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兄さんなんて大嫌いです! 朝乃宮千春SIDE

1/30 前編

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 あのおとこ、ほんま役にたたへん……。
 咲と藤堂はんの仲は一向によくならず。
 はぁ……ここはやはり強はんを取り込まんと……。
 咲を説得して、強はんに謝罪させる。藤堂はんも筋を通せば、咲を許すはず。
 それなら……。

「咲、話があります」
「……」

 朝、ウチは咲の部屋で咲の説得を始めていた。
 咲は学校の準備をしていて、背を向けている。
 ウチはその背中に語りかける。

「強はんに謝り。そしたら、ウチが責任を持って藤堂はんと話をつけます。咲も分かってるんやろ? これがベストやて」
「……分かってますけど」

 咲の寂しそうな小さな背中をそっと抱きしめる。

「ウチも分かってます。強はんばかり贔屓にされたら寂しい。みんな家族。仲良くしたい」
「……私って……ダメなお姉ちゃんですか? だから……」

 咲の言葉を遮るようにぎゅっと抱きしめる。

 咲はええ子。
 咲のせいじゃない。
 母親が咲と陽菜を置いていったのは咲がダメな子じゃないから。
 それだけはウチが誰にも否定させないから。
 だって、咲はウチのこと救ってくれたから。

 だから、今度はウチが咲を護る。咲からもらった愛情で。

「咲は強はんのお兄さんで、上春家と藤堂家を繋ぐ親善大使で、陽菜の代わりに上春家を護るんでしょ? 咲はよくやってますし、頑張ってる。それはみんな知ってますし、助けられてます」
「……兄さんやちーちゃんも」

 今度は優しく抱きしめ、頷いてみせる。

「咲、ありがとうな」

 咲はウチの腕を掴み、うつむいて震えている。
 咲は強い子やけど、まだ幼い。誰かに甘えても仕方ない。
 そう、仕方ない。
 しばらくして……。

「……ちゃんと謝ります」

 咲は偉い。ちゃんと自分が何をするべきか分かっている。
 ほんま……。

「可愛ええ子や!」
「ちょ! 頬ずりしないで!」

 後はあの朴念仁をウチが説得させる。叩きのめしてでも……。



「ごめんなさい!」
「……」

 学校から帰ってからすぐ、咲は強はんに謝罪した。
 咲は嫌々ではなく、心の底から反省し、頭を下げている。ウチに言われたからではなく、自分から頭を下げている。
 謝罪を見れば一目で分かる。

 だから、ウチは咲が好き。
 その想いは当然……。

「僕もごめんなさい。兄さんが悪く言われていたから……」
「ううん。私、強のお姉ちゃんなのに意地を張ってごめんね、強」

 咲はそっと強はんを抱きしめる。
 強はんはええ子やし、咲と寝食共にした時間があれば、きっと理解できると確信していた。
 そもそも、二人の仲がこんなことで壊れるはずがない。

「あっ、そうだ。おばあちゃんから買い物頼まれてた」
「僕も手伝う」
「ありがと、強」

 二人は肩を並べ、買い物に出かける。
 ウチはその背中をただ見守り続けた。
 これで咲と藤堂はんを仲直りさせる手はずは整った。
 そして、咲は約束を護った。それならウチがするべきことは……。

「藤堂はんを説得する」

 もうこのくだらない喧嘩に幕を閉じる。必ず……。



 ガラガラガラ。

「……お帰りなさい」

 藤堂はんが帰ってきた。
 ウチはずっと玄関で待ってた。一時間も……寒かった……。
 はよ終わらせて暖かいお風呂に入りたい……。

「咲の事で話があります」

 はぁ……そんなあからさまに嫌な顔しなくてもええのに……。
 なんやろ……心の奥がチクッとする。

「どうしたの、正道君? 玄関で立ち止まって」
「正道君。さっさと運んでしまおうぜ」

 ん?
 藤堂はんの後ろから二人の男女が入ってきた。
 あの二人は確か……一月三日の祝勝会のお店の店員でバイト先の雇い主……。

「正道君? そこにいる子は? まさか、彼女とか?」

 ぴくぅ!

 ふふっ……この朴念仁、人が清水から飛び降りる覚悟で一時間も待ってたのに女連れで腕組むとか……。

「初めまして榊原夏帆さん。ウチの名前は朝乃宮千春です」
「私の名前、知ってるんだ。ああっ、思い出した……キミ、青島の女夜叉だっけ? 名前思い
出せなくてごめんね」

 この女……。
 これでハッキリと分かった。
 この女とは仲良くなれない。

「おい、妹! 我が弟子とイチャつくのはテレビとこたつを運んでからにしろ!」
「……ちっ!」

 余計な邪魔が入り、藤堂はんとウチだけが残される。

「……あんな美人と仲がよろしいなんて羨ましいですな。伊藤はんの次はバイト先の美人? 押水はんかてもう少し節操があったと思いますけど?」
「朝乃宮……俺の部屋の文化レベルがあがるぞ」
「?」
「俺の部屋に……テレビとこたつがくるんだ」

 この男、何下らんことでドヤ顔しているの?
 あかん……殺意が止まらへん……我慢……我慢や、千春……。
 これも咲の為……咲の為や……。
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