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兄さんなんて大嫌いです! 朝乃宮千春SIDE

2/1 その七

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「……そういえば、四神以外にももう一匹? 匹でええんか知りませんけど、麒麟もしくは黄龍のどちらかで入れて五神って呼ぶみたいですけど、あんさんもそのクチですの?」
「ほぅ……俺の気配に気づいたか」

 別にたいしたことやないし、相手もすごいこともない。
 ただ、確実に先ほどまでの五人とは空気が違う。
 身長は百八十後半、ラテン系の……って外国人! 日本語話していたからハーフ?
 ワカメ頭におしゃれひげっていうの? 赤いジャケット姿は少しワイルドっぽい。
 年齢は二十代前半? グリーンの目が特徴的。
 ガムをくちゃくちゃ噛みながら見下してくる。
 周りには誰もいないことから、手下はいなさそう。これで百人越えの雑魚がいたら、ほんま面倒やった。
 流石に藤堂はん一人では無理。
 とりあえず、さっさと終わらせよ。

「それで? 名乗りをあげませんの?」
「これから叩きのめされるヤツに名乗る必要なんてある?」

 ふふふっ……ムカつく。
 おバカ四人組と百人を超える雑魚を倒されて、どこから余裕が出てくるのやら。

 バシュゥウウウ!
 ガシャン!

「……」

 止めていた自転車を、ウチに向かって蹴り飛ばしてきた。
 自転車は顔のすぐ横を通り過ぎて壁にぶつかった。

「すげぇな、お前。自転車が目の前を通り過ぎたのに、瞬き一つしないなんてな」

 なんで値踏みされてるん?
 目の前じゃなくて、すぐ横なんですけど。
 そっと木刀を構える。
 あのしなやかでムチのような鋭い蹴りで自転車を蹴り飛ばすことが出来るのかとツッコみどころが多いけど、蹴りがスピードに乗る前に木刀で叩きつけてやれば無効化できる。

 男は散歩するようなリラックスした足取りで近づいてくる。
 神経を集中させ、間合いを計る。足の長さは大体一メートルほど。
 男が間合いに入った瞬間。

 バキィ!

「っ……痛ぁ……」

 木刀が……折れた。手が強い衝撃を受けて痺れてる。
 勿論、蹴りで折れたわけやない。
 ウチの木刀を折った原因は……。

「警棒……」
「特注品だぜ。カスタムスチールって言ってな、通常のスチールの三倍だ」

 蹴りと見せかけて警棒とか……。
 手が痺れて木刀を握るにはしばらく時間がかかりそう……。
 男はここぞとばかりに警棒と蹴りで襲いかかってくる。
 まるで躊躇がない。当たり所が悪かったら重傷……最悪死んでまうかもしれへん。
 危ないお人や。

「やるな、お前。俺の攻撃をここまで躱したのはお前が初めてだ。四神が倒せないわけだぜ。その足捌き、すり足だろ?」
「答える必要あります?」

 少しは武道をかじってるみたい。知識だけでなく、動くも無駄がないし、急所ばかり狙ってくる。
 それでも、それ故、ウチにはきかへんねんけど。
 ウチはすり足を使い、相手の間合いの外、常に安全圏を確保する。
 基本は相手が一歩前に出れば一歩下がって、一歩後ろに下がれば一歩前に出る。ダンスを踊るように距離を保つ。
 常に一定の距離を確保し、隙をうかがいつつ、手のしびれの回復を待つ。

「いいぜ、気に入った。お前、俺の女になれ。俺はコイツらのまとめ役でレッドアーミー、ナンバー『拾』。お前が望むなら四神のどれかを譲ってやる」
「戯れ言はSNSでつぶやいとき。後、あんさんが何者か、どうでもええんですけど」

 麒麟、もしくは黄龍ちゃうんかいってツッコみしか思わんかったし。
 それに四神を名乗るっておこがましいというか、恥ずかしいというか……全然嬉しくない。

「誰もお前の意見なんて聞いてない! 黙って従え!」

 馬鹿らし。
 こういう勘違い男、ほんま迷惑。ただの犯罪やん。
 攻撃のスピード、鋭さは増すけど、もう見切ったわ。

「シャァ!」
「……」

 今度は地面の砂を蹴り上げて目潰し? 甘いわ。
 ゲスが相手ならそれくらい容易に想像できる。躱すのもわけないし。
 勘違い男は目を丸くしてるけど、すぐに気持ちを切り替え、次のアクションに移る。
 反則攻撃? でええんか知らんけど、次の行動は手に取るように読める。
 ほ~ら、肘、髪掴み、胸への鷲掴み、衣服を掴む、etc……。
 見飽きたわ。

 三分ほど空振りさせているけど、それでもスピードが変わらないスタミナだけは感心するわ。
 そろそろ手のしびれも収まってきたし、そろそろ……。
 男が回し蹴りをする瞬間を狙って、ウチは男の軸足を蹴って転ばせる。

「認めてやるよ。てめえは強い」

 なぜ、上から? しかも、地面に寝そべっているのに。
 明らかにあんさんの方が下やん。
 面倒やし、そろそろ……。

「ちょっと、タイム~。少しだけ話し、いいかな?」

 ……はぁ。ほんま、マイペースなお人や、この女は。
 こんな馴れ馴れしい女が藤堂はんのバイト先の先輩かと思うと……なんや、腹がたってきた!

「ああん? 次、相手してやるからおとなしく待ってろ」
「それはない。キミはもうすぐやられちゃうからその前に聞いておきたいんだけど、どうして、正道君を襲うわけ?」
「……」

 それは少し興味ある。
 なぜ、四神とこの男は藤堂はんを狙っているの?
 藤堂はんは基本、喧嘩は青島でしかしない。内地でのもめ事は極力しない。
 レッドアーミーやったっけ? 内地の不良グループがどうして、藤堂はんにこだわっているの?

「正道? 藤堂のことか? なんで、お前に教える必要がある。それに覚悟しておけよ」
「覚悟?」
「藤堂だけでなく、その仲間や家族、知り合いも全員病院送りにする。レッドアーミーに逆らったこと、体で思い知らせてやらないとな」
「「……」」

 はぁ……ほんま、どうでもええんやけど、藤堂はんの自業自得やし、好きにしてろ……って言いたいんやけど、これはあかんわ……。
 咲に危害が及ぶ可能性があるのなら、別。
 この男に教えてやらんと……誰に喧嘩を売ったのかを……。

「だが、お前は俺が飼ったやる。いいカラダしてるしな。たっぷり、可愛がってやる。俺の女になれ。お前に彼氏がいようが関係ない」

 いや、おおありやん。
 別にウチ、彼氏なんていないし……。

「それとも、惚れた相手でもいるか?」

 どくん!

「シャアアアアアア!」

 バチィイイイン!

「……痛ぁ……」

 油断した……男のビンタが頬に当たってもうた……頬? えっ? えっ?
 頬がジンジンする。これ……腫れるパターン?
 はぁ? はぁ?
 鼻がツーンとする。鼻血? 鼻にも当たった?
 こんな姿、絶対に藤堂はんに見られたくない……見せられない……。
 最悪……最悪!

「どうだ? 俺に従う気に……おげぇ!」

 うるさい……。
 ほんま、ありえへん……。

「こ、この野郎! 調子に……ぐがぁ!」

 これ、絶対に一晩たったら腫れ上がる……こんな顔、見せられへん……。
 あかん……視界がにじむ……涙が出てきた……。
 絶対に……許せへん!

「てめえ、いい加減に……ぺけぇ!」
「……」
「ば、馬鹿な……この俺がぁ……こほぉ!」
「……」
「ま、待て! 話せば……みびぃ!」
「……」
「こ、降参! 降参……んんぐぁ」
「……」
「や、やめ……やめて……げはぁ!」
「はいはい、ストップストップ」
「……」
「もういいでしょ? それより、ウチに来な。その腫れ、一晩で治してあげるから」
「……ほんま?」
「私で実証済みだから。早くいこ」
「……うん」

 もう、どうでもええわ……。

「おい、麗子! マジでレッドアーミーがカチコミに来たのか!」
「橘も情報を掴んでますの! お姉様は内地にいますので、戻ってくるまで私達で相手しますわよ!」
「百五十はいるって話だぞ! しかも、その中にナンバーズがいるって話じゃねえか!」
「泣き言なんて見苦しいですの! 今いる戦力で抑えますの!」

 ……。

「げぇ! 女夜叉!」
「……朝乃宮先輩……こんなことお願いするのは筋違いだと思いますけど、手を貸していただけませんか?」
「おい、麗子! 正気か!」
「背に腹はかえられませんわ! お願いします!」

 ……。

「あのさ、キミ達。きっと、その問題は解決してるわよ」
「はぁ? そこのお姉さん。部外者は……」
「ま、待ちなさい! そのお人は……」
「おい、麗子! 亜蘭あらん! 大変なことになってるぞ!」
「名前で呼ぶな! もう敵が集まってるのか!」
「いや……全員、のびてる……特に赤ジャケット着てるヤツはひでえ……腕や手の指が折られてるし、顔面が壮絶に腫れてる。足も変な方向に曲がってやがる。早く病院につれていかないと」
「「はぁ?」」
「にゃぁ……」

 ……。
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