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兄さんなんて大嫌いです! 朝乃宮千春SIDE

1/31 中編

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 咲との帰り道。

「……」

 はぁ……。
 咲は落ち込んでいて何も話そうとしない。
 手を繋いでいるけど、心なしか寒く感じる。咲が元気ないとウチも悲しい。
 それに自覚してしまった自分の恋心にどうしたらええのか、さっぱり分からへん……頭の中が藤堂はんのことでいっぱいやし……。

 ほんま、いきなりやった。
 何の前触れも……それはあったけど、ここまで強く自覚することはなかった。
 本当に突然、恋に落ちた。
 理屈とかそんなものはない。明確な理由は分からない。
 心がそう認めた。
 
 だから、言い訳ができない。藤堂はんの顔を思い浮かべるだけで頬が熱くなる。
 今、藤堂はんに会ったら、顔を直視する自信がない。
 はぁ……。
 思い通りにいかへん……なんで、今なん……。
 なんで今、ウチは藤堂はんのことを……。

 ちなみに告白してきた男の子はお断りした。
 好きな人がいるという理由で。

「あっ! お姉さん!」
「こんにちは」

 咲に挨拶してきたあの二人は……。

「こんにちは、雅ちゃん。奏ちゃん」

 そうそう、強はんが所属している『青島ブルーリトル』のメンバーで同じクラスの亀井雅はんと奉日本たかもと 奏はん。
 雅はんは強はんの事を好きで、奏はんは……ちょっと違う気がする。慕ってはいるけど……。

「お姉さん、どうかしたの?」
「えっ?」
「なんか、落ち込んでるみたい」
「み、雅ちゃん! そういうこと言っちゃ……」
「だって! お姉さんには強君のことでお世話になってるし、見捨てられないじゃない!」

 雅はんはまっすぐで、奏はんは気を遣う。
 異なる性格なのに、うまくいっているのが微笑ましい……けど……。

「雅はん、おおきに。咲のこと心配してくれて。奏はんも気遣ってくれてありがとう」

 ウチはにっこりと微笑んで雅はんたちにお礼を言う。
 今は少しそっとして欲しい。

「そんなことないですよ、千春様!」
「……」

 分かってます。咲がドン引きしてるのは。
 この子達、ウチをフツウに扱ってくれない。
 雅はんは様付けするし、奏はんは雅はんの背中に隠れるし。
 奏はんがウチを嫌うのは仕方ないとはいえ、雅はんはいい加減様付けするのはよしてほしいわ。

「雅はん。何度も何度も言ってますけど、様付けは……」
「えっ? どうしてですか、千春様?」
「……」

 奏はんが背中を向けて……あれは絶対に笑ってはる。はぁ……。
 こんなとこ、藤堂はんに見られたら……。
 藤堂はん? せや!
 ええ考えが思いついた!

「雅はん、奏はん。実はウチら、藤堂はんの事でとても困ってます。お力を貸していただけますでしょうか?」
「ち、ちーちゃん!」

 咲が慌てて止めに入るけど、ウチは咲の耳元でそっとささやく。

「咲の気持ちも言いたいことも分かります。けど、今は顔を合わせたら喧嘩になってしまう。それなら、ここはからめ手でいくべきやと思いますけど」
「そ、それは……」
「最後は咲に任せます。けど、ウチにも手伝わせてもらえます? 悪いようにはしませんから」

 咲の考えは分かる。自分の力で解決するべきだって思っていることも知ってる。
 けど、ウチはこれ以上、咲を悲しませたくない。
 今日、ウチの失敗で咲を泣かせてしまった。その償いをさせてほしい。

 咲は申し訳なさそうに口を開く。

「……ごめん、ちーちゃん」
「ええよ。咲とウチの間に遠慮なんていりません」

 そう、遠慮なんて必要ない。ウチはどんなときでも、咲の味方。
 それは離れることになっても変わらない。絶対に。

「あ、あの! お兄さんが何かしたんですか!」
「……多分、喧嘩したんじゃない」

 流石は奏はん。鋭い。

「せや。ちょっとしたことが重なって咲と藤堂はんの仲がこじれてしまってます。ウチは咲の為に喧嘩をやめてほしい。お力を貸していただけますでしょうか?」
「いいよ」

 ほんま、雅はんって打てば響くええ女の子や。

「み、雅ちゃん! そんな安請け合いしていいの? もっと喧嘩した内容とか聞かないと……」
「大丈夫だって、奏! 私は妹がいるし、奏はお兄さんがいるでしょ。兄妹喧嘩なら私達の方が先輩だし!」

 微笑ましいかぎりや。
 一見無謀にも見えるけど、素直でまっすぐな意見の方が藤堂はんには通じると思うし、奏はんの機転の良さにも期待できる。
 何より、藤堂はんは青島西中の事でこの二人に負い目がある。絶対に無下にはしない。
 これはうまくいくんちゃう? やっと藤堂はんとおしゃべりできるようになるし、ええことづくめや!
 ウチは自分の機転を褒めてあげ……。

「それに久しぶりにお兄さんと会いたいし!」
「えっ? そ、そうなの?」
「奏は違うの?」
「そ、そんなことないけど……」

 んん?

「私、お兄さんにはいろいろと言いたいことあるし! 奏だってあるでしょ!」
「う、うん……」
「だったらさ、いっぱいおしゃべりしようよ!」
「……」

 何やろ……女の勘が危険を告げている……危険やと。
 もしかして、選択肢違えた?

「お姉さん! 任せてよ! 私達がお兄さんとお姉さんの仲を取り持つから!」
「……ありがとね、雅ちゃん。お願いできる?」
「大船に乗ったつもりで吉報を待ってって!」

 うっ、もう断れそうにない。
 一抹の不安があるけど、ここは二人に任せてみよう。



「あっ! お兄さんが持っているの! それ、南松竹店のクリーム大福とaotoのプチケーキ、ミニレアチーズケーキ味!」

 やっぱ不安やったから様子を見に来たら案の定、嫌な予感的中やん!
 とりあえず、雅はんと奏はんを藤堂家に招待し、ウチはこっそり藤堂はんの部屋を監視してみれば……。
 あれ、ウチらの! 絶対にウチらのために買ってきてくれたもの! クリーム大福、久しぶりに食べたい!
 あかん! あかんで、藤堂はん!
 それは……。

「雅さん、喰うか?」

 なんやの~~~~~~! あの男! 断れやぁ~~~~~~~!
 嫌がらせ? 嫌がらせなん、それ!
 もうもうもうもう!
 もう我慢できへん! 突撃や!

「うぉおおおおおおおおお!」

 ふん!

「失礼します」

 雅はん、奏はんが悪いわけやない。
 それでも、恨めがましい目つきになってしまう。雅はんは大福食べれてご機嫌みたいやけど!
 ええな~! ええな~!

「ごゆっくり」

 部屋を出て……すぐに中の様子を聞き耳立てる。

「……」
「……」

 信吾はんと目があったけど、すぐにその場から去って行った。
 中の様子は……。

「み、雅ちゃん」
「なに? 奏? 食べないの?」
「も、目的! 目的!」
「目的? なんだっけ?」

 雅はぁああああああああああああああああああああんんんんんん!
 何なん、あの子は!
 こっちは真剣やのに、真面目にやってほしいわ!

「ううん、大丈夫だから。そ、それより、お兄さんに……」

 奏ちゃん、ナイス!
 これで雅はんも本題に……。

「そうね。その前に、私、言いたいことがあるの。お兄さんはもう、ブルーリトルに戻らない
の?」

 ちがぁあああああああああああああああああああああああああううううううううう!
 ちゃうちゃう! それやない!
 もうもうもう!
 あんさん、何しに来たん! 信じられへん!

「……」
「……」

 おじさまと目があったけど、すぐに去って行った。

「だって、妹だよ? するに決まっているじゃん! アイツ、ママにチクるし、私のモノをとるし、自分の思い通りにいかないと泣くし、大変なんだから、相手するの」

 もう、あかん……。
 ウチのキャスティングミスや……。
 回収せな。

 トントン。

「雅はん。ちょっと……」
「なんですか、千春様?」
「……」
「千春様?」

 バタン!

 CQC完了。
 次の手を考えへんと……。
 それにこの子、危険やわ。今後は藤堂はんに近づけんようにせな。
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