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六章

六話 俺が強を護ります その三

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「正道君。ちょっと、付き合ってくれない?」

 時刻は夜の十一時。
 部屋で明日の準備をしていたら信吾さんが部屋に入ってきて、俺を手招きする。
 なんだ? 何の用だ?
 なるべくなら、明日にそなえていろいろとやっておきたいことがあるのだが。

「明日じゃあダメか?」
「今日ではないとダメなことなの。いいかな?」

 珍しいな。
 信吾さんには何度か遊びに誘われたり、話がしたいって言ってくることがあるが、断れば引いてくれていた。
 それなのに、今日は引く気がなさそうだ。

 もしかして、明日のこと、気づいているのか?
 俺はうなずき、強を起こさないように部屋を出る。
 連れて行かれた場所はリビングだ。なぜか、目の前にゲーム機がある。

「これ、知ってる? スパーファミコンっていうんだ」
「知ってる。まさか、これを一緒にやれと?」

 俺は信吾さんを睨みつけるが、信吾さんは座り込んで、ゲームを起動する。
 その姿に違和感を覚えながらも、俺は信吾さんの隣に座り、コントローラを握った。
 テレビの画面には『スーパーラリオカート』と表示されている。これらな、俺でも分かる。
 レースゲームだ。

「僕、ラリオね」
「……」

 俺は黙ってラリッパを選択する。
 ラリオはオールマイティで初心者向けの中量級、ラリッパはストレート重視の重量級のキャラだ。
 レーシングカートがスタート位置につく。
 俺達は黙って画面に集中する。

 信吾さんが何をしたいのか、分からない。
 ただ、ゲームがしたかったのか? いや、そんなことでしつこく誘うわけがない。
 スタートシグナルによるカウントダウンが始まる。
 とりあえず、付き合うか。

 レースが始まり、信吾さんの後ろにつく。次のコーナーを抜けたら長いストレートが続く。
 そこで抜くか。
 俺が仕掛けようとしたとき。

「ねえ、正道君。危ない事するの?」

 俺はどくんっと心臓が跳ね、アンダーを出してしまう。
 コースにギリギリ残ることが出来たが、もう少しで外れるところだった。
 どういうことだ? どこで秘密が漏れた?
 もしかして、みんなに全部ばれているのか?

「強がね、怒っているんだ。それもかなり怒っている。あんなに怒っている強、初めて見たよ」

 俺は黙ってプレイを続ける。
 信吾さんは黙ったまま、こちらに視線を向けようとしない。ゲームの音だけが部屋に響く。

「正道君が強に説教してくれたことがあったでしょ? 喧嘩をするなって。あのときも怒っていたけど、違うんだ。怒り方の種類っていうのかな? 窓ガラスを割られたときの怒り方と似ている」

 俺は黙ったまま、信吾さんの話に耳を傾ける。

「正道君に説教されたときは、自分の事が分かってもらえない、どうして大好きな兄ちゃんに怒られなければならないのか、そんな悲しみから怒っていたけど、今回の怒り方は、大切な者をバカにされたっていうのかな? 相手の行動が許せなくて憤怒しているって感じだ。あんな怒り方、友達とフツウに喧嘩しても、ならないよね? もしかして、窓ガラスが割られた件と関係あるの?」

 俺はゴクリと息をのむ。
 信吾さんのカートから白いものが地面に広がり、俺のカートはスピンしてしまう。
 俺は一息ついて、否定した。

「違う。その件じゃない」
「その件じゃないのなら、別の件ってことだよね? 知ってるんだよね、正道君は」
「……」

 誘導尋問かよ。
 別に驚くことではない。強が本気で怒っていたら、俺が気にしないわけにはいかない。
 俺が強に何も言わなかったので、信吾さんは察したのだろう。俺が理由を知っていると。

「お義父さんも気づいているけど、静観している。強の事、正道君の事、信じてるからかもしれないけど、僕は不安なんだ。強は正道君の約束を違えることはないけど、もし、強が危険な目にあうのであれば、止めたい。それは、正道君も同じ気持ちだと思う。ねえ、信じていいの?」

 それは誰を信じていいと言っているんだ?
 俺か? 強か?
 俺から言えることは……。

「俺が強を護ります」

 それだけだ。
 明日の試合、絶対に強を危険な目に遭わせない。たとえ、試合を放棄してでも国八馬の暴走を止め、強を護ってみせる。
 坊主になって土下座することになってもだ。

「そう……申し訳ないんだけど、強の事、お願いします」
「応……任せておけ」

 必ず強を五体満足で家に帰す。
 改めて固く誓う。

「それで? どうして、ゲームしながら話すんだ?」
「いや~、その不安じゃない? 僕の知らないところで何が起こっているのか分からないし、もしかして怒鳴ってしまいそうだから、ゲームをしながら聞いたの。面と向かって話すのが怖かったのかも」

 その気持ちは分かる。
 話しにくいことを話すとき、つい作業をしながら話すことが俺にもある。
 食事しながらとか、委員の作業をしながらとかな。
 だが……。

「話しにくいとか言いながら、ちゃかり俺の邪魔をするのな」
「バレた?」

 バレるわ。
 確信をつくタイミングに邪魔ばかりしてたら、気づくに決まっているだろ?
 セコい真似しやがて。
 俺は全力で信吾さんに攻撃し、一位をとった。
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