴で外に出た。
ウチはダッシュでスーパーへ向かう。二十分以内には部屋に戻る。
スーパーまで走って三分以内。往復で七分以内。
時間帯は夕方の忙しい時間帯。けど、このスーパーのタイムセール前なので、さほどレジは混雑していない。
それなら、二十分以内にもミッションコンプリート。
問題なければ十五分以内にも終わる。
藤堂はんはメッセージ一本で足止めしている。
後は桜花ちゃん。
この不確定要素だけは予測不可能。
けど、対策はある。
なるべくなら、この策は使いたくないんやけど……。
ピピピッ!
早速警告音がなる。
この音は桜花ちゃんがウチの部屋に入った音。
ウチは早速エコバックからVRゴーグルを取り出す。
スイッチを入れると……。
「……あれ? ママがいない……」
画面に桜花ちゃんの姿がうつる。
この映像はウチの部屋にあるテディベア……の目についているカメラから送られている。
このテディベアは、おもちゃ会社『タカラトニー』の試作品、ぬいぐるみロボット『N-2189』通称『アルメイダ』。
アルメイダは大株主である朝乃宮に送られた試作機で最新のデジタル技術を駆使している。
目には超小型カメラ。耳にはマイク。口にはスピーカーが内蔵されている。
超小型カメラは1080P画質小型カメラが二つ、その画像を無線でVRゴーグルに送信。
マイクは48kHz/24bitオーディオ録音により、CDを超える高音質で部屋の音をひろう。
スピーカーはノイズフィルタースピーカーにより、クリアな声を送信できる。
この機能を駆使すれば……。
「桜花ちゃん」
「……ママ?」
桜花ちゃんと遠隔操作で話すことが出来る。
つまり……。
「桜花ちゃん、聞いて。これは大事なことなの」
桜花ちゃんを説得し、時間稼ぎが出来る。
けど、これ……恥ずかしい……。
中の人が外で会話しているから、周りに丸見え。
こんな羞恥、初めてや……。
「……ママ、どこにいるの?」
「ママは……悪い魔女にぬいぐるみにされたの」
「なにをいってるの、ママ?」
ですよね~。
けど、桜花ちゃんに通常の駆け引きは無理。
それなら……。
「本当のことなの。でも、すぐに魔法は解けるわ」
「……そうなの?」
桜花ちゃんはぬいぐるみに近づき、ぬいぐるみを調べている。
ぬいぐるみからウチの声が聞こえてくるから半信半疑ってところやね。
「でもね、桜花ちゃん。このことをふじ……パパに話すと大変なことになるの」
「たいへんなこと?」
「桜花ちゃんが話したら……ママはずっと、ぬいぐるみになっちゃうの」
「!」
桜花ちゃんはポトリとぬいぐるみを落とした。
桜花ちゃんの姿がよく見えないけど、このまま説得するしかない。
「だから、パパには……」
「いやぁああああああ! ママが! ぬいぐるみになっちゃいやぁあああああ!」
お、桜花ちゃん?
桜花ちゃんが大泣きしてもうた。
ぴゅ、ピュアやな~桜花ちゃん。
可愛ええと思いつつも、もの凄い罪悪感が……。
か、堪忍や、桜花ちゃん。この罪滅ぼしは絶対にするから!
「桜花ちゃん、落ち着いて! ママは大丈夫やから! 泣かないで!」
「ママ~~! ママ~~~!」
「桜花ちゃん、泣き止んで! お願いやから!」
マズい! 桜花ちゃんが大泣きしているのがバレたら、流石に藤堂はんも部屋に入ってくる!
そしたら、プリンのことが絶対にバレる!
なんとかして桜花ちゃんの涙をとめんと!
このぬいぐるみロボットを使って、桜花ちゃんの涙を止めるには……。
~~♪ ~~~~♪
「……うたがきこえる」
桜花ちゃんの好きなアニメ、ミラキュレスのOPの曲をスピーカー越しに流す。
桜花ちゃんの涙が止まった。
ふぅ……賭けは無事に成功。子供が大泣きした場合の対応として、音楽や童謡を歌ったりすることで気をそらす。
ネットで見た対応策やったけど、音楽と好きな歌で桜花ちゃんの気を引くことに成功したのはラッキーや。
「桜花ちゃん、よく聞いて」
「ママ……」
涙と鼻水を垂らしながら、桜花ちゃんはウチの話しを聞いてくれる。
今しかない!
「桜花ちゃん、すぐにウチは元に戻るから、パパには内緒にして。桜花ちゃん、ママのお願い」
「ママのおねがい……」
「桜花ちゃんはええ子やろ? お願い」
お願い、桜花ちゃん! お願いを聞いて!
「……わかった。ママのいうこと、きく」
よっしゃぁあああああああああああああああああああああああああ!
「桜花ちゃんがええ子にしてたら、ご褒美があるから」
「ごほうび? やったぁああ!」
げ、現金な子や。けど、好きやわ~~~。
「ママが元に戻るまでパパと一緒にいてな」
「わかった……パパ! パパ!」
ふぅ……これで問題は解決……。
「ママがぬいぐるみになっちゃった!」
おうかちゃあああああああああああああああああああああああああん!
全然分かってない!
くっ! 藤堂はんにフォローのメッセージをいれておかな。
ウチはため息をつき、VRゴーグルを脱いでスーパーに突入した。
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